止める方法
なんにせよ相手を完全に気絶させないとどうにもならないなと思い、康太はひとまずDの慟哭を発動する。
あれが魔術であり、発動している以上魔力を消費している。となれば消費魔力に加えて康太が使えるDの慟哭で魔力を奪えば相手の魔力の供給量を消費量が上回るかもしれない。
あわよくばという期待を込めての発動だったが、康太の体の中に魔力が流れ込んできても相手の魔力の総量はほとんど変わらなかった。
どうやらそれなりの供給口を持っているようだ。うらやましい限りだと思いながらも康太は攻撃の準備をする。
まずは物理攻撃、あの魔術がどのようなものなのかはわからないがとりあえず物理的な干渉能力を持っているかどうかを確かめる必要がある。
康太は初手として再現の魔術を発動、ナイフの投擲を放ち相手の足元を狙ってみることにした。
康太の持つ攻撃の中では最も弱い部類に入るナイフの投擲、ちょうど光の粒子を通過する形で足に直撃するコースをたどるかと思われたのだが光の粒子に直撃すると同時に聞きなれない妙な音がする。
金属音にも似ているがどこか違う。だが何かしら障壁に似た効果を持っているのは間違いない。
結論から言えばナイフの攻撃は相手には届かなかった。もとより威力の低い攻撃だとは言え、投擲したナイフを防ぐ程度の防御力は持っていると思っていい。
物理系の攻撃がだめなら現象系の攻撃ならばどうかと、康太は指先から炎を作り出すとそれを弾丸のようにはなって見せた。
光の粒子に着弾すると同時に、弾丸は細かく霧散していってしまう。完全に防御性能を有した霧状の魔術に康太は眉をひそめていた。
熱量を持っているわけではないようだが、だからと言ってただの現象というわけでもない。おそらく物理的な干渉能力を有しているものだろう。
軽い攻撃や現象系の攻撃では干渉することができず突破することも難しいとなると、気絶させるのは至難の業だ。
何せその体自体からあの粒子は噴出されている。あの粒子が防御性能を有しているとなると再現のような念動力に属した物理攻撃も、炎などの属性に関する現象攻撃も当てることが難しくなる。
康太が大量の炎を噴出させるようなことができれば相手に攻撃を通すことも可能だろう。火弾の魔術を最大限まで威力を高めれば相手にダメージを与えることもできるだろうが、それでは相手を無用に傷つける。
別に相手を痛めつけたいわけではなく、ただ単に気絶させたいだけなのだ。
それならばと今度は自分の腕についている盾から一つだけ炸裂鉄球を発動する。相手めがけて直進した鉄球は先ほどのナイフとほぼ同じ場所に着弾するように相手めがけて襲い掛かる。
だが先ほどのナイフの投擲と同じく、妙な異音を発しながら急激に減速。男性に届くことなく地面にゆっくりと落下していく。
康太はその鉄球を物理解析の魔術で確認すると、鉄球の表面にかなり細かい傷が無数についていることに気付くことができる。
あれは防御だけではなく、どうやら攻撃も可能なものであると判断した。
さらに攻略が難しくなったかなと康太は眉を顰める。物理、念動力、現象、そのすべての攻撃が通じない。
いや通じてはいるのかもしれないが明らかに無駄撃ちに終わっている。
光の粒子自体はある程度動いていることから多少の物理法則によって動作することができることはわかるのだが何せ数が多い。
康太の使う炸裂障壁、この炸裂状態の刃をさらに細かく、そして動きにくくしたような魔術があの光の粒子の正体なのだろうと康太は分析していた。
あのような魔術に対しては水属性の魔術が効果的だ。ただ単なる攻撃ではなく、隙間から通っていく攻撃ならば効果がある。
先ほど康太が考えたように大量の炎を作り出せば、弾丸状ではなくただの炎として顕現すれば相手にダメージも与えられる。
こういう時に水属性の魔術を覚えていなかったことを後悔するが手がないわけでもない。
ウィルのような半液体上の魔術ならば効果的に相手に攻撃を加えることもできるだろう。問題はあの粒子にウィルが接触しても問題ないかという点である。
もともとウィルの物理的な防御能力は高い。だがそれは硬化した状態の話だ。軟体状態で物理的な攻撃を受けた場合どうなるか分かったものではないために康太は少しだけ迷っていた。
幸いにして相手は意識がほとんどない状態だ。うめきながら言葉にならない言葉を延々と口にし続けている。
ぎりぎりの状態で魔術を発動しているのだろう、いったいどのような精神状態なのか、どのような魔術を発動しているのかわかったものではない。
だがとりあえずやってみないことには話は進まない。自らの外套に変化しているウィルに意識を向け、康太はゆっくりと男性に近づいていく。
光の粒子に近づき、康太はとりあえずポケットの中に入っていたコンビニのレシートを光の粒子の中に落とす。
するとレシートは少しの間粒子の上に乗ったかと思うとふとした拍子に落下していき要所要所が切り裂かれていく。
どうやらある程度の速度をもって通過することで攻撃力を発揮する魔術のようだった。
ただ一つの粒子程度であればほとんど大したダメージにはならないだろう。そして一つの粒子ならばどかすこともできたのだろう。これらが密集していることでその攻撃性能と防御性能を上げている。
いい魔術だと思いながらも扱いが難しいなと康太は考えていた。
康太の合図とともにウィルが軟体化してゆっくりと男性のほうに近づいていく。
康太の読み通り、男性が使っている魔術は大量の気体状あるいは液体状の攻撃に対してはあまり効果を及ぼさないらしい。
そして何より勢いさえなければ強く引き裂かれることもない。ゆっくりとゆっくりと近づいていきさえすれば何の脅威にもなり得ない。
ウィルが徐々に男性の体を覆っていき、その顔の八割を覆いこむと男性は息ができなくなったのか苦しみもがいているのがその体から見て取れる。
意識さえ失ってくれればこの魔術は発動しなくなるはず。明らかに異常な状態で発動しているとはいえ発動者自体は本人のはずだ。
ウィルの攻撃によって完全に窒息した魔術師はその場に崩れるように倒れこむ。急いでウィルを回収して呼吸を再びさせようとするが、康太の予想に反して男性の体からは依然として光の粒子が漏れ出し続けていた。
「なんだこりゃ・・・こいつが発動してるんじゃないのか・・・?」
康太は戸惑いながらも、このまま呼吸できていない状態を続けるのは得策ではないと判断し、遠隔動作の魔術を用いて直接その体に打撃を与える。
多少光の粒子によって阻害されてしまったが、きちんと相手には打撃が与えられその衝撃によって男性は再び息を吹き返す。
なんとも荒っぽい方法だといわれるかもしれないが、近づくことができない以上これ以外に方法がない。
意識を奪ってしまえば魔術の発動はできなくなると思っていたがあてが外れた。これでは事情を再び聴くことも、アリスに記憶を読んでもらうことも難しい。
しかもこの状態のまま放置しておくわけにもいかない。これが一般人の目に留まれば明らかに異常であることは容易に想像できてしまう。
SNSなどで拡散されようものなら一発で魔術の存在が露見しかねない。
これは危険だと即座に理解するものの、この魔術を止める術を康太は持たなかった。
意識を失っても発動し続けるタイプの魔術だ、完全に魔力をゼロにでもしない限り発動状態は続くだろう。
康太の持つ魔術の中で魔力を奪う能力を持っているのはDの慟哭のみ。だがその吸引能力ではこの男性の魔力供給を上回ることはできない。
どうしたものかと悩む中、康太は一つ思い出す。
以前支部長からこの男性の魔術に関して聞いた時のことだ。自分で魔術を発動できていないということはおそらく今回のような状態になった可能性が高い。
ならばどのようにしてこの状態から脱したのか。この無意識下での魔術の発動がどのように解除されるのか。いくつか考えたときに康太は男性の顔をじっと観察する。
現在一度呼吸困難の状態にあったためか意識は失われたままだ。だが先ほどの錯乱、いや異常状態からすでに意識がなかったとすれば。
この魔術はそもそも、意識がある時ではなく意識がない時、あるいはそれだけの異常が発生した時にのみ発動する魔術なのだとしたら、そう仮定して康太は遠隔動作の魔術を使ってゆっくりと男性の体をうつぶせの状態にする。
そして地面に指を突き立てる状態にしてゆっくりと呼吸をしてから思い切りその指に力を入れると同時に遠隔動作の魔術を発動、男性の背中のツボを強烈に刺激する。
「うぁが!?あがだだだだだ!?」
康太がついたのは背中にあるツボの一つ、一定の状態で突くと目や足先に貫かれるような痛みが走る。
だが実際の打撃などと違い、その人物の調子などにかかわる上に、押したところでダメージとして蓄積されているわけではない。体のよどみをよりわかりやすくするための一つのしるしのようなものだ。
真理に教わった健康法がこのようなところで役に立つとは思わなかったと康太は満足げにうなずきながら意識の戻った男性の状態を確認する。
強烈な痛みによって覚醒した男性は、先ほどまでうめいていた記憶がないのか、自分の周りをしきりに確認している。
そして男性の意識が戻ったからか、周りにあった光の粒子はゆっくりと消えていっている。霧が消えるようにゆっくりと、まさに霧散していくという言葉がふさわしいだろう。
起きていない状態で発動しているのであれば意識を取り戻せば発動が止まるのではないかという康太の予想は正しかった。
まさか相手の魔術を止めるためとはいえ、ほとんど意識不明の状態であった男性の意識を覚醒させなければいけないとは、何が起こるか分かったものではないなと康太はため息をついてしまっていた。
「目が覚めたか?いきなりうめきだすからびっくりしたぞ」
「・・・っつぅ・・・あれ・・・君は・・・?ここは・・・?」
どうやら前後の記憶が定かではないらしい、自分の頭を押さえ、状況を確認しようと必死に状況を確認している。
仮面をつけた男が目の前にいるというただでさえ日常的にはありえない光景に混乱しながらも、徐々に自分の置かれている状況を理解し始めたのか、冷静さを取り戻そうとゆっくりと深呼吸を始めていた。
「いったい何をした・・・君は何者だ・・・!?」
「俺はお前には何もしていない。お前の中にある矛盾を突いたらお前が勝手に暴走し始めただけだ・・・明らかに何か細工されてるな」
あの状態を自分で引き起こしているとしたら恐ろしい。演技だけで何かの賞をとれてしまうのではないかと思えるほどだ。
とはいえあれだけの状態を意識した状態で続けられるほどこの人物は強くないらしい。ウィルの攻撃によって呼吸困難にもなっていたのだ。あの状態でも演技ができていたとは考えにくい。
「とはいえ・・・間違いなくお前が探している人物は俺の知り合いじゃない。お前自身の記憶も怪しいものだな」
康太はそういってウィルに男性の体を拘束させる。唐突に体に巻き付いてきた軟体に男性は驚きながら、康太は男性にゆっくりと近づく。
「やめろ!何をするつもりだ!」
「このままじゃ俺の知り合いの無実が証明できないだろ。お前の記憶を暴く。何者かにいじられただろう記憶を取り除くんだよ。そうする以外にお前が求めるものに近づく術はないと思え」
記憶を取り除くといわれても康太にはそんなことはできない。だから康太は近くにいるであろうアリスに向けてこの言葉を発していた。
アリスも康太の言葉が自分に向けられていることを理解したのか、男性の背後から近づいてその頭をゆっくりとつかむ。
その瞬間、男性の体が大きく跳ねる。先ほどのそれとはまた違う反応だ。アリスが何かしらの術を発動していることは理解できる。
男性の目が大きく上下左右に揺れ、口からはよだれをたらし始めている。再び先ほどの魔術を発動されるかと警戒したが、今度はそのようなことはなかった。
「この代償は高いぞ?いきなり私に手間をかけさせよって」
「俺らの中じゃこんなことできるのお前くらいだからな・・・ちょうどいてくれて助かったよ。店まで連れていくんじゃリスク大きすぎるしな・・・代償はなんか考えておいてくれ、なるべく頑張るから」
アリスはこれ以上関わるつもりはないといっていたが、康太に頼まれておいて無下にするのも後味が悪いと思ったのだろうか、渋々ながら了承し男性の記憶を読みとっているようだった。
「で?どうだ?こいつの記憶はやっぱり改竄されてるか?」
「・・・うむ、間違いないの。明らかに途中の記憶との整合性がとれておらん・・・無理やり埋め込まれた記憶だな」
「そっか・・・この記憶を埋め込んだのは?」
「待て待て・・・この男の記憶が確かなら・・・間違いなくこの男の妻子を殺めたものだろうな。それ以外に考えられん」
「・・・奥さんと子供が殺されてるのは記憶違いじゃないのか・・・」
「うむ、残念ながらそれは事実だ。なかなかに残忍な殺され方をしておるの。自身で記憶に蓋をするレベルだ」
もしかしたら妻と子が殺されたというのも記憶違いではないかと期待したのだが、どうやらそういうわけではなかったらしい。
記憶をいじられているという点から小百合がかかわっているという可能性がほとんど消えたのは間違いないわけだが、何というかやりきれない感覚が康太の中に残っていた。
「でもなんでこの人だけ殺されなかったんだ?なんか理由があったのか?それとも記憶を操作して師匠になんか不利益を与えようとしたとか?いやそれにしたって状況的に不自然か・・・」
ここで康太が一番気になってたのはなぜこの男性が殺されなかったかということだ。先ほども気になっていたが、当時一般人だったこの男性を生かしておくだけの理由が見当たらないのである。
妻と子を殺めておきながらこの男性だけを生かす理由。この男性が生粋の魔術師であったのならば生かしておくだけの理由にはなり得た。この男性が何かしらの権力などを持っているのであれば利用価値もあっただろう。
だが少なくともこの男性はそのようなものは持っていないように思える。そんな男を野に放ったところで何のメリットもない。
「いや・・・どうやら順序が逆の様だぞ?殺さなかったのではなく、殺せなかった可能性が高い」
「殺せなかったって・・・この人当時ただの一般人だったんだろ?そんな人を殺せないってどれだけ貧弱な魔術師だ?」
「ん・・・この男の体を調べてみたらな、いくつか方陣術に似たものが見つかった。いや体の中に術式があるといったほうがわかりやすいかの。自動発動するタイプの術式だの」
「術式が・・・?あぁ、さっきこの人が使ってた魔術か。それがどうかしたのか?」
「この術式はこの男性の魔力を強制的に吸い上げるタイプのものらしい・・・少なくとも本人が作り出したものではないな・・・かなり高度なものだ・・・おそらくこの男性を守るための防衛機能といったところか」
防衛機能と言われて康太はさらにわからなくなる。一般人に対してそのような魔術をかけているということがどのようなことなのか。
それに何より一般人に対してそんなことをしたら命に係わる。何せ普通の人間は魔力を練ることすらできないのだから。
「魔力はどうするんだよ、あの魔術がどれくらいの消費量か知らないけど、普通の人間なら間違いなく生命力が枯渇するだろ」
「あぁ・・・普通の人間ならな・・・この男性、魔力を別のところから強制的に供給されていたようだ・・・少なくともこの男性の近くには間違いなく魔術師がいた・・・そういった魔術を使った形跡がある」
魔力を供給するための魔術。
本来魔術師は自らの素質によってのみ魔力を生成することができる。だが魔術によってそのようなことができるとは思わなかった。
だが考えてみれば康太の使うDの慟哭は他者から魔力を奪う魔術だ。その逆ができたとしても何ら不思議ではない。
「今もその魔術は機能してるのか?」
「いや、今は機能していない・・・おそらく昔からそういう状態が続いていたせいで緊急時のみ、反射的に魔力を供給するように体が覚えてしまったのだろう。意識が何らかの原因によって失われたときのみ、魔力供給が行われていた」
人間の反射の中には条件反射というものが存在する。特定の条件を満たすと体が勝手に反応するというものだ。
梅干しやレモンなどを見たときに体が勝手に唾液を分泌するのと同じである。肉体が生まれたときから持っている先天的反射ではなく、特定の条件を繰り返すことによって身につく後天的反射といえばいいだろうか。
魔術に関することでもどうやら人間の反射というものは適応されるらしい。
特に魔力などの自らの意識によって行える行動も、反射的に行えるようだった。それがこの状況を作り出した人間にとって思惑通りだったのかどうかは不明だが、この男性が未完成な魔術師であるというのは間違いない。
魔術を使えるのだが本人の意識で自由に扱えていない。だが条件さえそろえば発動自体は問題なくできている。
「でもどうしてこんな人を・・・ただ魔術師に守られてたにしたっていったい誰から?」
「・・・おそらくこの男の妻ではないだろうか。殺された妻と子が魔術師であったということが一番可能性があると思うが」
「えー・・・?殺された人間が魔術師?」
「あり得なくはないだろう?それにこの男の記憶を読むと・・・妻と会っているとき時折記憶が飛ぶことがある。おそらく魔術をかけられているのだろうが・・・」
一般人と魔術師の夫婦。そんなものがあり得るのだろうかと康太は疑問符を浮かべるが、以前どこかで同じような状況を聞いたことがある気がする。
確かその人物は魔術師ではあるが一般人と付き合っているだとか結婚しているだとか、そんな話だったような気がして必死に思い出そうとするが康太は詳細を思い出すことができなかった。
記憶力のなさが恨めしく思えてしまうが、今はそんなことよりも重要なことがいくつもある。
「仮にその奥さんと子供が魔術師だったとしてだ・・・誰がその二人を殺したんだ?それはこの人は見ていたんだろ?記憶をいじられてるだけで」
「あぁ、そこは問題なく見ていた。性別は男、身長は・・・ほかの家具と比べればわかるかもしれんがたぶん百八十程度、若干肥満体質で斧のようなものを持っている。第三者が見れば一発で通報されるだろう姿だな」
「斧って・・・随分とアグレッシブな武器だな・・・俺でももうちょっと自粛してるってのに」
「槍と双剣を持っている時点で五十歩百歩だぞ。ともあれこの男が魔術師によって記憶を操作されていたのは確実だ。それで、こいつをどうする?」
どうするか、康太が考えたとき本当にどうしたものかと悩んでしまっていた。とりあえず奏にある程度の報告をするのは筋として、この人物への説明や今後についてどうするか、その処遇は康太に任されているといっていい。
支部長に引き渡してもいいし、このまま放置してもいい。正しい記憶さえ取り戻させてやればあとは勝手に行動するだろう。
少なくとも小百合とかかわろうとすることはやめるはずだ。とはいえその人物がなぜ小百合の記憶、正確にはデブリス・クラリスの姿を見たという記憶を植え付けたのかそこが疑問だった。
ただ単に殺せなかったから自分以外の人間に擦り付けたなどの理由であればよかったのだが、それ以外の何かが目的だった場合康太としてはそれを阻止する必要性が出てくる。というか奏からそのように話が来るだろう。
「とりあえず記憶の操作を解いてどういう状況なのかをちゃんと説明したほうがいい気がする。実際にこれからどうするかはこいつの意向もあるだろうし・・・師匠にも一度話をしてその男をどうするのか考えないとな」
「あ奴のことだ、とりあえず叩き潰せというのではないか?ただでさえ罪を擦り付けられたのだから」
「いやまぁそうなんだけどさ・・・面倒ごとにかかわらなくてもいいなら報告しなくてもいいんじゃないかと思うわけだよ・・・でも一応師匠は当事者だからなぁ・・・今ここにはいないけど」
小百合は今回の話の中心に近いところにいることに変わりはない。本当のことを言えば今回は完全に巻き込まれただけなのだが、その斧を使う人物に何かしらの関わりがあるのは間違いないだろう。
本人がそれを覚えているかはさておいて、恨みか、あるいはただ単にマイナスイメージが先行していて擦り付けやすかっただけか。どちらにせよ小百合には今回の件の顛末を知る権利がある。
「とりあえず報告の前にこの人を起こしておくか・・・ていうかこの人今気絶してるのに術が発動してないけど・・・?」
「そんなもの止めているに決まっているだろう。あんな面倒な術式を発動されたら記憶を読むのに支障が出る。魔力の供給さえ止めてしまえばいいのだ、そこまで面倒なことではない」
「相変わらずお前万能だな・・・頼もしいけど申し訳なくなってくるわ」
「ふふん、もっと敬っていいのだぞ?私が近くにいたことに心底感謝するがいい。その分たっぷりと礼をしてもらうつもりだがな」
いったい今回の件の代価は何になるのだろうかと康太は内心ため息をつきながらも気を失ったままの男性を起こすため再び回り込んでいた。
先ほど遠隔動作で押したのと同じツボを押すと、再び激痛によって男性は強制的に目を覚ます。
誤字報告を15件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです