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約束と契約4  作者: オボロ
21/64

#21 楽しいことの計画




「じゃあ、今日はここまでにしましょう。次の勉強会は、地理と歴史ね。」


腕時計を確認した津谷美羽つたにみわは、12時を過ぎていることを知って、今日の勉強会の終わりを告げた。

今日の勉強会も、沢井萌々さわいももの個人指導に、ほとんどの時間を費やしていた。


「おわったぁー」


一日分の集中力を使い果たした気分の沢井萌々は、ようやく解放される喜びを全身で表現するみたいに、両手を挙げて、大きく伸びをした。

マリアも、もうそんな時間かと、腕時計を見て、片付けを始めた。


「月城さんは、他に分からないところなかった?大丈夫?」


いくつかの質問をしただけのマリアに、津谷美羽は聞いた。


マリアは、イギリスで生まれ、イギリスで育ったので、英語が堪能だ。

しかし、英語の勉強となったら、また別の話で、ましてや、日本の学校の英語の授業で出される問題では、分からないこともあるだろうと思い、津谷美羽はマリアを気にかけた。

実際、マリアはいくつか分からないところを質問していた。

だが、それ以外は、自力で問題集を進めていた。


「ありがとう。大丈夫。また分からないところがあったら訊くね?」


マリアは、津谷美羽の気づかいに感謝をして微笑んだ。




警察から依頼されていた事件は、昨日、無事、解決することに成功した。

帰宅したマリアは、警察に提出する報告書をまとめ、英語のテキストのノルマ分を、必死になってやり終えた。

弓も七曜神楽も、いつも通りの時間を掛けて練習したので、神社の仕事の手伝いは、全くと言ってもいいほどすることが出来なかった。


「神社の手伝い、何も出来なくて、ごめんね。」

「学校と、次期宮司のお役目は、神社の手伝いよりも優先するべきことなんだから、気にすることないよ。」


琴音は、そう言って笑っていたけれど、マリアは、申し訳ないと、思っていた。




今日も天気がいい。

気温も高く、外で食べる気にはなれなくて、マリア達は、校舎内の冷房が使える教室で、こっそりと、お昼を食べることにした。

自分達のクラスの教室なら、見つかっても怒られることはないだろうと、考えてのことだった。

誰も居ない教室の中、三人だけでお昼ご飯を広げて食べるのは、どこか後ろめたい気がしながらも、なぜかわくわくした。



「そろそろ、楽しいことも計画しようよぉ。」


タマゴサンドイッチを一つ食べた沢井萌々は、イチゴ牛乳を飲みながら、津谷美羽とマリアを見て、言った。


「勉強ばっかの夏休みなんて、悲しすぎるよぉ。」

「そう?」

「そうだよぉ。」


そっけなく答える津谷美羽に、沢井萌々は、懇願するように訴えかけた。


「わたし達、高校二年生だよ?来年は三年生だよ?遊べるのって、今年しかないんじゃない?」

「あなたは、来年も遊びたいって、充分、言いそうだけど?ま、来年は受験で、遊ぶにしても、遊び辛い環境になるっていうのは、間違いないかもね。いいわ。で、何して遊ぶの?」

「なーんかなぁ。小さい子に聞くみたいな聞き方だよね?」

「じゃあ、やめる?」

「やめない!海とか、プールとか、遊園地とか。萌々、夏っぽい所に行きたい!」


「わたし達だけで行けるの?」


思わず、マリアは聞いていた。

マリアは、今まで、子供だけでどこかへ遊びに行ったことがなかった。

イギリスでは、それが当たり前だった。

でも、考えてみればそうだと、思い当たった。

マリアは、日本に来て初めて、一人でバスに乗って登校するようになった。

イギリスだったら、間違いなく、親の送り迎えがあるか、スクールバスの二択だった。


「もちろんだよ。海と遊園地は、ちょっと遠いから電車でってことになるけど、プールなら、バスですぐだし、あっ、泊りで海っていうのもあり?」


沢井萌々は、たいしたことではないように言ってから、期待を込めた目で二人を見た。

すぐに津谷美羽が答えた。


「泊りはちょっと抵抗があるわね。無難なところで、プールがいいんじゃない?」

「プールかぁ。じゃ、サンサンプール?」

「そうね。あそこなら、わたし達だけでも問題ないでしょ。」


「………。」


マリアは、二人の会話をただ聞いているだけになってしまった。


———泊りで海って言うのもあり?———


すぐに断ることが出来なかった。

今まで、友達とだけで出掛けることも無かったのに、いきなり泊りで出掛けるのはハードルが高いと思っていながら、断る勇気がなかった。


最近、神社の仕事がおろそかになってしまっていると、申し訳なく思っていたはず。

泊りで遊びに行くなど、とんでもないだろうに……


こういうところに、自分の弱さが出てしまっている。


「………。」


マリアは、自己嫌悪におちいってしまいそうだった。



「月城さん、大丈夫?」

「太陽サンサンプール、いや?」


急に黙り込んでしまったマリアに気付いて、津谷美羽と沢井萌々が聞いてきた。

マリアは、慌てて明るく答えた。


「ううん。その、太陽サンサンプールって、どこにあるの?近いの?」

中岡なかおかよ。となりの市だけど、駅からバス一本で行けるわ。」

「いろんなプールがあって、楽しいよ。」

「へぇ、そうなの?楽しみ。」

「じゃあ、金曜日にしようよ。次の勉強会は、プールに変更!美羽ちゃん、いいでしょ?地理と歴史は、その次に延期。ね?そうしよう?」

「そうねぇ……。勉強会とは別に行く日を決めるよりは、勉強会の日にした方が、予定を入れやすいかもね。いいわ。月城さんは?」

「わたしも、その方が、都合いいかも。」

「じゃあ、決まりね。次の金曜日は、水着持参で駅に集合だからね。」




突如、話に出て来た”楽しいことの計画”は、お昼ご飯を食べながら、とんとん拍子に決まった。







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