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運命の三部会、開会

1789年の春、パリ郊外のヴェルサイユは、フランス王国の歴史そのものが文字通り塗り替えられるその瞬間を待ちわびて、尋常ならざる熱気と緊張感に包まれていた。

前世の記憶を持つルイ16世にとって、この年、この日、この場所こそが、かつての歴史において王室が断頭台へと転がり落ちるすべての発端となった「運命の三部会」の開会日であった。


かつては、特権身分である第一身分(聖職者)と第二身分(貴族)が結託し、人口の圧倒的多数を占めながらも重税にあえぐ第三身分(平民)の声を完全に封殺し、古い特権にしがみついた末に国家を破滅へと導いた曰く付きの議会。しかし、今日のヴェルサイユ宮殿の大広間に集まった者たちが目にする光景は、歴史の教科書に記されるはずだった陰惨な悲劇とは全く異なる、冷徹かつ圧倒的な王の主導による「新しい時代の創出」そのものであった。


175年ぶりという途方もない歳月を経て開催された三部会の会場は、開会前から異様なほどの静けさとピリピリとした緊迫感に支配されていた。

中央の演台に座するルイ16世の表情は、若き君主特有の迷いや気弱さは微塵もなく、鋼のように冷徹で、未来のすべてを計算し尽くした圧倒的な知性と威厳に満ち溢れていた。そのすぐ傍らには、かつては危険な反逆者として燻っていたが今や王室の最も尖った法制改革の尖兵となったマクシミリアン・ロベスピエールが、第三身分の代表席から鋭い眼光で議場全体を見渡している。さらに、宮殿の影では密偵の頭目であるオノレ・ミラボオーが率いる情報網が、保守派貴族たちのあらゆる妨害工作や不穏な動きを完全に封じ込めるべく、一寸の隙もなく目を光らせていた。


「これより、第175回全国三部会を開会する」


ルイの低く、しかし議場隅々まで響き渡る静かな声が、ざわめいていた会場を氷のように凍りつかせた。

貴族階級の代表席に座る古くからの特権階級の者たちは、どこか侮蔑の色を隠せない薄笑いを浮かべながら、国王がいつものように「財政赤字の補填のための増税案」を持ち出してくるものと高を括っていた。どうせ王室も財務長官も、自分たち特権身分の機嫌を損ねるような大胆な改革などできるはずがない――彼らはそう確信し、互いに目配せを交わしていたのである。


しかし、ルイはその甘い期待を最初のひと言で完全に打ち砕いた。


「本日の三部会において、私はこれまでの古い身分制度の維持や、単なる一時的な増税措置を議論するためにこの場を設けたのではない。本日、この瞬間をもって、フランス王国はその根幹から生まれ変わる」


議場がざわついた。貴族たちの顔から嘲笑が消え、代わりに奇妙な不安の色が広がり始めた。

ルイは立ち上がり、自らの手で書き下ろした、歴史を根底から覆す「新憲法案」の分厚い巻物掲げた。


「我が国を蝕んできた最大の癌、それは特権身分が免税特権に胡座をかき、国家の富を食い物にしつつ、全人口の九割を占める平民層にすべての負担を押し付けてきた不条理な階級構造そのものにある。――ゆえに、ここに宣言する。第一身分および第二身分が有してきたすべての免税特権および世襲の特別裁判権は、本日を以て完全に廃止する」


その瞬間、貴族たちの席から「なっ……!」「ふざけるな!」という絶叫と、椅子を蹴立てる激しい物音が同時に巻き起こった。

「陛下! 何をおっしゃられるか! 我々貴族の権利と伝統は、先祖代々から神によって守られてきた不可侵のものであるぞ! 平民と同等に税を払えなどという暴論、到底受け入れられるものではない!」

ある高名な保守派の公爵が顔を真っ赤に怒らせて立ち上がり、議場の真ん中で叫び声を上げた。


他の貴族たちも一斉にそれに同調し、会場は一瞬にして怒号と混乱のるつぼと化した。伝統的な秩序にしがみつく彼らにとって、免税特権の剥奪は存在そのものを否定されるに等しい恐怖だったからだ。


しかし、ルイは微動だにしなかった。その冷徹な瞳は、怒り狂う貴族たちをまるで虫けらでも見るかのように冷ややかに見据えていただけだった。

「伝統だと? 特権だと?」

ルイの声は怒号をかき消すほどに低く、しかし圧倒的な冷気を含んで議場全体を圧倒した。


「国が破産寸前に追い込まれ、飢えた民がパンを求めてさまよっている最中に、自分たちの贅沢と過去の栄光だけを守ろうとすることのどこが伝統だ。国を滅ぼす寄生虫の論理にすぎない。拒絶する権利など、そもそも貴族たちには残されていない。これは要請ではなく、我がフランス王国が生き残るための、絶対的な王命である」


「ふざけるな! 王権の乱用だ! 暴君め!」

貴族たちの一派が掴みかからんばかりの勢いで演台に詰め寄ろうとしたその時、議場の扉が重々しい音を立てて開き、完全武装した近衛兵たちが一斉になだれ込んできた。その先頭に立っていたのは、不敵な笑みを浮かべたオノレ・ミラボオーだった。


ミラボオーは冷徹な眼光で暴徒と化した貴族たちを睨みつけ、低く脅すような声を響かせた。

「おや、ご主人様たちの話がまだ途中だというのに、随分とマナーの悪いことで。王室に対する反逆、あるいは議会での暴力行為がどういう結果を招くか、あなた方のその硬い頭でも少しは理解できているでしょうね? 騒ぐ者は、その場で身分剥奪のうえ、反逆罪として引っ立てるが……それでも続けたい者はいるか?」


ミラボオーの後ろに控える兵士たちの鋭いサーベルの光と、ミラボオー自身の放つ圧倒的な殺気に、貴族たちは気圧され、怒号はみるみるうちに恐怖に満ちた沈黙へと変わっていった。彼らは、目の前の若き王が単なる理想論を語っているのではなく、軍事力、情報網、そして法的な正当性のすべてを完全に掌握し、自分たちの首根っこを完全に押さえている現実をいやが応でも理解させられたのだった。


平民代表の席では、マクシミリアン・ロベスピエールが目を見開き、そして全身を震わせるほどの感動と興奮に包まれていた。

彼が心の中で夢見ながらも、あまりの絶望的な壁の高さに押しつぶされかけていた「特権の廃止」「法の下の平等」「すべての国民が救われる社会」の理念が、今まさに国王自身の口から、誰をも拒絶させない絶対的な改革案としてこの議会の真ん中に提示されたからだ。


ロベスピエールは立ち上がり、誰よりも先にお辞儀を捧げ、そして震える声で叫んだ。

「第三身分代表マクシミリアン・ロベスピエール、陛下がご提示された新憲法案、ならびに身分解廃と公平課税の理念に、心よりの賛同と忠誠を捧げます! これこそが、フランスの真の夜明けにございます!」


その声に呼応するように、会場を埋め尽くしていた平民代表たちが一斉に立ち上がり、割れんばかりの歓声と拍手を送った。議場は、古い特権の呪縛から解放され、新しい法治国家へと踏み出す熱狂の渦に包まれた。


歴史の洪水のなかで、王室を滅ぼすはずだった1789年の三部会は、ルイ16世の冷徹な計算と圧倒的な先手必勝の戦略によって、完全にその牙を抜かれ、むしろ絶対王政を近代的な立憲君主制へと進化させるための、史上最も輝かしい「革命の法典制定の場」へと変貌を遂げたのだった。


ヴェルサイユ宮殿の窓から差し込む夕日が、新憲法の分厚い巻物を照らし出す。

国内外の敵を粉砕し、情報網を張り巡らせ、そして国内の最大の矛盾を一撃で断ち切ったルイ16世の表情には、世界を自らの手でデザインし直した者だけが持つ、圧倒的な覇気と静かな満足感が漂っていた。フランス王国は、いよいよヨーロッパ全体の秩序を書き換える、真の黄金期へと突き進んでいくのだった。

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