1-18. 反比例の法則:The law of inverse proportionality
窓の外には、静かな三日月が昇っています。私は透が描いた「急上昇する」3次式のグラフの横に、今度はまったく違う、少し風変わりな式を書きました。
「ねえ、透。これまでは、横にいくほど数字が大きくなる話ばかりだったわね。でも、世の中には『一方が増えると、もう一方が減る』というあまのじゃくな関係もあるのよ。それが『反比例の法則(The law of inverse proportionality)』。」
私は、ノートにその基本の形を書きました。
** y = k/x ( k > 0 )
「例えば、k を 12 としましょうか。もし x が 1 なら y は 12。x が 2 に増えると y は 6 に減る。x が 12 になれば y は 1 になっちゃう。一方が 2 倍、3 倍になると、もう一方は 2 分の 1、3 分の 1 になる……。これが反比例の正体よ。」
透は、私が打った点をつなげてみました。すると、軸にぶつかることなく、どこまでも寄り添うような不思議な曲線が現れました。
「お母さん、この線、軸に触れそうで触れないんだね。」
「そう、鋭いわね! x をどんなに大きくしても、 y は限りなく 0 に近づくだけで、決して 0 にはならない。逆に x を 0 に近づけていくと、y は天井を突き破るくらい巨大になっていく……。この曲線を『双曲線(Hyperbola)』と呼ぶのよ。」
私は、物理のお話を一つ付け加えました。
「この反比例は、科学の世界では『ボイルの法則』として有名よ。注射器の中に空気を閉じ込めて、ギュッと圧力をかける( x を大きくする)と、空気の体積( y )は小さくなる。目に見えない空気の粒たちが、この数式通りの約束を守って動いているの。」
「じゃあ、もし がマイナスになったら?」
「ふふ、いい質問ね。マイナスの世界でも同じことが起きるわ。左下(第3象限)に、右上とそっくりな形がもう一つ現れるの。双曲線っていうのは、まるで鏡合わせのように、二つのカーブがセットになっているのよ。」
透は、定規を当てて、軸と曲線の間の不思議な隙間をずっと眺めていました。増え続ける世界だけではない、バランスを取りながら小さくなっていく世界の美しさを、彼は少しずつ理解し始めたようでした。




