夏の水着イベント?
「──それで神坂君、『月刊めちゃアイドルボイス』をご存じですか?」
「え、ええ。もちろん知ってますよ、主に人気女性アイドル声優のインタビューとかを載せている情報誌ですよね? 自分も仕事上、たまにチェック(定期購読)しています」
あれから、少々難アリな事務所後輩やら百合JK(女子高生)やらの問題を抱えながらも、劇場公開に向けて着々と収録が進んでいる『終末アオハル』の打ち合わせで呼び出された某ファミレス。
昼時のせいか、ちょっと騒がしい店内の中、二人掛けテーブルで僕と向かい合っての柏木マネージャーが「あはは、それは話が早くて助かりますね〜」と、例のごとく胡散臭いイケメンスマイルを浮かべた。
(うっ、この展開はヤバい……)
という訳で、もうヒシヒシと嫌な予感しかしない僕(女装ナシ)は、今になって完食したばかりのサーロインステーキセットの皿を見て後悔。
(──あ、いや、肉はホント美味かった、でもさ、ただより高いものはない、って昔からよく言うじゃん)
それでも姿勢を改め、何故か皿を下げに来た女性店員さんが頬を紅く染めている件──は見て見ぬふりをし、あくまでも毅然とした態度で目の前の腹黒メガネ(柏木マネ)と対峙する。
「それで、ええっと、今の話というのは、もしかして……その」
「ええ。お察しの通りです。何でも夏の特大号で掲載を予定されていた某女性声優が諸事情でキャンセルとなりまして、それで急きょ神坂君──いえ、今何かと話題の橙華さんにと、先方から直々オファーがあった次第です。やりましたね、これでまた知名度がグーンと上がりますよ」
やはりそうか……。
というか、橙華が話題になっているって、今初めて知ったんだが……。
(……んでもまあ、雑誌のインタビュー程度だったら、別に問題はな──)
「当然、巻頭《《グラビア》》もありますので、それまでに身体の手入れをお願いしますね」
「ぶっ!?」
アイスコーヒーで蒸せた。
(かか、巻頭グラビアだぁああ? そ、それに、身体の手入れって……ま、まさかの──)
水着、撮影とかじゃ……。
「いえ。さすがに水着を用いての撮影は強要しませんのでご安心を。先方も事情をよく理解されていますので」
はて……? 僕の事情(女装)を知ってての巻頭グラビア?
まあその辺のことは、後でじっくりと柏木マネを問い詰めるとして。
「で、でで、ですよね~、ちょっとびっくりしてしまいました」
「ははは。せいぜい薄手の夏服を着用しての撮影ですよ」
「そ、そうですか(どの程度の肌露出かな?)」
「ただ海で《《東雲》》さんと仲良く戯れている姿をカメラに収めるだけです」
「は?」
海で。
東雲=東雲綾乃と。
仲良く。
戯れる。
とは?
「この業界での御二方はプライベートでも仲良しで有名ですからね、どうか現場でも存分にイチャついちゃってください」
「ちょちょちょ、それこそ誤解……むしろあいつとは普段からそんなに仲良くないというか、どちらかと言うと不仲で……それにほら! そもそもあの社会不適合者、ゲフンゲフン、東雲センパイが素直に僕とのグラビア撮影を許可するわけがな」
「そうそう、既に東雲さんからは承諾を得てますね。彼女、案外撮影に乗り気でしたよ?」
え?
東雲が……マジで?
「グラビアの撮影は来週の水曜日を予定しています。橙華、東雲両名のスケジュールも一日抑えてますから、安心してその日を迎えてください」
「え? え? え? ら、らら来週って、そんな急に言われても……」
「ちなみに撮影は愛知県の知多半島を予定しているそうですよ? 当日は私も二人の運転手として現場に同行します。もう今から楽しみですね、帰りに三人で潮干狩りなんかしちゃいますか、いや〜、私はお邪魔かな、はっはっはっ!」
あれ……何か僕の意向を無視してどんどん話が進んでる。
まさか回避不能な強制イベント的な? アニメでいうところの水着回?
(──ちょっ、冗談じゃねえぞ!?)




