第21話 『港都 マリン』
結局、ザラタン討伐の報酬は微妙なものになった。
というのも、記録器から吐き出された討伐結果には新種の扱いで討伐されたことになっていたが、復活済みという表記もついており、依頼の達成は未遂扱いになってしまったからだ。
それでも、ネクスタ支部の査問委員会に事情の説明を求められたときに、討伐した後復活したザラタンを光が契約を結んで使役したことにして、コントロール下においたと嘘をついて説明した。
そして、俺たちの討伐後、数回にわたって調査隊が派遣されて俺たちの発言の真偽を確認しに行ったが、調査隊は全員無事で、しかもザラタンも約束通りモンスターをおびき寄せ食らっていたので、平野のモンスター一掃の依頼達成として報酬を貰った。
その報酬はいつもに比べて多かったには多かったが、怪物を討伐したにしては味気ない額だった。
特に家を買い換えようとしていたブルータスなんかは文句垂れ流しだったが、金の代わりに名誉というか、知名度は爆上がりした。
なにせレンコンと力雅が支援協会に来る冒険者達に誰彼かまわず自慢をし続け、俺たちがザラタンを討伐した姿を見ていた40人くらいの冒険者も一緒にすごいすごいと褒め称えるものだから、たちまち有名になってしまったのだ。
しかも、異色の「マンターノ兄妹」と高級貴族の子供のパーティー「高貴なる光」、そして1週間前にデーモンロードを討伐した有名なルーキー「フレイムズ」の3パーティーで討伐した、というのも噂を加速させることになったのだろう。
ついにレンコンの待ち望んだ王都からの征討軍への勧誘が来た。
この勧誘、一定以上の功績を上げたパーティーには必ず来るらしいが、大体は冒険者を継続するという。
もちろん、俺たちとブルータスたちも冒険者を続けることにしていたが、高貴なる光はもともと征討軍に入るために名を上げる事が冒険者になった理由だったのだ。
だから勧誘が来て断るわけもなく、高貴なる光は王都に向かうことにした。
高貴なる光が王都へと旅立つ日、俺たちは依頼を受けてネクスタの南にある「港都 マリン」に行くことになっていた。
なので、城で依頼の受注を行っていた俺たちは冒険者登録の凍結手続きを行っていた高貴なる光とバッタリと会うことになってしまった。
レンコンたちは俺たちを見るなりズンズンと近づいてきて、モモなんかタックルをかますように俺に飛びついてくる。
急な飛びつきに息を詰まらせたが、女の子に飛びつかれる多幸感と、後ろにいる光がどんな顔をしているのかが分からない恐怖感を味わいながら、モモをそっと手で押し返す。
「ハルヒロ君、そんなに冷たくしないでよ~・・・。アタシ達、もうしばらく会えないかもしれないんだよ・・・?」
「あー、うん、そうだな・・・。残念だと、思うわ。」
「ね!?残念よね!?なら、一緒に王都に行っちゃおうよ!ノブヒロ君がアタシのパートナーになればいいじゃない!」
「えー・・・、それは・・・。ほら、それにあっちに行ったらバラバラになるかもだろ?」
「いいえ!そんなことないわよ!」
そう言ってモモは強く否定してきたが、征討軍に入隊するなら一緒になる以前にみんなバラバラになるものだと思ていたのだが違うものなのだろうか。
すると、俺の疑問を察したのかレンコンが答える。
「僕たちはね、新設される部隊に入ろうと思っているのさ。」
「新しい部隊?」
「そうさ。その新部隊は征討軍の本隊とは違って、4人1チーム単位で行動をさせるらしい。もちろん、本隊と行動をともにすることはあるようだけど、基本的には少数精鋭で敵地に忍び込んだり、奇襲をかけたりするんだ!」
レンコンは話しながら徐々に興奮していくが、それは俺たちの世界で言う特殊部隊というやつだろうか。
林も同じことを思ったのかソロリとつぶやく。
「それ・・・特殊部隊。」
「ん?リンさん、なんだねその特殊部隊というのは?」
「・・・なんでもないから、話しかけないで。」
俺がモモの攻めに参っているように、林もいい加減レンコンのしつこさには嫌気が差したらしく、最近はずっとこうやって棘のある言葉で刺し返している。
しかし、レンコンはたくましいもので言われ続けるたびに耐性をつけ、逆にガンガン攻めるようになってしまった。
「そんなことを言わずに!モーリスとは違うが、僕もリンさんと離れるのはさみしいんだよ・・・!」
「私たち、そんなに長い付き合いじゃ、ない。」
「そうだが・・・!」
とレンコンが何かを言いかけたところで、支援協会職員がレンコンに手続きが了解したところを伝えに来て、王都から来た派遣官の元に行くように指示された。
俺たちの方も力雅が依頼の手続きを終えて来たので、俺たちと高貴なる光はここで別れることになった。
光と幹夫もイライラしていたのか、モモとレンコンを俺たちから引きはがし、シッシと追いやる。
レンコンたちは名残惜しそうにしながら、手を振って大声で叫んだ。
「・・・、仕方ない!リンさん!そしてフレイムズ諸君!また、いずれ会える日が来たら会おう!余裕があれば、僕たちが君たちを招待しよう!だから、それまで死ぬなよ、ルーキー!」
「ノブヒロ君~!アタシのこと、絶対忘れないで会いに来て!ね!」
そう言って、モヤシとニンジンちゃんも頭を下げて、広場で待つ派遣官の元に歩いて行った。
俺たちも苦笑いしながら手を振り返して城を出て、南西門に向かった。
あいつらならきっと征討軍でも活躍出来る事だろう。
言ってたように、また、たまに会うくらいならいいかもしれない。
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俺たちは装備を一新した。
何故ならいつまでもオリジナで買った装備だと気も締まらないし、ザラタンとの戦いでみんなの装備にはガタがきていたからだ。
なので、このネクスタに来て以来お世話になっているドワーフのガレオのおっさんの所で、オーダーメイドで作ってもらうことにした。
オーダーメイドの値段は質によって幅はあるものの、最低でも金貨10枚~、つまり100万円からなので手を出しにくかったが、今までの報酬とザラタン討伐の報酬を合わせると余裕があったので思い切って作ることにした。
ちなみに、ガレオのおっさんは腕がいいのに安価で修理や製造を行ってくれるがあまり有名ではない隠れた名店、つまりここはブルータスに教えて貰った穴場の店ということだ。
今回はガレオのおっさんの勧めで、魔法機構搭載の装備を作成してもらうことにした。
なんでも魔法機構を組み込むと魔法の燃費がよくなったり、仕込み刀や機能切り替えなどの細かいギミックが使用出来るようになるという。
一応完成までは1週間かかるらしいので、採寸とある程度の要望を言っておいてその完成を待つことになった。
ただ、待つだけで何もしないのは時間の無駄!ということで、今回の港都マリンでの出張依頼を受けることにしたのだ。
この依頼が終わるころには装備が完成しているはずなので、今回の依頼が俺たちの今使っている武器の引退試合となる。
俺としては、この片手だけで数キロはありそうな鋼鉄のボクサーグローブを外せるというだけで、こんなに嬉しい事はないのだが、みんなはどうやら愛着があったらしく、別れを惜しんでいるようだ。
特に力雅なんかマリンへ向かう途中、刃をずっと触って眺めてるし、晴花も杖を大切に抱いて持ち歩いている。
しかし、武器は武器。
途中の道で湧いたモンスターを殺すために武器を使うことにためらいはない。
というか、むしろ引退ということで張り切っているのか使い方が激しすぎてオーバーキル気味になっている。
出てくる巨大イモリや水を口から吐くゴブリンの亜種、ウォーターゴブリンなどを跡形もなく吹き飛ばし斬りつけ、破裂させる。
港都マリンはその名に相応しく海に面した港町となっているので、マリンに近付けば近付くほど海にも近くなっていく。
そのせいで出て来るモンスターは属性が水に偏っていたり、水魔法を使ったりする。
そのモンスターの使う水属性の攻撃は、火炎主体の俺たちフレイムズには相性が別段いいものではなかったが、俺たちの成長は著しく、こっちの攻撃の威力が高すぎてモンスターの攻撃やそれ自体も蒸発していく。
こう、仲間が優勢で戦っているのを見ていると、1か月半くらいでここまで強くなれたのにしみじみと感動する。
そして、時折元の世界のことも思い出すが、そういえばいつくらいに戻ろうか。
時間は止まっているから、正直なところここで数十年過ごしても問題はないのだが、いずれ帰るならあまりこの世界に長居しすぎない方がいい気もする。
この世界に慣れすぎてあっちの世界を忘れてしまったら危ういし。
そんなことを考えながら小高い丘の前を歩いていると、ほのかに磯の匂いが風に乗せられて運ばれてくる。
海が近くにある証拠だ。
ここまで時間で言えば6時間ほど歩いた。
距離で言えばオリジナまでより近いはずだが、それでも遠いものは遠かった。
しかし、海が近いというのはマリンも近い。
俺たちは丘を越え、キラキラと光る大海を目に映らせた。
なんと綺麗な海なんだ。
そして、これまた見たことのない生物が海で跳ねまわっているようで、なかなか面白い。
また、その海の前には大きな港町が広がっていた。
あれが港都マリンだ。
マリアさんの話によると、港都マリン、王都ギブア、南都ネウア、のように都がついていて三文字の街が王族管轄の街らしい。
つまりマリンも王族の街だ。
マリンは港町として活用されているだけでなく、軍港としても利用されている。
10年ほど前から魔王軍の海上侵略も始まったため、年々その武装は強化されていて、ここからは見えないが海を進んだところに王族の「海上要塞 フロイトネス」というものもあるらしい。
ちなみに今回の依頼もその魔王軍の侵攻に関するもので、魔王軍の使役するクラーケンという巨大な魔物が海に召喚されたときに小さな海魔が大量発生したようで、その海魔が海の生物を食べて生態系を崩しているのでその討伐を依頼された。
どうやらマリンは一応王族の支配下ということにあってか、冒険者支援協会の支部は置かれていなく、冒険者の数もそこまで多くない。
そのため、よくネクスタに依頼が飛んでくるようだ。
征討軍も駐在しているが、海上の魔王軍との戦闘と港の防衛に力を回していて、こういう細かい要望には応えてくれないため、住民からの評判は悪い。
むしろ、こうやって呼び寄せた冒険者の方が好意的に接して貰えるし歓迎も受ける。
中には、婿探しに掴まって、出来た家族のために無償で冒険者職業をやっている冒険者もいるようだ。
俺たちはマリンの入り口の衛兵に要件を言い伝え、街の中に入っていった。




