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約束と契約4  作者: オボロ
20/64

#20 悲しい娘の悲しい浄化






「許さない…、許さない…」


さとは、呪文のように繰り返していた。


「さとさん、話を聞いて。」


マリアも、根気強く繰り返していた。

正直、埒が明かない———とも、思っていた。

しかし、さとは動き出した。

さとの黒く長い髪が生き物のように、マリアに向かって伸びてきた。

川に入った子供を溺れさせる為に、さとが使っていた方法だ。

長い髪をマリアに巻き付けて、絞め殺すつもりなのだろうか?


「マリア!さがれ!」


凪は叫び、マリアの前に出ようとしたが、それより先に、マリアは懐から小さな鈴を取り出した。

七曜神楽では、鈴のついた弓と矢を使っていたが、神社の外に貴重な神具を持ち出すことは出来ないので、代わりの鈴を使うのだ。

子供が使うおもちゃの鈴でも、マリアが使えば神具になるらしい。


シャンッ!


おもちゃらしい軽い音がした————が、その音は、輪を広げるように、辺りに響いた。

音の輪が、さとに辿り着く。


「あぁっ!」


痛みがあるのか、さとは声を上げ、一歩、後ろに下がった。

伸ばしていた髪は、力なく地面に垂れた。


マリアは、もう一度、鈴を鳴らした。


シャンッ!


「よせ…、やめろ……」


さとは、じりじりと後ずさりして、木の陰に隠れた。

さとが、今、怒りよりも恐怖の方が先にあるのを見て、マリアは、もう一度、話し掛けた。


「話を聞いて、さとさん。あなたは、たくさんの子供を殺したわ。子供が欲しかったからだっていうのは、知っている。子供を産むことが出来なくて、とてもつらい思いをしていたのも知っている。でもね、どんなに子供を殺しても、あなたに子供が授かる日は、絶対に来ないの。」


「そんなことはない!子供を食べれば、子供が出来る!昔からそうだった。稚鮎じゃダメだった。だから、人の子を食べることにした。人の子をたくさん食べれば、子供が出来ないおれにも、子供が出来るに決まってる。」


気の陰からこちらを窺いながらも、さとは言い返した。

それだけが、さとをこの世に繋ぎとめていたことだから、さとにしてみれば、絶対に譲れないことだったのだろう。

それでも、マリアは続けた。


「あなたは、もう死んでいるの。時は流れて、時代も変わって、あなたの御主人だって、もうこの世にはいないわ。子供を殺し続けても、子供は授からないし、ご主人も居ない。これ以上、ここにいても、あなたは幸せになれない。もう、逝くべきだわ。」


「そんな……」


さとは、木の陰でしゃがみ込んだ。

怒りも恐怖も無く、絶望しているようだった。

黒々とした気配が薄れていた。


マリアは、また鈴を鳴らした。


シャンッ!


鈴の音が、さとの黒い気配を薄めていく。


「あなたは辛い思いをしたけれど、あなたに殺された子供も、その子供の親御さんたちも、悲しい思いをしたの。あなたは、その罪の重さを知らなければいけない。」


シャンッ!シャンッ!


「うう……」


鈴の音が届くと、さとは呻いた。


シャンッ!シャンッ!


「うう…うう…」


「殺された子供の無念を知りなさい。子供を失った親の無念を知りなさい。自分の罪を知り、悔いなさい。」


シャンッ!シャンッ!


「うう……う…う…」


苦しむさとから、少しずつ黒い気配は消えていき、やがて、さとの姿は鬼から変わっていった。

マリアが知っている着物とは少し違っているように見えるが、着物のようなモノを着た若い娘の姿になっていた。


「申し訳ねぇべさ…。たくさんの子供、殺してしまった。子供が欲しかったのに、たくさんの子供を殺してしまった。許してもらえるなんて思わねぇ…。おれが悪かったんだから、許してもらえなくてもしょうがねぇ。でも、申し訳なかったべな…、本当に申し訳なかったべ…。」


さとは、おそらく、死んだ時の姿に戻ったのだろう。

自分の罪の重さを知り、ぽろぽろと泣いていた。


「罪を知ったなら、浄化されます。心安からに逝ってください。」


シャンッ!シャンッ!


最後に、マリアは鈴を鳴らした。

鈴の音に浄化され、さとの姿は、光の粉のようになって、砕けて散った。




———ありがとう




さとの声が聞こえたような気がした。





今の時代でも、子供が出来ないことで、居場所を失う女性は居るのかもしれない。

誰にも庇ってもらえず、悲しい思いをしている女性は居るのかもしれない。

でも、負けないで欲しいと、マリアは願う。

血のつながりを大切にすればするほど、子供の存在が大きくなってしまうのは、仕方が無いことかもしれない。

しかし、欲しくても授からないことも、また、仕方のないことなのだ。



「もう、さとさんのような思いをする女性は居ないと良いね。」


空を見上げて、マリアは呟いた。

結界を張った空に星は無い。


「あ、B・Bたちに結界解いてもらわないとね。」


星が見えないことで、B・Bたちが結界を張ったままであることを思い出した。




「さぁ、帰りましょう。」






警察から依頼された三四子川の調査は、この日、終了した。








「残りのテキスト、片付けなくちゃ。」






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