1-17. 三次の放物線:Parabola of the third degree
窓の外はしんと静まり返り、遠くで夜鳥が鳴いています。私は、さっき描いた2次の放物線の隣に、新しい曲線を書き加えました。
「ねえ、透。2次の放物線 y = x^2 は、お椀みたいな形をしていたわね。じゃあ、今度は x を3回掛けたらどうなると思う? これが次の主役、『3次の放物線(Parabola of the third degree)』よ。」
私は、ノートにその式を誇らしげに書きました。
** y = x^3
「3回掛ける……。1なら 1 × 1 × 1 = 1。2なら 2 × 2 × 2 = 8。3なら 3 × 3 × 3 = 27! さっきよりもずっと急激に大きくなっていくね」
透が驚いたように言いました。
「そうよ。でも、一番の違いは『マイナスの世界』にあるの。思い出して。2次のときは、マイナスを2回掛けるとプラスになったわよね? でも、マイナスを3回掛けたら……?」
「( -1 ) × ( -1 ) はプラスで、それにもう一回 ( -1 ) を掛けるから……あ、マイナスになるんだ!」
「その通り! だから3次の放物線は、右側では空に向かってぐんぐん昇っていくけれど、左側では地の底へ向かって深く沈んでいくの。原点 ( 0, 0 ) を境にして、点対称な形になるのが特徴よ。」
私は、その曲線の真ん中、原点のあたりを指差しました。
「見て。原点の近くでは、x^2 よりもさらにゆっくり、地面を這うように進むの。でも、一度勢いがつくと、x^2 をあっという間に追い抜いて、とんでもない高さまで駆け上がっていく。この『最初は慎重で、後から爆発的に伸びる』姿も、3次式の面白いところね。」
透は、ノートに描かれた y = x^2 と y = x^3 の二つの曲線を比べながら、指でその勢いの違いをなぞりました。
「2次のお椀は左右対称で安心するけど、3次の曲線はどこまでも遠くへ飛んでいってしまいそうだね。」
「ふふ、そうね。この形は、例えば重い梁が自分の重みでたわむときの形なんかに関係しているのよ。ただの数学の遊びじゃなくて、大きな建物を支える計算にも、この3次の曲線が隠れているの。世界を支える強さは、こういう不思議なカーブの中にも眠っているのよ。」
私は透の冷めかけたココアを温め直すために席を立ちました。机の上では、3次の放物線が、夜の静寂を切り裂くように鮮やかな軌跡を描いていました。




