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復讐、始めました。  作者: 中島(大)
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36話 対決!勇者ジャスティスVS魔人騎士トッシュ

 ドゴォン!ジャスティスの聖拳がトッシュのボディを抉る。胃の中から食物残渣が胃液と共に逆流し、外界へと吐き戻す。すっぱい匂いが口の中に広がり、鼻につく。


「うげぇ…」

「はっ!」


 そのまま屈んだトッシュに、ジャスティスの回し蹴りが首を狩る。延髄にジャスティスの踵が直撃し、そのままゲロの中へべちゃっとトッシュは倒れる。


「マユ姐さんの方がまだマシだわ。これじゃグランガイザスとの闘いにはついてこれないわね」

「ぐぬぬ…調子に乗ってぇ…!」


 母親のくせに息子に暴力振るのか、と一瞬言いそうになるが、その言葉はブーメランになるので言わないように自らを律するトッシュ。母親を暴力で止めようとしている息子なわけだし。


「トッシュ、あなた聖拳使えるんでしょ?やってみなさいよ」


 トッシュの聖拳はジャスティスのものとは性能が違う。というより未熟なのだろう。ジャスティスは聖拳を維持しながら殴って来るが、トッシュのものは一発で霧散してしまう。


「そんなに見たいなら見せてやるよ」


 トッシュが右腕に精製した光の拳はを、一目見てジャスティスはこう切り捨てた。


「ダメね、ぜんっぜんダメ。あなたそれすぐ消えちゃうでしょ」

「…よくわかるね」

「もうね、ほんと形を維持することでいっぱいいっぱいって感じね。まるで風船。殴ろうものなら外郭に傷が入ってそこから内側の闘気が一気に漏れ出して破裂。特攻兵器にしかならないわね」

「ぼろくそ言ってくれて…!」


 しかしジャスティスの言うことは正しいのだろう。トッシュが殴ったときはジャスティスのものより威力は圧倒的に大きいが、その理由もこれなら説明がつく。一気に全エネルギーが内側から破裂しているわけだから。


「ゼファーにも同じこと言ったけどね、そんな撃ったら無防備になる能力なんてダメよ。戦闘ってのは今の戦闘が全てじゃない。この闘いの直後にグランガイザスが来るかもしれない。そんなときガス欠なら闘うどころか逃げることだって無理よ」

「…これは使うな、ってことか?」

「えぇ。ピクシーとの戦いを見てたけど、貴方はイクスさんのとこで学んだ技術がある。下手の横好きじゃなくて長所を伸ばすべきよ」

「そうか、じゃあ…」


 トッシュはしばらく考え、そして続けた。


「断る」

「…」


 トッシュの闘い方は手札の多さにある。長所を極めても、応用力がなければ対抗手段がなくハメ殺されるかもしれない。常に新しい手札を手に入れ、いかなる戦況にも対応できる闘い方。それがトッシュの奥義、無闘流。聖拳も封印ではなく、有効に活用する術があるはずだ。ジャスティスの言う特攻兵器ではない使い方が。


「そう、じゃああなたに本当の聖拳を教えてあげるわ」

「そうか、それは助かるわ」

 ・

 ・

 ・

「マユ姐さんちょっと待って!」

「あぁ!?」


 マユとしばらく交戦したゼファーが、マユを止める。これ以上の戦闘継続は目的にそぐわないのもあるし、何よりフォーゲルが毒物でわりとヤバそうだ。


「マユ姐さん、フォーゲルがビィの毒でやられてきつそうだから治療してくれない?」

「なんで?」

「まぁ、俺たちの目的…俺とフォーゲルの目的は戦うことじゃないんだよ。ジャスティスは知らんけど」

「ここでフォーゲルが死んだらまずいと?」

「ビィもそれを悟ったからあえて死なない程度に抑えているんだと思うよ。それにあのジャスティスとトッシュの闘いも見ものだよ」


 一生懸命取り繕うゼファーを、サンが援護する。


「姐さん、ボクもゼファーは嘘を言ってないと思う。やろうと思えばいつでもボクを殺すことだってできたと思うし…」


 うんうん、と頷くゼファーの顔がなんか憎たらしい。が、確かに違和感はあった。マユは一旦ここでやめにする。もし何か企んでいたら、その時は真向からぶっ潰せばいい。


「そうかい、しゃーないねぇ。フォーゲルの解毒しながらジャスティスの様子でも観察するかねぇ」

 ・

 ・

 ・

「あれか…」


 フォーゲルの来襲地点から数百マイル離れた場所にあるとある高台の上で、その戦いを見守る人影がいた。その人物は、自らが従える従者に問いかける。


「どうだ、お前はあの少年と戦ったのだろう?どちらが勝つと思う?」

「…俺はそのときの記憶がないので何とも言えませんが、まぁトッシュの負けは揺るがないかと」

「だよな。アイツは最高傑作って言われてたもんな。ゼファーもアイツに勝てないよなぁ」

「フィリップ伯はやけにゼファーと親しいようですね」


 その男は先日ローシャ市に来訪した王国貴族のフィリップ伯。彼はその権限によりローシャ市の守護者ガーディアンとなったアルとついでにアカネを連れて、この高台にやって来た。


「まぁね、もう委員会滅びたから隠す必要ないけど、昔馴染みさ。一緒に委員会ぶっ潰すためにいろいろやってたんだぜ?赤い(フレイム)…じゃなくって今はアルか。アルは委員会が滅びた今、戦う理由はあるか?」

「…あるかないかと言えば…無いです。けど、グランガイザスは放置できんでしょう」

「それよ。まさか委員会の黒幕がグランガイザスだったなんてなぁ。あの残虐非道の魔王を何とかしなきゃいかん。だから俺はここに来たのさ」

「…?」


 フィリップ伯は戦いを見守る。グランガイザスと闘う力を確認するために。

 ・

 ・

 ・

「ジャスティスフラッシュ!」


 ジャスティスの拳から発する光がトッシュの目を眩ませる。その隙にトッシュの脇腹目掛けて腰を落として聖拳突きをかまそうとするが、トッシュは得意の気配探知で察知し、体を回して躱す。そのまま一回転し裏拳をジャスティスへとお見舞いするが、頑丈なものに遮られる。それこそジャスティスの聖拳。溢れんばかりの光の闘気を押し込める頑強な光の手甲。そして空いた方の聖拳でトッスユの脇腹にボディーブローが迫る。トッシュは後ろに飛んで避けようとするが、裏拳がジャスティスの聖拳とくっついてしまい離れることができない。物質化したジャスティスの闘気がトッシュの腕を掴み、脚を止めたその隙を突き、ドボッ!とトッシュの腹に埋まるジャスティスの聖拳は、ヒットの瞬間に嗜好性の光の闘気を発生し、トッシュは体を貫かれる。その闘気は質量を持たないためトッシュの身体に大穴を開けるわけではないが、その波動が体内にダメージを与えながら背中から抜けていった。


「おげぇ…!」

「もう一発…!?」


 ジャスティスの二撃目のボディーブローの直前、クワっと開いたトッシュの目から迸る殺気を悟り、ジャスティスがその場から飛びはねる。ジャスティスが直前までいたその場所を、トッシュの目から飛び出した生命波動光線が焼き尽くす。


「またそんな変な技を!」

「うるせー!」


 トッシュの二発目の生命波動光線を、ジャスティスは聖拳から生み出すエネルギーで相殺する。


(クソ!なんでジャスティスはあんなに闘気を小出しにできるんだよ!)


 生命波動は闘気へと精製される生命のエネルギー。闘気に変換するには体内で気を練る必要があり、瞬間的に生み出すことができない。肉体に溜まっている闘気が無くなる前に生命波動から闘気を生み出しため込むことが長期戦のコツである。トッシュたちはこれまでもそうしていたが、闘気には肉体の貯蔵量が決まっており、その貯蔵量を超えてため込むことができない。つまり闘気の瞬間最大出力は上限があるのだ。


 ジャスティスやトッシュの聖拳は、肉体の外部に闘気を貯蔵することで戦闘時の最大貯蔵量を増やす戦法である。ジャスティスは聖拳が貯蔵する闘気が無くなればすぐさま補充できるが、トッシュの場合未熟故か聖拳から闘気を放出すると一気に聖拳の外郭が風船のように割れ、中の闘気が一気に漏れてしまう。それだけではなく、聖拳はトッシュの肉体から溢れる闘気の栓にもなっているため、底がぬけたバケツのように体内の闘気をも放出、さらには無くなった闘気を補充するために生命波動が闘気となり補充されるが、当然バケツの底は抜けているためそれも出て行ってしまう。つまり、トッシュの聖拳は最大貯蔵量を増やし出力を上げることはできているが、繊細なコントロールができないため一発でガス欠になってしまう。ゼファーのゼファーソード・ゼファーガンのように闘気に変換せず生命エネルギーのまま放出する場合は、一度に出せる闘気の貯蔵量が関係ないためガス欠になりやすい。トッシュの聖拳はゼファーの必殺技と何ら違いが無いのだ。


 故にジャスティスは、先日ゼファーに教えたようにその未熟な聖拳を使わせることをやめさせようと画策している。生命エナルギーがガス欠になるということは、つまり命の燃料が無くなること。生命の意地に支障をきたし、最悪死に至るのだ。


「トッシュ、貴方に聖拳は使えない。その欠点には自分でも気づいているはずよ。そして改善ができないことも」

「だから何だ!魔界の言葉には馬鹿とハサミは使いようってのがあるんだよ!」

「じゃあそのハンパな聖拳の使い方を見せて…トッシュ!後ろ!」


 ジャスティスが急にトッシュの危機を伝える。すかさず後方へ目を向けると、すでに目前にまで危機が迫っていた。


「ピクシー!」


 今しがた意識を取り戻したピクシーは右手のコーンを回転させながらのパンチ、ドリルパンチをトッシュの頭に今ぶち込まんとしていた。前方のジャスティスに意識を注力させていたがために周囲への注意力が30,000程度まで低下していたトッシュはジャスティスに言われるまで気付けなかった。


「もらった!」


 ピクシーのドリルパンチがトッシュの顔面を捉えた…かに思えたが、ギリギリのところでトッシュは躱す。そのドリルはトッシュの頬の真皮1枚を切るのみであった。そのままピクシーの腕を掴む。


「なに!?」

「ぶっ飛べ!」


 そのままピクシーをジャスティスへぶん投げる。いかに強かろうとジャスティスの肉体は10歳程度の女児である。根本的に筋肉量は成人男性に比べ少ない。ジャスティスは聖拳の闘気によりカバーしているためそうは見えないが。まぁスクラムハルバード・ブリガンディフォームで武装した成人男性ピクシーにつぶされればそう簡単に抜け出すことはできないだろう、と考えてのことだ。


 ピクシーは聖拳でピクシーを殴り、払いのける。ぐぇぇ~と断末魔を上げ、意識をまたも失ったピクシーの背後から、トッシュが迫ってきた。その右腕に迸るエネルギー、一回しか使えないブライトパンチをピクシーで目隠しすることで確実に当てに来たのだろう。


「甘いわよトッシュ!」


 またもさきほどのようにジャスティスの左の聖拳から物質化した光の闘気が、トッシュの右聖拳を覆う様に包む。これにはトッシュも予想外。聖拳の爆発エネルギーならば、いかにジャスティスであろうと無傷では済まないと判断し、特攻気味に聖剣をぶっこんだわけだが、やはり相手は勇者ジャスティス。自らの闘気でトッシュの聖拳を覆うことで、聖拳の破裂を遮ったのだ。まさかここまでジャスティスの闘気が強いとは…。


「これをパクって正解だったぜ」


 トッシュの左手に持たれている剣が、ジャスティスへと突きこまれる!


「な!?」


 その剣はピクシーのスクラムハルバード・ブリガンディフォームの後腰に隠されたシークレットソード。ジャスティスはすぐに右の聖拳でトッシュの剣を防ぐが、トッシュはすでに次の攻撃へと移行していた。


「きゃ!」


 トッシュの足払い。それにより両足を掬われたジャスティスはその場に仰向けに倒れ込む。そのままジャスティスの目前でトッシュは追撃のヒザを止めた。


「…なんで止めるのかしら?」


 トッシュはジャスティスと密着した状態である。今なら小声で回りに聞かれずに会話が可能だ。


「ジャスティス…俺実は魔王軍抜けてないんだよ。カーチャンと同じ職場ってのは嫌だからやめてくれよ…」

「それを…真に受けろ、と?」


 まぁ当然の反応だろう。トッシュが魔王軍を抜けていても、ジャスティスが魔王軍に入らなければ確認する術などないのだ。でまかせでジャスティスの魔王軍参入を防ごうと思われていても致し方ない。今日ここに来ていて良かったとトッシュは安堵した。


「フォーゲルに確認するといい」

「…わかったよ」


 トッシュがジャスティスの腕を引っ張って立ち上がる手伝いをする。その姿を見て決着がついたと周囲は判断した。


「しかしこれどっちが勝ったことになるんさね?」

「さて、どうでしょうね。フォーゲルさんは戦いに来たのが主目的じゃないようですしどっちでもいいのでしょう?」

「あぁ、そうだ。さて、本当の目的と行こうかゼファー」

「んー、呼ばずとももうここに来てるみたいだね」


 ゼファーの視線の先に皆が目をやる。


「いい勝負だった、さすがは王国の英雄たちだ」


 アルとアカネを連れて現れたその男、トッシュは見覚えが無いが、彼は王都を攻め落としたトッシュをよく知っている。彼は王国貴族フィリップ伯爵。またの名を保健委員フィリップ。王国の暗部委員会の末席にいた男である。

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