関わりと探り
「ふむ・・・そうなると人助けの結果ということもあり得るか・・・」
「偽者である可能性はもうあり得ないんですか?」
「師匠の名をかたるメリットがないように思えまして・・・そもそも師匠にかかわるだけでもいろいろと面倒くさいのになりきるなんて・・・」
先ほどまでの会話の流れは大まかに理解できていても、小百合の偽者がいる可能性は低いという結論に至ったことまでは把握できなかったようで、真理はそうでしょうかと眉をひそめていた。
リスクとリターンを考えたとき、単純に小百合に成りすますだけの価値があるかと言われればノーだ。
小百合になりきった場合、メリットとデメリットを考えれば間違いなくマイナスのほうに傾く結果となるだろう。
そのことを真理も理解してはいるようだが、どうにも納得できていないようだった。
むろん康太たちだって可能性がゼロであると断言するつもりはない。あるという可能性を否定しきれないし、否定しきれるだけの材料も存在しないのだ。
あくまで康太たちの主観によってこの考えは導き出された。これが利己的な、つまり大多数に対してではなく自己主義に則って行われるものに関しては康太たちの予想の外に答えがあることになる。
だがそんなことを言ってはどのような可能性だってあり得てしまう。まずは大まかにどの可能性が高いかを検討するのが肝要だ。
「確かに師匠になりきったところで、あまり良いことがあるとは思えませんね・・・かといって十月前後の師匠のスケジュールはそこまで妙なことはしていませんよ?そこが気がかりなんですよね」
「十月・・・何か予定とかありましたっけ?俺あんまり覚えてないんですけど・・・少なくとも師匠はいつも通りだったように思います」
件の人物が動き出した、というか目撃情報が得られだしたのが十月ごろ。その前後の小百合の予定としては特に変わったところはなかったように思う。
仮に十月の一カ月前、つまりは九月ごろに何かがあってそのあとに動き出したとなれば、そのあたりの小百合の予定を確認するところなのだが、その頃も特に変わった様子はなかったように思うのだ。
「十月・・・となると私が康太と出会ってすぐの頃だの」
「あぁ、そんな時期だったな。確か九月にアリスと会ったから・・・そのあたり?」
「九月の師匠の予定・・・と言われても・・・あの時は私もアリスさんの一件で康太君についていましたし・・・もしかしてその時に・・・?」
アリスの一件にかかわることになったとき、康太とその兄弟子である真理までは問題なく一緒に行動ができたが、小百合はあの時本部から横やりに近い形で依頼を入れられてしまい一緒に行動ができなかった。
どのような依頼で、どのような行動をしたのかわからないために非常に不安になるところである。
弟子である自分たちが見ていない間に何をしたのかわからない以上、その可能性を否定することはできなかった。
「でもあの時の依頼って主に海外関係のものだったんですよね?一応本部からの依頼だったわけですし」
「さぁ・・・そのあたりは私も師匠からは聞いていません・・・時にその師匠を探していると思わしき人物は日本人なのですよね?」
「絵では判別できんが・・・日本語を話しているのは間違いないだろうて・・・それで日本人であると決めつけるのはやや早計かもしれんが、片言だったり若干のなまりがあった場合は特徴に加えられていても不思議はない」
もしかしたら件の人物が海外の人間かもしれないと考えたが、アリスの言葉に康太と真理はその考えを自分の中で否定していた。
確かにその人物から話を聞いたのであれば、おそらく特徴的なものは記憶に残る。
それは身体的なものもそうだが、話をしている以上相手の声と言葉に意識が向くはずなのだ。
例えば関西弁で話していたのであればそのような特徴が記載されていてもおかしくはないのである。
だが今まで上がってきた目撃情報にそれらしきものは記載されていない。
ただ単に日本語が上手という可能性も考えられるが、それにしてもこのように外見的特徴が描かれているのだ。
外人のような顔をしていればそれもまた特徴の中に組み込まれ報告されていて然るべきだろう。
「師匠に聞いても多分『忘れた』って言いそうですし・・・こればっかりはどうしようもないですね」
「ですね・・・あとは実際に動いている康太君たちが頼りです」
「任せてください。師匠のストーカーは見事撃退して見せましょう」
実際に撃退するかどうかはさておいて、その人物がいったいどのような人物なのか真剣に気になっていた。
なぜ小百合を追うのか、なぜ小百合なのか、何が目的なのか。
聞いてみたいことは山ほどある。
だがそれよりもまず第一に言わなければいけないことがある。言っておかなければ気が済まないことがある。
小百合にかかわるのはやめておけ。
最初に会った時に言うべきセリフは決まった。あとは相手がどのような行動に出るかを待つだけだ。




