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【新装版】オレンジボイス 〜女装してアイドル声優になった結果、周りが地雷だらけで詰んだ件〜  作者: 乙希々


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33/57

女装男子、春うららかに。

 ──季節は春に差し掛かろうとする三月末。


 アニメ「ヴァルキリーレコード」の最終話先行上映会──あの運命の日を境に、僕はアイドル声優の橙華とうかとして修羅の道を歩む決意をした……はずだった。


 しかし、あれからというもの、そんな決意を嘲笑うかのように声優らしい仕事は一切舞い込んでこない。


 すでに出演が決まっている「終末アオハル」も、制作の都合上で不透明なまま。そうなると他にバイトをしているわけでもない僕は、平日の真昼間からアパートの部屋に引きこもり、画面の美少女たちとハーレムざんまい……世間で言うところのヒキニートってやつだ。


 そんな社会的に詰んだ生活の中、不意にマネージャーの柏木さんからの着信が喝を入れる。


「──ええっと……、僕にオーディションのオファーですか?」

『ええ。それも二本同時にですよ』

「マジですか……」


 本来、オーディションというものは、まず事務所が役者のプロフィールやボイスサンプルを送り、制作側の厳正な「選別」という名のふるいにかけられ、そこを生き残った者だけが参加を許される本戦──。


 その過程をすっ飛ばして、製作側から指名で声がかかる「オファー案件」は、いわば大会のシード枠。今まで予選敗退、足切りされまくっていた僕にとって、そのこと自体、異例の快挙なんだが……。


『──まず一つ目は、夏季アニメ『オレの異世界転生が全然ハーレムじゃなかった件』の《《ヒロイン》》役ですね』


「…………」


『それともう一つは、新規《《美少女》》IPのアプリゲームですね。どうやらSRキャラみたいですよ。やりましたね』


「…………」


『では、詳細はすぐにデータで送ります。日程の調整は後ほど──』


「……ち、ちょっと柏木さん! ……あれ、切れた。相変わらず問答無用かよ」


 強制的に遮断されたスマホを万年床に放り投げ、僕は八つ当たりのごとく、東雲が勝手に放置したブサカワ猫のぬいぐるみにヘッドバッド。


 いくら《《女装》》アイドル声優として茨の道を突き進むと決めたとはいえ、仮にも《《元》》男性声優の僕が、こうも立て続けにヒロイン役を演じるのは、流石にこれは色々と問題がある。


(……でもまあ、受かるとも限らんし──)


 直接のオファーとはいえ、合格が確約されているわけではない。


 かつて、かの悪名高い女性アイドル声優の東雲綾乃しののめあやのですら、指名オファーで呼ばれながら不合格というざまあ展開……じゃなくて憂き目に遭い、関係ない僕にまでドメスティックな二次災害を被ったことがある。今ではその時のアイツの気持ちが分からんでもない。完全に肩透かしだ。


 それでも呼ばれたからには参加せざるを得ないわけで、だとすると、ここのところご無沙汰だった、アイドル声優、橙華の出番となる。


 とはいっても。


「──ひでぇ顔だな……」


 化粧水や乳液やらのメイク道具を並べながら、卓上鏡に映る地顔とご対面。まずは不摂生な引きこもり生活のせいで、荒れたお肌のスキンケアから始める。


 髭は薄い体質なので、産毛剃り程度で済むが、この不健康な青白い顔面はいただけない。ファンデーションは厚め、チーク盛り盛りで誤魔化しとく。


 眠たげな奥二重の目元は、ペンシル型アイライナーで鋭く縁取り、薄い唇にはグロスを乗せて存在感を主張。仕上げに、セミロングの黒髪ウイッグを丁寧にブラッシングしてからの装着すれば、そこにいたのは、可憐な美少女──に見えなくもない自分。


 それでも、顔だけフルメイクの美少女で中身はヨレヨレのジャージ姿のミスマッチ感がハンパないので、安物衣装ケースから、チェック柄のフレアワンピースを引き出し、隅々までアイロンを当てた。


「……うん、悪くないな」


 なで肩で栄養不足の華奢な容姿のおかげで、ワンピースの着こなしは驚くほど自然だ。ただ、どうしても胸元の虚無感が気になる。要するに女性特有の膨らみがなくて真っ平らなのだ。中身は男なんだから当然だが。


 今までは冬物の服だったので、あまり気にも留めていなかったけど、春の軽装になるとその断崖絶壁が嫌でも目立つ。いっそ詰め物でもして誤魔化すべきかと、前に姉が勝手に置いていったピンクのブラを胸に当てたりして……と、それは駄目だ。


 自分のポリシーでは、女装はしても、決して女性用下着だけは身に付けないと、心に決めている。


 だから今もスカートの下は、いつだって男性用トランクス一択。その上から黒タイツを履き込み、鉄壁の守りを固める。


 この僕にだって決して超えてはならない一線はある。女装を生業としてる自分が言うのも何だが。


 ま、世の中には絶望的なまでにフラットな成人女性だって大勢いる。東雲とか、東雲とか、あるいは東雲とか。


 だから今後も、胸への詰め物は一切ナシという方向で。


「よし、完璧! 折角だし、このまま外に遊びにでも行くか」


 春の陽気に誘われるがまま、ひらりと裾を揺らし、軽やかなステップで部屋を後に──。


(……待て。完全に女装の沼にハマってね?)

次回から新章に突入です!

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