イフと報告
「あともう一ついいか?持ち出しのルートとはちょっと違うんだけど図書館側の人間に裏切者・・・っていうか犯人の協力者がいたって考えられないかな?」
「協力者って・・・まぁいてもおかしくはないと思うけど」
今回の盗難に関して、もしこの図書館の中の人間が犯人に協力していた場合話は大きく変わってくる。
どれだけの人数が協力しているかもわからないし、そもそも協力者がいるのかも怪しいところではあるが可能性としてはゼロではない。
もし協力者がいたのなら、その人物と人数によっては何の問題もなく、何の苦労もなく本を持ち出せる可能性が高いのだ。
少なくとも当日出入り口を監視していた魔術師に関しては注意が必要かもわからない。
「協力者の可能性についてはそれとなく館長に聞いてみるわ。まぁたぶんいないって答えるでしょうけど」
「そうだろうな。自分の組織の中に裏切者がいるなんて堂々と答えるやつはなかなかいないと思うぞ」
一つの組織の長が自分の組織の中に裏切者がいたという事実を容易に認めるというのはなかなかないことだ。
決定的な証拠でもない限りその考えは否定するだろう。特にこの図書館のように管理に徹底的に気を使っている組織ではその傾向は顕著だろう。
「情報の整理としてはそんなところか・・・どうする?今日この後すぐにその建物調べに行くか?」
「んー・・・一応アリスを連れていきましょう。そのほうが確実だと思うし、何かしらの痕跡が残ってるかもしれないし」
「ん、了解。んじゃ依頼主に今後の方針とかを報告に行くか。そのついでにいろいろと注文・・・っていうか頼みもできるし」
調査状況の報告に加えて調査に必要な情報を引き出す。これは絶対に必要なことだ。依頼主に進捗状況を報告するのはもちろん、これからの調査を円滑に進めるためには依頼主からの情報収集も必須である。
どちらも以前の依頼でよくやったことだ。だが文は少々気後れしてしまっていた。
「そうね。支部長以外にこういう話するのちょっと緊張するかも」
「あぁ、支部長には良く報告してるもんな。もう前の依頼でなれたもんだろ?」
「慣れてるかもしれないけどさ・・・今回はあんたが報告してよ。一応私とあんたが一緒に受けてる依頼なんだから」
「別に構わないけど・・・俺が話すると変にこじれないか・・・?・」
以前の依頼は文が主に受けたものだったために、報告も情報収集におけるやり取りもほとんど文が主導で行っていた。
そのためこういった依頼での立ち回りはすでに学習しているが、報告の時は常に支部長だったため支部長以外への報告というのが地味に気がかりになっているようだった。
もちろん康太が報告してもいいし、調査のために必要な情報を仕入れようとしても何も問題はない。
康太自身それをするのもやぶさかではなかったが、本人の懸念としては自分が出ていくと妙に話が好戦的な方向に運ばないか心配だったのである。
文ならば仮に『調査の名目で話を聞きに行きたいので拠点の所在地を教えてください』という申し出をしてもなにも疑われることなく情報を引き出せることだろう。
だが康太が同じような申し出をした場合『話を聞きに行きたい(意味深)』ということになりかねない。
ただでさえ康太は妙なレッテルが張られているのだ。そのせいで相手が情報を出すのを渋った場合面倒なことになる。
もっとも今回は依頼主から解決を望んでいるのだからある程度は教えてくれるとは思うが、もし戦闘などになった場合『やはりこうなったか』という印象を与えかねない。
不本意ではあるが康太はそういった印象を持たれてしまっているのだ。康太としてはそこだけが心配だった。
今更他人からの評価で一喜一憂するようなことはないとはいえ、あまりに好戦的すぎるようにとらえられても困るのである。
「わかったわ。それじゃ基本的な報告はあんたがやって。実際見つけたものってあんたが全部見つけたんだし。私は情報収集の上で必要なものを頼んでおくから」
「お、いいねその分業。こういう時に外面がいいと便利だな」
「それってほめてるの?それともけなしてる?」
「もちろんほめてるって。俺も普通にエアリスさんとかの弟子になってりゃそういう風になれたのかね?」
そんなことを言った康太の言葉を文はそのまま想像していた。
もし康太が文の兄弟弟子になっていたら。魔術師になった歳は違えど、康太と文は同じ年齢だ。
年齢的に同じであるために兄弟子でありながら微妙に尊敬されないような関係になっていたかもわからない。
だが康太が文のことを『姉さん』と呼ぶところを想像すると少しだけ面白かった。
「何なら今からでもなる?私のことを姉さんとかお姉さまとか呼ぶなら師匠に取り合ってあげるわよ?」
「遠慮しておくよお姉さま。今更お前を兄弟子には見れないって。ただでさえ対等の関係になってから長いんだぞ?」
冗談交じりとはいえお姉さまと呼ばれて文は一瞬硬直してしまうが、よくよく考えれば康太と対等の関係でいられないというのは文としてもあまり良い関係とは言えない。
この話はなかったことにしたほうがよさそうだなと、文はなし崩しにこの話を流すことにした。
「というのが今日の報告です。現状疑わしい人物は三名、盗み出したルートに関してはある程度特定しました。証拠らしきものもあったので一応提出しておきます」
康太は今回の依頼主であるグループの長、別名館長に今回調べてわかったことを報告していた。
現段階で発覚したことをすべて報告し、考えられる可能性はほとんど提示した。この図書館内に裏切者がいるかもしれないという可能性を除いて。
「一日でこれだけの成果を上げるとは・・・いやはやさすがはライリーベルとブライトビーといったところでしょうか」
おそらく館長はこのことを調べたのはすべて文の功績だと思っているのだろう。実際は調査に関しては今回文よりも康太のほうが功績をあげている。
特定の場所に残ったものを調査するという意味では康太のほうが調査能力が高い。文の力が発揮されるのはここから先だ。場所や人の捜索などは文のほうが圧倒的な実力を持っているのだから。
「そこで館長、疑わしい魔術師のことを調べたいので当日訪れた魔術師の詳細なデータをいただきたいんです。拠点などの場所も教えていただけるとありがたいのですが」
「なるほど・・・わかりました、本当ならこういった情報は秘匿しなければいけないのですが・・・状況が状況ですから仕方ありませんね」
館長は文に対しては快く対応し、一瞬だけ不安そうな目を康太に向けた。康太も文もそのことに気付いている。さすがにデブリス・クラリスの弟子がどのような行動をとるのかというところは心配なようだった。
「安心してください、こいつは私がしっかりと手綱を握っておきますから。勝手な行動はさせません」
「え?あ、あはは。そうしていただけると助かります。というかブライトビーも聞いていたほど無茶苦茶な人物ではないようで少しだけ安心していたのですよ」
「自分の今までの行動が原因とは言え、そう思われているのはお恥ずかしい限りです。まぁ師匠が師匠ですから致し方ないような気もしますけどね」
康太はこの場では徹底しておとなしくしているつもりだった。少なくとも向こうから何かしら挑発でもしてこない限りはこちらから攻撃的な面を出すつもりはなかった。
本来康太は好戦的な性格ではない。小百合の影響を受けて多少攻撃的な面を持ちつつあるが、康太はもともと温厚なほうなのだ。
もっともそのことを文に言っても『馬鹿なこと言わないの』と一蹴されそうなものではあるが。
「とはいえわかりました。当日訪れた魔術師の情報はお教えしましょう。それと、一応なのですがお二人のことについても教えていただいて構いませんか?」
「俺たちの・・・というと俺たちの魔術師としての情報ってことですか?」
「はい、依頼を受けていただいたということもあるのですが、一応当図書館に足を運んでいただくことになるわけですので」
この図書館を利用するものならばある程度の情報は押さえておきたいと思うのが正直なところなのだろう。
康太と文としてもその理屈はわかるし、それを断るつもりもなかった。
何より二人の情報はある程度知れ渡ってしまっているために隠すようなことでもないのだ。そんなことを隠そうとして依頼主との関係が悪化するのは良くない。
「それじゃあ改めまして、『デブリス・クラリス』の二番弟子『ブライトビー』です。いつも師匠がご迷惑をおかけしています。拠点は師匠と同じですね。他に何か教えておいたほうがいいことってありますか?」
「そうですね・・・では得意な魔術を一つお願いします」
得意魔術を一つ教えろというのは魔術師への情報提供としてはそれなりに重要なもののように思える。
自分の手の内を一つ教えるということだ。うそを言うかそれとも本当のことを言うかによって相手の気性を測っているのだろう。
「俺の得意魔術は・・・そうですね・・・一番得意なのは分解かな?最初に覚えた魔術ですので」
そういって康太は自分の装備である槍を手で組み立てた後、それを分解して見せる。バラバラになったパーツを見て館長は仮面の下でそっと苦笑いしていた。
さすがは破壊の権化であるデブリス・クラリスの弟子、得意な魔術も破壊に関係するものなのだなと思いながら視線を康太から文へと移していた。
「初めまして『エアリス・ロゥ』の一番弟子『ライリーベル』です。拠点は師匠と同じ場所にしています。私の得意魔術はこれです」
そういって文は自分の体の周りに強力な電撃をまとう。これは文がわりと頻繁に使う電撃の魔術だ。
射程距離は短いが威力の高い魔術である。文はこれと水属性の魔術を併用することで遠距離の射撃に近い攻撃を行っている。
「彼女の弟子ともなるとほかにも多くの魔術を覚えていそうですね。わかりましたありがとうございます。ちなみにこれはお答えいただかなくても大丈夫ですが、お二人はいつ頃独り立ちをするつもりなんですか?」
独り立ち、つまりは師匠である小百合や春奈の教えをすべて受け、一人の魔術師として巣立っていくということだ。
一人で拠点を持ち、一人で行動する。そんなことを考えて康太と文は二人とも苦笑してしまう。
何せ康太の場合、兄弟子である真理もまだ独り立ちできていないのだ。彼女ができないのに自分ができるはずがないと考えている。
文はまだまだ自分が未熟だと思っているため独り立ちするのは相当先の話だと思っていた。彼女の実力がどうあれ、まだまだ春奈から教えてほしいことは山ほどあるのだ。当分独り立ちはできそうにない。
誤字報告を五件分受けたので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




