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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」

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師匠からのアドバイス

「というわけなんですけど・・・何か知らないですか?知らないとは思いますけど」


『お前は本当に自分の師匠に失礼な奴だな。なぜ私がそういう呪いについて知らないと思った』


「だって師匠破壊の魔術しか使えないじゃないですか」


康太と文はとりあえずそれぞれの師匠に話を聞くことにしていた。携帯でそれぞれの師匠に電話をかけ、呪いについての話を確認することにしたのである。


具体的にはどのような手法を使えば音や映像に術式を乗せることができるのかということである。


『だからこそだ。呪いの魔術は人体破壊、精神破壊に関するものが目白押しだぞ。むしろ私の魔術の中で呪いは割と多い部類に入る』


「人体破壊・・・ってことは姉さんも使えるんですか?」


『当たり前だ。あいつはむしろ私よりも使える呪いの魔術の数は多いぞ。呪いの魔術は効果が発現するのが遅効性のものも多いためあいつは戦闘時気づかれないように使うことが多いな』


康太と文が今回見ていた映画もある意味遅効性のものと言えなくもない。あるものを見せ続けることでいつの間にか発動するタイプの呪い系の魔術。


良くも悪くも気づかれにくいという点から長期戦に向いている魔術であるらしい。康太にはあまりあわない魔術だろう。


だが真理のように長期戦も可能な魔術師であればある程度相手に対して余裕をもって呪いをかけることができる。それは優位になる一つのポイントにもなるだろう。


「じゃあ質問なんですけどどうやって術式を映像とか音に乗せてるんですか?勝手に相手に魔術を発動させるなんて想像できないんですけど・・・」


『・・・ふむ・・・では康太、お前は術式をどのようなものであると理解している?』


どのようなもの。康太はその言葉に眉をひそめていた。術式は魔術を発動するために必要なもの。魔術そのものを発動するための回路のようなもの。


康太の認識はそのままだった。電化製品を正しく動かすのに精密な電気系の回路が必要なように、現象を引き起こすには術式が必要となる。


術式が正しくなければ当然魔術は不発、あるいは間違った状態で発動してしまう。


康太はそのことを一つずつ小百合に告げていった。小百合は康太の言葉をすべて聞いてから『間違ってはいない』と答えた。


『お前の認識は大まかにではあるがあっている。魔力が電化製品における電気ならば、術式は電化製品を制御する回路だ。だが私が聞こうとしたのはそうではない。術式はそもそもなんであるかという話だ』


なんであるか。康太はその言葉に疑問符を大量に飛ばしてしまっていた。術式は術式でしかない。はっきり言ってそういう認識しかないのだ。


計算式における足す、引く、掛ける、割るなどの記号がそもそもなんであるかと聞かれ、どのような計算が行われるかではなく、そもそもなんであるかというまるで哲学のような質問に康太は少しもどかしさを感じていた。


「師匠、哲学的なことを言うなんてらしくないですよ。何か拾い食いしましたか?」


『馬鹿者、哲学でも何でもない。術式がどのようなものであるか、いったい何から術式が生まれたのか、そういう話をしている』


康太は小百合が何を言いたいのか正確に理解できずにいた。小百合の説明が下手だというのもあるのだが、康太がいまいち小百合が何を伝えたいのかを理解できていないというのも理由の一つだ。


というか小百合がこうして言葉で何かを説明するというのはいったいいつぶりの話だろうか。


基本的に肉体言語で説明するような性格の彼女がこうして説明しようとしている、何かを聞こうとしている。その事実が康太は非常に気持ちが悪かった。


本当に何か悪いものでも食べたのではないかと思えて仕方がない。


だがここで康太は一度冷静になって考え始める。


術式とは何か。


そもそも魔術における術式は先ほども小百合が言ったように術を発動するための回路のようなものだ。


だが小百合が先ほど言ったように『術式とはそもそもなんであるか』と言われると康太はそれを知らない。


いや、どこかで聞いたことがあるような気がしていた。


それがいったいどこであったか、康太は記憶を呼び戻そうとしていた。いったい誰に聞いたのだったか、そもそも康太はその話を小百合から聞いた記憶はないように思える。


何せ小百合からは魔術を使うための指導はされても魔術そのもの、術式そのものがどのようなものであるかを聞いたことはなかったのだ。


だがここで考える。魔術とは何か。そしてそれを引き起こす原因ともなる術式とは何か。


ただの超常現象ではない。人が引き起こしているにしてもこの世界に唐突に火が現れたり、水があふれたりなどするはずがないのだ。


では魔術とはどのようなものか、今一度思い返していた。


「確か・・・魔術はこの世界にあり得る現象や可能性を再現するとか、作り出すとかそういう力でしたよね?」


『少々違うように思うがまぁいい。では術式とはなんだ?』


どうやら小百合が考えている魔術とは少し違ったようだが、とりあえず大まかではあるにしろ間違ってはいないようだ。そして康太は続ける。


「術式は・・・世界に影響を及ぼすための仕掛け・・・?いや世界そのものが持ってる仕組み・・・みたいなものですか?」


魔術が世界にある現象を再現するものであれば、術式はそれを再現するためのスイッチのようなもの。そしてマナを元とした魔力はそれを引き起こすための燃料。それが現時点での康太の考える術式の存在だった。


『ふむ・・・まぁ間違ってはいないな。私の弟子にしては察しがいい』


久しぶりの小百合のお褒めの言葉に康太は眉をひそめながらも、術式というものがいかなるものであるか、理解を深めようと小百合の話に耳を傾けていた。


『術式はお前の言うように世界に影響を与えるための仕組みのようなものだ。マナは世界そのものが持っている影響力のようなものだろう。それを変換し、魔力とすることで人間は魔術という技術を編み出し、疑似的に世界を操っている』


「・・・なんかすごく魔術師らしい話ですけど・・・師匠よくそんなこと知ってましたね。興味なさそうなのに」


『私の師匠が誰だか忘れたか?こういった基礎の基礎の話だけは本当に耳に胼胝ができるほど語られたものだ・・・』


小百合の師匠である智代は基本を重んじる人間だった。いかに応用ができようと基本や土台ができていなければ意味がない。


智代は何度も何度も小百合に基礎を叩き込んだのだという。そしてその結果、魔術に対する基礎的な話はもはや小百合も暗唱できるほどなのだとか。


もっとも本人曰くこの知識は全く持って役に立たなかったそうなのだが。


『まぁ師匠の受け売りはさておき・・・人類史においての魔術はいろいろと分岐する点が多いが、その始まりは胡散臭い儀式が原点とされている。それらはいわゆる雨乞いだったり、呪いをするためだったりと、まぁ多岐にわたるな』


魔術という技術が確立するまで、人間たちは儀式こそが世界に影響を与えると信じてきていた。


場所によっては心臓をささげることによって太陽の恩恵を受けられると思っていた部族もある。


場所によっては供物をささげることで雨の恵みを作物に与えられると思っていた者たちもいる。


場所によっては生まれたばかりの子をささげることで神の祟りから逃れられると思っていた人種もいる。


その効果や儀式、時代は多岐にわたり存在するが、その中に偶然ではあるが一種の『術式』の形を成したものがあるのだ。


『それこそが魔術の原点。行為の中、あるいは物体そのものの中に含まれる術式、それらを複合させることによって儀式は確実な結果をもたらした。そしてその中から術式だけが抽出されたのが今の魔術だ』


「・・・つまり、今回俺たちが関わっているような呪いのようなものは、自然発生した魔術のようなものであると?」


『正確に言えばそれを疑似的に再現しているといったほうがいいだろうな。だからできるできないの話ではなく、もともとそういうものだったというだけの話だろう。私も何個かそういう魔術を覚えているしな』


「師匠みたいなピーキーな魔術師にそんなことを教えられるなんて・・・やっぱ師匠の師匠はすごいですね」


『そこは私をほめるところではないのか?』


小百合もどうやら行動に混ぜ込むような形で発動する魔術を覚えているらしい。さすがは智代というべきだろうか、破壊しか覚えられない小百合に多岐にわたる技術体系の魔術を教えているのだから。


本来なら小百合をほめるような場面でも、智代への尊敬の念が出てくるあたり、小百合に対する尊敬の念がかなり低いことがうかがえる。


なんとも情けないがそれが今の康太の現状だ。


「術式を自然な動作で・・・でも今俺が見てるのって映画ですよ?しかもアクションSFもの」


『んー・・・ビデオ・・・映像に魔術を込めるか・・・不可能ではないだろうが・・・んー・・・少なくとも私ではできないな・・・壊すことなら楽勝なんだが・・・』


「師匠の得意技はよく知ってますよ。それで、これを解析したいんですけど、どうしたらいいんですかね?ビデオそのものに術式が込められているわけじゃないですし」


先ほどの小百合の話を統合して考えると、映画の中に術式を含んだ映像、あるいは音が混じっているということになる。


つまりビデオテープそのものに術式が組み込まれているわけではないのだ。


やろうと思えばこれはいくらでも量産できてしまうことになる。これは確かに封印指定になりかけるだけの厄介さを秘めている。


『ふむ・・・ちなみにその映画は有名なものか?』


「めちゃくちゃ有名ですね。師匠も絶対見たことありますよ。アイルビーバック・・・!って最後に言うやつですよ」


『あぁあれか。解析の方法は私にはわからんが、それなら見比べてみたらどうだ?』


「見比べる?」


『世の中の人間が同じ映画を見てすべて同様の魔術を発動するわけではないだろう?ならば普通に見れるものと今お前たちが見ているものを見比べて、その違いを確認すれば』


「・・・なるほど!師匠なのにすごい機転ですね!実は今しゃべってるのが偽物とかそんなことはないですよね!?」


『・・・いい加減にしないとお前の頭をかち割るぞ・・・』


さすがの小百合も康太の無礼な態度に堪忍袋の緒が切れそうなのか声にわずかに苛立ちがこもっているのがわかる。


だが康太が素直に感心したのも確かだ。こうした技術があるということを事前に知っていたからこそそういう考えが浮かぶのかもわからないが、小百合が思い浮かべるにしては非常に理知的な対処法である。


「これでちょっと前進しそうです。ありがとうございます師匠」


『そんな面倒なことをするくらいならとっととそのテープを壊してしまえばいいんだ。粉砕してテープを焼いてしまえば問題は解決だろうに』


「そういういかにも師匠っぽい解決法も考えましたけど支部長の頼みですから、まぁ巡り巡って本部の頼みでもありますけど」


ようやく見せた小百合らしさに康太は苦笑しつつも礼を言いながら小百合との通話を切る。何気に小百合は魔術に対する知識は豊富だ。本人にその気ややる気や興味がないだけであって割と理知的なのかもしれないなと康太は考えていた。


「ベル、対策発見」


「こっちもよ。たぶんだけど同じ結論に至ったかもね」


康太と同じように自分の師匠である春奈に電話をして話を伺っていた文は、康太が電話を切るタイミングとほぼ同時に振り返って笑みを浮かべていた。


もっとも仮面によってその笑みを見ることはできなかったが、康太も文が何かをつかんだのはわかっていた。


「早速仕入れなきゃな。とりあえず今日はここでお開きにするか。さすがに同じ映画二回見るのは疲れた」


「そうね・・・ちなみにビーが買うものは?」


「DVDプレイヤーとこいつと同じDVD。見比べればその違いが判るかもしれないからな」


「やっぱり私たちの師匠だと同じ解決法にたどり着いたみたいね・・・っていうかクラリスさんがそういう方法を提示したの?」


文としては小百合が破壊以外の方法を提示したのに驚いていたようだった。どちらかというと今回の場合、解決というか呪いについての魔術の詳細を主に聞いていた気がするがそのあたりは気にしない康太だった。


実際に康太も小百合からこのような理知的な発言が聞けるとは思わなかったのである。あれは小百合の物まねをしているアリスなのではないかと疑ったほどだ。


「うちの師匠も頑張ればできる子なんだよ・・・!あの人はやればできると俺は信じていたよ」


「めちゃくちゃ嘘くさいセリフをありがとう。っていうかよくよく考えたらあんたの所と私のところの師匠ってほぼ同じように修業してたんだもんね・・・解決方法が似るのも仕方がないか」


「お前のところの出来のいい師匠とうちみたいなできの悪い師匠を一緒にするな。何でもできる人と壊すことしか能のない人を同列に扱うのは失礼だぞ」


「あんたのほうが絶対に失礼よ」


文の突っ込みを軽く流しながら、康太はビデオプレイヤーから取り出した呪いのビデオを再び厳重にアタッシュケースの中にしまっていく。


今回の調査は基本的に支部内でしか行えない。そうなってくると調査を終えた後は必ず支部長のもとに返さなければいけないのだ。


調査時間が限られてしまう上にいちいち支部までやってこなければいけないというのはなかなかに手間だ。


とはいえ康太たちが協会外部でこのビデオを紛失する可能性を考えると致し方ないともいえるだろう。


「というわけで、一日目の調査はここまでにします。あとは準備してもう一度確認しようかと」


康太と文はさっそく支部長にビデオを返却にやってきていた。支部長はアタッシュケースを受け取り中身を確認すると安心しながら小さくうなずいた。


「うん、了解したよ。ところで何かわかったかい?」


「確認できるだけで三つの効果がありましたね。視覚、聴覚に働きかけて発動するタイプの呪いの術式です。どの場所に呪いが仕込まれているのかはこれから詳しく調査する予定ですが」


「んー・・・この辺りはレポートにあった通りみたいだね・・・ブライトビー、君としては何か不思議な点はあったかい?」


どうやら支部長はまた康太が封印指定一歩手前のこのビデオを解決できてしまうことを期待しているらしい。


だがその期待を裏切るようで申し訳なかったが、康太は小さく首を横に振った。


「すいませんが、現時点で映像や音に術式を乗せてくるということ以外に発見はありません。込められている術式そのものも別段特殊なものでもないようでしたし」


デビットの術式であるDの慟哭が康太の中に入ってきたような衝撃もなければそこまで妙な風景が見えたということもない。


そういう意味ではこのビデオに込められた呪いはえらく平凡だ。封印指定に名を連ねそうになっている割には危険度も低い。


問題になっているのはこれがダビング可能であるというところと、いったいいくつあるのか不明だというところだろう。


「支部長、一応確認したいんですけど、これをダビングしてみてもいいですか?」


「・・・正直了承しかねるのだけれど、その理由は?」


「もし可能なら今すぐにこれを破壊するべきだと俺は思います。解決方法云々よりも魔術の存在の露呈を案ずるならば、これは早めに処分するべきです」


康太の言い分はもっともだった。もちろん本部や支部長だって破壊が最終手段であり最も手っ取り早い方法だと理解しているのだ。


だがそれはあくまで最終手段。これを破壊してしまえば術の解析が不可能になってしまう。


映像の中に違和感なく溶け込めるほどに繊細で自然な魔術の浸透。それは実戦投入することが可能ならばはっきり言って勝手に発動する魔術と同義だ。


しかも本人にとってほとんどノーリスク。消費する魔力でさえ相手に押し付けられるという利便性。


本部の人間がこれを解析してほしいといったのはそういった裏の事情もあるのだ。


「破壊は本当にどうしようもなくなってからの手段だよ。少なくとも初日でとるような手段ではないと僕は思う・・・ライリーベルはどうかな?」


「私もビーに同意見ではありますが、支部長のおっしゃることもごもっともです。とりあえず今はできることをしようかと思います」


文も康太の意見に本心から同意するが、支部長の言葉に理があるのも確かだ。まずはできることをしてからでも遅くはない。


壊すのはそれこそいつだってできるのだから。


康太と文はさっそく呪いのビデオの中に収められていた映画と同じDVDを購入し支部の一室、康太と文のために調査用として支部長が用意した部屋にセットしていた。


ついでに同じタイプのテレビももうひとつ用意してもらい、同時に放映することで二つの映像の違いを探し出そうとしたのである。


「まさか二画面同時とはな・・・っていうか地味にタイミング合わせるの難しいんだけど」


「ビデオとDVDじゃレスポンスも違うしね・・・よしよし、いい感じよ」


康太はビデオの映像とDVDの映像の再生時間を全く同じにすると昨日と同じように飲み物と食べ物を用意した状態でそれぞれの映像を見比べていた。


かなり目が忙しいがそれぞれ何が違いどのように変化があるのかを聞き分けるには重要なことである。


「ただ単純に色あせてるとかそういうのじゃダメだよな?ただ単にこれテープが変色してるだけ?」


「なんとも言い難いわね・・・やっぱ同じようにビデオを買うべきだったかしら?」


「今時ビデオテープなんて売ってないだろ・・・一応有名な作品とはいえこういうのが見つかるとは思えないんだけど」


ビデオとDVDではやはり色彩、というか光の具合なども違ってくるために同時に流し始めた序盤ですでに違いがはっきりしてしまっている。


解像度の違いも音の違いもはっきりしすぎてしまっているだけに二人とも眉をひそめてしまっていた。

というか徐々にどちらがどちらの音なのかわからなくなってきている。


「まずは音声切って映像だけで見比べてみるか。弱体化だけは起きるんだっけ?」


「そうね。見えてると弱体化だけは起きるわ。こうして見比べると違いがはっきりすると思うんだけど、なかなかわかりにくいわね」


もともとテープとDVDの違いということもあって二つの映像の違いは割と顕著になっている。


この状態でしっかりと二つの違いを見極めろというのは困難かもわからない。


だが康太も文も、それを徐々に見つけつつあった。


はっきりとは言えないが、明らかに必要ないような光がところどころに混ぜられているように思う。


単体で見れば別段不思議でもないような光なのだが、DVDのほうには全くない独特な光だ。


それは車やバイクの反射などに混ぜられていたり、発砲の際のそれに混ぜ込まれたりしていた。


「妙に発光してるな・・・これって後付けとかじゃないよな?」


「強すぎる光は規制されるって聞いたことあるけど・・・これはちょっと露骨よね。たぶんこれで間違いないと思うけど」


文は目を凝らしてその光がどのようなものか記憶し続ける。そしてその光を自分で再現しようと試みていた。


そして弱体化が始まった時点で文はその光を再度確認するべく何度か巻き戻してその光が現れ始めたあたりから何度か確認していた。


「ビー、いったん止めるわ。ちょっとチャレンジしてみる」


「さすがベル、光関係だったらお手の物か?」


「光自体は単純なものだからね・・・ただこの光単体で術式を構成してるのか、周りの光と合わせることで発動しているのかはまだわからないわ」


そういって文は康太めがけて映画の中で発せられていた光を再現してはなって見せる。


すべての光を放ち終えても康太は何ともなかった。少なくとも魔術が発動しているようなそぶりも、弱体化しているような感覚も訪れない。


康太は首をかしげながら何も起こらないことを不思議そうにしていた。


「やっぱり単純な光じゃダメか・・・組み合わせってことなのかしらね」


「むぅ・・・呪いの魔術は思ったよりも奥が深いようだな・・・具体的にどの部分が呪いってはっきりわかってくれれば利用しようもあるのに」


相手の視覚に作用して発動する呪いの魔術。もしこれを利用することができれば相手が自分を見るだけで何らかの効果を発動することだってできるはずだ。


それがどの程度の効果を持つのかはわからないが、少なくとも戦闘中特定の行動をとるだけで相手に牽制を加えることができるのは間違いない。何せ相手から目を背けるということは攻撃してくださいと言っているようなものなのだから。


「やっぱり単純にはいかないか・・・ここまでたらいまわしにされてきたんだものね。私たちみたいな新米にどうこうできるようなものでもないのかも・・・最終兵器アリスに頼るべきかしらね・・・?」


「まぁまぁ。ダメでもともとだって。もとより本部は俺たちっていうより、俺らを通じてアリスに助けを求めたいんだろ?ここで安易にアリスに頼れば本部の思うつぼだ」


文の言うように、ほかの支部を転々としてきたという事実がある以上、康太たちと同レベル、ないし康太たちよりも上の実力を持った魔術師たちがいるほかの支部たちでも解決できなかった時点で康太たちが解決できる可能性はかなり低い。


それこそデビットの時のように康太の起源が何かしらの効果を及ぼさない限り解決の糸口を見つけること自体が難しいのだ。


とはいえ康太の言うことももっともである。ここで安易にアリスを頼れば本部の思惑に見事乗ってしまうことになる。


それは一人の魔術師としてあまり容認できない。この件でアリスの力を借りてしまえば本部に『ブライトビーに依頼すれば結果的にアリシア・メリノスに依頼したのと同じ結果になる』という前例を作ってしまうことになるのだから。


極力アリスの力を借りたくない二人としてはここは我慢して自分たちで解決の糸口を見つけるほかないのである。


二人の頭の中にあるさっさと破壊するという選択肢が徐々に大きくなっているのは言うまでもないが。


「光は組み合わせの可能性もあるからなかなかあれだけど、音はどうだ?光と違って出てきてる音は限りがあるだろ?」


画面上に映されている光は多種多様な色合いを見せている。登場人物に加え背景、服装や特殊効果、それこそ光の種類だけを上げるのであればかなりの数がこの中には含まれている。


だが音はどのような種類であっても基本的には振動だ。聞こえてきている音が何かしらの魔術の発動条件を満たす術式を発しているのであれば、その振動さえ真似てしまえば術式を飛ばすことができるのではないかと考えたのである。


「んー・・・確かにそうだと思うんだけど・・・私ぶっちゃけ音の魔術ってあんまり得意じゃないわよ?練習もしたことないし」


「そうなのか?っていうか音って属性は何なんだ?」


「発動条件によるわね。無属性でも再現可能だし、風属性でもできるわよ?空気を揺らしてるわけだからね。無論水でもできるわ。でも水の場合ちょっと扱いが難しいけど」


音というのは単純に言えば物体の振動だ。その振動を人間の鼓膜が受け取り、脳が処理することによって正しく音を理解することができる。


言ってしまえば物体を媒介にする属性であればどのような属性でも音を再現することはできるのだ。

先に文が言った無属性は直接物体に影響を及ぼす形で、風は媒介にしている空気を操る形で、水は液体を振動させることで音を再現する。


他にも土などの属性でも音を再現できるが、この場合は音叉のような共振などに用いられることが多いのだという。


「ちょっと今やってみてくれないか?ベルが音の魔術使ってるのって見たことないかもしれないし」


「・・・いいけど、笑わないでよ?」


そういって文は小さく集中すると何やら高い管楽器のような音を出して見せた。その音は徐々に変わり、ドレミファソラシドの順に音を変化させていた。


「おぉ、それっぽい。声にすることは?」


「人間の声を真似るのって結構難しいのよ?それこそこれをやるならアリスを連れてこないと難しいわ」


音の再現を完璧にこなすならやはりアリスの協力が不可欠となる。単発的な光であれば光属性を得意とする文にも再現できたが、複雑にいくつもの音が混ざり合っているようなものを再現するには文の練度では少々不安が残る。


なかなか難しいものだなと康太は首をかしげながらも、ここで自分たちができることがほとんどなくなってしまったことに気付く。


やはり自分たちではこの件は身に余るだろうかと考えながら、康太は再度ビデオのほうを再生し始める。


序盤の映像、中盤の映像と音、終盤は音。この三つの条件を満たすことで発動する呪いの魔術。


解析して自分のものにできれば役に立つのだろうが、なかなかどうしてうまくいかないものである。


「今回の依頼は失敗かな・・・思えば失敗って初めてかも」


「こればっかりは仕方がないんじゃない?現に私たちができることって見てその詳細を報告するくらいだもの・・・」


康太は一度再生をしたビデオを止めてプレイヤーから取り出す。


今までいろんな依頼を受けてきたが、失敗というか依頼を達成できなかったのはこれが初めてのこととなる。


相性の問題もあるのだろうが、なかなかに悔しい思いをしているのは間違いない。


「一度さ、呪いに詳しい魔術師に話を聞いてみたいよな・・・実際どうやって発動するのかとかさ。これはちょっと特殊すぎて参考にならないって」


「んー・・・確かにそうかも・・・まずは呪いの基本を学びたいわね・・・そうすればまた違った見え方があるかもしれないし・・・」


康太と文は呪いという魔術に対してほとんど無知に等しい。対象の髪の毛を巻き付けた藁人形を五寸釘で突き刺せば相手を呪えるかもくらいの知識と認識しかないのだ。


それで封印指定になるかもわからないようなものを解決できるはずもない。


「ビーは知り合いとかいないの?そういう呪いについて詳しそうな人」


「師匠や姉さんがいくつか呪いの魔術を持ってるって言ってたけど・・・うちの人間が持ってる時点でオーソドックスな呪いではないと思うぞ?十中八九破壊が関係してるから基本ではないと思う」


「それもそうか・・・うちの師匠も呪いのことは知ってても呪いの魔術はあんまり覚えていないみたいだったし・・・」


呪いと一言に行ってもいろいろあるが、人体や精神を対象に影響を与える魔術ということは共通している。


単純に呪いといっても本人が呪いと認識せずに使っていることもあり得るのだ。


無論それは康太と文も同様だ。康太も大別すれば呪いにカテゴライズされる魔術をいくつか所有していることになる。


だがそういうことではないのだ。二人が知りたいのはオーソドックスな、現象に術式を乗せる呪いの魔術なのである。


一種の儀式型の魔術と言えばいいだろうか。とりあえず二人はそういったことを教えてくれる相手を探すことにした。あきらめるのはまだその呪いの技術を習得してからでも遅くないと判断したのである。


あきらめることはいつでもできるが、この機に呪いの魔術を学ぶのも悪くないと思ったのだ。

こういう機会があってこその魔術師生活、常に向上心がなければ成長することはないのである。


誤字報告を二十件分受けたので五回分投稿


久しぶりにこんなに一度に投稿しました。チェックが甘くなっていますね


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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