苦戦、善戦
文の優勢で続く戦いだが、康太は自身が劣勢に立っているこの状況が嬉しかった。自分よりも圧倒的に格上である文が自分相手に本気になっているのだ。
対等であるといいながらも、文のほうができることは多いし優秀だ。そんな文に対して康太は少しばかり引け目があったのかもしれない。
だからこそ自分の力だけで勝ちたかったという気持ちが強いのだが、もはやデビットとウィルの力を借りないほうが失礼というもの。
何せ康太は文より格下の魔術師なのだ。何もかも、ありとあらゆるものを使ってでも、我武者羅でも構わないから勝利する。それこそが康太の戦い方だ。
康太が近接戦を得意とするのに対して文は近接戦があまり得意ではない。そこに活路を見出していただけに、文の使った雷属性のエンチャントはかなり面倒な魔術だった。
康太が得意としている、そして突破口になると考えていた近接戦が半分以上封じられたことになる。
とはいえ、康太だってこの魔術が初見なわけではない。文がこの魔術を使ってくることは半ば予想していたために対策はいくつも考えてあるのだ。
「んじゃ覚悟しろよ、それを使われたんじゃこっちも奥の手を出すしかなくなるからな」
「・・・へぇ・・・どんな?」
「ぶっちゃけあんまり使いたくなかったけどな・・・っていうかまだそこまでうまくできないから、うまく防げよ?」
康太はそういって、何故か文から距離を取って槍を構える。そして肉体強化の魔術を発動すると大きく深呼吸して槍を振りかぶった。
瞬間、文は康太が何をしようとしているのか、いくつか予想し、即座に回避に専念しようとしていた。
文が体を強引に後方に移動させると、先ほどまで文の体があった場所に風が発生する。
いや、正確には何かが振るわれたときのような風が起きた。そして康太はその動きを止めない。文は常に動き続け康太の標的にならないように回避し続けた。
そう、康太がやっているのは遠隔動作を用いた近接戦だ。
相手がどこにいようと、何をしていようと自身が持っている武器の一撃を相手に直接与えることができる。
とはいえ康太はあまり距離感を掴むのが得意ではないために連続して、しかも槍の攻撃に合わせられるほどの速度で遠隔動作の魔術を使ったことがなかった。
だがそうも言っていられないのだ。文が雷属性のエンチャントの魔術を使い始めた時点で、康太の近接戦における優位なところはほぼ消えた。無論再現の魔術を使えば何のリスクもなしに文にダメージを与えられるが、文の動きを完璧に見切って回避だけをし続けることができるほど康太は優秀ではない。
必ず防御なども挟んでしまう、その防御こそが文の使った魔術の狙いだ。
一瞬でも触れれば感電する。そして動きが硬直し再度攻撃を受ける。近接戦が苦手な文だからこそたどり着いた近接戦の一種の答えなのだろう。
だがそんな答えなど意味がないかのように、康太は続けて槍を振るい続ける。
遠隔動作の魔術は座標を指定することでその場所に自身の動作、そしてその動作によって動かされたものも反映される。
つまり康太が槍を振るうとどこに攻撃が起きるかほぼわからないのだ。
本来なら文も槍の動きを見てその槍を回避したり防御したりするくらいはできたかもしれないが、前後左右どこからやってくるかわからない攻撃を連続して防ぐことができるほど文の勘は鋭くない。
康太の攻撃を回避し続けるには常に動き続け、康太が座標指定をするだけの余裕を与えないようにするしかなかった。
だが移動し続けての遠距離戦ならば文としても望むところである。廊下を磁力の力を利用して高速で移動しながら文は康太との距離を取りつつその懐から鉄の杭を取り出していた。
あまり離れると康太としても座標指定が難しくなるのか、文に追従するような形で康太も追ってきている。
そんな康太めがけて文は鉄の杭を磁力の魔術で射出していく。
単なる射撃魔術ならばと、康太は射出された鉄の杭の動きを完璧に見切ったうえで回避し、お返しと言わんばかりに鉄球を射出しながら槍を振るい続ける。
移動し続ける文に対して遠隔動作の座標を指定するのは今の康太にとっては至難の業だったが、それも徐々にではあるが慣れ始めてきた。
そして先ほどから文は槍の動きにばかり気を取られている
康太は文との距離を正確に測りながら、文の移動速度も計算に入れつつ遠隔動作の魔術を発動した。
文の背中に強い衝撃が走ると同時に、足が何かにつかまれているということに文は気づいた。
康太が自分の速度に対応したのだと理解するまで時間は必要なく、今足を掴まれていることで動きを封じられているという状況判断も正常にできていた。
ここで動きを止めれば康太の集中攻撃を受けることは明白だ。文は舌打ちをしながら康太めがけて広範囲の電撃を放つ。
康太に対して効果的な攻撃は範囲攻撃である。当然範囲を広げればその分命中こそしやすくなるが威力自体は下がってしまう。
廊下一面を埋め尽くすかの如く放たれた電撃を見て、康太は即座に窓を突き破り校舎から脱出するが、文の狙いはその先にあった。
廊下で広範囲攻撃を使えば康太は教室に逃げるかガラスを突き破って外に逃げるかしか選択肢がなくなる。
文は康太が空中に体を投げ出した瞬間に竜巻の魔術を発動しその体を巻き上げた。
竜巻に巻き上げられ、満足に態勢も整えることができない状態では槍を振るう以前の問題だ。
上下の感覚も曖昧になり、康太は今自分がどこにいるのか、どちらを向いているのかもわからなくなりかけていた。
「よし、行くわよとどめ!」
風にとらわれて何も聞こえなくなっている中でも、康太は文の声をはっきりと耳にしていた。
このまま攻撃するつもりだ、そう判断して康太は何とか回避しようとするが、竜巻全体に黒い粒のようなものが混ざり始めてくる。
康太がそれを槍で振り払おうとすると、その黒い物体は槍に急速に集まってきた。
それは文の使う磁力の魔術の一種である。康太の使っている槍、その刃に使われている金属部分とあらかじめ浮き上がらせていた砂鉄を反応させることで槍を使用不能にしようとしているのだ。
このままでは槍に砂鉄がまとわりつき、その砂鉄をたどって電撃が襲い掛かる。そう判断した康太は即座に槍の投擲の体勢に入る。
その体を包む風の猛威によってもはや上を向いているのか下を向いてるのかもわからなかったが、康太は索敵を発動して瞬時に文のほうに狙いを定めると、勢い良く槍を投擲した。
柄の部分に噴出の魔術も使って風に流されないように勢いよく投擲された槍は一直線に文に向かって襲い掛かる。
ガラスを突き破り、文に襲い掛かる寸前、槍にまとわりついていた砂鉄がまるで盾の様に形を作り出して文を守る。
「あっぶな・・・まぁあんたならこれくらいやるわよね」
読んでいたとでもいうかのように文は笑う。だが康太も笑う。文ならばそのくらいはやると読んでいたかのように。
「ちくしょう、まぁお前ならそれくらいはやるわな」
康太は槍の勢いが止まるよりも早く分解の魔術を発動する。槍が各パーツごとに分解され、さらに細かく分解されていく。
空中でバラバラになった槍は、その中に仕込まれていた物体を無造作に文の目の前にばらまいた。
それは康太が事前に仕込んでいた小型の鉄球だった。
槍の中に仕込まれた鉄球が目の前に広がっていく中、文は即座に防御しようと考えた。だが康太も即座に鉄球を発動する。
蓄積の魔術によってため込まれた物理エネルギーが小さな鉄球を勢いよく押し出し、文に、壁に、天井に向けて一直線に弾けだす。
その瞬間文は全身を包んでいたエンチャントの魔術を一気に放出する。
文のいた場所が一瞬強い閃光に包まれたかと思うと、康太を捉えていた竜巻の勢いが弱くなる。
これ幸いと康太は即座に再現と噴出の魔術を使用して竜巻の中から脱出し学校の屋上へと降り立つ。
「うぇぇ・・・気持ち悪・・・」
竜巻の中で延々と振り回されたせいで康太はわずかではあるものの目を回してしまっていた。
膝をついて大きく息をつき、平衡感覚が戻ってくるのを待ちながら索敵の魔術で文の様子を確認する。
槍に仕込むという関係から普段使っている鉄球よりも小型とはいえ、至近距離での炸裂鉄球だ。多少はダメージを受けていてくれたらありがたいのだがと一抹の願いさえ込めた康太だったが、文は自分の急所をしっかりと腕などで防御していた。
しかも流血もしていない。ぎりぎりで発動したエンチャントの電撃を利用した磁力の魔術で鉄球の勢いを殺いだのか、それとも軌道をそらしたのか、文の被弾は少なく、そしてダメージも少ないようだった。
「マジかよ・・・結構いい手だと思ったんだけどな・・・」
平然としている文に対して康太はかなりショックを受けていた。もとよりそこまで期待はしていなかったとはいえ、常に使っていた槍を手放してしまった。
装備自体はまだあるとはいえ武器を失ったのは大きい。
これならば早めに双剣笹船をウィルから回収しておくべきだったなと反省していた。
実戦で丸腰になったのはいつぶりだろうかと康太は小さくため息をつく。ゆっくりと呼吸をし、ようやく気持ち悪さも抜け平衡感覚も戻ってきた。
文は三階にいるままだ。遠隔動作の魔術で攻撃してもよいのだが、槍ではなくただの拳では決定打にかけるだろう。
やはり武器が必要だ。康太はウィルの現在位置を確認するが、だいぶ移動してきてしまっているためにかなり距離が開いてしまっていた。
笹船を回収するには時間がかかる。おそらく文が攻撃を仕掛けてくるほうが圧倒的に早いだろう。
「さてどうするか・・・槍なし、剣なし・・・接近戦か・・・?いや文相手にそれはまずいか・・・」
全身にかける雷のエンチャントに対して何の対策もなしに近接戦を挑むほど康太も無謀ではない。
とはいえ槍を失い武器を失い、その状態で攻略できるとも考えていなかった。
だが同時に思いつく。それならばという康太の考え。
ここはひとつ文に驚いてもらおうじゃないかと康太は悠々と屋上から飛び降り、再び三階へと向かうことにした。
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




