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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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吐息

『──この地球ほしは、もうこのまま消えゆく運命さだめなの。でもね、君とボクの魂は未来永劫離れることはないの……うん、きっとそうだよ、肉体という呪縛から解き放たれば、今よりもずっと強いきずなでボクらは結ばれる』


『──いい加減にしろ千尋ちひろっ! お前はこんな時に何を言ってるんだ!』


『ううん……、君も分かっているはずだよ、さあ、今すぐボクと一緒に──』




(──おいおい……、二人とも最初から飛ばしてるなぁ)


 音響監督の演技指導、通しのリハーサルを得て、ついに始まった『僕らは終末の世界でアオハルする』──「終末アオハル」のアフレコ。


 そして今、僕こと神坂登輝──いや、女性声優に扮した橙華は、広いブース内に設置されている長椅子で他の共演者と一緒に、いざ自分の出番まで待機中だ。


 ちなみに今はこの作品の主人公である平凡な男子高生──藤原翔太ふじわらしょうたを妻夫木渡さんが熟練された演技を披露ひろうしている。


 そんな彼とマイクを並べるのは、サブヒロイン役の一人、ちょっと不思議ちゃんでヤンデレなボクっ娘──星野千尋ほしのちひろを演じる我が事務所の後輩、榊美琴さかきみことだ。


(──つうか、発声からして、まるで普段と別人だよ……)


 美琴(あえて呼び捨て)は、普段は態度や話し方がオドオドしていて、会話そのものが困難というか、しどろもどろで──だけど、いざ声のお芝居になると一転して張りとつやがある声となり、その演技すら自信に満ちあふれている。


 その証拠にベテラン勢である妻夫木さんにも決して引けを取らない──、


(──素直に同業者として凄いと思うけど、うん、ちょっと残念なんだよな……)


 ふと、隣に座る東雲の様子を横目でチラリと伺う。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──


(ひっ……)


 危なく声を上げそうになってしまった。


 一見すると他の演者と同じく大人しく自分の番までスタンバってる感じだけど、かれこれ養成所時代からの長い付き合い……というか、腐れ縁の僕には分かる。今の声優としての東雲綾乃しののめあやのは、ある意味もっとも危険な状態。いつ爆発してもおかしくない地雷源。


 それだけ憎悪を込めた眼差しで東雲は美琴のお芝居を見据えている。ちなみに妻夫木さんの熱演は完全に無視。作中ではお前の馴れ初め相手だぞ?


 そんな東雲がスゥっと音もなく席を立つ。


 かかげられたモニターには未完成ながら、終末アオハルのメインヒロイン──朝霧紅葉あさぎりもみじが登場し、そのまま美琴が演じる星野千尋と対峙する。


『──ほ、星野さん、翔太から離れて……』


『──朝霧紅葉……まただよ、どうして君はボクと翔太の間に割り込むの? 君はボクたちのストーリーにはいらない存在なんだよ、何故それが分からないのかな〜』


『──ほ、星野さんこそ今すぐ翔太の前から消えてよっ、さあ早くどこかに行って!』


『──二人ともいい加減にしろっ』


 画面の中で映っているのは人物だけで背景は真っ白だ。このシーンは校舎の屋上でのやり取りだったりするので、普通、こういった男女の修羅場的シチュエーションは大体が中盤から後半でのクライマックスに展開されるのが主だけど、この作品に至ってはまだまだ物語の冒頭部分であったりする。


 主人公の少年。このまま屋上から落下して退場しかねない展開だ。


 ちなみにこの終末アオハルは、ジャンル的には恋愛ファンタジーであって、ドロドロした恋愛サイコホラーではないことを補足しておく。


『──翔太は黙ってて! 私は星野さんと話してるのっ』

『ボクも同感だよ、決して君には危害を加えないから安心して……でもこの女はいつかボクの中に眠る堕天使が制裁を加えるかもしれないけどね』

『……お前ら、今がどういう状況か分かってるのかよ』


 東雲と真琴の迫真の演技にベテランの妻夫木さんが少々食われている感じがしないこともない。


 取りあえずあの二人には真ん中で挟まれたくないよな、絶対お芝居に集中できない。



 ──そして、いよいよ僕の出番が来た。


 速やかにマイクの前に立ち、台本を持って正面モニターを見据える。


 そこにはしくも今の自分と同じヘアースタイルの佐伯比呂さえきひろが映し出された。


『──ああ佐伯か……、どうかしたか?』


『う、ううん……、何でもないよ、でも翔太くんの様子がちょっと気になって、だから──』


『わりぃな、佐伯。今は一人にしてくれないか』


『ご、ごめんなさい……じゃあ私、教室に戻るね……』


 僕が演じる比呂が背中を向けて、妻夫木さん演じる翔太から立ち去ろうとする。


 だが。その肩を翔太が乱暴に掴んだ。


『──ぇ』


『ごめん……佐伯。ちょっと、ちょっとだけこのままでいさせてくれないか』


 そのまま彼は、比呂の背中を優しく抱きしめる。


『翔太、くん──』


 はあ……、と妻夫木さんの囁くようなイケボに、予定外の吐息が漏れてしまった。


 ……が。


『──は、はーい、オッケーです、これより一旦休憩を挟んでから次のシーンに行きます』


 ……リテイク(録り直し)が掛からなかった。なんで?


 ていうか、東雲が凄い形相で僕を睨んでるんだが?


 んで、美琴は美琴でさっきまでの凛々《りり》しさはどこに行ったのやら……だらしない顔でえへらえへらニヤついてるし──。

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