1-19. 冪(べき)関数:Power functions
窓の外の三日月が、少しずつ高く昇っていきます。私はスミルノフの開かれた頁を指でなぞりながら、透に語りかけました。
「透、これまでは y = x^2(2次)や y = x^3(3次)、そして y = 1/x(マイナス1次)と、個別に見てきたわね。でも、これらはすべて一つの大きな家族のメンバーなの。それが『冪関数(Power functions)』よ」
私はノートの真ん中に、力強くその「家系図」の源となる式を書きました。
** y = x^n
「この n という数字に、どんな実数を入れるかによって、この関数の性格はガラリと変わるの。まるで魔法の杖のひと振りで、姿形が変わるみたいにね」
「例えばね、透。もし n が 2 や 4 のような『偶数』だったら、グラフはお椀のような形(左右対称)になるわ。でも n が 3 や 5 のような『奇数』だったら、右は昇り、左は沈む形になる。さっき見た通りね」
透は、私が以前描いた放物線を思い出しながら頷きました。「じゃあ、n が分数だったらどうなるの?」
「いい質問ね! 例えば n = 1/2 なら、それは y = √ x 、つまり平方根のことよ。このグラフは、放物線を横に倒したような形になるわ。 n がマイナスなら、さっきの反比例みたいに、軸に決して触れない双曲線になる。この n という一つの数字が、世界のあらゆる『変化のスピード』を支配しているのよ」
私は、透の手を取って、空中にカーブを描きました。
「 n が 1 より大きければ、先へ行くほど急激に加速する。 n が 0 と 1 の間なら、増えてはいくけれど、だんだんその勢いが緩やかになっていく。そして n がマイナスなら、どんどん小さくなって消えていこうとする……。工学の世界では、橋の強度を計算するのも、水の流れを解析するのも、この n の値を突き止めることから始まるのよ」
透は、数式というたった一行の「遺伝子」が、これほどまでに多様な形を生み出すことに、深く感銘を受けたようでした。
「お母さん、数学って、バラバラに見えるものを一つにまとめる力があるんだね」
「ええ。それが数学の、そしてこのスミルノフ教程の美しさなの。どんなに複雑に見える現象も、その根源にはシンプルで普遍的な『形』が隠れているのよ。さあ、今夜はこれでおしまい。この冪関数の家族たちが、夢の中で透を広い世界へ連れて行ってくれるわ」




