第20話 『続く道の番人』
息絶えた怪物亀の腹から出ようとした俺とブルータスは、怪物亀の下に謎の大穴を見つけた。
この大穴は底が見えない程深く、長く続いていた。
もしかしたら、この亀はここを通って来たから、突如現れたように見えたのだろうか。
しかし、この亀が、まるで大穴を守るかのようにその場から動かなかった理由は、こいつが死んだ今は分からない。
俺たちは山の麓に集まって、首を地面に下ろして頭を垂れた亀の死骸を改めて確認する。
ちなみに動いていた骨は、魔力の主である怪物亀が死んだことによりその形を崩壊させ、バラバラに分解されていた。
流石山の一部だっただけあって、とてつもないデカさだ。
その死体からは、まださっきまで放出していた魔力の残滓が漂っていて、こうして近寄るだけでビリビリと魔力の大きさを感じる。
こんな化け物を倒せたことが、奇跡のようだ。
しかも周りの草原は亀の火炎でかなり焼失してしまったが、死者は無く、大きな怪我人もいない。
唯一の損害はモヤシの消耗が激しすぎて帰りは男連中で支えて帰らなければいけないことくらいか。
俺たちは亀が死んだことを確認したところで口々に称え合い喜び合った。
レンコンはこの功績を持って高貴なる光の4人と王都に行くと言い、また、ブルータスとマチも報奨金で借家を引っ越すことにするらしい。
報奨金、一体どれほど出るのだろうか。
このビッグサイズの怪物だ。
きっと桁違いの報酬が支払われることだろう。
しばらく、その場で話し合いながら休んでいると、他の冒険者たちが様子を見に来た。
そこには先ほど平原でモンスターを狩っていた冒険者たちが多くいて、どうやら戦闘音の激しさと強大な魔力に気付き来たらしい。
40人くらいの冒険者があんぐりと口を開けて俺たちと亀の死骸を見比べている。
「あの変人3パーティーが例の怪物を倒したのか・・・?」
と言ったところだろうか。
しかし、こいつを倒した以上、例え変人であっても相当に実力があることは証明できたはずだ。
唖然とした冒険者たちを見て、レンコンは嬉々として冒険者たちを呼び寄せ、演説をし始めようとした。
その瞬間。
ブオオオオオオオオオオオン・・・!!!!
という音と共に、亀の目が赤く光をともして生き返った。
「んな!?再生能力!?」
俺たちが亀の方向を振り向いた時には、野次馬冒険者たちは一気に走って逃走していた。
勝てる相手には一気に突撃する、勝てない相手には即逃走、という冒険者のセオリーがバッチリ叩き込まれていて、なんとも潔い逃走だ。
が、ちょっと薄情じゃないか・・・?
「これ以上は俺たちも戦えねぇぞ!!逃げるぞマチ!ほら、お前らも!」
そう言ってブルータスも逃走を促す。
だが、怪物亀は目を光らせて、呼吸をし始めただけで動かない。
見れば俺たちの突き破った腹のところが淡く輝いていて、他にも削った手足の再生が少しずつ始まっている。
「もしかして・・・?」
力雅がそう呟き亀の目玉を剣で突きさす。
〔ぐううううおおおおあああああ!!!や、やめろおおおおお!い、いや、やめてくれえええええ!!!〕
亀は悲鳴を上げて、目玉の所から滝のような涙を流し始めた。
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「おい、反省してんのかコラ。」
〔本当にすまなか、いや、すみませんでした・・・。〕
亀はしゅんとしてそう謝る。
つい1時間ほど前に戦った時の傲慢な態度は消え失せ、俺たちにとても従順になっている。
というのも再生で動けないのを良いことに目玉を攻撃し続けたら謝り始め、ついには何でも言うこと聞くから許してくれ!と言ってきたのだ。
亀の再生は非常に遅く、魔力や体力の全てを体の回復に回しているため、この状態から動くことが出来ないらしい。
特に俺とブルータスでぐちゃぐちゃにした内臓のあたりの再生は何十年かかるか分からない、と涙声で亀は言う。
亀は低く鳴り響く声で俺たちに語り掛ける。
〔ワシの名前は、ザラタンという。つい100年ほど前にこの地に上り出た。〕
「上り出た?」
〔そうだ。ワシは、ワシの腹の下にある穴よりこの地に渡ってきたのだ。〕
「なんでわざわざ穴を開けてまでここに来たんだ?何か目的があったんだろ?別に街を襲ってたわけでもないし、ずっとその穴の上に居続けた理由はなんだ?」
まくしたてるような俺の質問にザラタンはゆっくりと答える。
〔この穴はワシが開けたものではないのだ。ある日、突如として開通してしまった。そして、この穴は魔王の住む地へと繋がっているのだ。〕
「魔王の・・・!?それってまずいんじゃ・・・!!」
「この穴から、魔王軍が着ちゃうってことですか・・・?」
幹夫が青ざめた顔で呟き、マチちゃんも不安そうに尋ねる。
だが、ザラタン曰くその心配は無いという。
〔それを防ぐためにワシがこの地にいるのだ。ワシの目的を聞いておったなノブヒロとやら。ワシの目的はこの地を塞ぎ、魔王の進撃を止める事、そしてヒトが無暗に立ち寄らないようにするためだ。〕
「ザラタンさんは、人を守るために、いたってこと・・・?」
〔ううむ、結果としてそのようになった。君達の地を、守ることにな。〕
「なら、何故君は冒険者や征討軍の兵士を食べたというのだね?君が大人しくしていれば、被害者は出ることは無かったというのに・・・!」
レンコンは憤りながらザラタンに詰め寄って目玉にレイピアを突き付けながらそう聞いた。
動けないザラタンも焦りながら一生懸命弁解を始める。
〔落ち着き給え、高貴な青年よ。ワシは、何も望んでヒトを食ったわけではない。そんなことを進んですれば、我が主にひどく仕打ちを受ける事だろう。ワシはただ、住み着いた動物を食すために口を開いていただけだ。そこにヒトが入って来ても違いが分からん。〕
「だけど、お前は俺が剣を突き刺したら滅茶苦茶キレて殺すとか言ってきたじゃねーかよ。」
〔むうぅ、あれは失礼した。突然の攻撃に逆上してしまい、我を忘れたのだ。だから、君達がこうやって生きていてくれているのは、とてもありがたいことだ。主の命に背かずに済んだ。〕
言ってることは滅茶苦茶だが、話を聞く限り本当に人間に害意はなかったのだろう。
一度死にかけることで落ち着いたザラタンの目も赤黒い光を薄め、穏やかになっているようだ。
そこで、話の中で疑問が残る。
「あー、俺とノブヒロで腹ん中ぐちゃぐちゃにしちまったのは悪かったが、自業自得っていうのもあるってのは理解してくれ。」
〔ああ・・・、次からはちゃんとヒトは食わないように気を付ける・・・。〕
「なら、いい。んで、さっき気になったんだが、アンタの主ってのは誰なんだ?ここの場所を守れって命じたやつがいるんだろ?」
レンコンを落ち着かせたブルータスがそう問う。
そう、それだ。
さっきから話に出て来る主とはなんなのだろうか。
こんな年食った強力な怪物に命令できるやつなんて、そう簡単にいるものではない。
すると、ザラタンは少し言いよどんだ後、決意したように答える。
〔本当は話さないことなのだが、言うことを聞くと言った以上、答えよう。ただし、他の者には話さないでもらいたい。〕
「あぁ、約束する。」
〔・・・。〕
〔・・・巨人族だ。〕
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俺たちはネクスタへの道を戻っていた。
全員一様に難しそうな顔をして。
ザラタンとひとしきり話した後、ザラタンは非常時の俺たちへの協力を約束し、元の山の形に戻り回復を待つことになった。
また、魔力で周囲に溢れたモンスターを呼び寄せ、それのみを食べる事も約束した。
これで、しばらくすればモンスターに塞がれていた南都への道も開くことだろう。
それはいい。
とてもいいことだ。
だが、それ以上に問題が残っていた。
ザラタンの主、巨人族についてだ。
彼らは良く分からない、実在するかも確かじゃなかった存在で、魔王とヒトの双方に恐れられている太古の生き物であったはずだった。
だが、彼らは確かに存在していて、魔王領に空いた大穴を占拠し、この地に空いた大穴を大亀で塞いだ。
その目的は魔王軍がヒトの地へ流れ込むことの阻止であったから良かったものの、まだヒトの味方になっているわけではない。
なんなら、ヒトに襲い掛かっても不思議ではないのだ。
あんな怪物亀を使役するような種族が。
そう考えると不安が溢れて来るもの無理はない。
しかし、この案件は簡単に話すことが出来ることではない。
もし、これを伝えたとしたら、間違いなくヒトはザラタンを殺して魔王領になだれ込むことだろう。
その時、自分達がヒトのために使役したザラタンが殺されて巨人族が黙っているのだろうか。
・・・分からない。
はっきりと言えることは、今はこのことは俺たちだけの秘密にすることだ。
状況によって、これを話す時が来るかもしれないが、俺たちはそう決めて街の門をくぐった。
この秘密が高貴なる光、マンターノ兄妹、そしてフレイムズを、深く、深く、結びつけることになった。




