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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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晴、明の訓練

「一応聞いておくけど・・・どうしたんだ?」


「いやぁ・・・神加ちゃんと一緒に遊んでたんだけど・・・その・・・なんかよくわからないけど満一君が神加ちゃんに張り合いだして・・・神加ちゃんがそれを軽くあしらっちゃって・・・」


「・・・ごめん、よくわからないな・・・」


いきなり張り合うといわれても何の話をしているのかさっぱりわからない。そもそも何をして遊んでいたのかも不明だ。


満一の姿を見ている限り、悔しくて泣いているのか悲しくて泣いているのかはわからないが、何やら神加がやらかしてしまったのは間違いないだろう。


「えっと・・・神加、怪我はさせてないよな?」


「うん、喧嘩もしてないよ?一緒に遊んでただけ・・・」


どうやら神加としては張り合われていたという感覚すらないらしい。一緒に遊んでいただけだというのにいきなり満一が走り出したというわけのわからない状況になってしまったようだ。


文が一緒についていっていなければ本当に意味不明な状況になっていたことだろう。


「ちなみに何して遊んでたんだ?」


「途中までは追いかけっこ。途中からはボール使ってサッカーもどき・・・で、途中から満一君が妙に頑張りだしたんだけど・・・」


「あぁ・・・神加が普通に勝っちゃったと」


満一は魔術の訓練を受けているのかもしれないが、身のこなしの訓練は全く受けていないだろう。


体捌きに関しては普通の子供と同じようなものなのだ。


それに比べて神加は魔術の訓練に加え、体術の訓練も行っているのだ。魔術的にも身のこなしとしても普通の子供とは違う。


どうやら神加としては普通に遊んでいたはずでも、満一としては神加に勝ちたかった、あるいはいいところを見せたかったのだろう。


男の子が同い年の女の子にいいところを見せようとして、女の子に惨敗してしまって悔しくて泣いている。


ようやく今の状況が呑み込めた康太は気の毒そうな表情を満一に向ける。


「なるほど・・・まぁこればっかりは神加は悪くないな。満一君も悪くないし・・・まぁ子供のちょっとした気持ちのずれというべきか・・・?」


「すいません、うちの息子が・・・」


「いえ・・・同い年ってこともあって今のうちから神加の顔をつないでおくことも大事なことですからね・・・」


同年代、まだ子供ということもあって身体能力にそこまで差がないということもあるが、男に対して普通に勝てる女というのは小学校に入ってから大丈夫だろうかと少し不安になってしまう。


神加の身体能力自体はまだそこまで高いわけではない。だが技術の差というものがここにきて響いてきている。


小学校に入学してからいじめられたりしないといいけどと素直に不安になりながらも康太はふと時計を見る。


「結構時間経ったけど・・・まだ結論出ないのか・・・上役はずいぶんと話し合ってるみたいだな・・・」


「そうですね・・・あとどれくらいかかるんですかね?それがわからないと・・・先輩ら明日には帰っちゃうんですもんね?」


「そりゃ月曜日には学校あるしな。これなら春休みに来ればよかったかな・・・?」


単なる土日にくるのではなく春休みという短いながらまとまった休みの時にやってくればよかったと康太は今更ながら後悔していた。


いくら状況を正しく理解させるという勝政の気遣いがあったとしても、これでは本末転倒というものである。


「さすがにこうしてるのも暇だな・・・晴、明、暇だし訓練でもするか?」


「いいんですか?まだ先輩らの用件終わってないですけど・・・」


「いいよ、このまま待っててもしょうがないし。どっか体を動かせる場所は?」


「それなら道場がありますよ。そこでやりましょう」


ここまで広い家なのだから運動できる場所があったとしても不思議ではないとはいえ、まさか道場まであるとは思っていなかった。


剣術なども教えているのだろうかと考えている中、かつて晴は刀をもって攻撃してきていたことを思い出す。


最低限の剣術くらいは教えてもらっているのかもしれないと康太は勝手に解釈することにした。


「そういうわけで芳江さん、これからこいつらと一緒にちょっと訓練してきます。皆さんの話し合いの様子を見てどれくらいかかるかとか確認してきていただいていいでしょうか?」


「わかりました。わかり次第お知らせします。二人とも、お客様に失礼のないようにしなさいね」


「わかってますって。んじゃ先輩、行きましょうか」


「道場はこっちです。結構広いですよ」


康太たちと訓練ができることが嬉しいのか、晴と明は少々早歩きになりながら康太たちを案内していた。


「いいの?暇だからって訓練なんて」


「別にいいだろ。秘蔵っ子を痛めつけるわけでもあるまいし。どうせだから文もやろうぜ。たぶんいい勝負になると思うぞ?」


「・・・まぁいいけどさ」


文としては訓練と言えば魔術のものというイメージがあるが、康太が参加する時点で魔術だけということはないだろう。動ける格好をしてくればよかったなと少しだけ後悔してしまっていた。


「結構広いな・・・木刀とかも置いてあるし・・・剣道とかやるのか?」


康太たちが案内されたのは体育館ほどではないとはいえ、それなり以上の広さを持ったまさに道場というような場所だった。


壁には木刀が何本か立てかけられており、正面上部の壁には何やら額に収まった文字が掲示されている。

いかにもな道場だが、しっかりと整備は行き届いているようで足が滑るということもなさそうだった。


「親戚に剣道やってる人がいるんで多少教えてもらいましたけど・・・正直俺はあんまり熱心にはやってなくて・・・」


「なるほど・・・ほぼ我流か・・・んじゃほれ」


康太はそういって木刀を一本晴に渡す。康太は自分用に二本木刀を手に取るとその握りを確認しながら何度か振り回していた。


「文、明の訓練頼む。主に近接戦闘やってやれ、まずは準備運動からな」


「はいはい、魔術はその後?」


「いや、魔術と並行していいぞ。そのほうが訓練になるし」


魔術と並行した近接戦闘。最初から飛ばしていくつもりはないがこれが当たり前になるためには必要なことだ。


本当なら段階を分けて少しずつ慣らしていかなければいけないが、康太がこの双子に指導できる時間はわずかしかない、多少スパルタでもいいから強引に進めていくことが重要である。


「晴は予知は使えるんだろ?」


「使えますけど・・・近接戦で使ったことはないです」


「よし、それじゃ今からやってみよう。ほんの一瞬でも先が見えるっていうのはかなりのアドバンテージだ。その気になれば近接戦最強になれるかもわからないぞ?」


康太は未来予知などは使えないために相手の動作などを見てから反応するか予測する以外に方法がない。

だが土御門の、ひいては京都の魔術師は予知魔術を使うことができる。


それらを駆使すれば相手の攻撃を的確にかわすことくらいは容易なはずだ。以前戦った相手には随分と苦労させられた記憶がある。


何せ自分の攻撃のほとんどが読まれ、対応されてしまうのだ。対応されないようにするためには相手の対処能力を上回るしかない。


予知の魔術ははっきり言ってかなり強力なのだ。その場その場でこれから起こることをあらかじめ知ることができる。


康太はその魔術を覚えていないために具体的なデメリットなどは把握していなかったが、覚えられていればかなり頼りになるものであるということくらいは理解していた。


「ていうか先輩刀使えるんですか?しかも二本なんて・・・」


「最近覚え始めた。槍以外の武器で双剣を使い始めたからな。まだ師匠には遠く及ばないけど・・・」


そういって軽く振り回す康太の体の動きがどのようなものであるのか晴には理解できなかった。


基礎的な動きしか教わっていない晴では康太の動きがすごいのかすごくないのかそれすらも把握できないのである。


もっとも康太からすればこんな動きをしていたらきっと小百合に『間抜けが、もっとしっかりと動け』と怒られることは自明の理であった。


「んじゃ軽く動いてみるか。どうする?どっちが守勢に回る?」


「どっちでもいいですけど・・・んじゃ俺から」


晴が木刀を正眼に構え、すり足の要領で徐々に距離を詰めると、何の合図もなしに一気に距離を詰めて康太の頭部めがけて木刀を振り下ろそうとする。


康太はその動きを見切り、片方の木刀で襲い掛かる一撃を受け流すともう片方の木刀で晴の腹部を軽く叩きながらすり抜ける。


痛みはほとんどないだろう。打ち抜くのではなく軽く叩いてすり抜けたのだから。


だが腹をたたかれたということは晴も認識しているらしく、姿勢を低くして木刀をこちらに向けてくる。


小百合との訓練になれてしまっている康太からすれば、晴の動きは明らかに遅い。とはいえ晴も康太との実力差を理解しているのだろう。


何より康太が全力を出さないのは、自分が未来予知を使うのを待っているのだと晴は考えていた。


その考えは正しい。康太はこれを機に予知を発動された際の対処法を確立するつもりでいた。


土御門の双子を訓練するという名目があるとはいえ、ただで訓練をしてやるほど康太だって甘くはない。


あまり見ることのできない予知を使う相手との戦闘方法を確立することで今後楽になるのではないかと考えたのである。


「それじゃあ次は俺から行くぞ。うまく避けろよ?」


康太が攻撃態勢に入った瞬間に、晴は予知の魔術を発動した。見えてきた光景はまず康太が右手に持っている木刀を横薙ぎに振るうこと。そしてそれに対して晴が防御すればもう一本の木刀で打撃を与えながら一度距離を取ること。


あらかじめその光景がわかればまだ対処法はある。晴は康太が動くと同時に木刀を走らせ、初撃に合わせる形でカウンターを狙い、康太の頭部めがけて木刀を振り下ろす。


康太は明らかに狙われたカウンターに眉をひそめていた。予知の魔術を持っている相手に対しての対処法、それは予知の処理を上回る連続攻撃と攻撃密度だ。


自分の攻撃に対する防御ではなくカウンターを合わせられた。これがあるから予知相手は面倒だなと思いながら康太は一瞬前進をやめ、タイミングをずらしながら左手に持っていた木刀で襲い掛かるカウンターをはじき、振りかけていた木刀の軌道をそらして突きに移行する。


康太の木刀だけが晴に命中し、晴の木刀は康太に届くことはなかった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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