異様な市街地
西荻窪にやってきた康太と文は、取り合えず須藤の家に向かうべく最寄りのバス停まで移動していた。
あらかじめ住所を教えてもらい、なおかつ最寄りのバス停も調べていたためにそこまで移動は苦ではなかった。
康太と文がバス停から歩いてあらかじめ教えてもらった須藤の家に向かう途中、何人かが康太たちのほうにさりげなく視線を向けていることに気が付いた。
「あれって警察官だよな?張り込み中って感じ?」
「そうでしょうね。警察としてもその家を張り込むくらいはするんじゃない?少なくとも誘拐されてる上に直接ポストまで来てるっぽいんだしさ」
「それもそうか・・・にしても奏さんの弟子か・・・どんな人だろうな・・・」
「章晴さんがちょっと華奢っていうか・・・やわらかいイメージだったから・・・次はめちゃくちゃ堅いイメージかもしれないわよ?いかにもベテラン刑事って感じのごつい人」
「あぁ、あり得そう。無精髭とかはやしてちょっと特徴的なジャケットとか着てるかんじのやつな」
思い切りドラマの影響を受けている感が否めないが、康太たちの中での刑事や警部というのはそういうイメージだった。
それが正しいかどうかはさておいて、自分たちに一瞬でも意識を向けた人間がいるというのが重要である。
まだ家までは百メートル前後はあるというのにしっかりと意識を向けられた。おそらくかなりの人間がこの誘拐事件の捜査に割り当てられていると思っていいだろう。
「これはあれだな・・・結構しっかり対応しないと怪しまれる可能性大だな・・・気をつけないと」
「そうね・・・私たちが怪しまれる分には別に構わないけど、そのせいで奏さんのお弟子さんに迷惑をかけるのは避けたいわ・・・なんて人だったっけ・・・?は・・・長谷川じゃなくて・・・」
「長谷部だろ、長谷部英輔・・・だっけか。そうそうあってる。この人の名前が出たら注意しような。一応索敵で誰かは確認しておきたいな・・・魔力があれば楽だけど・・・こういう状況だと魔力抜いてるかな」
「可能性はあるわね。相手が魔術師であることを前提に動いてるとなると、あらかじめ魔力を抜いてても不思議はないわ。そのあたりは注意しましょ」
相手が魔術師であるということが判明している以上、現場に魔力を内包している人間がいるのは捜査の邪魔にしかならない。
そういう意味もあって索敵では見つからない可能性は高かった。
「でもなんで魔術師だってわかったのかしら?何か痕跡でもあったとか・・・?」
「そのあたりは聞いてみないと何とも言えないな・・・ぶっちゃけその人が犯人に遭遇したって言ってくれたほうがすごく楽になるんだけどな・・・」
話を聞いている限り犯行は普通に日中に、なおかつ車で行われた。だというのに相手が魔術師だという根拠が今のところ示されていないのだ。
もっとも、相手が魔術師であるという考えのほうがわかりやすいし、何より考えを先に進めやすいというのもある。
実際に会って話を聞いてみるまで根拠が正しいのかもわからないが、頭に入れていいたほうがいいだろう。
「っと・・・あの家だな・・・なんかすっごく見られてて気持ち悪いんだけど・・・」
「視線がわかるっていうのも嫌なものね・・・私はあんまり感じないけど」
須藤の家に近づくにつれて康太と文にまとわりつく視線が強くなっていく。文はそこまで視線に敏感ではないためにあまり気にしていないが、康太は視線にかなり敏感であるために、自分たちに向けられている視線が気持ち悪くて仕方がなかった。
「ていうか素人に監視を見破られるってどうなんだ?まぁ警察は尾行とか潜入のプロではないとはいえさ」
「あんたを素人扱いするってどうなの?ていうかあんたはそもそも素人といえるの?」
「素人だよ。それを生業としてないんだから。俺はあくまでアマチュアのとーしろーのパンピーだよ」
「・・・あんたが一般人ねぇ・・・」
それが仕事とはいえ康太たちを見なければいけない警察にこんなことを言っても仕方がないのだが、もう少し隠れてというか、意識を少なくしてみることはできないのだろうかと康太は辟易してしまっていた。
文としては康太が素人であるというのは認めたくないところだが、言われてみればその通りであるためにそれ以上言及はしなかった。
「にしてもあれだな、社長の家っていうからどれくらい立派なのかと思ったけど・・・普通の家だな」
康太たちがたどり着いた須藤宅は周りの家屋と比べてもそこまで豪勢なものとは言えなかった。
二階建ての一軒家。家の側面にはそこまで広くはないが庭もある。東京都に住んでいてこれだけの家を持っているだけすごいというべきなのだろうが、少しだけ期待外れという感が康太の中ではあった。
「まぁ世の中の社長が全員豪邸に住んでるってわけでもないでしょうし・・・奏さんの家もちょっと大きかったけど豪邸って程でもなかったじゃない?」
「そういえばそうだな・・・それもそうか」
康太の中では社長はとにかく豪勢な家に住んでいるというイメージがあるが、実際奏も大きめであるとはいえ普通の一軒家に住んでいた。
奏の家を思い出しながら、あまりに期待を膨らませすぎた自分たちが悪いなと、康太はバックの中から書類を取り出して住所と名前の確認をしてからインターフォンを押す。




