文、暴走
「あー・・・さすがに疲れたわね・・・今日一日ずっと滑りっぱなしだったし」
「・・・そーだな・・・疲れた」
二人の疲れの割合として肉体的な疲れと精神的な疲れが四対六くらいの割合だろうか、文は告白したことで、康太は告白された後で延々と考えていることでそれぞれ疲れてしまっているようだった。
康太は何やらぎこちなく返事をしているのに対して文は吹っ切れているせいもあって非常にさばさばとした対応をしている。こうしてみると二人の精神状態がよくわかる。やりきった文に比べ、やはり課題を残された康太はもやもやしてしまっているようだった。
無理もないだろう、男子高校生にとって告白とは誰もが憧れるものであるのだ。
「康太、お風呂入ってくるけど、一緒に行く?」
「え?あぁそうだな・・・うん、行く」
文の言葉にも反応しきれていない。この状態で訓練などしたらきっと大怪我をするだろうなと思いながら文は苦笑してしまう。
きっとかつての自分もこんな状態だったのだろうなとテニス部の練習にも参加できなかった時期を思い出しながらよしよしとうなずいていた。
しっかりと康太が自分のために考えてくれているということを理解して少しうれしかったのだ。
割と勢いでとんでもないことを言ってしまったような気がするが、それはそれ、若いうちにはこういうこともあるものだと割り切ってしまっていた。
そして部屋の中で風呂に入る準備を進めている中、文はあることに気付く。この部屋は運よく風呂が内蔵されているのだ。
せっかくこういう部屋に割り当てられたのだからそれを利用しない手はない。
「・・・ねぇ康太・・・どうせだったら一緒に入る?」
「は?大浴場は男女別だろ?」
「うん、だからこっちのお風呂に」
こっちのお風呂と言われて康太は今更この部屋には家族風呂的なものがついているということを思い出してなるほどとつぶやく。
そしてその言葉の意味を理解したのか首を勢い良く横に振る。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!何言ってんだ文!さすがに飛びすぎ!まだ俺気持ちがついていけてない!」
「わかってるわよ。だから畳みかけようとしてるんじゃない。今私もう一周回ってどんどん先に進めそうな気がするのよね!」
告白という一大イベントを終えてしまったからか、ランナーズハイとはまた違うかもしれないが文は一種の興奮状態にあるようだった。
正常な判断ができているかどうかはさておいて、ここは一気に康太にアプローチをかけて文の告白に対して首を縦に振る方向にもっていこうと考えているようだった。
後々冷静になってから後悔しそうな状態だが、文にとっては混乱している康太に対して畳みかけるというのは悪い案ではないように思えたのだ。
「大体あれだよ、お前風呂覗こうとしたとき不能にするとか言ってたじゃんか!俺やだぞ不能になるの!」
「あの時はあの時よ。まだあの時はあんたのこと好きじゃなかったし・・・それに私だけあんたの裸を見たことがあるっていうのはちょっと不公平に思えてね」
「・・・ん?俺お前に裸見せたことあったっけ?上半身だけな気がするんだけど」
「あるわよ。あんたが忘れてるだけでしょ?」
「・・・そうだったかな・・・?」
忘れているだけと文は言ったが、実際は康太が気を失っているときの話である。より正確に言えば三日間康太が意識を失い続けていた時の話だ。すでに文は康太のすべてを見てしまっている。だというのに文だけ隠した状態だというのは不公平に感じられたのである。
実際は別に不公平でも何でもないのだが。
「いつもあんたが自慢げに体を見せつけてる分今度は私の番ってことよ!触るのはさすがにあれだけど見る分にはどうぞご自由にって感じよ!」
「・・・大丈夫か?なんか明らかにテンションおかしくなってるぞ?あとで絶対変なことになるって」
「いいのよ!このテンション維持してないとなんか逆にダメな気がするの!いいからとっとと脱ぎなさい!」
「ちょ!いやぁぁぁ!」
有無を言わせずに文は康太の着ていた服をはぎとりにかかる。もはや文自身もどういう状態なのかわからなくなってきていた。
一時のテンションに身を任せると大変なことになるといういい例がここにある。康太は考えることも許されずに文に一糸まとわぬ姿にされてしまった。
とはいえさすがに股間をタオルで隠すくらいは容赦してもらった。そうでないと文も堂々と胸も股間もさらけ出すような状態になってしまうと思ったのだ。
告白されたからと言って嫁入り前の女の子にそんな男らしい格好をさせるわけにはいかないと康太なりの最大限の抵抗のつもりだった。
「・・・くっそう・・・なんか男女逆転してないか?普通男が脱がせる側だろ・・・?」
「何言ってるのよ。昨今の女の子は男よりも強いのよ。あんたの周りってそういう人ばっかりじゃないの」
「・・・そういえばそうだったわ・・・なんか自信なくなってくるな・・・」
康太の周りにいる強い女性陣のことを思い出して康太は男としての自信が崩壊しかけていた。
とはいえここまで事態が進んでしまったのだ。もうこれは一緒に入浴する以外に手段がないのだなと康太は同じようにタオルで体の局所を隠した文のほうを見て顔を赤くしてしまう。