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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十九話「鐘子文奮闘記」
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渡す時の言葉

「そ・・・そういえば康太、今日ってバレンタインデーじゃない?」


「・・・あぁ・・・そうだな・・・そうだよ・・・バレンタインデーだよ・・・!」


文の言葉に康太は思い切り暗くなりながら大きくため息をつく。思っていた反応と違うなと文は首をかしげながら康太の反応を確認しながらも話を先に進めることにした。


「なんでそんなに落ち込んでるのよ・・・」


「だって今年もきっと母親からしかもらえないぞ?この間さ・・・島村の奴に彼女ができたって話はしたじゃん?青山も必死に彼女作ろうとしててさ、今日告白するとか言ってたんだよ・・・」


「あー・・・あんた相変わらずあの二人に対抗心燃やしてるのね」


まさか康太の同級生がそんな状況になっているとは知らなかった文、康太はその性格からして彼女をガンガン探していくというタイプではない。少なくともナンパなどは絶対にやらないタイプだ。


かといって彼女が欲しくないわけではない。むしろ康太としては彼女が欲しいと思っているのだろうがなかなかそう簡単に彼女ができるはずもない。


良くも悪くも康太は受け身なのだ。自分で行動しなければ彼女などできるはずもないのである。


とはいえ康太の場合行動している時間的な余裕などないのだ。普段は部活に魔術の訓練など、やることが山積みになっているせいで私生活をほぼ犠牲にしている形になる。


プライベートがほぼないのではないかと思えるほどだ。


「きっと月曜日に自慢されるぜ・・・これでもし青山の奴に彼女ができたら・・・クラスの陸上部メンバーで彼女いないの俺だけだよ・・・なんだよこの疎外感」


「・・・あんたってそんなに彼女作ってどうしたいのよ・・・自慢するために彼女が欲しいわけ?」


「ざっけんな!そんなキーホルダー感覚で彼女なんて欲しくないわ!普通にイチャイチャしたいんだよ!青少年の性欲なめんな?あんなことやこんなこと、口に出せないようなことまでいろいろと」


「はいストップ。家族連れもいるんだからそういうことを言うのはやめなさい。ったくもう・・・良くも悪くも直球な奴」


文は康太から視線をそらしながら、もし自分と康太が付き合ったらいったい何をされてしまうのだろうかと困惑していた。


文だって付き合い始めたら康太としたいことは山ほどある。確かに康太の言ったようなことを最終的にはするだろうが、康太のこの言い方だと付き合ってすぐにそういうことをしそうで恐ろしいのである。


もちろん拒否するつもりはない、そんなつもりは毛頭ないがやはり心の準備というものが必要なのだ。


すでに康太の裸を知っている文は康太のあられもない姿を想像して顔を赤くする。康太の顔をまともに見られないが、話は先に進んだ。


バレンタインデーということを正確に把握していたのだからそこから話を先に進めればいい。


「ていうかあんたって今まで女子からチョコもらったことなかったの?」


「ないな。身内以外は一度もない。なんたってモテなかったからな!」


自慢していうことではないが、文にとってはチャンスだ。これ以上ないチャンスだ。初めて身内以外からのチョコという強く印象に残るチョコを渡すことができる。


だがそうなってくるとやはりもう少し凝ったもののほうがよかっただろうかと考えてしまうが、シンプルイズベストという言葉もある。ここは変に冒険するよりはいいと覚悟を新たにしていた。


ここで言おう。この流れで言ってしまえばあとはどうにでもなる。康太が話を先に進めてくれればきっと渡しやすい空気になると読んだうえで文はほんのわずかに深呼吸してから康太に微笑みかける。


「そう・・・ならそう・・・ね・・・戻ったら他人からの生まれて初めてのチョコ、あんたに上げるわ」


「・・・まじっすか?まじっすか文さん!」


「嘘ついてどうするのよ。そこまで意地悪くないわよ」


「よっし!って待てよ、そのあたりで買った板チョコとか十円チョコとかは嫌だぞ?さすがに泣きたくなってくる」


「ちゃんとしたの作ってきてるわよ失礼ね」


「まじっすか!愛情は?愛情はこもってる?」


「・・・こ、込めたわよ!安心しなさいっての!」


愛情を込めたかなどと訳の分からないことを聞かれてつい込めたなどと言ってしまったが、この場で言うことだっただろうかと文は眉をひそめてしまっていた。


だが康太は愛情を込めたかという言葉自体はそこまで意識したものではなかったらしく、文からチョコをもらえるという事実をただ純粋に喜んでいるようだった。


単純すぎるのも考え物だ、そして考えすぎるのもよくないなと文はコップに入った水を一気に胃の中に流し込む。


体が熱い、妙なことを言ったばかりに顔が真っ赤になっているのがわかる。なんでスキーに来たのにこんなに熱い思いをしなければならないのかと文は手をうちわ代わりに顔に風を送っていた。


だがこれではまだ足りない。きっと康太は文からのチョコは義理か普段の礼として受け取るはずだ。もう一つ、もうひと手間加えなければ康太の考え方は変えられない。


お膳立ては済んだ。あともう少し、渡すときにもうひと押しすれば康太を変えられる。文はそう意気込んでもう後戻りはできないところに来たのだと覚悟を決めていた。









康太と文は昼食が終わった後、再びスキーを満喫していた。


延々と滑っているだけではなく、時には競争したり、時には技に挑戦したりと普段できないことをやり続ける。


普段できないことからこそこうして楽しめるというのもあるだろう。康太は特に何も考えず、文は先ほどの覚悟を何とか一時的にでも忘れようと懸命に雪の上を滑走していた。


すでに二人は完全にスキーの勘を取り戻したのか、上級コースでも問題なく滑ることができている。


雪を弾き飛ばしながらカーブし、スピードを出した状態で速度と技術を競いながら雪の上の滑走を楽しんでいた。


「だいぶ慣れてきたな。文もこんだけ滑れるとは思ってなかったよ。やっぱ経験がものをいうって感じか?」


「思い出しても子供の頃のだからね、あくまで実力よ。それにしても・・・やっぱり上に来てる人たちはみんなうまいわね・・・」


「そうだな、もしかしたら常連の人とかいるのかもしれないぞ?」


スキー常連というとあまりイメージできなかったが、滑ることが好きというよりも滑ることを職業としている人物であればそれも不思議ではない。


ウィンタースポーツは今がまさに旬なのだ。今でこそ人工雪のおかげでどこでもいつでもスキーを楽しむことができるようになったが、こうした自然の雪の上でこそできる練習もある。


そういう人たちがこぞってやってきても不思議はない。家族連れなどはよほど全員が滑ることができない限り上級コースにはやってこない。だがそうしたスポーツ選手などはやはり上級コースなどで技術を磨いているのだ。


康太たちも上級コースにいるが、何人かその技術の高さが目立つ人物がいる。動きがそもそもただ滑りに来た人とは違うという印象を受ける人々だ。


康太と文は上級コースの入り口までやってくると一度休憩するべくその場に座り込んでいた。


さすがに何度も何度も滑りっぱなしでは疲れてしまう。上からの雪景色を満喫しようと寒空の下並んで座っていた。


「いい景色だな、カメラ持ってくればよかった」


「携帯だとどうしても限度があるものね・・・今度デジカメでも買う?いろいろと記録に残せるわよ?」


「それもいいな・・・こういうのは確かに記録しておきたいかもしれない。あとは空の上に行ったときとか写真撮りたいな」


「あぁ、あんた結構飛び回るものね。ウィルのパラグライダーもあるし」


康太はその気になれば空くらい簡単に飛べる。跳ぶこともできるし飛ぶこともできる。そういった景色を記録に残しておくのもよいのではないかと思ったのだ。


こうして目の前に広がる雪景色を見て、康太は正確な記録に残せないことが少しだけもったいないと思っていた。


「こういうのを記録する魔術とかってないのか?見た映像をそのままこう映し出せるような感じの」


「あるとは思うわよ?ただ私は知らないわね。そういう魔術は覚えてこようとしなかったから・・・」


康太が言うような魔術ははっきり言って戦闘にも隠匿にも役に立たない。完全に趣味の領域の魔術だ。


そういったものがないわけではないだろう。きっと数が少ないだけで探せば見つかる可能性は高い。


とはいえ率先して覚えようとは思わなかった。まだまだ覚えたい魔術がたくさんある。覚えたほうがいい魔術が山積みだ。そんな中で趣味の魔術を優先するなど馬鹿らしい。


そう考えて、文はふと考える。


「康太、あんた覚えたい技術ってあるの?」


あえて技術と言葉を濁したが、康太は文の行っている技術が魔術であるということはすぐに理解できた。

だからこそ迷わずに、すぐに考え返答することができた。


「覚えたい・・・?そりゃたくさんあるぞ?まだまだ覚えなきゃまずいものはたくさんあるしな」


「そういうのじゃなくて、あんたが好きだから覚えたいとか、こういうことがやりたいから覚えたいとか、そういうの」


康太が覚えたいといっているのは実力的に覚えなければまずいと感じているからこそそう思うのだ。


だが文が聞きたいのは、先ほどの趣味の魔術の関係ではないが康太自身が興味を持ち、覚えたいと思うようなものである。


自らの欲求によって生まれる、覚えたいと思えるもの。それは誰かに覚えたほうがいいといわれたものでもなく、その必要に駆られたからでもなく、本人が覚えたいと渇望したからこそ得られるものだ。


その渇望を文は一度も見たことがないのである。


康太も文の言いたいことを、聞きたいことを理解したのか悩み始める。何せ今まで一度もそういったことを考えたことがなかったのだ。


覚えなければいけないではなく、覚えたほうがいいではなく、覚えたい魔術。


それはきっと康太の魔術師としての本質にかかわってくるものなのだろう。魔術師として康太が誰にも影響されることがない、何よりも純粋な魔術師としての存在なのだ。


前々から康太がそういったことを言っているのを聞いたことがないからこそ文は気になったのだ。

どのようになりたいか、それは本人が何をしたいかに影響される。康太が魔術師になった後で何をしたいと願うのか、文は知りたかった。


「そうだな・・・覚えたい・・・か・・・って言われてもな・・・」


「どんな風になりたいよりはずっと簡単だと思うわよ?どんなことをしてみたいかってだけだし。どうなの?」


以前康太が聞かれたどのような魔術師になりたいかという将来的な話よりもさらに手前、具体的に言うなら魔術師になって何をしたいかという話だ。


それは職業的なものでもいいが、単なる行動でもいい。


例えば空を飛んでみたいとか、ものを浮かせてみたいだとか、火を噴いてみたいだとかその内容は様々だ。


どんなことをしてみたいかといわれると康太は唸りながら考え始める。自らの素質も完全に無視して、単純に聞かれているのだ。


要するに『君は魔法を使えたら何がしたい?』と言われているようなものだ。


少年の心で、将来的な欲求をすべて無視しただいま自分が何をしたいのかを考えた時、康太は一つ思いつくものがあった。


「そうだな・・・空を飛んでみたいっていうのはあるな」


「・・・あんたウィルと協力すれば空くらい飛べるでしょ?」


「いやいや、あれは飛んでるっていうか飛ばされてる感じなんだよ。俺はタンポポになりたいんじゃなくて鳥とかになりたいんだ」


タンポポと鳥という表現に文はなるほどと納得してしまっていた。タンポポは風に揺られその種を飛ばす。綿毛は風にあおられ飛んでいく。だがその飛ぶ先を決めることは綿毛にもタンポポにもできない。


だが鳥は自分で行先を決めることができる。自由自在に空を飛ぶ。本当の意味で自由自在であるかは正直微妙なところではあるが、少なくとも康太には鳥たちは自由自在に空を飛んでいるように見えるのだ。


だが確かにあのように空を飛べたら気持ちが良いだろうと思うことは多々ある。


「なるほど、空中浮遊じゃなくて飛行が欲しいのね?そうなるとまぁ無属性の念動力は必須かしら」


「やっぱそうなるか。ちなみに風じゃダメなのか?」


「あんたの言うところの飛行をかなえようとするならダメね。あれは飛行機に近いわ。あるいは電気とかで飛ぶこともできなくはないけど、あれはどっちかっていうとリニアっぽくなっちゃうし」


風の魔術を使えば確かに飛べる。康太のようにパラグライダーのようにして飛ぶことだってできるし文のように力技で飛ぶこともできる。


竜巻を作れるレベルの風属性の魔術を扱えるものであれば風の力を使って空を飛ぶことくらいは容易だろう。だが康太が欲しがっているのはそういったものではないのだ。


「俺なら無属性得意だし何とかなるかな。思いっきり自由自在に空を飛べるか?」


「・・・んー・・・あんたの場合持続力がないからね・・・正直空を飛ぶって言っても限定的になっちゃうし・・・」


康太の素質的に長時間魔術を使用し続けるというのは難しい。魔力の放出は良くても供給が消費に追い付かない。


現実に飛行しようと思えば少々特殊な方法を使わなければいけないだろう。


「コツさえつかめば普通よりも少ない出力で空を飛ぶことはできるわよ?もっともあんまりお勧めしないけど」


「ちなみにどんな?」


「飛行するときたいていは体全体に念動力をかけるんだけど、そうすると出力をかなり高くしないといけないから一部だけに限定するのよ。例えば靴とか」


「・・・なるほど、これと同じ状況にするわけだな」


康太はそういってスキー板とがっちり固定されているスキー靴を軽く叩く。文が提案した飛行のテクニックはまさにスキーのそれと同じだ。


念動力によって靴を浮かせ、その靴を履くことでかなり不安定ながら空を飛ぶことはできる。


だが先も文が言ったようにあまりお勧めできるものではない。何せ体は全く念動力がかかっていないために不安定だし、人間の体を持ち上げるだけの力は発動し続けなければいけないのだ。


普通の念動力の発動よりも範囲が狭まる分消費魔力も出力も低くて済むが、少々テクニックを要する分難易度は高い。


「あれ?じゃあさ、普通の魔法使いみたいに箒にまたがって飛ぶってこともできなくはないわけか?」


「もちろん可能よ?座ってる分まだ安定するかもしれないわね。何ならあんたの竹箒で練習する?」


「いいなそれ!ちょうど俺が今覚え途中のやつでさらにいい感じにできそうだ」


康太はやる気をみなぎらせている。自分のやりたいことが見つかったのはいいのだが、単純に消費魔力の問題が残っているのだがそこはどうするつもりなのだろうかと文は疑問符を浮かべてしまう。


もっとも長時間使わなければいいだけの話だ。あくまで使うのは康太なのだから使い方は康太が一番よくわかっているだろう。


文は康太が使いやすい魔術を選んでやるのが一番だ。


康太の求めている魔術で言うと、射程距離はそこまで長くなくともよいが、自分の周りに念動力を発動できるタイプの魔術がいいと思われる。


使用できる範囲が限定されている分使い方も限定されているかもしれないがそれでも康太はうまく使うだろう。


戻ったら早速教えてやるかと文は少しだけ微笑みながら康太のさらなる成長を楽しみにしていた。


無属性の魔術は相性が良いから早く覚えることができるだろうと高をくくり、文はゆっくりと立ち上がろうとして若干バランスを崩して倒れこんでしまった。















スキーというのは昼も夜も行うことができる。スキー場に照明があれば夜の雪景色の中滑ることができる。


今回康太たちが向かったスキー場ももちろん夜に滑ることができる。そのため康太と文は宿で少し休んでから最後にもうひと滑りしようと上級コースを訪れていた。


夜ということもあって昼間とはまるで景色が違う。コース上はかろうじて照明が行き届いているが、それも数メートルコースから外れると全くと言っていいほどに何も見えなくなってしまう。


だが月明かりと照明に照らされて、日中とは違う輝きを放つ雪は幻想的だった。


そして滑り、雪を巻き上げる瞬間にその光が空中を舞う、その光景は美しく、昼間の活気あふれる世界とは打って変わった静かで風情あふれるものだった。


「なかなか夜のスキーっていうのも乙なもんだな・・・あんまり速度出せないのが難点だけど」


「仕方ないわよ、見通しも悪いし昼間と違って距離感もとりにくいし・・・何よりどこにだれがいるのか判別しにくいじゃない」


日中であれば当たり前にわかる他の客も、これだけの暗さとなると判別が難しくなってしまう。


康太たちはまだ魔術によって何とかぎりぎりのところで判別し回避できるかもしれないが、常時索敵の魔術を発動しているわけでもないのだ。


先ほども同じナイトスキーを楽しんでいる客と接触しそうになってしまったものである。何とか回避できたとは言えこの状態でスピードを出す勇気は康太にも文にもなかった。


「でも雰囲気いいわね・・・こうして人の声なしに静かに滑るっていうのはなんか・・・すごくいい気分」


「寒いけどな・・・音がない分そう感じるのかもしれんけど」


音がないから寒い。康太の独特な言葉に文はそんな感覚があるだろうかといぶかしんでしまう。


確かに日中は家族連れやアナウンス、そしてほかの客などの滑る音などが頻繁に聞こえていたためにある程度うるさかった。


だが今は康太と文の声、そして滑る音、そして時折吹く風が周囲の木々を揺らすような音しか聞こえてこない。


音と寒さの関係性はないが、確かに音がないことで寒さが加速しているといわれると何となくそう思えてしまうのも無理はないなと文は考えていた。


「康太、手だして」


「ん?はい」


「ん・・・それじゃ・・・はい」


康太が無造作に差し出した手に、文は旅館から回収したチョコを置く。


康太は一瞬これがなんであるのか理解できていなかったようだが、今日がバレンタインデーだということを察して一気にテンションが上がっているようだった。


「ぉぉおおおおお!これはあれですか!チョコですか!やったぜ!これで今年は家族以外からもらえたって自慢できる!」


「喜んでもらえて何よりよ。一応頑張って作ったんだからね」


恥ずかしさが勝ってしまい、ぶっきらぼうな渡し方になってしまったがそれでも康太は非常に喜んでいるようだった。


その喜びようを見ると渡してよかったなと心底思う。


スキー板を履いている状態なので飛び跳ねるようなことはできないが、それでも康太は全身で喜びを表現している。


こういう時にはっきりと喜んでくれると嬉しいものだ。文はわずかに微笑んでいると康太は大きく息を吐く。


「いやぁ・・・義理でもうれしいよ・・・ありがとな文今年はいい年になりそうだ」


義理。


康太のその言葉に文はやっぱりかと内心思ってしまっていた。康太はこのチョコを義理チョコや友チョコの類であると考えていることは大いに予想できた。


ここからが正念場であると文は大きく息を吸って固めてきた覚悟を地盤に思い切り前へと進むことを決意する。


「義理じゃないわよ、それ」


「・・・ふぁ?」


「・・・だから、それ・・・義理じゃないっつってんのよ」


あたりは暗く、康太は文の顔の色を見ることができていない。文自身も康太のほうを見ることができずに顔をそむけてしまっていた。


だが容易に想像できるだろう。文の顔は真っ赤になってしまっていた。ついに言ったのだ。はっきりと口にしたのだ。


そのチョコが義理のものではないと。本命のものであると。


康太はその言葉の意味を正確に理解するのにかなり時間がかかってしまっていた。その手のうちにあるチョコの存在を確認してなお脳がその言葉の意味を理解しかねているのか疑問符を浮かべてしまっていた。


だがその言葉の意味が本当にわからないほど康太も馬鹿ではない。


義理ではない。つまり本命であるということ。それを自分に渡してきたことがどのような意味を持っているのか、いくら康太だってその考えに行き着くことができてしまう。


しばらく康太は放心してしまっていた。開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだろう。


今まで相棒とばかり思っていた文が、自分に好意を寄せていた。自分のことを異性として感じていた。

その事実に康太は大きく動揺してしまっていた。


誤字報告を十五件分受けたので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです。

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