表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

949/1515

その刃が届くまで

「うっわぁ・・・先輩えげつないことしてますね・・・」


「攻撃よけながら斬りまくってる・・・動きが人間のそれじゃないですよ・・・?」


「・・・なるほどね・・・そういうことか」


土御門の二人が索敵で康太の戦いを見守っている中、文は康太がなぜ時間をかけて戦っているのかをほぼ正確に理解しつつあった。


ナイフの攻撃に慣れるということだけではない。康太は今まで比較的狭い空間での攻撃が苦手だった。


近接戦が得意だというのにその攻撃力を最大限発揮できないという矛盾、康太は今この場でそれを克服しようとしているのだ。


肉体強化に加え再現の魔術を使って空中を駆け回り、時折噴出の魔術を使い急加速、あるいは急停止、急激な方向転換を繰り返しながら相手の攻撃をよけ、同時に斬り付ける。


先ほど明が言ったようにもはや康太の動きは人間のそれを越えつつあった。


噴出の魔術によるダイナミックな動き。幸彦から忠告を受けたからか、この密室に近い状況であるからか、康太はその使い方を勢い任せのものではなく小さく瞬間的なものとすることでほんのわずかにその体を動かし加速を補助するような使い方へと変化させていた。


「・・・楽しそうね・・・ったく、人の気も知らないで」


文は小さくつぶやく。康太が今仮面の下で笑っていることに文は気づいていた。だからこそ、康太がわざわざ時間をかけようとしていることの意味を理解し集中し始める。


「二人とも警戒して!たぶんもう一人、いや二人くらい援軍が来るわよ」


「え?あいつだけじゃないんですか!?」


「この短時間でウサギを二匹も捕まえられる連中が一人なわけないでしょ。あいつはこの場所を守るためにいるだけ。外に残りのウサギを探しに行ってるやつらがきっと戻ってくるわ。索敵と予知を続けて!近い未来と遠い未来それぞれ分担してね!」


「「りょ、了解しました!」」


文の指示に土御門の二人は康太の戦いを索敵で確認することよりも、自分たちに敵対する魔術師がやってくるか否かを確認しようと集中し始める。


康太はここで勝負を決めるつもりなのだ。ウサギを捕まえようとした、協会でウサギたちの入ったケージを破壊したものがこの場にいると理解し、ここにやってくると予測しここで捕まえるつもりなのだ。


康太の振るうナイフはどんどん鋭くなっていく。エンチャントの性能が上がっているわけでも、身体能力強化の性能が上がっているわけでも、ナイフ自体の攻撃力が上がっているわけでもないのに、徐々に鎧につけられる傷が大きくなっていく。


康太の恐るべき機動力と攻撃、そして緊張状態の継続によって相手が集中を乱しているというのも理由の一つだろう。


だがそれだけではない。康太の振るうナイフが鋭く、的確にその鎧を傷つけ破壊しているのだ。


防具などは一撃で壊れるもののほうが少ない。だが壊れないのであれば壊れるまで攻撃すればいいだけの話。


小百合に何度も教えられたことだ。壊れるまで攻撃すること。壊れないものなどこの世にはない。壊せないものなどこの世にはない。


破壊の権化たる師匠から教わった、数少ない格言のようなものだ。康太は今まで壊すまで攻撃していればそりゃ壊れるだろうと内心バカにしていた言葉だったのだが、今になってその言葉の本当の意味を理解していた。


攻撃すると見えてくる、いや感じ取れるというべきか。


同じ性能の攻撃を繰り出しても、場所によって威力が変わる。場所によってついた傷の深さが変わる。


相手の纏っている鎧は魔術の鎧だ。発動している術者の練度にもよるが、広範囲に発動するタイプの魔術には必ず偏りが発生する。


エンチャントの魔術を発動する康太はその傾向に、意識こそしていないもののおおよそ察しがついていた。


鎧が薄いところ、弱いところ、攻撃しやすいところ。


人間が作り出すものに必ず存在するその偏り。完全でないが故に発生するその強弱。攻撃するのならばここだというところを、ここを攻撃すれば壊れるというその理を、一年以上続けた小百合の訓練と、研ぎ澄まされた康太の集中力と、一人の敵を延々と攻撃できるというこの状況、それらすべてが合わさったことで康太は理解していた。


「あああぁぁあ!」


康太の振るったナイフが光の鎧を斬り裂き、その下にあった体にまで届く。康太の理解したそれを証明するかのように、康太が振るったナイフは魔術師の鎧を深く傷つけ、そしてその体をわずかながらに傷つけていく。


刃渡りがもう少し長ければ、もうこの戦いは終わっていただろう。きっとこの場にいたのが小百合なら、おそらく一振り二振りで戦いは終わっていただろう。


康太はその両の手に握られた短い刃と、この状況に感謝していた。


目に見えるのは、否、感じ取れるのは、まるで亀裂の如く『弱い部分』が入った魔術師の光の鎧だった。


ここが弱い、ここを攻撃すればいい。


直感にも近い、自身の奥底から聞こえてくるその囁きに康太は身をゆだねていた。


鋭く、通すように。


速く、なぞるように。


強く、抉るように。


鎧の修復も維持も、康太に対しての攻撃さえも、痛みによって集中力を乱されできなくなっていく魔術師の体を康太は一切の容赦なく切り刻んだ。


やがて光に満たされていたその部屋は光を失っていく。そこにあったのは血だらけになって膝をついている魔術師と、同じく血だらけになった康太が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ