AFRIKA (前編)
人間とは不思議なもので、あれだけ気になっていたモノが、いつの間にかどうでもよくなり頭の片隅にすら残らなくなっていったりする。
つまりどういう事かと言うと。
「君もチョコバット部でチョコを流さないかい!?」
六月某日、連日続いた雨がナリを潜めて太陽が久しぶりに「コンニチハ」をしたある日の事。
千歳は二ヶ月ぶりにチョコバット部部長から勧誘を受けていた。
そしてそれをよく思わない者が一人。
「ちょおぉぉっとお待ちください! 千歳君は我が電脳遊戯部の、いえ私のなんですからね! 勧誘はお断りさせてもらいます!」
電脳遊戯部部長こと由良詩織が赤みがかった髪を揺らしながら、遺憾ですと言わんばかりに目を引き絞ってチョコバット部部長を睨みつける。
それから誰にも渡すまいとしてか千歳の腕に自分の腕を絡めて密着してきた。
慎ましくもしっかりと存在を強調する胸を押し当てられて自然と意識が持ってかれ、血流が否応なしに下腹部へと流れていく、ドキドキする胸を押さえつけながら意識を自分の腕から外す事によってなんとかテントを張らずにすんだ。
「あ、あの……別に僕は誰のものでもないんですけど」
「では私のものでもいいですよね!」
よくないんだってば!
「ではまだこの先チョコバットに魅入られる可能性も僅かながらあるわけだな!」
それは知らん。
「しかし部長さんは元気ですね、確かアフリカまで行ってましたよね」
「アフリカ!? え、旅行ですか?」
片手で詩織を引き剥がす。さっきまで腕にあった柔らかな感触が離れて寂しいような惜しいような。
「いや、チョコバット部の遠征に出ていてな。向こうのチョコバット部と試合してきた所だ」
「へぇ〜、グローバルだ」
そういえばチョコバットってなんなんだろう、調べよう調べようと思ってなんやかんや忘れてしまっていた。この口ぶりからすると対戦するのは間違いない。
今調べるのは、流石に失礼か、後にしよう。
「向こうで試合だけして帰ってきた所でな、いやぁ流石に疲れたよ」
「その様子ですと観光する余裕もなかったみたいですね」
「あぁそこは残念だよ。野生のキリンとか見てみたかったな」
なんとタイトなスケジュールな事。チョコバットとはそんなにも過酷なのか。
「ではこれで、津雲君もチョコバット部に入部したくなったらいつでも言ってくれ」
「いやぁ……どうでしょうねぇ……あはは」
「浮気はダメですよ」
ムッとした表情で詩織が見つめてくる。正直可愛いのが困る。
「それにしてもアフリカかぁ」
部室に着いて早々、給湯室でお湯を沸かしながら先程の会話を思い出しながら呟いた。
「行きたいんですか?」
カチャカチャと二人分のコップとインスタントコーヒーの入ったビンをトレイに載せながら詩織が尋ねる。彼女ならアフリカとか旅行に行った事がありそうだ。
「そういうわけじゃないけど、海外旅行てした事がないから憧れちゃうんだよね。由良さんは海外とか結構行ってそうだよね」
「私ですか? そうですね、確かに中学までは毎年お父さんに連れられて色んな国に行きましたね。これも見聞を広めるためじゃ、とか何とか」
お父さんの真似をしたのか、ややしゃがれた声を出す仕草がなんだかおかしくてクスッと笑ってしまった。
「おや私のお笑いのセンスも捨てたもんじゃないですねぇ」
そうですねー。
お湯が湧いたのでポットへ移して居間まで移動する。
テーブルには既に詩織がコーヒーをカップに入れていてくれており、あとはここにお湯を注ぐだけでいい。
ドリップも良いが、やはり粉をいれるだけのインスタントは楽でいい。
「熱っ、あつっ……ふぅー」
ズズっとコーヒーを一口、この苦味がたまらない。詩織は苦いのが苦手なのか、スティックシュガーを三本、ガムシロップ一個を入れていた。
「せっかくなので今日はアフリカを体験してみましょうか」
「え?」
急に何を。と思う間もなく、詩織はゲームソフトを収納している棚から一本取り出して「はい」と手渡した。
パッケージには「AFRIKA」とある。
「あぁ、これかぁ」
「シマウマさんの存在感がまさにアフリカですよね」
名前だけは聞いた事あるけど、実際にどんなゲームなのかは知らないんだよなぁ。
アフリカ、チョコバット部部長のアフリカ遠征から端を発して海外旅行にまで広がったこの話題、まさかアフリカを題材にしたアフリカというタイトルのゲームに行きつくとは、そういう事もあるんだなあ。




