真理との出会い
「また随分とこっぴどく批評していますね。まぁ師匠ならば仕方がないと思うべきでしょうか」
「あ、姉さん。お疲れ様です」
康太とアリスが話しているところに真理がやってくる。最近忙しそうに何かをしているために見る機会が少なくなっているためにこうして会えるのがうれしかった。
「師匠を探している人を探しているということらしいですが、進捗の方はどうですか?見つかりそうですか?」
「支部長に協力してもらって布告も出してもらいましたから、俺は主に代々木公園で待つことにしました。追い回すよりもそのほうが会える気がして」
「なるほど・・・確かにそのほうがいいかもしれませんね。今はその大本の話をしていたのですか?」
「まぁそういうことだの。大本といっていいのかわからんが、協会以外の人間がサユリを探すというその理由を考えておったのだ」
「あぁなるほど・・・それで師匠が誰かを助けることがない・・・と・・・」
この説明だけで真理は康太とアリスが一体どのような会話をしていたのか大まかながら理解したのだろう。
さすがの理解力だと康太は感嘆しているが、康太とアリスの考えに真理は同意しながらも少し複雑そうな表情をしていた。
「まぁ、確かにいつもの師匠を見ていると師匠が人助けをするとは考えにくい・・・というか考えられないですよね」
「えぇ、なので敵を作ったと考えたほうが自然だと」
「・・・ですが、あぁ見えて師匠も結構甘いところがあるんですよ?人助けといえないような行動かもですが、そういうことをすることもあります」
珍しく真理が小百合のことをフォローしているという状況に康太は目を丸くしてしまっていた。
だがこの中で一番付き合いの長い真理がこのように言うのだ、何かしらそういうことがあったのだ。
「ちなみにそういうってことは・・・師匠が誰かを助けたことがあったんですか?」
「誰か・・・というとちょっと気恥ずかしくもありますが・・・私が師匠に弟子入りするきっかけが師匠に助けられたってところですから」
「え・・・!?そうだったんですか・・・!?」
今まで真理が小百合のところに弟子入りしたその理由を深く聞いてこなかったがまさか小百合に助けられた結果弟子入りしていたとは思わなかっただけに康太は驚きを隠せなかった。
思えば真理が小百合に弟子入りしたのはまだ彼女が子供の頃だ。それほど昔となればまだ小百合も修業時代、あるいは修業を終えてすぐの時期であるはず。
なぜそのような時期に弟子を取ったのか不思議ではあったが、何か事情があったと考えるべきだ。
「私もあまり覚えていないんですが・・・なんでも魔術師同士の戦いに巻き込まれたらしく・・・瀕死のところを助けられたんです。そして魔術師としての素養があることがわかり、そのままその事件にかかわっていた師匠に弟子入りしたんですよ」
「そうだったんですか・・・そんなことがあったとは・・・ちなみにどのくらいの規模の事件だったんですか?」
「そうですね・・・そこまで大きな規模ではなかったように思いますが・・・何軒か家屋が全焼しまして・・・そのうちの一つが私の家だったんですよ」
「え・・・?それ大丈夫だったんですか・・・えっと・・・ご家族とかは・・・」
「無事ですよ、父も母も無事です。今は別のところに住んでいますが」
そうだったんですかと康太は安堵の息をついてしまう。自分は小百合に殺されかけて弟子入りすることになったが、真理は小百合に助けられる形で弟子入りしたということだ。
つまり真理と神加は似たような境遇にあるということである。
「じゃあ師匠がまともに物を教えられないのに姉さんを弟子にしたのって・・・」
「はい、最初は記憶を消されるか、あるいは殺されるかというところだったんですが、師匠が弟子入りさせる形で・・・」
「なるほど・・・そのあたりは俺と一緒ですか」
記憶の操作は一定時間内にしか行えない。そして記憶の消去となると脳に多大な負荷をかける可能性がある。
下手すれば廃人、それか弟子入りするしか生き永らえさせる手段はない。そこで小百合は自らが未熟であるのを理解しながらも真理を弟子にしたのだ。
康太も記憶を消すか死ぬか弟子入りするかという選択肢を迫られた。小百合はそういう方法しか取れないということはわかるが、十年近く経過してもやることが全く成長していないというのは複雑な気分だった。
「というか姉さんが師匠に助けられたタイプだったとは・・・まぁ俺も人のこと言えないのかもしれませんけど・・・」
「師匠も誰彼構わず助けているというわけではありませんよ。とてつもなく運のいい人だったり、特別なタイプの人だけを助けているようですね」
「・・・あぁ・・俺も神加もそのタイプでしたね・・・ってことは姉さんも?」
「はい、私も全焼する家屋の中でちょうど火の手が伸びていないところにいまして・・・運がいいといえばそうなりますか」
当時の真理はまだただの少女だった。だというのに家が全焼するほどの火事に見舞われても生きていた。
そこで小百合が真理を助け出したのだという。いったい何があるかわからないというが、小百合が人助けをするという事象がないわけではないということに少しだけ驚きながらもあり得るのだということに康太は少しだけ嬉しくなっていた。