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鉄パンツの王女、宮廷に現る  作者: まこ


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1/6

鉄パンツの王女、王宮な現る

街はお祭り騒ぎとなり、熱狂に包まれている。


――けれど、当の二人の心は冷めきっていたのである。


フリードリヒ王太子の婚約者が確定した日のこと。

学園時代からの仲間が、プライベートで王城に集まっていた。


「フリード、おめでとう。いよいよだな!」


側近のテオドールがにこやかに言えば、騎士団を率いるランドールも目を輝かせる。


「で? 誰なんだ、相手は?」


二人揃ってソファから振り返り、期待のこもった眼差しを向けてくる。その様子にフリードリヒは苦笑しつつ告げた。


「リンドル王女だ。学園に留学で来ていたらしいが……知っているか?」


……?

……。


「だよな? 私も知らないんだ。他国の王族が留学してきていたなら、挨拶くらいはしているはずなんだが……どうにも思い出せなくてな」


「思い出せないのはいいけどさ、それってまずくない?」


テオドールが一瞬で側近の顔に戻る。

ランドールまでもが神妙な面持ちになり、短くうなずいた。


「だな」


二人の変化に、フリードリヒはきょとんと首を傾げる。


「何が問題なんだ?」


「何がって……お前なぁ。学園時代の俺たちが、どれだけ“褒められた”生徒じゃなかったか忘れたのか?」


テオドールの言葉に、三人の記憶がよぎる。


群がる令嬢を侍らせ、好き放題。

“卒業するまでの一時だ”と周囲が寛容だったからこそ成り立った、奔放な日々。


「それの何が問題だ? 今はきちんと務めを果たしているだろう」


………。


「リンドル王女、リンドル……」


ぶつぶつと呟くランドールに、テオドールが覗き込む。


「どうした、ランディ」


「リンドル王女ってさ……クラリス・デュ・リンドル? ほら、あの“本の虫”」


その言葉にテオドールが「あっ」と声を上げた。


「おい、まさか……あれか! あの“鉄パンツ”!」


二人は顔を見合わせ、揃って眉を下げてフリードリヒを見る。


視線を浴びたフリードリヒは小さくため息をついた。


「……思い出したよ。鉄パンツ、ね……」


顔をしかめ、頭を抱える。


それから半年ほど後。

ランズ王国王宮にて、ついにリンドル王女との正式な顔合わせが行われた。


王女が謁見の間へ入ってきた瞬間、フリードリヒと後ろに控えるテオドールは、驚愕のあまり顔を見合わせた。


かつてのリンドル王女――留学時の彼女は、王族とは思えぬほど地味な装いで、いつも一人で読書に勤しむ“本の虫”。

瓶底眼鏡をかけ、周囲の噂では“鉄のパンツを履く女”とまで呼ばれていた。


……。

……え? これが、あのリンドル王女?


二人の前に現れたのは、眼鏡を外し、気品あるドレスに身を包んだ少女。

ただそこに立つだけで、凡百の令嬢とは一線を画す存在感を放っていた。


「クラリス・デュ・リンドルでございます」


美しく膝を折る王女に、フリードリヒは柔らかな笑みを向ける。


「どうぞ楽にして下さい」


クラリスはしばらくじっとフリードリヒを見つめ、次いで視線をテオドールへと流した。

そして小さくため息をつき、用意された椅子へ静かに腰を下ろした。


――そのため息の意味を、三人はまだ知らない。

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