#21 楽しいことの計画
「じゃあ、今日はここまでにしましょう。次の勉強会は、地理と歴史ね。」
腕時計を確認した津谷美羽は、12時を過ぎていることを知って、今日の勉強会の終わりを告げた。
今日の勉強会も、沢井萌々の個人指導に、ほとんどの時間を費やしていた。
「おわったぁー」
一日分の集中力を使い果たした気分の沢井萌々は、ようやく解放される喜びを全身で表現するみたいに、両手を挙げて、大きく伸びをした。
マリアも、もうそんな時間かと、腕時計を見て、片付けを始めた。
「月城さんは、他に分からないところなかった?大丈夫?」
いくつかの質問をしただけのマリアに、津谷美羽は聞いた。
マリアは、イギリスで生まれ、イギリスで育ったので、英語が堪能だ。
しかし、英語の勉強となったら、また別の話で、ましてや、日本の学校の英語の授業で出される問題では、分からないこともあるだろうと思い、津谷美羽はマリアを気にかけた。
実際、マリアはいくつか分からないところを質問していた。
だが、それ以外は、自力で問題集を進めていた。
「ありがとう。大丈夫。また分からないところがあったら訊くね?」
マリアは、津谷美羽の気づかいに感謝をして微笑んだ。
警察から依頼されていた事件は、昨日、無事、解決することに成功した。
帰宅したマリアは、警察に提出する報告書を纏め、英語のテキストのノルマ分を、必死になってやり終えた。
弓も七曜神楽も、いつも通りの時間を掛けて練習したので、神社の仕事の手伝いは、全くと言ってもいいほどすることが出来なかった。
「神社の手伝い、何も出来なくて、ごめんね。」
「学校と、次期宮司のお役目は、神社の手伝いよりも優先するべきことなんだから、気にすることないよ。」
琴音は、そう言って笑っていたけれど、マリアは、申し訳ないと、思っていた。
今日も天気がいい。
気温も高く、外で食べる気にはなれなくて、マリア達は、校舎内の冷房が使える教室で、こっそりと、お昼を食べることにした。
自分達のクラスの教室なら、見つかっても怒られることはないだろうと、考えてのことだった。
誰も居ない教室の中、三人だけでお昼ご飯を広げて食べるのは、どこか後ろめたい気がしながらも、なぜかわくわくした。
「そろそろ、楽しいことも計画しようよぉ。」
タマゴサンドイッチを一つ食べた沢井萌々は、イチゴ牛乳を飲みながら、津谷美羽とマリアを見て、言った。
「勉強ばっかの夏休みなんて、悲しすぎるよぉ。」
「そう?」
「そうだよぉ。」
そっけなく答える津谷美羽に、沢井萌々は、懇願するように訴えかけた。
「わたし達、高校二年生だよ?来年は三年生だよ?遊べるのって、今年しかないんじゃない?」
「あなたは、来年も遊びたいって、充分、言いそうだけど?ま、来年は受験で、遊ぶにしても、遊び辛い環境になるっていうのは、間違いないかもね。いいわ。で、何して遊ぶの?」
「なーんかなぁ。小さい子に聞くみたいな聞き方だよね?」
「じゃあ、やめる?」
「やめない!海とか、プールとか、遊園地とか。萌々、夏っぽい所に行きたい!」
「わたし達だけで行けるの?」
思わず、マリアは聞いていた。
マリアは、今まで、子供だけでどこかへ遊びに行ったことがなかった。
イギリスでは、それが当たり前だった。
でも、考えてみればそうだと、思い当たった。
マリアは、日本に来て初めて、一人でバスに乗って登校するようになった。
イギリスだったら、間違いなく、親の送り迎えがあるか、スクールバスの二択だった。
「もちろんだよ。海と遊園地は、ちょっと遠いから電車でってことになるけど、プールなら、バスですぐだし、あっ、泊りで海っていうのもあり?」
沢井萌々は、たいしたことではないように言ってから、期待を込めた目で二人を見た。
すぐに津谷美羽が答えた。
「泊りはちょっと抵抗があるわね。無難なところで、プールがいいんじゃない?」
「プールかぁ。じゃ、サンサンプール?」
「そうね。あそこなら、わたし達だけでも問題ないでしょ。」
「………。」
マリアは、二人の会話をただ聞いているだけになってしまった。
———泊りで海って言うのもあり?———
すぐに断ることが出来なかった。
今まで、友達とだけで出掛けることも無かったのに、いきなり泊りで出掛けるのはハードルが高いと思っていながら、断る勇気がなかった。
最近、神社の仕事が疎かになってしまっていると、申し訳なく思っていたはず。
泊りで遊びに行くなど、とんでもないだろうに……
こういうところに、自分の弱さが出てしまっている。
「………。」
マリアは、自己嫌悪に陥ってしまいそうだった。
「月城さん、大丈夫?」
「太陽サンサンプール、いや?」
急に黙り込んでしまったマリアに気付いて、津谷美羽と沢井萌々が聞いてきた。
マリアは、慌てて明るく答えた。
「ううん。その、太陽サンサンプールって、どこにあるの?近いの?」
「中岡よ。となりの市だけど、駅からバス一本で行けるわ。」
「いろんなプールがあって、楽しいよ。」
「へぇ、そうなの?楽しみ。」
「じゃあ、金曜日にしようよ。次の勉強会は、プールに変更!美羽ちゃん、いいでしょ?地理と歴史は、その次に延期。ね?そうしよう?」
「そうねぇ……。勉強会とは別に行く日を決めるよりは、勉強会の日にした方が、予定を入れやすいかもね。いいわ。月城さんは?」
「わたしも、その方が、都合いいかも。」
「じゃあ、決まりね。次の金曜日は、水着持参で駅に集合だからね。」
突如、話に出て来た”楽しいことの計画”は、お昼ご飯を食べながら、とんとん拍子に決まった。




