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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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恐怖の対象

「幸いここには魔術師しかいない。せいぜいよく話し合え。ついでに自己紹介とかもしてくれるとこっちはありがたいかな」


康太はそういいながら白米を口の中に放り込んでいく。よほど文の作った弁当が美味いのか、ちょっと話をした間にもうその中身は半分以上減っている。


この中で、いや三鳥高校に所属する魔術師の中で一番強いと思われる康太に促されては三人とも断ることはできないのか、まずは船越が腰を下ろして自分の持っている弁当を広げ始める。


「船越泰典・・・トール・オールだ」


「・・・嘉吉花・・・ゴーン・ベリナです」


「佐々木加奈。アコ・オーカです」


それぞれ術師名を名乗ってくれたことで今後それぞれ名前で呼ぶことができるなと康太と文は少しだけ安堵しながらも話を先に進めることにした。


「さて、集まってもらったのは今後のあなたたちの三鳥高校内での立場よ。今のまま、船越君が主に活動するような形でいいのかどうか、そのあたりを話し合ってもらえるとありがたいわ」


「・・・って言われても・・・」


「私たちは・・・その・・・」


嘉吉と佐々木はそれぞれ困ったような表情を浮かべて船越をうかがうように視線を上げる。


船越は何も言わずにただ座っていた。そのたたずまいにはわずかに威圧感すら感じてしまう。


「確か二人はあんまり戦闘は得意じゃないのよね?」


「はい・・・なので昨日三年生の先輩が言ってたような・・・互いに監視とか牽制っていうのはちょっと・・・難しいと思います・・・」


三鳥高校の魔術師同盟、それに所属する魔術師たちが何をするのか聞いて、二人はそれは無理だと思ってしまったのだ。


何せ戦闘能力がほとんどない。今まで魔術師として戦闘よりも全く別な方向の修業しかしてこなかった彼女たちにいきなりそれをやれと言われても無理の一言だった。


そんな中現れた戦いに特化、というか戦いに自信のあるトール・オールこと船越泰典。そんな状態では主導権をすべて握られても仕方がないと思えてしまう。


「三鳥高校に入ったからと言って、別にこの魔術師同盟に入る必要性はないと思うわよ?あくまで互いに学校内で変なことをしないってことが前提だもの。学校での魔術師活動を全くしないってことであればその必要性はなくなると思うわ」


「え?いいんですか?」


二人に無理に同盟に入ってもらうだけの理由はないのだ。三年生からすれば所属している魔術師の動向などを管理したいという本音があるのだろうが、名前と術師名、そして所在などがわかっていれば別に気にするようなことはない。


普段康太たちは学校などでも魔術を行使することがあるため同盟活動を継続しているがその必要さえなければ康太たちだって無理に同盟を続けようとは思えないのである。


「ただ、学校内での活動は全くできなくなるわよ?そのあたりはわかってね。魔術の発動もできないし、ちょっとした実験も、魔術師として近づくこともしないほうがいいわ。それでもいいのなら入る必要はないわね。二人は魔術師としての拠点はあるの?」


「はい、私の師匠のところが」


「私もそうです・・・だから学校ではあんまり活動はしないかなって・・・」


康太と文も主な活動場所は小百合の店と春奈の修業場となっているために別に学校で無理に活動する必要はない。


康太がいつ襲われるかわからないからという理由も一緒についてきているが、今はそのことは置いておくことにする。


「それで船越君としてはどうかしら?この学校の同盟に参加するだけの意義を感じられる?」


船越は黙って弁当に箸を伸ばし続けていた。そんな中で不意に話を振られ、視線を弁当から女子二人に向ける。


「好きにしたらいいんじゃないですかね。入る必要がないっていうならそれもいいでしょ。俺がどうこういうことじゃないと思いますよ」


自分の思い通りにできないからか、船越は目に見えて不機嫌なように見える。去年まで中学生だった男子に精神的に大人になれなんて言っても無理であるのは承知しているが、さすがにこの態度は露骨すぎるなと文は苦笑してしまっていた。


船越としては手下が欲しかったのか、それとも自分の近くに侍らせておける女が欲しかったのか。


どちらにせよ康太に倒されてその考えはとん挫した。


まさか自分より圧倒的に強い魔術師がいるとは思っていなかったのだろう。


「ところで先輩、この学校の魔術師って、面倒を起こした奴を倒して止めるんですよね?」


「そうよ?それがどうかした?」


「・・・先輩たちが何かやらかしたら誰が止めるんですか?三年生の人たちは止められないですよね?それってもう同盟の本質破綻してませんか」


なかなか鋭いところを突いてくるなと文は笑みを浮かべていた。そう、もし康太と文が一緒に何か問題を起こそうとしたら三年生だけでは止められない。


戦力に差がありすぎる以上、康太たちを止めることはできない。三鳥高校の魔術師同盟の本質である互いの監視と牽制から、すでに外れてしまっているのだ。


「それに関しては問題ないわ。こいつが暴走したなら私が止めるし、私が暴走したらこいつが止める。あとは三年生の人たちの協力で何とか抑えられるわよ」


「二人同時の場合はどうするんですか。なす術なしですよ」


「もし私とこいつが一緒に考えて、そうするしかないって思ったのなら三年生たちも説得して巻き込むわ。私もこいつも馬鹿じゃないのよ」


その程度の分別はわきまえてるわと付け足しながら文は自分で作った弁当に箸を伸ばす。昼食時なのに殺伐とした空気だなと康太は若干眉をひそめていた。


「あ、あの・・・一ついいですか・・・?」


「ん?なに?」


「その・・・先輩は・・・そっちの・・・えっと・・・」


「あ、自己紹介してなかったわね。こいつは八篠康太。私は鐘子文。よろしくね」


「あ、はい・・・その、八篠先輩は・・・ブライトビー・・・なんですよね?」


本来であれば、日常生活において術師名を聞かれ「はいそうです」と返すようなことはないのだが、この場においてはそのことは置いておいたほうがよさそうだった。


一年生の魔術師、そしてブライトビーの名を知る彼女が康太に対して強い警戒心と恐怖を抱いているのは康太も文も感じている。


だからこそしっかりと対応しておかなければのちの高校生活に支障をきたしかねないと思ったのだ。


「あぁ、ブライトビーだ。そっちの・・・佐々木か」


康太のことを知っていたのは佐々木加奈、アコ・オーカという魔術師だった。


術師名にしては日本語に近い。小百合の師匠の智代のようである。


この魔術師が康太のことを、ブライトビーのことを知っているということは、協会に良く足を運んでおりなおかつその中でコミュニケーションをとっているということか、あるいは師匠の教えがいいかのどちらかである。


「よく俺のこと知ってたな。協会に良く足を運んでたのか?」


「あ、はい・・・師匠が協会でいろいろと魔術関係の仕事をしてまして・・・そのお手伝いで・・・」


「ふぅん・・・なるほど」


魔術関係の仕事というのがどのようなことなのかはわからないが、どちらにせよ、おそらくこの中で一番魔術師としての経験値を持っているのは彼女なのだろう。アコ・オーカこと佐々木加奈。康太は目を細めながら彼女を観察していた。


彼女は康太に対して常に警戒しているようだった。とはいえ全く隙がないわけではなかった。


というか、康太から言わせれば隙だらけだ。加えて言えば、それが彼女の精いっぱいの警戒であることも何となく理解できた。


いつ襲われてもおかしくないから、常に警戒し、常に康太の行動を意識せざるを得ない。一挙手一投足を見て、感じて、いつでも逃げられるように、防げるようにしているつもりなのだろう。


だが悲しいかな、そういった訓練を受けたことがないのか、自己申告の通り戦闘能力はほぼ皆無なのか、まったく意味をなしていない。


文もその様子を見て申し訳なさそうな、それでいて哀れみを含めた瞳を佐々木に向けている。


こんなに怖がらせてしまってごめんなさいという表情と、こんなに怖がらせてるんじゃないわよという二つの表情を使い分けている。


片方は佐々木に、片方は康太に向けられている。


康太からすればそんなこと言われてもと反論したいところなのだが、ここは自分が弁解しなければ話が進まないだろう。


「あー・・・昨日も聞いたけどさ・・・俺の噂ってそんなにひどいの」


「・・・その・・・」


「あぁいいわよ言っちゃって。こいつからしたらそういうこと知らないから知っておいたほうがいいわ。何かしそうになったら私が止めるから大丈夫よ」


自分ならば止められるという絶対の自信を持っている文に対して、佐々木は少々迷いながらもそれらを口にした。


康太、ブライトビーが協会の日本支部の中でどのような扱いをされているのか、どのような噂があるのかをそれぞれ告げていた。


その中でも一番有名だったのが、倒した魔術師を個室に引きずっていき、拷問をするというものだった。


残された部屋には心身ともにボロボロになった魔術師だけが残り、ブライトビーに対する恐怖を心の底まで刷り込まれるというものだった。


「・・・あれか・・・あれが原因か・・・!」


「いやまぁ事実だけに否定しようがないわね。ご愁傷様」


「やっぱり本当のことだったんですね・・・!」


佐々木は先ほどより一層康太に対して警戒してしまっていた。もう康太に近づきたくないというそぶりをしている。話すことさえしたくないといった様子だ。


「いやいや、弁解させてもらえるなら、あれは依頼の関係でそうせざるを得なかったっていうのが本音だ。相手から情報を出すならあの方法が一番手っ取り早い・・・っていうか俺はあの方法しか知らん」


依頼を完遂するため。確かにそのあたりは納得いくかもしれないがそれでも拷問をする必要性に関しては疑問が残るところである。


魔術師の拠点を調べるなり、本人に交渉し情報をやり取りすることだってできたはずなのに康太は暴力という方法に打って出た。


これは康太に情報収集の方法を教えた奏にも原因の一端があるのだが、そのあたりは置いておこう。


「っていうかなんでそんな噂が?あぁいう部屋を借りるとか、何をしたのかとかそういうのは基本秘密だろ?それにあの後の処理は協会専属の魔術師に頼んで・・・ってそういうことか・・・専属の魔術師の奴らが噂してんのか・・・」


「まぁあの人たちだって人間だしね。あんたが部屋を借りる時ってたいていそんな時だから、噂にもなるでしょ」


何か調べ物をするときなどは文なども一緒にいる、何より部屋を借りる手続きは基本支部長に頼んだり、文にやってもらったりするが基本はブライトビーの名義で借りていることが多い。そして部屋を出る時にはもちろんその姿が見られることだろう。そうなれば疑う余地はない。


これをやったのがブライトビーであるという確信と、その噂が流れることはむしろ必然だといえる。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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