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色惑う 黒の戦士  作者: watausagi
一章 金の国編 マリーゴールド 「別れた哀しみ」は、膨れ、蕾となり、「絶望」の花を咲かしーーやがて枯れた
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土色に隠れる革命土

◇◇◇◇◇


 見事、グレイを打ち負かした俺は、改めてこう思う。


 ーーああ、俺は天才だ。


 まあそんなの今更というものだが。自分を褒める行為は大切だからな。そこは惜しまない!


 さて……



 問題はこのベッドである。


 フカフカだ。明らかに地球で俺が使っていたベッドよりは価値のある代物だ。


 大きさもでかい。つまり、重い。


 別に運んでやってもいいのだが、そんな肉体労働はウサギ専門だろう。俺は奴とは違う。頭を使うのだ。流石天才だ。



 本音を言ってしまえば、アースンが責任を持って元の場所に戻せよと言いたいところなのだが、女性に力仕事を押しつけるのも趣味ではない。


 ならば正真正銘の男であるグレイに命令しようとしたが、奴は薄情だ。薄っぺらい男だ。既に何処かへ行ってしまっている。



 ……ふうむ。


 何かを模倣するか? 体は筋肉で出来ているプッツェンバーガーがいてくれたのならば、3ヶ月前に俺が奴を投げ飛ばした時と同様、力をそっくりそのまま模倣して話が早いものの……生憎とプッツェンバーガーはいない。使えない奴だ。



「……仕方がない。地味に地道に、この俺が運ぶとしよう」



 この世界には魔法がある。


 火、水、土、風、光、闇を生み出す 属性魔法に。

 戦士を召喚したり、儀式に使った球のような、原理は不明だが道具を介して発動させる 儀式魔法。

 後は陣を書き込んで発動させる陣魔法だ。まあ魔法陣だ。多大な知識を必要とするので、使い手はそういない。


 

 ーー俺は属性魔法、水の応用として氷を生み出す。自分の中の魔力が放出されて、空気中の魔素と結合し、現象は生まれる。


 床に氷を張れたのなら、後はベッドに乗り込み、風を後ろに放出させて出来上がり。氷によってスイスイと滑るベッドを操作すれば、こんなに楽なものはない。


 途中、すれ違う見張りの兵に驚かれるが、気にしないでいいだろう。床の氷も、魔素との結合が無くなりすぐに消えるのだから。



 時速が五十を超えたところで楽しくなり、アクロバティックな動きを追加した。



 いつの間にか、アースンが後ろにいた。



「……何してるんだ?」

「え? ……うぇぇ!? す、凄いですコレ! 楽しい楽しい!」



 どうやら反射的に乗り込んだらしい。本能で生きている人間だ。


 今更はしゃぎだすアースンは、そこで、何かに驚くように前を指さした。


 

「階段階段!」



 む、第一関門か。


 前方に螺旋階段。距離は20。


 推進力を上げて、スピードをアップ。アースンが笑い声と奇声を足したような声を上げた。絶叫マシンじゃないんだぜ。


 それでもベッドは止まらない。坂に動きを止められることもなく、螺旋状に上を上をいく。


 二階、三階、四階……



「六階ですからねー!」

「了解した」


 氷の向きを変えて、更に移動。曲がる際にアースンが放り出されそうになったので側に引き寄せた。「自慢できる!」と喜んでいた。何よりである。


 やがて見慣れた光景。ベッドのスピードを落として、ある扉の前で止まる。


 着いた。


 俺の部屋だ。



「なんだ、カレハナはまだ帰って来ていないのか」



 部屋に入り、ベッドを戻して周りを見渡す。アースンがさっきの余韻を楽しんでいるのか、プハーと体を伸ばしながら答えた。



「まだお仕置き中ですねー」



 お仕置き……あそこまでカレハナが拒否反応を見せたお仕置き。


 一度見てみたい。



「あ、そうだった」



 アースンがバツの悪そうな顔を浮かべて、俺の顔色を伺うように両手をせわしなく動かすと。


 コホン、と軽く咳払いをして言った。




「ちょっと、マズイ事が起こっちゃったみたいです。はい」



〜〜〜〜〜



 アースンに連れてこられて、城の外。沿うように流れる小川の近くには、見慣れない泡があった。


 草むらに漂う虹色のそれを、割る。


 飛び出すように音が発せられた。



 〝真っ直ぐ森に 1人で〟



「……ふむ」



 視線を森に移すと、「跡」があった。誰かが森に入ったような「跡」。


 水が散らされ、木の枝が折れて。


 すぐに分かった「跡」。



「まるで、気づいて欲しいみたいだな」

「だとしても無意識でしょうけどね」


 アースンはそう言って、所々に漂う泡を面白そうに割る。その様は無邪気そのもの。


 

「ーー話を纏めようか。つまりアースンは、落とし穴に落ちたウサギの様子を見にここへきて、ウサギがいない事に気づく。そして偶々泡を踏み、中から聞こえた音で何があったかを理解した……と」

「あははー、こんな事誰にも言えなくて。だって私の責任ですし。お仕置きくらいたくないですし。ここはちゃちゃっと、黒の戦士様にお願いしようかと」

「そうか」

「やってくれるんですね!?」


 期待の眼差しから顔を逸らし、森に目を向ける。


 月明かりを遮る森。その先は、闇が誘うように黒へと染めている。



「……ああ。ウサギの面倒は俺が見ないといけないからな。1人で行動するとは許し難い。ガツンと言って連れ戻してきてやる」

「やったー!」



 アースンは両手を挙げて喜びをあらわにした。……本当に、そこは無邪気そのものだ。無邪気……なのだが。



「一つ聞いていいか」

「ん?」


 安心したように城へ戻るアースンを呼び止めた。


 


「これは、どこまでが偶然なんだ?」




 偶々落とし穴の行方をここに指定して、偶々泡を割り、偶々ウサギの行動を理解する。


 少し、強引すぎだ。


 俺を訓練場へと落としたのも、まるでウサギと引き離したように思える。



 さて、そんなこんなで湧いた疑問だったのだが、アースンはいきなり懐に忍ばせていた剣を向けるーーわけでもなく、全てが計画通りだと言わんばかりに怪しく笑い出すーーわけでもなく。



 困ったように、頭を掻いた。



「あちゃー、気づいちゃったんですか、そこ。やっぱり、無理がありすぎたんですかね」

「俺ならもっと上手くやっていただろう」

「さっすが黒の戦士様です!」



 その言葉に、嘘は見えない。


「それで、私をどうするつもりです?」


 敵意の一つ混じらせず、ただ純粋に、今日の献立は何かと聞くような雰囲気に、俺も思わず脱力してしまう。



「別に、どうもしない。お前のおかげでカレハナは丸くなったらしい。それはとても感謝しているからな」

「ひゃおっ! 黒の戦士様はやっぱり、ハナッちが好きなんですか?」

「いや……俺にはサクヤがいる。浮気は絶対にしない」

「んん? じゃあ、2人ともいっぺんに結婚しちゃえばいいじゃないですか」

「一夫多妻か。興味ない。複数の女性に好意を向けるくらいならば、その全てを一人に向ける……って、話を逸らすな。おい何を笑ってる。おい」



 アースンはケタケタと笑っていた。何だこいつ、沈めてやるか。小川に。



「いや、ほんと、大丈夫。大丈夫。おかしくないおかしくない。サクッちは幸せ者になるなー、と思っただけです。ほんと」


 どうだか。


 

「まあいい。これは貸し一だぞ」

「黒の戦士様に借り、ですか。分かりました。忘れません。ずっと」

「……」


 

 かくして俺はウサギを求め森に入る。


 アリスが兎を追うなどと、どこぞの地下帝国に繋がってなければよいが。


 ふと、空を見上げる。



 黄色に光る月が輝いていた。



 ーー城のどこかで、黒猫が鳴いた気がした。

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