1-13. 一次関数の基本的性質:Increment. The basic property of a linear function
夜も更けてきましたが、透はまだ一次関数の「直線」の美しさに魅了されているようです。私は彼が描いた直線を指でなぞりながら、少しだけ身を乗り出しました。
「透、一次関数 y = ax + b がどうしてあんなに完璧に『まっすぐ』なのか、その秘密を知りたくない? それが、『増分(Increment)』と一次関数の基本的な性質なの」
私はノートの余白に、ギリシャ文字の「Δ(デルタ)」を書きました。
「まず、この『Δ』という魔法の記号を覚えましょう。数学では、何かが『どれくらい増えたか』を表すときにこれを使うの。例えば、独立変数 x が x_1 から x_2 に変わったとき、その差 x_2 - x_1 を『 x の増分』と呼んで、Δx って書くわ。同じように、y の変化も Δy って書くのよ」
私は座標平面上に二つの点、( x_1, y_1 ) と ( x_2, y_2 ) を取って、それらを結ぶ階段のような図を描きました。
「いい? ここが一次関数のすごいところよ。一次関数では、Δx に対して y がどれくらい増えるかの割合、つまり Δy/Δx を計算すると、どこの場所で計算しても、必ずあの『傾き a 』と等しくなるの」
** Δy/Δx = a
「つまり、Δy = a・Δx。y の増分は、x の増分にいつも比例しているということ。これが、一次関数が持つ一番大切な性質なのよ」
透は定規を当てて、グラフのあちこちで「横に行って、縦に上がる」階段を描いてみました。
「どこで測っても、階段の勾配が変わらないんだね。だからずっとまっすぐなんだ」
「その通り! 坂道の急さがどこでも一定だから、曲がることができないのね。逆に言えば、もし が場所によって変わってしまうなら、それはもう直線ではなく『曲線』の世界に入っていくということ。この『増分の割合』という考え方は、のちに私たちが学ぶ『微分』という大きな魔法の入り口になるわ」
私は透のノートをそっと閉じました。
「 x が少し動けば、y もそれに応じた『決まった割合』で動く。この約束事があるからこそ、私たちは遠い未来の値を、あのまっすぐな直線の先に見通すことができるのよ」
透は満足そうに欠伸をしました。一次関数の「まっすぐさ」の裏にある力強いルールを、彼はしっかりと掴んだようでした。




