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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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嵐の予感 ①

 ──無謀という言葉ですら生ぬるい、東雲綾乃と僕、橙華による突貫工事の声優ユニット。そのデビューに向けた仮レッスンは、一悶着どころか二悶着、それこそドメスティックな壁ドンまで飛び出す始末だったが、夜にはどうにか形になった……と思いたい。


「──はあ、マジで疲れた……」


 アパートに戻るなり、まずは鬱陶しい黒髪ロングのウィッグを引っ剥がす。鏡に向かって変顔を晒しながら、女装メイクを落としていく。これがなかなか重労働で──


「夕食はウーバーイーツで妥協してあげるわ。そうね、今夜はお寿司の気分かしら」

「──うまそう……って、勝手に高級飯をポチろうとしてんじゃねぇ! そこらのカップ麺で十分だろ」

「心外ね。貴方は私の麗しき美肌を、ジャンクな油分と塩分で汚すつもり? 魚には美肌を促すビタミンとミネラルが豊富なの。その醜い顔にアスタキサンチンを補おうという発想はないのかしら」

「……アスタ、なんだって?」

「あら、無知にも程があるわ。鮭や海老に含まれる美容に最適な抗酸化成分よ。そんなことも知らないなんて。貴方、どうやら《《乙女》》としての自覚が致命的に欠落しているようね」

「要するに、サーモンやエビが食いたいだけだろ! あと乙女ってとこ、わざわざ強調すんな。こっちはメイクも落として、今は完全に男──」


「ぷっ」

「あ、こら! 今そこ笑うとこじゃ──」


 結局、帰り際。しれっと部屋までストーキングしてきた東雲。これ以上構って、また地雷踏んでヤンデレ化されても困る。それに今は一刻も早く着替えたい。


 とりあえず浴室に逃げ込み、ブラウスとスカート、ついでに黒スパッツもパージして、スウェット上下にフォームチェンジ。数時間ぶりに「男」に戻れたという、ごくごく当たり前の解放感にしばし浸る。


「──仕方ないから宅配ピザにしてあげたわ。私の温情に感謝なさい」


 ……っておい、結局勝手に注文しやがった。ジャンクがどうのという講釈はどこへ行った? 


 だが、今は気分がいい。一人の男として寛大な心を見せてやろう。まあ、チェーン店のピザぐらいなら──


「もちろん本場の高級イタリアン特注よ、トッピングは二倍盛りにしておいたわ」

「お前ふざけんなよ!?」


「絶対に割り勘な!」と東雲に釘を差しつつ、電気ケトルでお湯を沸かし始めた、その時だった。


 ドンドンドンドンドンドン──!


 激しく玄関のドアを叩く音。


「来るの早くね?」


 東雲を見ると、ちゃぶ台の上で頬杖をつき、隠しておいたはずの女性ファッション誌をパラパラとめくり──というか、完全に無視。


「ああ、もう!」


 財布からなけなしの一万円を引っ掴み、「はーい、ただいま──」と勢いよくドアを開けて。


「よっ、神坂、久しぶり!」


 数秒のフリーズ……した後、バタンと閉め、絶対に入れさせまいと、背中で全力の重しをかけた。


(な、なな、なっ、なんで奴が、部屋の前にいるんだよ──)


「ドンドン、ドンドン! おい、いきなりドア閉めんなって。とりあえずさあ、中に入れてくんない?」


 ピンポンピンポンピンポンピンポン──!


(ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバい──奴には、僕の秘密が──)


 バレてるんだよ!


「…………」

「へ……? 東雲?」


 流石にただ事ではないと察したのか、いつの間にか音もなく目の前に立っていた東雲が、キッと一文字に結んだ唇をゆっくりと動かす。


「……まったく、あの男は……。いいわ、ドアを開けなさい。私が直接話をつけてあげる。ふふ、いい度胸してるじゃない。ふ、ふふ、ふふふ──」


 嗜虐しぎゃく的な笑みを浮かべ、玄関のドアを攻撃的ににらみつけていた。

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