表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
674/1515

焦る理由

康太がいる通路に相手が近づくとき、康太はいつでも攻撃できるように身構えていた。そしてそれは相手も同様だ。


通路に入るギリギリのところで通路の壁に身を隠し、こちらからの攻撃を受けないようにしながら、同時にこちらの様子をうかがっているようだった。


索敵魔術を使っているだろうにあのような行動に意味があるのだろうかと疑問に思うが、実際あのように隠れられては通常の射撃魔術では狙いにくい。


相手も通常の射撃魔術では狙いにくい状況ではあるが、魔術師戦の立ち上がりとしては穏やかなほうだろうか。


彼我の距離は十メートルあるかないかといったところ。この距離で扱える魔術の数は膨大だ。それらを相手の出方を見ながら選択しなければいけない。


魔術師戦としてはなかなか面倒な部類に入るだろう。なにせ扱える魔術が多いだけにその選択肢も多くなっているのだから。


地下ということもあって炎の魔術は可能な限り使いたくない。康太の選択肢は必然的に無属性か風属性の魔術に限定されていた。


さてどうしたものか。康太は相手が動かないのを確認して周囲の状態を確認する。曲がり角の壁部分にはウィルの一部が張り付いており、そこにはお手玉が一つセットされ、康太の攻撃の合図を待っている。


うまく角度をつければ狙うこともできそうだが、動けば相手に気付かれるかもしれないことを考えるとこれ以上ウィルに動くのを頼むのは気が引けた。


そこで康太は軽く自分の体を動かして準備運動を始める。相手を待つなどと自分らしくもないとさっさと近づくことにしたのだ。


ゆっくりと、だが確実に康太は前に進む。相手との距離がどんどんと狭まっていく。一歩、また一歩と康太が近づくたびに魔術師は緊張を強いられていた。


攻撃できないことはない。魔術によっては壁越しだろうと問題なく攻撃できる。康太が近づいてくるのを確認して魔術師は攻撃するべきか、それとも引くべきか迷っていた。


だがこの魔術師は今冷静な判断ができていなかった。頭の中に自分の執筆した小説が延々と朗読されるこの状況、いつまでも楽しみたいはずがない。


一刻も早く目の前にいる康太を倒し、この朗読を止めなければ。魔術師の頭の中はそれに支配されつつあった。


本来ならばここは一度引いて康太との距離をとり、万全の態勢で康太に戦いを挑めるように地下三階部分で籠城戦を仕掛けるべきだ。


相手が逃げるということもあり得るが、自分の身の安全には変えられない。多少消極的でも守りに入って康太たちの攻撃をしのぎ切るべきなのだ。


だが正常な判断ができていない、焦った状態の魔術師はその思考までたどり着くことができなかった。


目の前にいる康太を倒し、すぐにほかの仲間を見つけなければとその考えに支配されてしまっていた。


そして、康太との距離が五メートルもなくなった時点で魔術師は意を決して攻撃魔術を発動する。


魔術師の体からわずかに光が漏れたかと思うと、その光は球体となっていき宙を舞い、康太のいる通路へと躍り出ると勢い良く康太めがけて襲い掛かってきた。


そこまで速くはないが、その分操作性が高いのだろう。康太がいる場所めがけて一直線に向かってきていた。


康太は普段よりも短い槍を振るい、その光の球体をはじいていく。すると康太は手にしていた槍が急に冷たくなっていくのを感じていた。


いったい何の魔術かと疑問に思ったが、光を槍ではじいた部分がほんのわずかにではあるが凍り付いているのがわかる。


氷属性の魔術。おそらくは触れた部分の熱を奪う魔術だろうか、今までのような単純に氷のつぶてや刃をぶつけてくる魔術とは違う。


直接的な攻撃力は比較的低いが、この攻撃を受け続けると厄介だと康太は判断していた。


何せここが地下ということもあって火の魔術があまり扱えない。この建物の空調の状態がどのようになっているのかわからないが、地下空間で火を扱って酸欠になるなどということは可能な限り避けたいところだった。


次々と襲い掛かってくる冷気の弾丸に対して、康太はとっさに外套を脱ぐと、その外套に対して暴風の魔術を発動して吹き飛ばす。


外套によって通路一面が覆われた状態で吹き飛ばされているため、放たれていた冷気の弾丸はすべて外套に命中していた。


まるで意思を持っているかのように通路を直進する外套に、さすがの魔術師もこのままでいるのは危険だと判断したのか、わずかに康太から距離をとろうと後退しようとするが、それを文が阻んだ。


魔術師の逃げようとする通路の先に電撃の球体を大量に発生させ逃げ道を封じたのである。

攻撃でもあり相手の行動を阻害する罠にもなる。


文の展開した電撃の球体はこの狭い空間の中では効果的にその役割を果たしていた。


康太が一気に接近しようとすると、魔術師もこのままでは終われないと思っているのか、その壁から氷の刃を発生させていく。


作り出された氷の刃は康太の行く手を阻む壁になり、文の作り出した電撃の球体を地面に吸い込ませる避雷針にもなって見せた。


康太は後ろに跳躍することで氷の刃を回避するが、この氷の刃程度で前進を止められるわけにはいかなかった。


その右腕に魔術を発動し、拡大動作の魔術で通路にできた氷の刃を一撃で砕いていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ