話し合い昼食会
「船越君いるか?船越泰典君」
康太は翌日、昼休みの時間に一年生の教室までやってきて教室内の一年生たちにそう声をかけた。
康太の姿を見て同級生であるか、それとも先輩であるのか一瞬一年生たちが迷いながらも自分の周囲を見渡し、その人物がいるかどうかを探すようなそぶりをしていた。
そんな中、すぐに反応して立ち上がったその人物に康太は一瞬目を細めた。
大きな身長に筋肉質な体。教室内でも目立つことこの上ないその生徒が康太の元までやってくる。
「な・・・何の用ですか?」
「ちょっと時間くれるか?飯は?弁当か?ちょっと一緒に食わないか?」
唐突に現れた先輩。まるで以前から知り合いだったかのような気安さで話しかけてくるその先輩の声を彼は知っていた。
先日自分が倒された魔術師、ブライトビーの声にそっくりなのだ。船越はわずかに震えさえおこしながら目の前にいる朗らかな笑顔を浮かべている先輩を見てわずかに眉をひそめていた。
なぜ昨日の今日で自分にたどり着いたのか、船越は不思議でしょうがなかった。
船越泰典。術師名トール・オール。康太は一日でその人物を探し当てたのだ。
もとよりその体格などから一年生の中で彼を探すのはそこまで難しくはなかった。船越ほど恵まれた体格をしている人物はほかにいない。
そういう意味では探し当てるよりも名前を知ることのほうが苦労したくらいだった。
「何の話ですか?」
「ここでするような話じゃないな。昨日の件でいろいろと・・・もう俺の相方も動いてるから急ぐぞ。あんまりあいつは待たせないほうがいい」
あいつというのが先日康太と一緒にいた魔術師ライリーベルのことを指していることはすぐに理解できた。
あの人も一緒にいるのかと船越は必死に平静を保とうとするが、わずかに冷や汗がにじむのを止められなかった。
康太はさっさとついて来いと言いたげに先を歩き、道案内を始めた。
自分の都合など聞いていない、こちらの都合に合わせろと言わんばかりの背中だった。
昨日の戦いがなければ、なんであんたの言うことなんて聞かなきゃいけないんですかと反論したところだろう。
だが目の前にいる一見細身の少年は、自分より圧倒的に強い。船越はそれを実際に肌で感じたからこそ康太に逆らう気が起きなかった。
康太が案内したのは学校の屋上だった。本来であれば立ち入り禁止の場所なのだが、すでに文がカギを解除しており容易に出ることができた。
「悪い、待たせたか?」
「そうでもないわ。はい、お弁当」
「サンキュ、今日の中身は?」
「唐揚げと春巻き、あとポテトサラダときんぴらごぼうよ。手間かかってるんだから美味しく食べなさいよね」
当然のように屋上で待っていた文から、これまた当然のように弁当を受け取った康太は近くに座り込んで弁当の包みを開け始める。
康太に続いて屋上にやってきた船越は、何の話もせずに弁当を開け始めた康太を見ていったい何のために連れてこられたのかと混乱してしまっていた。
「初めまして船越君。とりあえず座りなさい。あなたの同期も一緒だから」
文の言葉に船越が周囲を見渡すと、文の後ろに隠れるようにして一年生魔術師である二人の女子がその場にいた。
二人とも弁当の包みを広げ、今にも食事を始めようとしているのがわかる。
「・・・あの、先輩・・・なんで俺を、俺らを呼んだんですか?」
「言っただろ、話をするって。ついでに飯でもって思ったんだよ、ちょうど昼休みだったからな。ってなわけでいただきます」
話をすると端的に話した康太はさっさと弁当に舌鼓を打ち始める。これが美味いのか口に運んですぐに笑みを作っていた。
「話すって何を?誰と?俺と先輩とですか?」
「あほか、お前らのことに決まってるだろ。お前ら一年の状態があまりにも歪だからちょっと指導しろって三年の先輩に言われたんだよ」
康太の言葉に船越と、二人の女子魔術師がわずかに眉を顰める。一年生のことに二年生が首を突っ込むというのはどうなのだろうかと思っているのだ。
そしてその考えは康太と文も抱いているものである。
だからこそ先ほど康太はあのように言ったのだ。
「・・・先輩らって三年生よりもずっと強いんですよね?なのに三年生の言うことを聞くんすか?」
「強さは関係ない。小さいとはいえ組織の中に入っているのなら組織の長の言うことを聞くのは構成員の役目だ。そのあたりは誤解しないほうがいいぞ」
強さですべてが決まるのであればきっと小百合は魔術協会の中でももっと上の立場になっていてもよかっただろう。
だがそうではない、組織を成り立たせるのは強さだけではないのだ。そして強いから上位者の言うことを聞かなくてもよいというわけでもない。
小百合だって渋々ながら支部長の言うことをそれなりに聞いている。
「まぁ私たちとしても正直不本意ではあるのよ?でもちょっとあなたたちの関係は目に余るのよね・・・特に船越君の行動には」
「・・・俺が何だっていうんですか・・・」
「力にものを言わせた交渉は意味を持たないってことよ。だから私たちに口出ししろって話が出たの。止められるようにね」
魔術にとって戦闘とはすべてではない。物事を決める一つの指標でしかないのだ。それらですべてを解決すると後々面倒なことになるからこそ、三年生たちも一年生にちょっかいをかけようとしているのだろう。




