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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十話「映し繋がる呪いの道」
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呪いの発動条件

「確か、支部長の話ではこの後幻覚が来るなんて言ってたよな?」


「そうね・・・具体的にどこで来るのかわからないけど・・・これ結構面倒くさいわよ?身体能力を下げて固定で金縛り、その後幻覚って、確実に相手を戦闘不能にできるわ・・・まぁこうしてちゃんと視聴しないと発動しないってデメリットはあるけど」


戦闘不能にさせるだけの魔術を発動させているといっても、実際にはこうして映画をちゃんと視聴しないといけないのだ。


戦闘中に行うにしてはずいぶんとデメリットが多い。これを作った人間はおそらく、いや間違いなく戦闘用に作ったものではない。


おそらく道楽の類だ、趣味と言い換えてもいい。映画などにこれらを組み込めるかという実験段階だったのではないだろうか。


現段階ではビデオテープでも、将来的にはDVDやブルーレイなどに呪いの魔術を仕込んでくるようになるかもわからない。


だが呪いのDVDと言われても正直ピンとこなかった。なんとも間抜けな字面のように思えてしまうのだ。


「ところでビーは幻覚とかに耐性はあるの?」


「ないけど・・・なんでだ?」


「たまにアリスが見えなくなってもどこにいるかわかってる節があるじゃない。まぁアリスが見えなくなるのは光系の魔術が原因だけど」


「あれはデビットがざわつくからわかるだけだ。大体俺幻覚なんて見たこと・・・あー・・・まぁ普段見てるあれが幻覚っていえば幻覚なのか・・・?」


康太が普段魔術を発動しているときに見えてくる光景。あれも言われてみれば幻覚の一種と取れなくもない。


実際には存在しないものが見えているのだから、そう考えると康太は常日頃から幻覚を見ていると言えなくもない。


「でもさ、ぶっちゃけ幻覚っていうと・・・あれだ、薬とかでらりってるやつが見るような・・・こう、ぐにゃぁぁああああって感じの奴を思い浮かべるんだけど」


「まぁそれも幻覚の一種ね。脳に直接作用するっていえばいいかしら。今回のそれがどういうタイプなのかはわからないけど・・・っていうかもうすぐ映画終わるわよ?」


もうすでに映画も終盤だ。どこかの工場だか溶鉱炉に追い詰められ、またショットガンを使って敵のロボットを落とそうと必死になっている。


「ここなー。見てて展開わかっててもハラハラするよな。とはいえあれだよ、液体になれるならなんで足元からさっさと液体化して逃げればいいのにな。ウィルだったら余裕で退避してるぞ」


「そこはご都合主義ってやつよ。ほら、強い衝撃を受けて反応が遅れるとかじゃないの?一応ロボットだしさ」


康太と文がそんなことを言っていると、二人の目にはそれが映し出された。主人公たちを守るために現れたロボットが最後の一撃を浴びせる瞬間、目の前にそのロボットが現れて康太や文にショットガンの銃口を突きつけてくるのだ。


一瞬康太と文は唖然としてしまった。これはいつの間に3Dの映像になったのだろうかと思ってしまったはずだ。


決め台詞とともにショットガンを放つ瞬間、強い光が放たれたかと思うとその主人公側のロボットは康太と文の目の前から消えていた。


「・・・え?・・・え!?今の!?」


「・・・完全に趣味用としか思えない幻覚の使い方ね・・・すっごい無駄にリアルだったけど・・・」


康太と文は幻覚が解けた瞬間、先ほどまで康太と文の体を支配していた倦怠感、そして金縛りが解けていることに気付く。


そして物語も終盤、最後の最後に主人公側のロボットが溶鉱炉の中に入っていくのを見送ってエンドロールとなっていった。


「結局、効果としては三つか?」


「最後まで見てみないとわからないわよ?感覚的に物語の序盤、中盤、終盤にそれぞれ仕込んであるってところかしら。エンディングにもう一つあるかもね・・・っとやっぱり」


康太と文がエンドロールを眺めていると、エンディングの音楽とは別に声が康太と文には聞こえてくる。

音に関係する魔術だ。アリスが普段しているように康太と文の耳のすぐ近くで聞こえる声に二人は耳を傾けた。


だが残念ながらそれはすべて英語だった。文は即座にその英語を聞き取って紙にメモしていくが、流暢すぎる上に言葉が早すぎる。何やら興奮しているのか妙に早口なのだ。


そのせいで断片的な単語しか聞き取ることはできなかった。当然康太もだ。これが英語であるということくらいしか理解できず、首をかしげて疑問符を浮かべてしまっている。


「ダメね・・・ちゃんとした英語圏内の人間に聞かないと・・・何言ってるのか全然聞き取れないわ」


「同じく。でもこれ作った人英語圏の人間なのかな?」


「まぁそうでしょうね。普通に考えて・・・っていうかどこで見つかったんだっけこれ?どっかのレトロショップって言ってたわよね?」


「あぁ、そういえばどこの国でっていうのは聞いてなかったな・・・でも本部が動いてるってことはイギリスとかそっちじゃないか?」


康太と文からすれば英語で話されている国はイギリスかアメリカという印象しかない。そのどちらかになるのだが本部が積極的に動いているという点からイギリスで見つかったのではないかと考えていた。あとで支部長に確認してみようと思いながら康太と文は次の調査に進むことにした。


次の調査は術式の飛ばし方による確認である。


康太は目をつむり耳だけで、文は耳栓をつけて目だけで映画を干渉することにしたのである。


両者ともに片方だけの視聴にすることでどの効果がどのような条件で発動するのか確認するのが目的であった。


「やっぱあれね・・・一度ちゃんと見てると映像だけでもある程度見えるものね」


「そうだな・・・っていうかお前聞こえてないよな?ちゃんと耳栓の効果ある?」


康太の声に文は反応することはなかった。ほぼ独り言のようなものだったのだろう、当たり前といえば当たり前だが、返事をしたのに反応してくれないというのは少しだけ寂しい気持ちが康太の中に残る。


対して文は康太のほうをちらちらとみていた。康太は仮面の上からアイマスクをした状態で完全に目をつむり、何も見えていない状態のようだった。


そのため文は康太の前で手を振って本当に見えていないのか確認したりしていた。


康太が完全に何も見えていないのを確認すると、映画から目をそらさないようにしながら康太との距離を詰める。


康太と文の距離は拳一つ分程度、もう少し近づけば肩が当たるほどの距離にいた。


一緒にこうして映画を見ていると家デートのように思えなくもない。一応今は魔術師としての行動中ではあるがこうしてのんびり一緒に過ごすのも悪くはないと思えてしまうのである。


そんな中康太が何やら口を動かしている。文に対して何かしゃべっているのはわかるのだが文は耳栓を着けているために何を言っているのか理解はできなかった。


読唇術でも使えれば理解できたのだろうが、あいにくそんな器用なことができるほど文は多才ではない。


「ビー、私今耳栓着けてるから何言ってるかわからないわよ?」


康太にわかるようにそう言うと、康太は近くに置いておいたメモ帳に『わかってるよ。独り言だ』と記載した。


こうして耳が聞こえなくてもある程度会話ができるようにあらかじめ準備だけしておいたのだ。


目をつむって書いているためにだいぶ不格好な字になってしまっているが、そのあたりは仕方のない話だろう。


康太が方陣術を自在に操れるようになればきっと紙で自在に話をすることができるようになるだろう。

そんなことを考えていると物語序盤、文に違和感が生じていた。その体に身体能力弱体化の魔術が発動していることに気付いた。


「ビー、私の体には弱体化の魔術がかかったわ。そっちはどう?」


『こっちは何もかかってない。弱体化のほうは視覚に影響して発動するらしいな』


声と紙で会話する康太と文はこの映画によって与えられる影響、呪いの魔術がそれぞれ音、映像、そして二つのものを掛け合わせて発動しているように考えられる。


康太と文が映画を見続けて中盤に差し掛かったところ、二人は違和感を覚える。


もう中盤を過ぎたというのに金縛りが発生しないのだ。どういうことだろうかと康太と文が疑問符を浮かべている間に、いつの間にか終盤になってしまい、康太はそれを見ていた。


そう、目をつむっているのにそれが見えてしまっていた。


これが幻覚なのかと康太は眉を顰める。おそらく幻覚の魔術は映像ではなく聴覚に働きかけることによって発動するものであるらしい。


「・・・ふぅ・・・なるほどな」


「身体能力弱体化は視覚、金縛りはたぶん視覚と聴覚の両方、幻覚は聴覚に働きかけて術式を送り込むってところかしら?」


康太と文はそれぞれつけていたアイマスクと耳栓を外して小さくため息をついていた。いくら映画とはいえ同じものを一時間半近く見続けるというのはなかなかに苦行である。


「たぶん間違いないだろうな・・・今更なんだけどさ、五感に働きかけて術式を送り込むなんて、そんなこと可能なのか?」


康太の問いに文は口元に手を当てて悩みだす。


文は今までいろんな魔術を覚えてきたが、他者に発動するタイプの魔術はあまり覚えてこなかった。


特に今回のような呪いに関する魔術ははっきりって康太と同程度の知識しか持ち合わせていない。


発祥地やある程度どのような効果があるとか、昔にどのような儀式などが行われていたかの断片的なものでしかない。


そのためにこのようなことが可能なのかと聞かれると正直疑問ではあったが、実際に自分たちが意図していない状況で魔術が勝手に発動したのも事実だ。


そう考えるとできてしまっている。『できるのかどうか』という段階を完全に飛び越えて『すでにできてしまっている』のだ。


ただその手法がわからない。


計算式を見せられずに答えだけをいきなり見せられているような不快感を文は覚えていた。


「実際起きてるわけだし、可能であると考えるしかないわね・・・具体的にどういう手法を使ってるのかは正直わからないわ・・・こういう魔術に詳しい人に聞いてみるのが一番手っ取り早いと思うけど」


二人の頭の中に真っ先に浮かび上がったのはアリスである。アリスならばこの世のほとんどの魔術について多くの知識を有していることだろう。


だがすぐにアリスに頼るというのはあまりにも情けない。康太と文は最初にアリスに頼るという考えを即刻捨てていた。


日曜日なので二回分投稿


土曜日は仕事でした(´・ω・`)


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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