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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十七話「そしてその夜を越えて」
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クリスマスの夜に

「今日は楽しかったよ。神加ちゃん、またね」


「また今度会おう。小百合、年始は師匠のところに顔を出すんだぞ」


「わかっています・・・お二人ともよいお年を」


「まぁまぁ、僕はまだ今年も会うよ?遊園地に行くときにここを集合場所にするつもりだからさ」


「そうでしたか、では幸彦兄さんもよいお年を」


一通り食事も終え、のんびりと話した後、奏と幸彦は笑顔のまま店を後にしようとしていた。


小百合も渋々ながら二人を見送り、もう今年は会うつもりはないといわんばかりによいお年をと連呼していた。


ここまで徹底して兄弟子を拒否するのも珍しいなと康太と真理は眉を顰めため息をついてしまっていた。


「すいませんお二人とも・・・師匠が失礼を・・・」


「ほら師匠、せめて笑顔くらい見せたらどうですか?ずっとしかめっ面じゃないですか。ほら営業スマイル営業スマイル」


弟子二人が師匠の不出来を詫びる中、小百合の兄弟子二人は笑いながらいいんだよと小百合の無礼を流していた。


酒が入っているわけでもないのに二人は今日随分と上機嫌だった。何か良いことでもあったのだろうかと疑問符を浮かべる中、二人は神加のほうに視線を向ける。


神加は腹もいっぱいになって、もう夜も遅くなってきたということもあってうとうとしながらも康太の手を握り二人を見送ろうとしていた。


そんな神加に視線を合わせるように奏はその場にかがんで神加の目を見る。


「神加、何か問題があれば遠慮せずに私たちを頼りなさい。私たちは何があってもお前の味方だ」


「・・・?」


相変わらず子供には分らない言葉をそのまま話している奏のセリフの意味を理解できなかったのか、神加は眠そうにしながら疑問符を浮かべている。


だが何やら奏が自分に何かを伝えたいということは理解したのか小さくゆっくりとうなずいて見せる。


後で神加にもわかるように伝えてやらなければならないなと思いながら、康太はもう意識が落ちてしまいそうな神加を抱え上げる。


「文、お前も何かあれば私たちのもとを訪れなさい。お前ならいつでも力になろう」


「ありがとうございます・・・でももう十分すぎるくらいお世話になってしまっています。これからは私が恩を返せるように頑張ります」


「ふふ・・・子供のくせに無理をするな。まだまだお前はこれから成長するんだ。だがそうだな・・・その時は頼むことにする。いつかその力を借りることになるかもしれんな」


奏は立ち上がると文の頭を軽くなでる。誰かに頭をなでられたのはいったいいつぶりだろうかと思いながら文は苦笑してしまっていた。


「真理、お前は来年からどうするつもりだ?そろそろこいつのもとを離れるのか?」


「師匠から卒業試験を受ける許可をまだもらっていないので・・・卒業試験が終われば一人前として行動しようと思っています」


「そうか、もしこいつのもとを離れたら私のもとに来ないか?いくつか頼みたい仕事がある。無論お前がやりたいことを最優先にして時間が余ればの話だが」


「ありがたいお話です。機会があれば是非。あとは師匠次第ですかね」


「まだまだお前のような未熟者を表には出せん・・・もう少し腕を磨け」


小百合は腕を組んだ状態でため息をついている。それを見て真理はということらしいですと苦笑しながら少し残念そうに、同時に少しうれしそうにしていた。


まだまだ自分は精進できるということの証明でもあり、まだまだ未熟であるという証拠でもある。


まだ康太たちと一緒にいられるということでもあるため、真理からすればこの居心地の良い空間にいられるという確証が得られた瞬間でもある。


魔術師としてよいことなのかはさておき、真理はこの店の空間が嫌いではなかった。


「康太、お前はたぶん、これから今年以上に面倒に巻き込まれることになると思う」


「えぇ・・・なんでまた・・・?ていうか今年でもうおなか一杯なんですけど・・・」


「そうはいかん・・・魔術師になってもうすぐ一年、今までは半信半疑だった連中もお前の存在に注目し始める。ただでさえいろいろやらかしているからなお前は」


「それは・・・否定できませんけど」


魔術師になって半年そこらで封印指定の事案を解決に導き、封印指定であるアリシア・メリノスと同盟を結び、着々と協会からの評価を上げ続けている。


封印指定のことが偶然かあり得ないほどの幸運に恵まれたか、あるいは何かの間違いだったとしてもこれほど功績をあげていれば無視することはできない。


魔術師として一年を迎える今年の二月、それが一種の転機になると奏はにらんでいるようだった。


「ありとあらゆるものを利用して強くなれ。お前には良くも悪くも周りに頼りになるものがいる。だがスタートが遅かったというハンデがある。その所をよく見極めて常に行動することだ」


必要とあれば私たちが稽古をつけてやるからなと奏は笑いながら康太の頭を少し強くなでる。


「ありがとうございます。少しずつだけど強くなれるように頑張ります」


「あぁ。そしてある程度・・・そうだな・・・真正面から小百合と戦って負けなくなったらまともな魔術師として鍛錬を積むのもいいだろう」


「師匠とまともに戦ってですか・・・?先は長そうですね・・・」


小百合とまともに正面から戦って負けないというのは相当の実力者でなければ難しい。今の康太ではまず無理だろう。仮にデビットとウィルの力を借り、なおかつ装備をすべて備えた状態でも負けないような戦いができるかは怪しいところである。


「そうか?案外すぐだと思っているんだが・・・まぁいい。それではな。各々精進に励めよ」


いうことを言って奏と幸彦は早々に去っていった。相変わらずだなと思う反面、やはりあの二人は大人だなと康太と文は感心してしまっていた。


「お?もう二人は帰ったのかの?」


康太たちが店の中に戻ってくると、テレビを見ながら残った料理を口に運んでいるアリスが康太たちに気付いて手を軽く振ってくる。


アリスは二人の見送りにはいかなかったのだ。


「あぁ、俺らは片づけやるぞ。っていうかお前見送り行かなくてよかったのか?」


「よい。あの二人はお前たちの関係者だ。私のような部外者がいてはその場の空気の邪魔だろうて」


「私も一応部外者なんだけどね・・・」


「お前は部外者とは言えん。だが私は完璧なる部外者だ。わざわざあの場に足を運ぶのも空気を乱す」


「そういうもんかしらね・・・」


文はあまり納得できていなかったが、この場にいて唯一アリスだけが異質であることは何となく理解はできていた。


奏や幸彦は文の師匠である春奈と面識がある。というか春奈は幼少時から小百合と共に修業をした魔術師なのだ。もはやそのつながりは部外者とは到底言えないものなのだ。


そして文はその春奈の弟子。つながりから言えば部外者とはいいがたい。


だがアリスは違う。アリスはただ康太たちと同盟を組んでいるというだけの魔術師、この場において正真正銘の部外者なのだ。


それゆえにアリスはあの場での、別れの場に同席することを拒んだ。いや、拒んだというよりは空気を読んだというべきだろうか。


「そういうこと気にするタイプだとは思わなかったよ。そんなの知らないといわんばかりにズイズイくるもんだと思ってた」


康太は眠ってしまった神加をウィルに預け、ちゃぶ台の上に広がった食べ物の残骸などを片づけ始めた。


今回は出前を多く使ったためにその残骸は特に多い。大きなゴミ袋の中にてきぱきとそれを入れていく中、真理は自分たちが使った食器を洗い始めていた。


「そういえば姉さん、来年師匠から卒業試験受けたらここを出ていくんですか?」


先ほど話題になっていた卒業と一人前になって自立するという話、康太は地味に気になっていた。


真理が自立し、一人前になるということは別に何の不満もない。むしろ喜ぶべきことだ。


真理は実力的には既に一人前になってもおかしくない。問題なのは師匠である小百合がまだ未熟であると判断していることだ。


いったいどこが未熟なのか康太には分りかねるが、もしこの店を出ていくということになると店もずいぶん寂しくなるだろう。


「どうでしょうか。一人前になってもしばらくはこの店を拠点にすると思いますよ?何せ自分の拠点探しからしないといけませんから」


「あぁそうか・・・自分の拠点を持つことになるんですね・・・どのあたりにするつもりなんですか?」


「そうですねぇ・・・まだまだ先の話なので分かりませんが、住む場所の近くにしようとは思っていますよ。そろそろ私も就職活動の時期に入りますし」


「あぁそうか・・・姉さん来年から就職活動ですか・・・」


「えぇ、来年の冬から就職活動開始です。まったく、働きたくないのですけれども」


真理がこれから就職活動が本格的になれば魔術師としての活動は難しくなるだろう。それまでに卒業試験を終えられればいいのだがと考えているようだったが小百合は未熟であれば卒業試験をさせるつもりは毛頭ないようだった。


相変わらず変なところで頑固だなと思いながらも康太は真理の就職先が地味に気になっていた。


「でも姉さんってどこに就職するつもりなんですか?確か理系でしたよね?」


「えぇ、なので専門的な会社か公務員になると思いますよ。どこに行くかまではまだわかりませんが、少なくとも入社自体は問題ないでしょう」


「あぁ・・・魔術使えば印象操作もばっちりですもんね」


「ふふふ・・・あまり大きな声では言えませんけれど」


一般的な魔術師にとって一般人に暗示の魔術をかけるなど朝飯前だ。入試の一般的な試験さえ終えてしまえば面接のときに暗示を使えばどうとでもなってしまう。


こういう時に魔術の力が本領を発揮するのだ。


もっとも真理の場合、もともとが優秀であるために必要ないかもしれないが。


「ところで康太君、神加さんのプレゼントはもう置いたんですか?」


「えぇ、寝てることを確認したんで枕元に。しっかりリボンもまいてありますよ」


「あれだけの大きさだと箱に詰めるわけにもいかなくて・・・」


康太が買ってきた大きなクマのぬいぐるみはリボンを巻き付けて神加の寝ている部屋の枕元に置いてある。


神加がすでに寝ているためにそこにすでに置いておいたのだ。


クリスマスが明け、朝起きたらプレゼントが置いてある、子供にとってそれはそれはうれしいことなのだ。


その喜びを得られるのは子供の特権だ。神加よりも少しだけ大人な康太たちができる数少ないことの一つである。


「ていうか師匠、ほんとに遊園地来ないんですか?一緒に行きましょうよせっかくなんですから」


「遊園地のアトラクションの類が壊れてもいいのであればついていってやるぞ?」


「・・・すいません、お土産買ってくるんで留守番しててください」


せっかく遊びに行ったというのにアトラクションがすべて壊れてしまってはいく意味がなくなってしまう。


本当にこの人は団体行動ができないなと康太と文、そして真理はあきれながら部屋の片づけを終えていた。


翌日、店に来るとプレゼントが二つ置かれていたと神加が嬉しそうに話していた。一つは康太の送ったクマのぬいぐるみ。そしてもう一つは誰が置いたのかわからない謎のプレゼント。


その時真理が小百合に向けて笑みを向けていたのがひどく印象的だった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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