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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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子供の教育とは

「ほら満一、お客様にご挨拶しなさい」


「・・・・・・」


母親である芳江に促されても満一は彼女の体の影から出てこようとはしなかった。どうやら相当嫌われているようだなと康太は少し複雑な気分になってしまっていた。


ここまで子供に嫌われる、というか怖がられているというべきだろうか。


そんなに変なことはしていないつもりなのだがと思いながらも、先ほどの土御門の面々とのやり取りを見ていたのであれば怖がられるのも無理はないと肩を落としてしまっていた。


「申し訳ありません、息子が失礼を・・・」


「いえいえ、むしろこの子の感性は非常に正しいですよ。康太の危険性をよく察知しています。将来良い魔術師になるでしょうね」


「そうでしょうか・・・?素質には恵まれましたがどうにも魔術の覚えは悪くて・・・普通の遊びのほうがよほど楽しそうなんです・・・その・・・天野様はどうなのでしょう?見たところ同い年くらいに見えますが」


母親としては息子の成長を同年代の子供と比べたいのだろう。


進んでいるのか遅れているのか、同年代の魔術師の子供がいないという状況であるのか不安が残っているようだった。


「神加、ちょっと魔術使ってみてくれるか?何でもいいから」


「なんでもいいの?」


「うん、危なくない奴で」


茶菓子をほおばっていた神加は自分とは離れた机の上に置いてある湯呑を遠隔動作の魔術でつかんで自分のもとに持ってくる。


熱い茶が入っているために湯呑もだいぶ熱くなっているが、遠隔動作の魔術でつかんでいる状態であるために神加が熱さを感じることは全くなかった。


そして神加は障壁の魔術を水平に展開し、浮かせていた湯呑をその上に置く。障壁の魔術を疑似的にテーブル扱いしている。さらに言えばもうすでに遠隔動作と障壁の魔術を同時に発動できる程度の技術を持ち合わせている。


日々の訓練のたまものか、二つの魔術の練度の高さを見せつけられた芳江は幼い神加の技量の高さに驚きながらも自分の息子がこのように育ってくれるのか不安を募らせてしまっていた。


「神加も今度の四月に小学生になりますから満一君と同い年ですね・・・ようやくこれくらいの魔術は扱えるようになってくれましたよ」


康太が頭をなでて褒めてやると、神加は嬉しそうに、そして自慢げに胸を張っていた。自分の努力が認められたことが嬉しいのか、康太の手に頭を押し付けるような形でもっとなでるように催促してくる。


可愛いものだと康太と文は微笑ましそうにしているが同い年の息子を持つ芳江からすれば神加の技量の高さはうらやましいものだったらしい。


「息子もこれくらいの技術を持ってくれれば安心できるのですが・・・失礼ですが、普段八篠様や天野様はどのような訓練を?」


「あー・・・うちの訓練はあんまり参考にしないほうがいいと思いますよ。基本スパルタなんで・・・」


「まぁ少なくとも子供にやらせるような内容じゃないわよね・・・でも神加ちゃんには手加減してるんでしょ?」


「魔術の指導の場合師匠はばっちりやるぞ。ぶっちゃけそうしないとちゃんとした修業にならないからな・・・近接戦闘のほうは姉さんがやってるけど・・・」


小百合が手を出すと明らかに危険な近接戦闘の訓練に関してはほとんどが真理の指導によって成り立っている。


だが魔術の訓練に関してはほとんど小百合が取り仕切っている状況だ。反復練習に加え実際に覚えさせる魔術などはほとんど小百合が決めている。


師匠として当然と言えば当然なのだが、小百合が熱心に指導をしていると彼女の弟子としては非常に不安を覚えてしまうのだ。


いつか不慮の事故が起きないかと常に目を光らせておかないと神加の身に危険が迫ることとなってしまう。


康太と真理は小百合の弟子ではある。だが弟子であるからこそ師匠の危険性を理解している。自分たちの可愛い弟弟子を師匠である小百合の毒牙にかけるわけにはいかないのだ。


「というかあれですね・・・どんなに周りがやる気があっても、結局本人にやる気がないといつまでたっても伸びませんよ?うちの場合はいくつかの魔術を教えたらそれを徹底的に覚えさせて、応用したり組み合わせをしたりさせてます」


「やっぱりやる気にさせないとだめですか・・・この子も魔術自体は覚えているんですけれど・・・なかなか上達してくれなくて・・・」


上達しないというのはつまり練習をあまりしていないということだ。


いかに天才と言えど努力しなければ上達はしない。あのアリスでさえ高い実力を手に入れるために何百年と研鑽し続けたのだ。


どのような才能に恵まれようと、自由自在に操るためには操ろうとする意志と、操れるようになるために努力することが必要不可欠なのである。


問題は子供をどのようにしてやる気にさせるかということである。


結婚もしていないのに何で育児に口出しせねばならないのかと康太と文は内心ため息をついていたが、実際将来自分たちも直面する悩みなのだ。聞いてやって損はないだろう。


「ちなみに満一君の好きなことは何ですか?そういうところから入っていける魔術だと覚えてくれると思いますよ?」


「好きなことですか・・・走ったりすることは好きだと思います。外でボールを追いかけまわしたりよくしていますから・・・」


ボールをよく追い掛け回す。子供らしいなと思いながら康太は母親の影に隠れ続けている満一のほうに視線を向ける。


相変わらず絶対に康太と視線を合わせてくれない。ここまで徹底されるとさすがの康太も傷ついてしまう。


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