表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐、始めました。  作者: 中島(大)
42/236

35話 抗戦、ピクシーの本気

「あぶね!」


 フォーゲルの斬撃を紙一重で躱し、ビィはフォーゲルと距離を取る。その動きにフォーゲルはビィが並の使い手ではないということを悟る。


「今の動き。口で言うほど戦闘が苦手というわけではなさそうだな」

「まぁ、一応並の使い手よりは上だとは思いますよ?ただ自分で思ってるんですよ、戦闘は不向きだって」

「ふむ。その苦手意識を改善すればもっと強くなれると思うがね」


 まるで気にかけている弟子を鍛えるかのようなフォーゲルの振る舞い。しかし殺意が無いわけではない。所謂この試練を乗り越えて見せろ的な、脳が筋肉でできている連中が好きそうなアレのようだとビィは感じる。


(脳が筋肉でできてるなら『これ』が良く効くでしょうね…)


 心の中でほくそ笑むビィ。そうだとは露知らず、フォーゲルは改めて剣を振り、構える。


「では次も躱してみようか?」

「ちょっと待って、待って!本当に死んじゃうから!」

「最初から殺す気だと言っている…!?」


 ガクッ、と突如膝を付くフォーゲル。急激な脱力感により立つこともままならない。呼吸も苦しい。何事かと困惑するフォーゲルを、見下すように見下ろすビィが勝ち誇ったように口を開く。


「あぁ、すみませんね。死んじゃうってのは貴方の方ですよ」

「貴様…!?」

「僕は体を使うのは苦手なので」


 ビィが使ったのはボツリヌストキシン。最強の毒と呼ばれるそれは、500gで全人類を殺すと言われている。この毒を致死量以下に薄めた溶液を、ビィはフォーゲルに打ち込んだのだ。


「毒か…いつの間に…」

「それは秘密です。一応致死量以下なのでじっとしててくださいね。あなたには何か考えていることがあるようですし、ここで死ぬわけにはいかんでしょう?」

「…フッ、秘密か。まぁそう言うよな…」


 カラクリは至極単純。ビィは前もって自分が立っていた場所の地面にボツリヌストキシンの溶液を仕込んでいた。その場所にフォーゲルが斬りかかりその場に立ったとき、簡単な魔術でその溶液を表出させ、霧のように霧散化し、フォーゲルの体内に吸入させたのだ。これは暮らしが便利になる簡単な生活魔術、スプレーの術である。

 ・

 ・

 ・

「…さすがはフォーゲルクンと肩を並べた軍団長なだけはあるな」


 自慢のフェイントや連続技を封じられたのに、えらい余裕そうなピクシーにトッシュは少し不安を覚える。ピクシーの本来の戦闘スタイルは、槍。ピクシーの持つ槍は、トッシュが以前使っていた魔界の名工、七代目ガゼル・トムソンが作り出した、スクラムクレイモアと対を成すもう一つのバイナリィ・シルエット・アーマー、『スクラムハルバード』!


「スクラムハルバードを使わないのか?」


 トイッシュはスクラムハルバードの性能を知らない。が、後から使うのも今使うのもどちらも変わらない。むしろ早めに使ってもらっておいた方が気が楽だ。スクラムハルバードを使うかもしれないと不安にならずに済むから。


 ピクシーは、最初に出現した地面の中にスクラムハルバードを隠していた。ちょうど今いる場所からすぐそこが、潜っていた場所であり、掘り起こして出てきた場所だ。ピクシーは地面の大穴に手を突っ込み、スクラムハルバードを取り出す。


「…使わんさ、お前もスクラムクレイモアを持っていないだろう?」

「やさしいことで。余裕か?それは」


 先ほどのトッシュの不安は的中した。ゴッ!という衝撃が、トッシュを襲う。突然の衝撃に意識を刈り取られそうになるトッシュは、自分が見ていたピクシーが姿を消していることに気付いた。そこにはスクラムハルバードが地面に刺さっているだけである。


(殴られたあとにいなくなっているのに気付くだと!?順番おかしいだろ!)


 と、考えている間に5発も貰ってしまった。ピクシーのキャッチコピーは『技と速さを極めた三騎士トリプルリッター最強の男』。つまりこれはさきほどの技主体とは打って変わった、速さ主体のスタイル!


「うらららら!!!」


 見えない打撃がトッシュを殴る、殴る、殴る!自慢の脚は移動に注力させ、襲うは超速の拳。トッシュは自慢の見切りを使おうにも、見切ったときには既に殴られてしまっている。ピクシーもまた、先ほどのトッシュのように開き直った。見切られたのならば、それ以上の速度で殴ればいい。ピクシーはトッシュの頭脳が見切った情報を神経が伝達する以上の速さで動いている。


(くっ!これを見切るには次の手だけでなく20手くらい先まで見切らないとダメだ…まるでオセロだな、そんな頭俺にはねぇぞ…!)


 タコ殴りにされながら打つ手を考えるトッシュ。便利な八卦龍拳ハウドラゴンディノディロスの技で地形を沼に変化させることができれば、ピクシーの脚を殺すことができるがこの場所は地脈(レイ

 ・ライン)から遠いため、大規模な地形変化は今のトッシュには不可能だ。せいぜい大きめの石を動かす程度のことしかできない。


 当然、あんなに早く動いている相手に鎌鼬アローを飛ばして、同時に飛び込んで鎌鼬ブレイクを当てる蒲池達ブレイクに当たってくれるはずもない。


 トッシュが持つ最速の技、(スーパー)(ソニック)(アタック)を使おうにも、マッハの構えを取ることができないほど、ピクシー殴って来る。


 となると、あとは聖拳くらいだが…これは一発でガス欠になるため、『この後』の闘いに備えて取っておきたい。


 バキィ!と一際大きな一発がトッシュの顔面に炸裂し、トッシュは吹き飛ばされた。


「ハァ!ハァ!ハァ!」


 全力で動いたのだろう、ピクシーの息もかなり荒くなっている。確かにピクシーの動きは尋常ではない速さだが、その分やはり威力が軽い。特にあぁもバタバタ動きながらでは、打撃に力も入らないし、きちんと当てることも難しいのだろう。トッシュもダメージこそあるものの、致命傷には遠い。


「クッソ…!ボカスカ好き放題殴りやがって…!」


 よろよろと立ち上がるトッシュは、打撃を受けながらもピクシーの動きを観察していた。観察と言っても姿は見えなかったが、…つまり特に収穫は無かった。が、体力の消耗が大きいのだろう、攻撃の手を休め止まっている今こそチャンスだ。…かといって、殴りに行っても逃げられるのは目に見えている。ならば誘い込めばいい。トッシュは正面への防御力を重視した両腕を交叉させたクロスの構えを取る。


「来い、ピクシー。次で決める…!」

「ハァ…ハァ…フゥ…スゥー…」


 呼吸を整え、ピクシーも構える。右足を後方にやり、力を込める。次の瞬間、爆発するように地を蹴り、トッシュを殴りに来るだろう。ピクシーはトッシュの狙いがカウンターだと推測する。しかし、ピクシーにはこれしかない。全速で、トッシュの思考よりも早い速度で殴りに行く。ただそれだけである。


 ドッ!と地を蹴る音が響いた瞬間、ピクシーの脚の邪魔をする『ソレ』が、そこにあった。


(な…!?)


 それは何の変哲もない、ただのちょっと大き目な石。ただし、一つおかしい点がある。それはこの石がさきほどまでここに無かった、ということ。


(かかった!)


 石に躓いて姿勢を崩したピクシーは頭から倒れ込む。その頭を狙いすましたトッシュの蹴りが、ピクシーの顔を蹴り飛ばす!そう、動きだしたら見切ることはできなかった。しかし!動きだす前ならば、一度その初動を体験したトッシュならば、予想できる!その動きに合わせて八卦龍拳・地の技で、自分が動かせるギリギリの大きさの石を足元から出現させ、躓かせたのだ!


「グハァ!」


 今度はピクシーが吹き飛ぶ。仰向けに天を仰ぐピクシーの視界の端には、スクラムハルバードがあった。


「使えよ」

「ハァ、ハァ…くっ…!」


 スクラムハルバードに手を伸ばすピクシー。スクラムハルバードのジャベリンフォームはスクラムクレイモア同様、ゴテゴテとした巨大な槍で、ピクシーの速さを生かせない形状である。使うならば、間違いなくブリガンディフォームだろう。


「後悔するなよ…set!(セ!)me!(ミ!)up!(ア!)


 ピクシーの声に反応し、スクラムハルバード・ブリガンディフォームが展開される。ハルバードの斧部分の刃はピクシーの両足に装着され、他にも右腕手甲部のギザギザしたコーン、左腕手甲部の剣や、膝や胸部の突起、両肩のヌンチャク、そして三節棍に変化し凵字で背中に装着されたジャベリンと、あらゆる姿勢から武器を繰り出せる防御よりも攻撃に主体を置いた形状である。確かにこれならピクシーの速さを生かせるだろう。


「ファングシュリケン!」


 胸部の突起を手に取り、トッシュに投げつける。トッシュはすかさず躱すが、その間にピクシーは姿を消した。


「ニーニードル!」


 側面からトゲを前面に押し出したピクシーの膝蹴りが襲い掛かる!トッシュはこの攻撃は牽制で、次の足刀が本命と見切り、あえてピクシーの膝を手に取り、すかさずぶん投げた。


「くっ!」


 投げられながらも、ピクシーは掴まれてない方の足でトッシュを蹴りつける。もちろん足には刀が付いているため、それはトッシュの皮膚を斬り裂き、赤く染めた。


「全身トゲトゲして危ないなクソ…!」


 ヒュン、とピクシーが背中から槍を取り出す。槍の長所はそのリーチであり、相手を寄せ付けず突き、相手は一方的に殴られる痛さと怖さを植え付けられてしまう。これを突破するには、槍の不得意な距離での戦闘、超接近戦を挑むしかない。そのためにはまず槍の書劇を掻い潜る必要がある。


 タッ!とピクシーが駆け出す。その進行方向はまっすぐではなく、ランダムにあちこちバタバタをせわしない。足元に石を出されないための軌道だろう。トッシュはそう来るだろうなとわかっていたので石の準備はしていなかった。トッシュは自らの周囲に闘気を広げている。その範囲内に入って来た敵を迎撃するためのクモの巣のような闘気の網を。そして網に反応が伝わった。ピクシーの位置は背後。背中はどんなに注意していても反応が難しいが、トッシュは闘気の網で全周に目があるようなもの。反応は容易。そして如何に神速を誇るピクシーの連続技も、一発目から止めてしまえば連続技にはならない。トッシュの狙いはいつもの通り、武器破壊だ。


 シュッ、と槍が背後から迫る。トッシュはすかさず槍の進行方向に合わせ前方に倒れ込み、両手を地面に尽く。そのまま前転する形で上げた両脚でピクシーの腕を絡み取り、槍を突くピクシーの勢いを利用して前方に投げる。そのまま寝技の形態に移行し、ピクシーの槍を奪う。


 簡単に槍が奪えた。トッシュはその事実に一瞬ヨシ!と安堵するが、すぐに気付いた。ピクシーはわざと槍を手放したことに。槍を両手で奪ったため、ピクシーに絡めているのは両足のみ。すかさず両脚の組み付きを外され、ピクシーはヌンチャクを取り出しながら立ち上がる。ピクシーから振り下ろされるヌンチャク、その先端には案の定トゲトデがついておりとても危ない。まともに喰らったら痛いでは済まない。


 トッシュは奪った槍でガードする。ヌンチャクの中央の鎖部が槍に絡まり、すぐさまピクシーの足刀によるソードキックが繰り出される。すぐに槍を手放し後退、槍はピクシーの手元に戻ることになった。


「…ひっ!」


 しかしトッシュもはいどうぞ、と槍を返すような良い性格はしていない。八卦・地の技で土から取り出したムカデやらナメクジやらウデムシやらを何匹か槍に這わせていたので、その存在にびっくりしたピクシーが槍を放り捨てる。


 その隙を突いて迫るトッシュを、ピクシーはヌンチャクで迎撃する。ヒュッ!とトッシュの右下から振り上げられるヌンチャクを、トッシュは右腕で掴み取る。トッシュの腕には上着がくるくると巻き付けられており、多少のトゲ程度ならばあまり刺さらずに掴み取ることが可能となる。


「チッ!」


 すかさずピクシーのソードキック、をトッシュは見切っていた。ピクシーの右足を踏み、蹴りを阻止すると同時に、闘気を込めた左の拳、暗黒真拳・マグナムブロー!


「グハァ!」


 ピクシーの腹部に炸裂したトッシュの拳は、防御力を軽視したスクラムハルバード・ブリガンディフォームを砕く。ピクシーは右手のギザギザしたコーンを回転させたドリルパンチを打ち込もうとするが、トッシュは左手でピクシーの肘を掴みドリルパンチの進行を止める。そのままピクシーの鼻目掛けて頭突き!


「ぐぅ…!」


 そしてピクシーのお股に右腕を突っ込み、左手でピクシーの脇を掴み、上へ投げた!ピクシーは上へ浮かびながら、ファングシュリケン、シールドブーメランを射出するが、肩に刺さるシュリケンも、体を斬り裂くブーメランも意に介さず、攻撃を続ける。先日覚えたばかりの生命エネルギーの直接放射!そのエネルギーの奔流がピクシーを呑み込む。トッシュはこの技を生命波動と名付けた。そのままドサッ!とピクシーが落下する。まだ生きてはいるが、意識は失っている。上空3mからの落下ダメージが、トドメになったのだろう。


「ふぅ~…疲れたし、痛ぇ…」


 ピクシーに勝利し一息つこうとしたトッシュだったが、戦いは休息を許してくれない。トッシュの近くへ、誰かが吹き飛ばされてきた。


「姐さん!?」


 それはジャスティスと戦っていたマユ姐さん。全身に打撲の傷跡がある。随分容赦なく殴っているようだ。マユが吹き飛ばされた方へ目をやると、全身にオーラを纏い、両腕に聖拳を展開したジャスティスがゆっくりと近寄ってきているのがわかる。ダメージはあまり見受けられない。やはり先代魔王を討伐した勇者なだけあってめっさ強いということか。


「…姐さん、アンタはサンの手伝いをしてくれ。ジャスティスは俺が止めるから」

「トッシュ…ジャスティスは強いよ…」

「だろうね。けど俺にも退けない理由がある」

「…わかった」


 マユはゼファーに押されているサンの援護に向かう。


「トッシュ。次はアナタが相手なのね」

「まぁ、そうなるね。ジャスティスが魔王軍に行くのは困るし」

「そういうアナタはなんで魔王軍を辞めたのかしら?いっそアタシがイクスさんに口利きしてあげるからアナタも魔王軍に戻りなさいな」


 ありえない…!それだけは絶対に許容できない…!トッシュは魔王軍に身を置こうとするジャスティスを止めるため、全力を尽くす!常識的に考えて、お母さんと一緒の職場で働くなんて絶対嫌だから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ