第19話 『グンドウ山の怪物③』
「うわあああああああああああ!!!!!」
「リキガあああああ!なにしてやがるうううう!!」
ブルータスは人一倍ぶっ飛びかけたマチを空中で捕まえながらそう叫ぶ。
俺たちは空を飛んでいた。
いや、正確に言えば空に吹っ飛ばされた。
高度で言えばどれくらいなのだろうか。
ずいぶん高いところにいる気がする。
フワフワ~とした鳥のような気分の後、重力を感じた頃には俺たちは落下を開始していた。
下にはさっきまで登っていたグンドウ山の麓が、横には一緒に吹っ飛んだ仲間が見える。
咄嗟に防御魔法を行使した林以外の女子は、思ってもいなかったところで強烈な魔力を含んだ突風にあおられたせいか気を失ってしまっていたようだ。
吹っ飛ばされた後、どんどん地面へと接近していく中、俺は拳撃鎚から火炎を放出させ、ジェット機の様に空中を移動して意識のない光と晴花を回収した。
しかし、落下は続き、さっきまで緑の塊に見えていた山の木々は、もうその姿をはっきりと視認できるくらいには地面に近付いている。
このままいけば全員地面に叩きつけられて肉の塊になることは間違いない。
けど、どうしたら・・・!
「おい!マチ!マチ!」
「んうぁ・・・?」
ブルータスが空中で懸命に妹のマチを気絶から回復させる。
マチはステータスで言えばこの3パーティーで一番高位の魔法使いだったので、一番回復も早い。
「あ、あれ?お兄ちゃん・・・?あれ!?なんで空、浮いて・・・!?」
「吹っ飛ばされたんだよ!マチ!んで!このままじゃ落ちるううう!頼む!ま、魔法使って助けてくれ!」
「わ、分かった!」
そう言ってマチちゃんは魔法使いの杖、そして指揮棒のようなものを取り出し空中で軽快に、そして素早く振る。
「風の精よ!優しく身を包む風の加護を、私たちに!土の精よ!大いなる地の温もりの手を、私たちに貸して!」
するとたちまち緑の光をまとった風が俺たちを包み込み落下の勢いが落ち、地面から生え出た巨大な土の手が俺たちを受け止める。
今まで晴花のぶっぱなし魔法ばかり見てきていたので、他の冒険者がこういうことをするととても感動する。
無事に地に足を着けたところで、光と晴花も目を覚ます、が、そういえば高貴なる光の奴らがいない。
俺たちは山から少しだけ離れた平野まで吹っ飛ばされたようだが、あいつらはまだあの山で怪物と・・・?
すると、
ゴゴゴゴゴゴ・・・!!!
という地響きとともに目の前にあった山が、岩山になる中腹から浮かび上がり山が大きく形を崩す。
そして、高貴なる光の4人もさっきの俺たちのように吹き飛ばされて、同じ場所へ転がってきた。
「ノ、ノッブーヒロ!あいつだ!怪物は洞窟の中にいたんじゃない!あの山自体が怪物だったんだ!」
レンコンはそう言うと、すぐに武器を構えるように指示してきた。
林は即座にプロテクトとブーストをパーティー全体にかけ、俺も陣形指示を出す。
陣形は大盾を持ったモヤシを先頭にした矢印型(↑)で、左に戦士のブルータスと剣士の力雅、右も同じ職業の並びで俺とレンコンと組み、その後ろに後援組が固まる。
山は本来の形に変形し終えたのか、山だった頃の土台部分の上に4本の足で立っている。
外見は亀に類似している。
ただし、その大きさは山の山頂部をまるまる切り取ったデカさ、背中に乗せた甲羅は岩山のように険しく、松のような木々も隙間から生えている。
俺たちがさっきまでいた洞窟は横に広がって牙が生えそろっており、そこから漏れる息はとても熱く、血なまぐさい。
恐らく、今までのこの怪物に殺されてきた冒険者や軍は、まんまと罠にはまり、食われていったのだろう。
俺たちも林がいなければ危うく同じ運命を辿るところだった。
陣形を組み終えスキルの発動準備を済ませた俺たちに、怪物亀が話しかけてきた。
〔愚か者どもよ。素直に食われれば良いものを、抵抗しあまつさえワシの口に鉄剣を突き立てるとは。身の程知らずめが・・・。苦痛に顔を歪ませ、ワシの一部と成り果てるがよい・・・。〕
腹に響くようなずっしりとした声。
そして血のように赤黒く目を光らせる怪物亀から溢れ出す魔力。
正直言って、腰を抜かした。
流石のレンコンでさえブルッと体を震わせ、レイピアをしきりに軽く握って持ち具合を確認している。
この怪物亀からすると、俺たちは目玉の黒目くらいのサイズなんだろう。
そんな桁違いの化け物が殺気とおぞましい魔力を溢れさせてるのだ。
直感的に勝てないと、そう感じるのは不自然なことではない。
固まった俺たちを無視して怪物亀は頭を地面に近づけ、周りの空気を猛烈に吸い込む。
なんか、やばくね!?
「防御態勢!!魔法職は魔法防壁を前面に展開しろ!シリウス!全面防御を頼むぞ!皆!シリウスの後ろに退避したまえっ!!」
レンコンが即断して指示を出す。
すると高貴なる光のメンバーは指示をすぐに実行し、マンターノ兄妹も行動に移している。
俺たちはワンテンポ遅れて行動をとってしまい、冒険者歴の浅さを実感する。
前に複雑な魔方陣が展開され、モヤシの後ろに隠れた瞬間に怪物亀の口から凶悪な火炎の息が吹きつけられる。
「な、何だこれっ!あっつ!!!」
瞬く間に火炎は魔方陣にぶち当たり、俺たちを囲むように燃やす。
モヤシは即座に大盾の魔法宝石を起動して、水属性スキルのアクアシールドで防ぐも、威力は減退できない。
周りの平野に生えていた草が焼け消え、土がえぐれていく。
しかし、こちらもこのまま燃やされるわけにはいかない。
晴花は杖を円を描くように大きく振って水魔法を使用し、マチも晴花に合わせて指揮棒を振り水の精を呼び出し行使する。
「アクアバースト!!!!フルパワーー!!」
「水の精よ!燃え盛る悪を消す水流を、この炎に!」
2つの巨大な水の奔流が混ざって火炎と衝突し、激しい水蒸気を発生させる。
更に、林がスペルエンハスで魔法を強化して怪物亀から吐き出る火炎の吐息を完全に消し飛ばし、ニンジンちゃんの風魔法が発生した水蒸気を衝撃波のように拡散させ、平野に燃え移った火を消す。
怪物亀にこんな威力の火炎の2発目を撃たせるわけにはいかない。
火炎が止んだ途端に光とモモが魔法矢を撃ち放ち、後援組が魔法を立て続けに放つ。
だが、岩山の甲羅はとても硬く、岩が削れても亀にダメージが入っているようには見えない。
しかし、怪物亀も火炎の吐息が掻き消され、しかも即反撃を受けるとは考えてもいなかったようだ。
一瞬驚いたように目を光らせると、口からボロボロと骨がこぼれ落ちてきた。
恐らく今まで怪物亀が食った生き物たちの亡骸であろうその骨は、動物や人の形を形成し始め、なんと形作った奴らから一斉に突撃してきた。
一体何体いるのか検討もつかないほどの動く白骨は、鋭い爪や牙で襲い掛かってくる。
1体1体は破壊に手間取ることはないが、こうも数が多いと押し負けそうになる。
しかし、そこは雑魚に引けを取るレンコンじゃない。
レンコンは率先して前に出て、そのレイピアの刃を極限まで伸ばし、魔力をのせて振り回し大量の骨を切断する。
そして、動く骨の間を縫うように、その間合いから刃の切っ先を飛翔剣と似たスキルで連続して突き出し、怪物亀の甲羅から出る手足をえぐるように突く。
力雅もレンコンに並んで飛翔剣を放ちつつ、周りの骨を叩き折る。
流石に生身の部分は痛いのか、怪物亀は不快そうなうめきのようなものを上げ、首を揺らす。
しかし、その場から動くことは無い。
怪物亀は口から次々と動く骨を出すが、骨を叩き折りながら俺たちは前進して、魔法によって甲羅以外の部位に攻撃を当てていく。
亀も少しはダメージを感じているようだが何故か不動の姿勢で動かない。
いや、もしかして、動けないのか?
思えば先ほどから俺たちに近付こうともせず、自分から遠ざけるように雑魚を大量発生させ、火炎を吐く。
だとすれば接近してタコ殴りにしたら潰せるかもしれない。
そう思い、骨を薙ぎ払うブルータスに戦士特攻の提案をしようとしたら、亀が前と同じように火炎の吐息を吹きかける。
先ほどと違って準備が無かったせいか威力は落ちていたが、こっちの魔力も万全ではなくなっている。
モヤシを盾に、同じように防ぎ、火を打ち消すがさっきよりも後衛組の疲労の色は濃い。
しかも、亀は魔力が無尽蔵なのか火炎の吐息を連発し、合間に骨の兵を大量発生させる。
次第にモヤシも膝が震え出し、顔には大量の汗が滲んでいる。
当然だ。
モヤシは魔法防壁を破った火炎の吐息をガードし、終わったら後衛組を守るためにランスで突き、盾で弾き、敵を粉砕し続けているのだ。
そのため、どう見ても限界は近く、あと2、3発でも火炎の吐息を受ければ、恐らくぶっ倒れる。
晴花たちも徐々に息が切れ始めている。
にも関わらず亀の攻撃ペースと骨の生産ペースはどんどんと早くなっていく。
こいつは一体何百体の動物を食ったというのか。
やはり、ブルータスと俺で特攻をしかけて、早期に決着をつけるしかない。
それに、少しいいアイディアが思いついた。
俺は地面をアッパーするように殴りつけ、破砕した地面を弾丸のように飛ばしながらブルータスに声をかける。
「ブルータス!!聞こえるか!?」
「なんだ!ノブヒロ!」
「このままじゃどう考えてもじり貧だ!だから、俺とお前で特攻をかけて、あの化け物を仕留める!」
「って言ってもよっと!」
ブルータスは俺に応じながら骨を掴んでちぎっては投げる。
「あいつはハレカの魔法も大して通じないんだぞ!俺たちで合わせてもたぶん!殺せない!」
「いや、そこに関しては案がある!!俺に付いてきてくれれば!絶対に成功する!と、思う!」
「マジかよ!じゃあやろうぜノブヒロ!俺たち戦士の真骨頂を見せてやろうじゃねーか!」
そう言った直後また、火炎の吐息が俺たちを襲う。
同じ要領でモヤシが防ぎ、晴花たちが炎を打ち消す中、モヤシに耳打ちをするとコクリと頷いた。
そして、炎が消えた直後、俺は大声で指示を出す。
「光!モモ!あの亀の目ん玉に火炎矢を山なりに放ってくれ!」
「え!?あ、わ、分かった!」
「うん!ノブヒロ君のために一肌脱いじゃうね!」
そういって2人は弓を斜めに傾けながら引き絞り、何本もの火炎をまとった矢を山なりに届くように亀の目玉に向けて何本も射る。
この矢は非常に硬い亀に突き刺さることは無い。
なら、使い方を変えればいい。
矢が怪物亀の目に届く前に今度は魔法職の後衛に指示を出す。
「晴花!マチちゃん!ニンジンちゃん!矢に雷撃魔法を!晴花はサンダーミックスファイアーを当てろ!」
そう言うや否や、火炎をまとった山なりの矢に3人の魔法がぶつかり合い激しい火花と光を散らす。
ここまで来たら、ファンタジー小説を網羅している林には察して貰えたらしい。
その激しい魔法のぶつかり合いにさらに林の強化魔法がぶち当たり、一か所に集中した魔法の暴走が始まる。
そして、怪物亀の目前で激しい閃光を発して大爆発した。
怪物亀は一時的に視界を奪われて混乱したのだろう、骨を吐くのが一時的に止まった。
それを合図に、モヤシを先頭にして幹夫、レンコン、力雅、俺とブルータスが続く。
レンコンがレイピアを突き出し前方の動く骨どもを一掃し、モヤシが盾とランスを突き出して猛突進を始めた。
モヤシの後ろに着く幹夫は影縫いの魔法を使い、周りの骨が寄らないように動きを止めていく。
怪物亀が視界を取り戻した頃には俺たちは山の麓まで辿り着いていた。
すると焦ったのか、怪物亀はその場で動かずに、背中の甲羅の岩山に生えた植物を魔法でしならせ鞭のように俺たちに叩きつけ、岩を剥がし取って投げて来る。
やはり動かないなら、近付いた敵にはこういう手を使ってきた。
さっきから遠距離攻撃は火炎の吐息だけだったし、実は不器用なのかもしれない。
完全に敵の攻撃頼みだったが、功を奏した。
迫りくる植物と岩を避けながら俺は叫ぶ。
「ブルータス!こいつを登るぞ!」
「はあ!?何言ってんだノブヒロ!どうやって・・・!」
「こうするんだよっ!!モヤシ、頼む!」
そう言った俺に頷いて、モヤシは大盾を両手に持ち足場を作った。
そして、その上にジャンプするように両脚で跳び乗った俺を大きく吹っ飛ばした。
「うおおおおあああ!!!あああああ力雅ああああ!!!レンコンんんん!木と岩を何とかしてくれえええええええ!!!!」
「なっ!?なんて無茶な!しかも、僕をっ、下っ端のようにっ!!扱うとはね!!!マシンガンレイピア!!」
「信浩!無理すんなよおおおおらああぁあぁ飛翔剣乱舞ううううう!!!!」
「・・・ブルータス君も続いてください・・・!」
「うお・・・!モヤシが喋った!?いや、いいぞ!!いったるわあああ!!!」
そしてブルータスも同じように吹っ飛び俺たちは先ほどの大きな洞窟、今は骨を吐き出しながら火炎を漏らすその口に突っ込んだ。
火炎を吐きだす前に思いっきりその壁面を殴りつける。
すると
〔ぐおおおおお!!!!????何をするこの愚か者があぁ!!〕
と悲鳴を上げながら、怪物亀の動きが鈍る。
俺とブルータスは顔をニヤッと見合わせて、壁面を片っ端から殴りながらどんどん下の方に下っていく。
〔ぐうぅあああ!!や、やめろおぉおお!!ブチ!!!殺して!!!ぐあああああ!!!〕
「ほら、ここか?それともここか?」
「いや、ノブヒロ、このぶるぶる震えてるうるせえ肉の塊だろ。」
ガンっ、ゴンっ、ドゴっ
鈍い音を立てながら俺たちは殴るのを止めない。
〔ぐああああああああああ!!!!がああがあああ!!!〕
そして突き破るように内臓をズタズタに引き裂いた所で、怪物亀はその生命活動を止めた。




