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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十六話「本の中に収められた闇」
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進路相談

「まだまだ先の話ですね・・・でもなんでそんなことを?」


「いえ、これはあくまで選択肢の一つとして考えてほしいのですが、よかったらお二人ともうちに所属していただけたらと思いまして」


館長の言葉に康太と文は一瞬硬直していた。今まで誰かに誘われるという経験が少ない二人にとってこのような形での勧誘は思考を停止させるには十分すぎるほどに強烈だったのである。


特に康太は今まで妙な形でしか勧誘をされていない。このような形で正々堂々と勧誘されるとは思っていなかっただけに非常に複雑な気分だった。


文は文で勧誘そのものをされることが少なかった。それだけ露出が少ないということでもあったが、康太とセットで行動しているということもありこうして康太と一緒でもいいから仲間になってくれと誘われるのは初めての経験だった。


それだけに驚きと喜びが大きい。だが同時に残念でもあった。


「えっと・・・お誘いは非常にありがたいしうれしいんですけど」


「あぁ、もちろん無理強いをするつもりも今すぐに答えを出せとも言いません。あくまで選択肢の一つとして頭の中に入れていただければ結構。見たところお二人はまだ発展途上なところがあるご様子。完成していない状態で将来を決めろと言われても無理でしょうから」


完成していない状態。確かに康太と文はまだまだ未熟だ。互いに足りない部分が多くそれらを互いが補っている状況が続いている。


そんな状態で将来どのグループに所属するのか、どういった活動をするのかは決められない。


館長自身そのことはわかっているのだろう。だからこそ積極的な勧誘ではなく消極的な提示にとどめたのである。


「いいんですか?俺はあのデブリス・クラリスの弟子ですし、ベルはエアリス・ロウの弟子ですよ?特にエアリスさんはあなたたちの商売敵みたいなものでは?」


「もちろん彼女が有している魔導書の数は感嘆します。同じく魔導書を保管しているものとして競い合うべき相手であるのは間違いありませんが師は師、弟子は弟子です。将来的にライリーベルが彼女の魔導書すべてを継承するというなら事情が変わってくるでしょうが・・・」


「・・・一応そういう話は来ていないですね。たぶん師匠は引退と同時にあれを協会に引き渡すと思います」


春奈はあくまで自分の趣味と自分が扱いたい魔術をあのような形で保管しているのだ。


彼女が魔術師として引退するときあの魔導書の山がどのようになるのか文は聞いていない。少なくとも自分が継承するなどということは考えてもみなかった。あれだけの魔導書の数だと管理そのものも大変だろうなと思いながらこれからどのような活動をしていくのだろうかと少しだけ考える。


実際今まで魔術師として活動するとは言っても依頼が来てはそれを受け、そうでないときは自分を磨くために修業をする、それの繰り返しだったように思う。


自分が魔術師として何をしたいか、具体的な姿が思い浮かばないのだ。


ふと康太のほうを見ると、康太も同じようにこれから何をしたいのかを考えているようだった。


自分の将来は康太とともにあるのだろうか、これから一人前になっても康太と行動できるのだろうか。


そんなことを考えて文は首を大きく横に振る。いつまでも一緒というわけにはいかないだろう。康太と文がいつまでも同盟を組んでいるとは限らないのだ。


そしてそもそもなんでこんなことを考えているのかと文は悶絶してしまっていた。


文が悶絶している中、康太は康太で自分の将来について考えていた。


康太の場合小百合の店を継ぐという選択肢もある。小百合自身あの店を後世に残すことは事前に話をされていた。


それが康太になるのか、真理になるのか、はたまた神加になるのかはわからないが、今いる三人の弟子、あるいはこれから新しく弟子になる誰かが継ぐのは間違いないだろう。


だが自分が継がなかった場合、将来的にどんな魔術師としての活動をすればいいのだろうかと康太は悩んでしまっていた。


実際小百合以外で既に一人前の魔術師は何人かいるが、彼らが具体的に魔術師として何をしているのかと聞かれるとほとんど知らないに等しいのである。


例えば小百合の兄弟子の奏と幸彦。奏に至っては最近本業の社長としての仕事が忙しく魔術師としての活動をほとんどしていない。


毎週康太たちに稽古をつけてくれる程度でそれ以外には自分の縄張りに入った魔術師を排除しているくらいだろうか。


幸彦は協会の依頼を多く片付けてはいるが、それ以外に魔術師として一体何をしているのかは全く謎だ。

そもそも幸彦は協会専属の魔術師というわけではない。あくまで協会から高い評価と信頼を勝ち得ている一般魔術師だ。


普段何をしているのかと聞かれると答えられないに等しい。


小百合と犬猿の仲であり文の師匠である春奈も普段魔術師として何をしているのかと聞かれると答えられない。


何か研究のようなものをやっているようなのだがそれが何なのかは知らないし興味もなかった。


今度一人前の魔術師として何をしているのか聞いてみるのもいいかもしれないなと康太は考えていた。


どのような答えが返ってくるにせよ、春奈ならばこれから自分たちがどのような魔術師を目指すべきなのか具体的な、そして明確な答えを出せるだろう。


小百合と違って彼女は常識人だ。自分の師匠よりも文の師匠のほうがよほど相談相手になるというのは情けないなと康太は小さくため息をついてしまっていた。


「えぇと・・・どうやらちょっとした進路相談のようになってしまったようですね、申し訳ない限りです」


「いえいえ、これからのことを考えるいい機会でした。俺たちは何というか・・・まだそこまで先のことを考えられるほど成熟してないので・・・」


「仕方がないことでしょう。失礼かと思いますが、お二人はまだ学生ですか?」


「えぇ、まだ高校生です。なので一般人としての将来のことも考えなきゃいけないんですけど・・・」


高校生として本来やるべきことは勉学だ。それをこなし、将来自分が何をしたいのかを具体的に考えていくのが今の時期だ。


康太も文もまだこれから将来どのような職業になりたいのか具体的に考えたことはない。


康太は今のところ魔術などを利用して警察などになれればいいなと考えている程度だが、今の学力で国家公務員になれるかと聞かれると正直微妙なところだった。


昨今公務員の倍率は上がり続けている。そのせいで公務員にはなりにくいのだ。警察の倍率がどの程度なのかは康太は知らないが、それらになるためにはかなりつらい難関が待ち受けていることだろう。


「高校生ともなればまだまだ先はあります。大学に行くのも、就職するのもお二人の自由。魔術師としての将来もまだまだ決まったわけではありません。特に師匠が誰だからということに縛られることはありませんよ」


ある程度レッテルが張られてしまうということは仕方がないかもしれませんがと、館長は朗らかな声を出して笑う。


康太としても文としても、師匠の存在は関係ないといってくれるのは本当にありがたかった。


康太は悪い意味で師匠から多大な影響を受けている。特に評価面では小百合のせいでかなり厄介な状態になっているといえるだろう。


何せちょっと攻撃的な態度をとっただけでデブリス・クラリスの弟子だからという反応をとられてしまうのだから。


逆に文はいい意味で師匠である春奈からの影響を多大に受けている。


春奈は優秀な魔術師だ。その名前は協会内でも割と有名なほうである。特にデブリス・クラリスを止められる数少ない人間として名前を連ねているほどだ。


それだけ優秀な魔術師ともなれば、弟子も優秀なのだろうと勝手な先入観を与えてしまうことは多々ある。


実際文は優秀なのだが、優秀で当たり前だろうという先入観はそれなりに重荷になってしまうのである。


「・・・ひょっとしてですけど、館長の職業は教師か何かですか?小学校とかの」


「え・・・!?・・・あ、アハハ、どうしてお分かりに?確かに私は小学校の教員を務めていますが・・・」


あぁやっぱりと康太と文は物腰柔らかな彼の対応に加え、一つ一つの言葉遣いを聞きながら納得してしまっていた。


将来のことに加え、それぞれの個性を否定しない。先入観をなるべく持たずありのままの本人を見ようとする。


康太と文はこういった教師に昔あったことがある。目の前にいる人物ではないのは間違いない。それぞれ小学校も違ったし、何より性別や体格などが違いすぎる。


何より康太も文もここに近い場所に住んだことはないのだ。


だが小学校にそういったいわゆる『よくできた先生』がいたのだ。おそらく目の前にいる館長もどこかの小学校でそういった良い先生でい続けているのだろう。


この図書館に人が集まる理由、こんな魔導書を管理するという目的のもと動いている魔術師たちが何の不満も言わずに各々行動している意味が少しわかった気がする。


ひとえにこの人の人柄にひかれてやってきたのだろう。だからこそ先ほどの誘いに即座に返答できないのが悔やまれる。


「本当に進路指導みたいになってしまいましたね・・・こういった話はしないようにしているのですが」


「いえいえ、とても面白かったですよ。師匠のこととは切り離して今後のことを考えようと思えました」


「そうそう。師匠が無茶苦茶やっても俺は無関係だって自信が持てましたよ」


「・・・それは無理じゃないの・・・?少なくとも無関係ってのは・・・」


さすがに師匠である小百合が問題行動を起こしてその弟子である康太が見て見ぬふりをするというのは無理がある。


兄弟子である真理が後始末に奔走するのであれば自分も同じように後片付けを手伝わなければならないだろう。


そう考えるとやはり小百合とは切っても切り離せない関係になってしまっているのだ。


悔しいような情けないような複雑な心境に、康太はうなだれてしまう。


「それはさておき、これからも調査をよろしくお願いします。お二人はここにいつでも入れるように連絡しておきましょう。何かあれば報告に来ていただければと思います」


「ありがとうございます。何か進展があったら報告に来ます」


進路相談という名の雑談もそこそこに、康太たちは話を一度終わらせることにした。これから調査するにあたって必要な情報はすでに入手できたのだ。あとは早々に調査を進める必要がある。


まずはアリスと話をするところからだなと、文は報酬の話を具体的にしなければならないなと頭を悩ませていた。


本当に生放送なんてものをしなければいけないのだろうかと今から気が重い。とはいえ頼みに対する報酬では文句は言えない。


せめて時間を短くする交渉くらいはするべきだろうかと、説得の材料を探していた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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