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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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脱出準備

もう壁も維持できなくなったのか、通路をふさいでいた壁が消滅していくと同時に膝をついた状態の魔術師めがけて電撃が襲い掛かる。


魔術師は回避をすることもできずにその電撃を体に受けその場に倒れ伏した。わずかにその体は痙攣し、もう動くこともできなくなっているようだった。


「終わったわね・・・酷い有様」


「傷一つないけどな、これ全部返り血だ」


「だから酷いっていったんじゃないの。ナイフだけでよくもまぁここまでやったものね」


「とどめを刺したのはベルじゃんか、これ以上やらなくて済んだけど」


完全に動けなくなってしまっている魔術師を横目に見ながら康太は持ってきていたロープを取り出して魔術師の体を縛っていく。


刃を作り出すことができるためにロープで縛ってもあまり意味はないかもしれないが一応拘束しておくというのは意味がある。


それよりも問題はこの部屋にいたウサギだった。


「・・・あぁ・・・仕方がないとはいえ・・・やっぱりか・・・」


最後の最後、無茶苦茶に攻撃を繰り出した魔術師の攻撃によってケージは破壊され、その中にいた二匹のウサギの体にも攻撃は突き刺さっていた。


その小さな体からは血が流れ、まだぎりぎり生きているとはいえもう長くはないことがその場の全員が理解できていた。


「仕方ないわ、それよりもほかにも増援が来るんでしょ?」


「たぶんな。この場所にも何か手掛かりがないか探すか・・・」


先の戦闘で部屋の中はかなり荒らされてしまっている。しかも魔術師の流した血で辺りは赤く染まってしまっている。この状態で何か手掛かりを探すというのはなかなかに難易度が高いように感じられた。


「あの・・・先輩・・・いいんですか・・・?回収対象が死んじゃってるのに・・・そんなのんきな・・・」


「仕方ないだろ、戦闘中に守ることができればよかったけど、これだけ狭くちゃ守りようがない。障壁展開したら俺の邪魔になるしな」


「・・・でも・・・その・・・」


どのような理由があれ、回収対象の生き物が死んだという事実が土御門の二人にとってあまり良いことではないと感じられたようだった。


殺すことにもあまり良い印象を抱いていなかったことから、こういった状況になるとこういう反応をすることはわかっていた。


とはいえ今はそんなことを考えているだけの余裕はない。


「警戒しろ、まだ相手は来るんだぞ?」


「・・・って言っても・・・確証はあるんですか?今のところそんな気配は・・・」


「・・・待って・・・来ます、五分後に・・・一人・・・ここに来ます」


明の言葉に康太と文はやっぱりかと小さくため息をつく。


ウサギの捜索がこれだけ進んでいることから複数犯であることは容易に想像できた。彼らが協会からの依頼を受けた魔術師かどうか、まだ確証は得られていないがとりあえず敵対行動をとっている魔術師だとみて間違いはないのだ。


「どう見る?俺としては出口に最低一人待機してると考えてるんだけど」


「同意見ね。これだけ狭い空間だと複数人送り出すよりは待機してたほうがいいでしょうし・・・どうしましょうか・・・分断するよりは各個撃破したほうがいいかも・・・」


「とはいえここに固まっててもな・・・五分後だろ?探し物してる余裕もないな・・・とりあえずこのウサギたちの死体は・・・」


康太がウサギの死体に触れようとした瞬間、その体から漏れ出すように光があふれてくる。


一瞬警戒した康太だったが、その光が何かの攻撃ではないことを察すると眉をひそめながらその光を注視する。


その体から抜け出た光、それぞれ一つずつ出てきたそれは徐々に形を作りながらウサギの死体を足場にその場に降り立つ。


それがウサギに宿されていた精霊であると気付いたのはそれぞれの中にいる精霊がわずかにざわめいた時だった。


ネズミのような姿をした氷の精霊、猫のような姿をした光の精霊。それぞれが体内に入れられていたのがウサギが絶命すると同時にその体内から出てきたのだろう。


「精霊か・・・ベル、こういう場合精霊ってどうするんだ?」


「宿主が死んだ場合?別にどうってことはないわよ、他の宿主のところに行くか、あるいは自然に還るか・・・放っておいても害はないわ」


放っておいても害はない、そういわれても康太はどうしたものかと迷っていた。


協会の中で飼われていたウサギの中にずっといたのだ。それなりにこのウサギに思い入れがあったのかもしれない。


その証拠にこのウサギから離れようとしていない。どういう感情があったにせよ、このウサギたちが死んでそれを憂う程度の感情はあるようだった。


「ベル、ちょっとウサギを抱えててくれるか。あと何分くらいで相手は来る?」


「あと二分です・・・もうこちらを捕捉していると思います」


「こっちでももう捕捉できてるわ・・・他にもある部屋を探しておきたかったわね・・・」


この部屋の向こう側にも通路があり、その先にもさらに部屋がある。そこで行き止まりになっており、そちらの部屋にはウサギなどはいないとはいえあちらの部屋も調べておきたかったというのが正直なところである。


とはいえ時間がない。まずは目の前に来ている魔術師を倒すのが優先だろう。


「俺が相手するから、ベルたちはすり抜けるようにして通路を走れ。予知と索敵を怠るなよ?まだ敵がいる可能性もあるからな」


康太はそういって少し準備をし始めた。。やってくるであろう魔術師がどのような魔術を使うのか定かではないが、今のうちに対策だけはしておきたかった。


「先輩、相手の魔術師は土の属性を使うっぽいです。戦ってるときにちょくちょく地面が動きましたよ」


「マジか・・・よりにもよって土か・・・万が一の場合はお前たちは離脱しろ。生き埋めにならないとも限らないからな」


「ここを作った奴だとすると・・・厄介よ?最悪本当に生き埋めね」


予知によって相手の情報が得られたのはありがたいことなのだが、相手が土属性を扱う魔術師だということで康太は仮面の下でものすごくいやそうな顔をしてしまっていた。


地下空間で土属性の魔術師を相手にするなど正気の沙汰ではない。いわばこの場所は彼らのホームグラウンド。地の利は相手にあるといっていいだろう。


上下左右ありとあらゆる場所が相手にとって有利な状況になるのだから。


「装備もうちょっと持ってくるべきだったかな・・・さすがにこのままじゃきついかも」


「相手を思うように動かさないようにすれば大丈夫でしょ。大規模な土の移動はそれなりに魔力が必要だから」


「なるほど・・・んじゃ一気に攻勢に出るか・・・相手との距離は?」


「あと百メートルくらいよ。その気になればすぐに来れるわね」


百メートル。すでに互いに索敵で捕捉できる距離まで近づいているという事実に康太はため息をついていた。


もう少し広い索敵を覚えるべきかなと思いながら、康太はDの慟哭を発動して周囲を黒い瘴気で満たしていく。


「ベル、そいつら連れて何とか戦闘範囲から離脱しろよ。時折援護してくれると嬉しいけど・・・相手が土属性じゃお前は相性が悪いだろ」


「否定はしないわ。けど牽制くらいはできるわよ。あんたが動きやすいようにしてあげるからこっちは心配しなくていいわ」


「そりゃ心強い。二人はウサギを連れてろ。しっかり確保しておけよ?」


「あの、この魔術師は?」


「どうするんですか?」


目の前で転がされている血だらけの魔術師を見て土御門の双子は不安そうな声を出す。


最低限の止血が施されたとはいえ、このまま放置しては危険だろう。連れて行って情報を聞き出したいのはやまやまだが、あいにくとそういうわけにもいかない。


「人一人担いで悠々逃げられるっていうならいいけどな・・・いや・・・念動力でもそれだけの出力出せるか?」


「比較的出せますよ?念動力は得意ですし」


晴が倒れたままの魔術師を念動力で浮かせると、康太はうんうんとうなずいてから小さく考える。


「その念動力、射程距離はどれくらいだ?」


「えっと・・・人を浮かせるとなると・・・三十メートルくらいが限界だと思います・・・この人は比較的軽いのでもう少しいけるかな・・・?」


「私が協力すればもうちょっといけるんじゃないかな?五十メートルくらいなら連れていけますよ」

五十メートル。そのくらいなら問題ないだろうかと康太は考えて文の方を一瞬見る。


文も康太の考えを理解したのかわかったわよと言いながら小さくため息をつく。


「それじゃこいつは連れていくけど、お前たちがすり抜けた後、通路まで逃げてからこいつを念動力で引っ張っていってくれ。それまでの間俺が相手を足止めする」


「えっと・・・なんでそんなことを?」


「相手からすればこっちに情報を与えたくないでしょうから、この魔術師は回収したいのよ。私たちが三人で逃げればこいつの回収をあきらめたと思われるでしょ?そうすればこの場に残ったビーに集中してくれる。いわば餌みたいなものよ」


この場に相手をおびき出すための餌。そしてそのあと文たちはこの場から魔術師を連れて離脱する。


本来であれば早々にこの場から逃げ出したいところだが、他に仲間がいるのであれば何とかして捕まえなければ面倒なことになりかねない。


協会内で事件を起こしている輩を放置していると、きっと支部長のほうにしわ寄せが行ってしまうことだろう。


普段迷惑をかけている分、ここらでしっかりと恩を返しておかなければならないと康太は少しやる気になっていた。


「んじゃ手はず通りに頼むぞ・・・あとは俺がどれだけ足止めできるかだな」


康太は軽く準備運動しながら相手の魔術師がやってくるのを待っていた。


部屋の隅に魔術師を転がし、その中心に康太が、そして康太の後ろに文たちが位置し魔術師を待ち構える。


相手もこちらが待ち構えていることに気付いているだろう。それでもなおゆっくりとこちらにやってきているということはそれなりに腕に自信があるということだ。


「・・・あの・・・先輩・・・?」


晴の声が聞こえていないほどに康太は集中していた。今からやってくる魔術師が強いということを理解しているからこそ、高い集中を維持しなければ足止めも難しいことがわかっているのである。


「こっちはこっちで集中するわよ。相手が私たちを逃がしてくれるかどうかも重要なんだからね」


「は、はい!」


土御門の二人は予知を常に発動し、文はいつでも逃げられるように準備を進めていた。


康太はより一層集中を高め、魔術師がやってくるのを待ち構えていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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