慣れない刃
剣を回避しながら接近する康太に、相手の魔術師は少々焦ったのか、別の魔術を発動しようとする。
「先輩!壁ができます!一気に距離を詰めて!」
晴の言葉に康太は即座に反応し、剣をよけながら噴出の魔術の出力を一瞬だけ最大まで引き上げ一気に距離を詰める。
次の瞬間、通路をふさぐように光を放つ壁が構築され、通路を完全にふさいでしまった。
康太に近づかれまいと相手は先に動きを封じようとしたのだろうが、予知の前には無力だった。康太は既に壁の発生した位置を通過してしまっていたのである。
相手の行動の先を読める予知によって魔術の発動よりも早く相手との距離を詰めた康太はその両手にナイフを持って相手の魔術師めがけて斬りかかる。
だが相手もとっさに反応しその体を光る鎧のようなもので包んでいった。康太が使うエンチャントの光属性版のようなものだろう。ナイフが当たった瞬間に固いものと当たったとき独特の金属音のようなものが室内に響いた。
近接戦になったとはいえ相手は刃を何度も康太めがけてぶつけようとしてくる。限られた室内で接近戦をしようとせず意図的に射撃戦をしようとしている時点で近接戦の能力がないことは明らかだが、狭い場所である時点で康太にとっては距離を詰めてくださいと言っているようなものだった。
刃をかいくぐり、相手の懐に入るとナイフにもエンチャントの魔術を施しナイフ自体の強度と斬撃を強化し斬りかかる。
「・・・ちっ・・・やっぱ使い慣れてない武器はダメだな・・・」
光の鎧に斬りかかり、すれ違いざまに数度その体を切り刻んだ康太だったが、光の鎧にほんのわずかな傷を作っただけだった。
両手でナイフを軽く振り回しながら康太は眉を顰める。双剣笹船のような二刀流の使い方でナイフを扱ってみたものの、やはり武器そのものの重さも違えばリーチも違う。形だけの二刀流とはいえ全く意味をなしていなかった。
同じ扱い方でも武器が違えば威力も体捌きも変わってくる。身体能力強化に加え、エンチャントの魔術で斬撃そのものを強化しても相手の防護をわずかに傷つけるばかり。
この程度の攻撃力では相手を倒すのにいつまでかかるか分かったものではない。
光の壁によって文たちとは分断されてしまった。多少の空気穴があるとはいえ文の風の循環の恩恵がどれほど得られているかもわからない状態では炎の魔術を連発して使うわけにもいかない。
遠ざけようとしていた康太にあっさり接近され、なおかつ数度にわたって斬りつけられた魔術師はわずかにその身を震わせながら康太から何とか離れようと試みていた。
黒い瘴気が満ちているのに加え、部屋中が光っているせいで康太は相手の姿が見えていないが、その息遣いから、その衣擦れの音から、そしてその気配から、魔術師の位置をほぼ正確に把握していた。
小百合が施していた目を閉じた状態での訓練がこんなところで実を結ぶとは思っていなかっただけに康太は苦笑してしまっていた。
後何度斬れば相手を倒せるだろうか、後何度攻撃すれば相手の防御を突破できるだろうか。後何度刃を突き立てればその体に届くだろうか。
そんなことを考えて康太は笑ってしまう。そんなことを考える意味がそもそもないことに気付いたのだ。
「オーケー・・・それじゃあこれを使い慣れるまで付き合ってくれよ?」
部屋が光で満たされていても、声は届いている。その耳に届いた康太の声に、魔術師はわずかに寒気を覚えていた。
それは気のせいではない、体が震えるのは寒さを覚えたからではない。目の前にいる康太から放たれる殺気に気圧されたのだ。
光に満たされて見えないはずのその空間で、康太の仮面の奥にあるその目だけがはっきり見えるような、そんな錯覚さえ覚えるほどの寒気。
魔術師は一瞬錯乱状態に近くなってしまい、あたりかまわず刃をぶつける。その部屋の中にいるウサギのことなど関係ないとでもいうかのように無茶苦茶に放たれた刃を康太は的確に回避し、その体を何度も斬りつけていく。
相変わらず小さな傷しかできない。しかも相手は光る鎧を自動的に修復していってしまう。
あの鎧が魔術でできている以上別に驚くようなことでもない。一撃で強い威力の攻撃を叩き込めばある程度は変わるだろう。
現状の手段では変えられない状況、いや、康太は意図的にこの状況を変えようとしていなかった。
一つの理由として、この場にいるウサギが二匹であること。短期間に二匹捕まえたとしても相手が一人ということはまずないだろう。おそらくここを拠点にしている魔術師がほかにもいるとにらんだのだ。
この魔術師が何らかの通信手段を持っていれば、自らの危機に瀕して周りの仲間を呼ぼうとするのは必然。
だからある程度の猶予を与えるというのが康太の考えだった。
そしてもう一つの理由、それは先ほど康太が言った通りの内容だった。
両手に装備したナイフでの攻撃に慣れること。そして相手を切り刻むこと。今の康太はそちらのほうが主な目的となっていた。
一つ腕を振るうたびに、一回相手を斬り付けるたびに自分の攻撃の鋭さが増しているような気がしていた。
目指すは小百合の剣。振った後にわずかな残滓さえ残すかのような美しい軌跡を描く小百合の剣。
撫でるように、なぞるように、康太はナイフを振るう。切り刻み、その鎧を徐々にはぎ取っていく。
魔力を消費することによって修復されるその鎧だが、刃による攻撃に加えDの慟哭による魔力吸引、そして鎧の修復と、多量の魔力を消費している魔術師は徐々に供給よりも消費のほうが多くなっていることに気づけなかった。




