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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十一話「新しい生活」

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攻勢にでるのは

康太がシャドウビーを発動させた瞬間、先ほどまでの文の攻勢は一転していた。


康太はウィルを前面に押し出し、とにかく距離を詰めようと攻撃させる。同時に自らも再現や火の弾丸を放ってウィルの前進をサポートしていた。


「ようやく使ったか、あの馬鹿者が」


その様子を学校の外側から眺めていた小百合はあきれながら大きくため息をつく。康太がようやくデビットとウィルの力を使い始めたことに対してかなりあきれている様子だった。


その理由はわかりきっているだろう。最初から本気を出さないなどとなめた行動を小百合は教えた覚えはない。


「まぁまぁ、ビーがウィルの力を借りたくなかったのは何となく理解しているでしょう?実力だけでベルさんに勝ちたかったんですよ」


「最初に交差した段階でウィルを使っていればあのまま勝っていただろうに。まだまだ想定が甘い。相手はベルだ、生半可な攻撃では勝てないのはあいつも理解しているだろうに」


小百合が言った通り、康太が最初からウィルを戦いで使っていたら結果はわからなかっただろう。


最初に交錯した瞬間に、その体を文の体にまとわりつかせていればそれで勝負が終わっていたかもしれない。


それほどにウィルの能力は高いのだ。


「あれが噂に聞くウィルか・・・実際に戦っているところを見るのは初めてだな」


「そういえばエアリスさんはビーが本気で戦っているところを見るのは久しぶりでしたね、いつぶりですか?」


「久しぶりというかほとんどはじめてに近いな。最初にあった、ベルと戦ったときくらいしか記憶にない」


春奈は康太にいろいろと教えたりしたことはあるが康太が戦っている光景を見ることはあまりない。


そもそも春奈の修業場は戦いを満足に行えるような場所ではないのだ。そのために彼女が康太の戦闘を見るためには実戦に赴くしかないのだが、春奈は魔術師としてあまり表に立たない。


康太の戦闘を見たことがないのもうなずける話である。


「だが・・・見れば見るほどそこの馬鹿と戦い方が似ているな・・・少しだけ腹立たしくもある」


「ふん、あれは私の弟子だ、当たり前だろう」


康太の戦い方は武器こそ違えど小百合のそれに酷似し始めているらしい。それがいつの頃の小百合なのか真理は理解できなかったが、康太が小百合に近づいてきているというのは喜ばしく、同時に複雑でもあった。


「ほうほう・・・てっきりベルが圧倒的に優勢かと思えば、なかなかどうしてそういうわけでもないようだな」


その場で観戦していた小百合たちの背後から不意に声が聞こえる。その声の主が誰であるのか小百合たちは瞬時に理解してため息をついていた。


「いつからついてきていた?アリス」


小百合が意識を向けた先にいたのは康太たちの同盟相手であるアリシア・メリノスだった。


仮面をつけ、さも当然のようにこの場にいるアリスに春奈は少々驚いているようだった。


「最初からだ。二人が戦うということであれば私が見に行くのは自然な流れだろう?なに、邪魔はせん」


「邪魔をしないのは当たり前ですが・・・なぜベルさんのほうが優勢だと?何か理由があるんですか?」


てっきりアリスのことだから康太のほうが有利であると判断すると思ったが、どうやらそのようなことはないらしい。


だが小百合はそれを理解できる節があった。アリスは常に文のほうを高く評価している。それも当然という風に鼻を鳴らしていた。


「簡単な話よ。二人は互いの手の内を知り尽くしておる。おそらく拮抗を破るのは至難の業だろう。ファーストアタックでビーが仕留め切れなかった時点で長期戦になるのは目に見えておる。そうなれば素質で上回っているベルのほうが圧倒的に有利だ」


魔力の供給量、そして両者が有している手札、そして戦闘経験。


それらすべてを総合的に判断した時、アリスは文のほうが圧倒的に優位に立てると判断したのだ。


魔力の供給量や手札では文が勝り、戦闘経験は康太が勝っているだろう。だがその戦闘経験も継続戦闘能力という条件の前には霞んでしまう。


何せ両者が持っている手札の中で、康太が持っているそれらがすべて消耗品であるのに対して、文のそれはほぼ使いまわしができる、あるいは別のものでも代用できるものばかりなのだ。


この差は大きい。時間をかければかけるほど康太が不利になる。アリスはそう考えていたのだ。


だからこそ今康太が攻勢に出ているのは少々意外だったのだろう。


「ですが今はビーが優勢のようです。このまま押し切るのでは?」


「甘いな。ジョアよ、ベルを甘く見すぎてやいないかの?肩を持つわけではないがあ奴は誰よりも近くでビーのことを観察し続けた女だぞ?」


アリスの言葉を証明するかのように、ウィルと一緒に攻勢に出ていた康太とウィルが唐突に吹き飛ばされる。


廊下の端まで一気に吹き飛ばされ、その勢いのままにガラスを突き破って中庭に落下していってしまう。


磁力とかそういう技術的なものではない。単純な強い風によって康太は吹き飛ばされたのだ。


猛烈な強い風に吹き飛ばされた康太は再現の魔術によって作り出した疑似的な足場と噴出の魔術によって態勢を整え、中庭に無事着地する。


むき出しの土の上に着地する瞬間、康太は即座に防御として炸裂障壁を展開していた。


康太の判断は正しかった。康太が着地すると同時に康太めがけて大量の電撃が一斉に襲い掛かる。


障壁の魔術の形をテントの様にすることで電撃を地面に流していくが、その行動もすでに文の掌の上だった。


地面に流された電撃は土の中に含まれていた砂鉄を地表に引きずり出していく。そして文は康太と同じく地面に落下したウィルめがけて電撃の弾丸を発射する。


ウィルは避けることをせずにその電撃を受けてしまう。すると次の瞬間地表に浮き出した砂鉄が一斉にウィルのもとに集まりだした。


ウィルを覆いつくすように集まった砂鉄は、その動きを著しく鈍くさせる。砂鉄の重みによってウィルの機動力を一気に下げることに文は成功していた。


ウィルの能力は確かに脅威だ。単純に戦っても強いしその応用能力も目を見張るものがある。


ならば早い段階で動けなくしてしまえばいい。あるいは使えないような状態にしてしまえばいい。


砂鉄が大量にまとわりついた状態では、その身にまとって鎧代わりにするのはもはや文相手には逆効果、先ほどの様に分身として戦わせるのも機動力を削いだ状態では高い効果は望めない。


文は今ほぼ完璧にウィルを攻略して見せたのだ。


「くそ・・・こう来るとは思ってなかったな・・・」


ウィルに砂鉄がまとわりつくのを見ながら、康太はウィルの体に触れる。砂鉄が周りにあるせいで奇妙な感触になっているが、康太は意に介さずにウィルを自分の体にまとわせていく。


完全に悪手、そう思える康太の行動に文はなにも不思議なことはないとため息をついていた。


文がとった行動に対して、康太も対抗策を考えているということである。


康太はウィルの周りにまとわりついていた砂鉄をその内部に取り込み、一カ所に集めることでその質量を武器として大きな拳を作り出す。


それは先日康太がやって見せたウィルとの協力技『フローウィル』の強化版だった。


ウィルの機動力が下がったのは痛いが、逆にその威力が増したと考えるべきだろう。無論機動力を犠牲にして成り立っているのは間違いないがこの程度の重さであれば康太にとってはあまり意味はない。


「お返しだ、ぶっ飛ばしてやるから覚悟しろよ!」


拳の一部から炎を噴出させ、再現の魔術を併用し康太は空中を一気に駆け上がり文のいる三階めがけて突っ込む。


文も待ち構えるようにしながらも反撃を仕掛ける。電撃による攻撃ならばウィルごと康太を迎撃できると考えたのだが、康太はその攻撃を見て瞬時にウィルを切り離す。


ウィルの体の一部から放たれている噴出の魔術によってその巨大な拳は勢いを止めることなく文めがけて突進していく。


対して康太は軌道を変え、電撃を悠々と回避して見せた。


まるでロケットパンチのようだなと文は歯噛みしながら自らの体に磁力の魔術を発動して強引にその体を後方に運ぶ。


単純な直線運動をしていたウィルは壁を砕いた後天井にめり込む。文は何とかその攻撃を回避することに成功していたが再び康太の接近を許してしまっていた。


ウィルを隠れ蓑にして康太は廊下のすぐ横の空中を噴出の魔術によって高速移動し文との距離を一気に詰めていた。


電撃の魔術の弱点、物理的に存在する壁の向こう側には電撃を伝えることが難しいのである。


それが空中にあるただの障壁のようなものであれば迂回することもできたのだろうが、地面につながる形で固定されているものに関してはそうもいかない。


康太は再び窓ガラスを突き破りながら文めがけて斬りかかる。


その瞬間、文は対康太用とでもいうべき魔術を発動した。


康太はそれを見た瞬間に、文めがけて振りぬこうとした槍の軌道を変え、身をひるがえす形で文から少し距離を置く。


本来であればあり得ない行動だ。康太ならばどのようなリスクを負ってでも接近しようとするのだが今の状況からすればそれは悪手でしかなかった。


そう、文が発動したのは雷属性のエンチャントの魔術だった。しかも以前のように腕だけに発動しているのではない。全身に電撃を纏うことで接近戦における康太のアドバンテージをほとんど潰していた。


「うっわ・・・それ反則だろ。それやられたらかなり困る」


「相手が嫌がることをやるのが戦いでしょ?それに、こういう魔術は私もあんまり使わないんだから、光栄に思いなさいよ?」


「・・・そりゃどうも・・・うれしくて涙が出そうだよ」


中距離戦で強みを持つ射撃系魔術を好む文が、このような近接戦を想定した魔術を使うというのは実際珍しい。


それだけ康太に対して対策を練ってきたということでもある。いや、康太と日々訓練することで同じようなタイプの魔術師に対して後れを取らないようにしていたというべきだろうか。


触れるだけで感電する、そんな電撃の鎧を見て康太は仮面の下でわずかに笑みを作ってしまっていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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