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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十二話「本質へと続く道標」

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おつかい

『はい、どちら様でしょうか?』


インターフォンに出たのは女性の声だった。おそらくは奥さんだと思われる。康太が対応する間に文は索敵を発動して家の中にだれがいるのか確認していた。


「こちらのお宅は須藤歩さんのお宅でお間違えありませんでしょうか?」


『はい・・・そうですが・・・』


「草野奏より、須藤歩さんあてにお渡しするものがありましてお届けに上がりました。歩さんは現在御在宅でしょうか?」


文はインターフォンのカメラに見えない位置から指で六という数字を作る。現在家の中には六人いるという合図である。


全員が身内とは考えられない。間違いなく警察の人間がいるのだろう。となればその中に奏の弟子である長谷部にも会えるかもわからない。


『えっと・・・では私の方でお預かりさせていただきますので・・・ポストに入れておいていただけますか・・・?』


「申し訳ありません、須藤歩さんに直接お渡しするようにと言付かっておりまして・・・もしご不在でしたら外出先を教えていただければありがたいのですが・・・会社の方にはいらっしゃらなかったようなのでこちらだと伺ったんですが・・・」


実際に嘘は何一つ言っていないために相手は困惑するだろう。おそらくは近くにいる警察の方から直接部外者を招き入れないようになどの指示が出ているはずである。


康太たちからすれば接触したいのは須藤歩でもあるが、長谷部にも会いたいのだ。さらに言えば娘である須藤香織の何かしらの私物があれば康太は追跡しやすくなる。車を使われていると追えるかどうかは運任せになってしまうが。


『・・・ぁ・・・わかりました・・・今主人がうかがいます』


おそらく直接会ってもいいという判断が出たのだろう。だがその瞬間康太たちに向けられる視線がかなり強くなる。


明らかに怪しまれているのだろう。当然かもしれない。こんな状況で直接会わなければいけないような人間が現れている時点で怪しさ満点だ。


康太たちが警察なら間違いなくマークする。


玄関の扉が開くと、その向こう側から少々肥満気味の男性が現れる。だが肥満体形だというのにその顔はなぜかやつれているように見えてしまっていた。目の下にある隈がそう見えさせているのだろう。


娘が誘拐されてから一睡もしていないのではないかと思えるほどの顔色だ。奏とは違う意味で疲れ切っているようである。


「えぇと・・・初めまして・・・かな?須藤歩です。草野さんからの届け物とのことだけれど・・・」


「初めまして、草野奏の使いとして参りました。お渡しするのはこちらです。この場で改めてください」


康太はそういって封筒を手渡す。須藤歩はいったい何だろうかと不思議そうな表情をした後でその中身を見て愕然とする。


先日まで奏と一緒に進めていたプロジェクトの計画書や見積もり、スケジュールなどが記載された書類の数々である。


そしてその中には小さな封筒に奏直筆の手紙も同封されていた。


「・・・あぁ・・・そうか・・・そうか・・・いやすまない・・・ありがとう。彼女にはかなり迷惑をかけているというのに・・・情けないやら申し訳ないやら・・・」


自分の娘が誘拐されるという完全な私事であるというにもかかわらず、奏は何よりも家族を優先する旨を伝えている。


さらに言えば、今回のことがなかったとしても別の形で協力できればいくらでも協力するという一文も付け加えられていた。


「ありがとう、届けてくれて助かった。でもなぜお使いに?郵送でもよかったんじゃないかな?」


「奏さん曰く気を遣うとおっしゃっていました・・・詳しくは知りませんが信頼できる人間に預けたいと・・・今はゴールデンウィークで社員がいないからその代わりだといっていましたけど・・・」


あくまで自分たちは書類を届けに来た一般人であり、今回の状況は全く知らされていないという体で動くつもりだった。


警察に余計ににらまれる必要はない。無関係を装ったほうが康太たちとしては動きやすいのである。


「そうか・・・ちなみに君たちは?彼女とはどんな関係なのかな?」


「親戚です。昔から頭が上がらなくて・・・あ、一応お届けのサインだけいただけますか?もらえないとまた怒られちゃう」


「あぁ、構わないよ。ここでいいかな?」


適当なメモ用紙にサインをもらうと、康太と文は同時に頭を下げる。すると玄関の扉が開き、一人の男性が現れた。


「そこの二人、ちょっといいかな?」


「え?はい・・・なんでしょうか?」


出てきた男性は無精ひげを生やし、ぼさぼさの髪の毛に着崩れたスーツを着た中年男性だった。須藤の家族かと思ったが、明らかにその物腰と目つきが鋭いことから、康太は警察の人間であると考えたが、事情を知らない風を装っている康太はあくまできょとんとした表情をする。


「せっかくここまで来てもらったんだ。少しお茶していかないかい?歩さんも、よろしいですね?」


「え・・・?あ、あぁ・・・はい」


おそらく須藤歩もこの展開はあらかじめ知らされていなかったのだろう、目を白黒させている。


これが刑事の勘なのか、それとも奏の弟子の長谷部の思惑なのかはわからなかったが、康太たちは須藤宅に入り込むことに成功していた。


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