文の告白
「あ・・・いや・・・あの・・・えっと・・・文さん?それはその・・・マジで言ってるのか?」
「・・・マジよ」
「あー・・・えっと・・・ちょっと待ってくれ頭が混乱してる・・・てか・・・えー・・・いつから!?そんなそぶり見せなかったじゃん!」
康太は本気でわかっていなかったのか、文に詰め寄る。告白したというのに全く態度の変わらない康太。普通は狼狽したりするのだろうがそれすらない。
もちろん康太だって動揺しているし混乱している。だからこそ文に詰め寄ったのだがその様子が文にとってはいつもと同じように見えてしまった。
詰め寄ってきた康太が接近してきた時点で、文はもうすでに許容限界を軽く超えてしまっていた。
「うっさいわね!好きになっちゃったんだからしょうがないでしょ!文句ある!?あんたに助けられた時にやられちゃったのよ!あん時よあん時!ウィルでパラグライダーやった時!あんときに好きになったのよ!」
胸ぐらをつかんで怒鳴り散らす文に康太は「えー・・・」と心底困ってしまっていた。なんで自分は怒られているのだろうかと思いながらも康太は疑問点がまだあった。
助けた時に好きになられたというのは康太としてはうれしい限りだ。だが文を助けることなど康太にとっては当たり前だったのになぜそのタイミングなのか。
「でもさ文、なんであの時なんだ?ほかにもタイミングなんていくらでもあったように思うんだけど・・・?」
「私だって知らないわよ!その時やられちゃったんだからしょうがないでしょ!」
康太の疑問はもっともだったがそれは文自身も抱えた悩みだった。彼女自身なぜあのタイミングなのか、そもそもなぜ好きになったのかすらわからなかったのだ。康太の問いに答えられるはずもない。
「もうなんでこんな奴好きになっちゃったのよ!こっちが恥ずかしい思いしてるってのにあんたと来たらいつも通りにふるまうし!なんか無駄にいい体見せつけてくるし触らせて来るし!当たり前に一緒の部屋とかとるし同じベッドで寝るし寝てる間に抱き着いてるし!」
「いや待て、寝てる間に抱き着いてきたのは文のほう」
「わかってるわよそんなの!いつの間にか抱き着いちゃったんだからしょうがないでしょ!アリスのせいであんたのにおいを妙に意識しちゃうしもう何なのよ!でもしょうがないじゃない幸せだったもの!あれもこれももう全部あんたが悪い!」
あまりにも理不尽な怒りに康太はなんで俺今怒られてるのと絶賛混乱中だった。
惚気とも告白とも取れる圧倒的剣幕に康太はどうしたものかと割と本気で困ってしまっていた。
だが文も自分の中にため込んでいた感情を吐き出したからか妙にすっきりしていた。その感情をすべて一度に向けられた康太からすれば混乱してしまうのも無理はないが、文はすっきりした顔で、なおかつ吹っ切れたという表情をしていた。
正直に康太と向き合って自分の感情のままに言葉をぶつけたことで、いろいろと気持ちの整理がついてしまったのだろう、文は大きく息を吸い、肺の中に冷たい空気を一気に送り込むと大きく息を吐く。
「さっき私が言ったこと、覚えてるわよね?」
「えっと・・・それってどっからの話?」
「あんたにチョコを渡した後の話よ」
「・・・えと・・・義理じゃないって話か?」
「そうよ。どうせあんたのことだから私のこと今まで相棒とか頼りになるとかそういう風にしか見てこなかったんでしょ?」
効果音などが実際に耳に聞こえたらきっとギクリという擬音が届いたことだろう。それほど康太はわかりやすく反応して見せた。
やっぱりねと文は大きくため息をつくが、それでもいいといった様子で康太に自分の顔を近づける。
「今はまだ返事は聞かないわ。あんたも頭の整理をする時間が必要でしょうからね・・・今回は私の不意打ちみたいな形で告白しちゃったし・・・あんたの気持ちの整理がついたら返事を聞かせて」
「えと・・・でも」
「ただし一つだけ条件があるわ。本当のあんたの気持ちが知りたいの。何度も言ったことだからもう言いたくないけど、あんたが抱えてるものとか申し訳なさとかそういうの全部抜きにして。私が好きかどうか。私を女としてみることができるかどうか、それが知りたいの」
文は康太が言わんとしていることを理解している。だからこそ康太よりも先にそれを口にした。
康太は良くも悪くも多くの者を抱え込みすぎる。デビッドによって死んだ二万近い人間の死を体験し、ウィルの中にある数十人の人間の意志を感じ、それらの人々に妙な形で遠慮してしまっている節がある。
そういうものを無視して、康太がどう思っているか、文はそれが知りたかった。
これで康太が文のことを女としてみることができないというのであれば、あきらめもつくというものだが、そうでないのであれば話は別だ。
意地でも康太に本当の気持ちを言わせてみせると文は躍起になっていた。
「・・・この際だからちゃんと言っておく・・・私はあんたが好きよ。ずっと一緒にいたい。可能なら、私の全部をあんたにあげたい。・・・そして・・・私はあんたの全部が欲しい」
「・・・」
康太は何も言えなかった。自分の胸ぐらをつかんだ状態でこれほどまでに男らしい告白を聞くことになるとはと驚きに加えここまで文が自分のことを想っているとは思わなかったのである。
「私は自分の気持ちに正直になったわ・・・あんたも、あんたの気持ちに正直になって。どんな返事でも、そうしたら文句はないわ」
そういって文はゆっくりと康太の胸ぐらから手を放す。名残惜しそうに、そして後悔はなさそうに。




