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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」
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話の仕方

「まぁ拠点に関してはもういいわ・・・それじゃ本題に入らせて。あんたたちと一緒にいたもう一人の魔術師がいたわよね?そいつのことよ」


先ほどまでの質問も康太たちにとっては本題の一つなのだが、文はここで話を区切ることでここからが本題であるということを印象付けていた。


少なくともこれから話すことも重要であるのは間違いない。特に康太たちが戦っている間に逃げた一人の魔術師、彼はこの場所にいるこのグループに何かしらの干渉をしていた可能性があるのだ。


あのタイミングでかかってきた電話。その電話が何かしらのトリガーになって彼らは好戦的になった可能性が高い。


何せあの場のことを把握できる人間でなければあのようなタイミングで干渉することはほぼ不可能に近いのだ。


となればあの場にいた中で、逃げ出したあの魔術師を疑うのは至極当然。今のところ疑える人物がそこにしかいないのだ。


支部長から紹介された魔術師が追跡しているとは思うが、一応彼らにも確認をしておいたほうがいいだろう。


「あいつは関係ない・・・偶然居合わせた、ただそれだけだ」


「偶然居合わせた・・・ねぇ・・・面白いことを言うのね・・・じゃあちょっと確認してみましょうか」


そういって文は康太のほうに視線を向ける。康太は小さくうなずいてから倒れたままの魔術師たちの懐をあさる。


動けない状態の魔術師はいったい何をするつもりなのかと少し焦っていたが、少なくとも仲間に危害を加えるつもりはないということがわかると少しだけ安堵していた。


だがその安堵は康太が倒れたままの魔術師たちが持っていた携帯を取り出したことで失われる。


「私たちが戦闘に入る直前、攻撃の意志がないことを示してなおかつ会話もしそうだった三人の魔術師に聞こえた音。たぶん携帯の音でしょうね。このせいで戦闘が発生した・・・いったい誰がかけた電話だったのかしら。それともアラームでもかけてたのかしら?」


アラームなどということはありえない。あの場で聞こえた音は数秒程度。しかもその音は康太たちが戦闘状態に移行した瞬間に消えていた。


誰かが状況を見て音を鳴らしたと考えるのが自然だ。となればだれがやったのかということになる。


「あんたが鳴らしたの?それとももう逃げたどこかの誰かかしら?」


「・・・違う・・・あいつじゃない・・・あいつは関係ない」


追い詰められてなお、これだけ危機的な状態にあってなお、魔術師は関係ないといい続けた。


文はこの反応にわずかではあるが違和感を覚えていた。


「そのあいつっていうのは誰?術師名くらいは知ってるでしょ?」


「・・・教えるわけないだろ・・・」


そして小さく息をつくと康太のほうに視線を向けて首を横に振る。その意味を康太は理解すると魔術師の背後に回ってその頭を掴む。


「答えなさい。今私はあんたに話をしているんじゃないわ、質問をしているの。あんたには答える義務がある」


「そんなものはない・・・どうしてもっていうなら拷問でも何でも好きにするんだな」


この対応で文の違和感は確信に変わる。関係ない人間が偶然いただけなのにそのことを隠し続けるだけの意味はない。


本当に関係ない人間だったのであればその人間の術師名くらい教えても問題ないように思える。


だがそれをしないということは彼らにとってその人物が重要な人物であるか、あるいは『そもそも知らない』のか。


どちらかというと後者のほうが濃厚だ。さらに言えば感性の操作などで重要な人物、あるいは大事な人物であると誤認させられている可能性が高い。


一人の人間の意識に刷り込ませることで、仲間の中にも溶け込むことができる。友達の友達ではないが、友人から信頼できる奴だと紹介されれば身内もある程度警戒を緩めてしまうのも仕方のない話である。


相手が感性そのものを変えることができる可能性がある以上、その可能性も十分にあり得てしまう。


さてどうしたものかと文が悩んでいる中、康太は文のほうに視線を向けた。


やるなら任せろ。そういっている目に文はため息をついてもうどうしようもないなと小さくうなずいた。


「じゃあご要望通り、あんたが本当のことを吐くまで苦痛を与えさせてもらうわ。私たちに喧嘩を売った報いだと思いなさい」


「・・・なんだと・・・?いったい何だってんだ・・・お前らいったい何なんだ!?」



まさか本当に拷問されるとは思っていなかったのか、魔術師は動揺し始める。


思えばこの魔術師たちに自己紹介はしていなかったなと思い出しながら、文は自分の術師名を名乗ろうとするがそれを康太に止められる。


不意に口元に何かの力がかかり、口元まで出かかっていた声を強引に抑え込んだ。それが康太の遠隔動作の魔術であると気付くのに時間は必要なかった。


「そんなことを気にしている余裕があるのか?お前はただ質問に答えていればいい。それ以外にお前の声は必要ない」


康太の声が低く沈んでいく。これが拷問をするときの康太の声かと文は少しだけいつもとは違う康太の声を聴いて背筋が震えていた。


だがその声を聴いて、まったく嫌悪感がわいてこなかったのも事実だ。この背筋の震えが恐ろしさからくるものではないことを文は実感していた。


「安心しろ殺しはしない。殺してくれと懇願するかもしれないけどな」


そういいながら康太はゆっくりと相手に苦痛を与え始める。その苦痛が終わるのは魔術師が知っていることをすべて話した時だけだった。














「・・・ん・・・あれ・・・?んぐ・・・!?」


その魔術師は目を覚ましていた。彼は康太たちが最初に接触した三人の中の一人、そして文を念動力で浮かせて運び、康太に攻撃され気絶させられた念動力を操る魔術師だった。


彼が起きたのは偶然ではない。先ほどまでと同じように康太が肉体強化の魔術を不完全な形で発動させて強制的に意識を覚醒させたのだ。


「おはよう、いい夢は見れたかしら?」


「・・・あ・・・?ここは・・・俺たちの・・・?」


「そう、あんたたちの拠点よ。話がしたくて接触したのにいきなり襲い掛かってきたから仕方なく拘束させてもらったの。痛くして悪かったわね」


文の言葉が響く中、念動力を操る魔術師は周囲の状態を確認しようとしていた。


自分の近くに倒れている仲間の姿、全員息があり生きていることが確認できたが、中でも一人、自分たちのリーダーがひどく負傷している姿を見てわずかに動揺した。


いったいこいつらは何者か。その思考を始める前に康太がその後ろに立って無理やり顔を上げさせる。


「聞きたいことは一つだけよ。あんたたちと一緒にいた魔術師はいったい誰?私たちとの戦闘中に逃げたやつよ」


「・・・あいつか・・・なんでそんなことが知りたい?」


「それは私たちの勝手よ。答えるの?答えないの?」


有無を言わさない文の言葉に、魔術師はどうしたものかと悩んでいた。話してもいい、別に話しても自分に害はない。


何より、一人だけ痛めつけられている自分たちのリーダーが気がかりだった。あれが戦闘によって与えられたものではないのは見ればわかる。


戦闘の傷にしてはダメージが極端に細部にありすぎる。明らかに拷問をされたのだろうとわかる傷跡だった。


そしてその拷問を終えた後に自分に話を聞こうとしているということは、話の整合性を確かめようとしているのだろう。


拷問によって得た証言が、嘘ではないと確証を得たいからこそ今こうして自分は起こされたのだと理解した。


「・・・あいつはリーダーが・・・そこでボロボロになっている奴が連れてきた・・・何でも気の合う奴なんだとか・・・詳しくは知らない」


「・・・術師名は?」


「わからない。今までこいつ・・・リーダーも名前では呼んでいなかった」


「じゃあなんて呼んでたの?話しかける時に不便じゃない」


「それはそうなんだが・・・リーダーもそいつの術師名を知らなかったらしくて、あだ名みたいなものをつけてたんだ」


「・・・そのあだ名は?」


「そいつが黒と白の・・・妙なマークの付いた変な模様の仮面をつけてたから、パンダって呼んでた・・・」


パンダ。そこまで聞いて文は小さくため息をついた。


先ほどまで聞いた話とは合致する。少なくとも拷問によって得た情報は決して間違いではなかったのだろう。


だがしかしパンダとは、まったく手がかりにもならないような情報だ。仮面なんていくらでも変えられるし、本人の特徴を理解できていないのであれば手がかりとはいいがたい。


だがそのパンダなる人物がリーダー格の魔術師に何らかの魔術を使って接近していたのは事実だろう。


「そのパンダは普段何をしてたわけ?よくこの場所にいたの?」


「・・・あぁ、比較的頻繁にここにきてた。俺らと一緒にこの辺りを散策することもあったし、拠点でじっとしてることもあった・・・何をしているのかは知らない」


「話したことはないの?拠点にまで何をしに来たのか」


「興味なかった。ただいるだけだったし、何かを見てるみたいな感じはしたけど」


何かを見ている。その言葉に文はわずかに反応する。


この場所に頻繁にやってきていた。その事実はこの状況ではかなり大きな意味を持つ。


もしかしたらこの辺りを観察していたのかもしれないなと文は考えながらさらに質問を進めた。


「そいつの情報を何か持っているかしら?身長や体格、あるいは声とかでも構わないわ。あと仮面の模様を教えてくれるとありがたいかも」


「・・・あいつが何かやったのか?こいつみたいに痛めつけるのか?」


「やったかもしれないからね。それに、こいつを痛めつける結果を与えたのがそのパンダの可能性が高いのよ・・・こいつに・・・いえ、あんたたちに洗脳に近い魔術を使って」


自分たちが洗脳に近い魔術を使われているという言葉に、魔術師は仮面越しでもわかるほどに信じられないという風に目を見開いた。


自分自身では自覚できなかったのだろう。明らかにおかしいことをおかしいと認識できていなかった。文が感じていた違和感はリーダー格の男だけではなくこの魔術師にも存在しているのだ。


それが何者かの魔術が原因であるのは間違いない。そうでなければ何かしらの薬物の投薬でも疑っているところである。


「明らかにおかしいことを疑問に思えないほどに強い催眠、あるいは洗脳を受けてるのよ。たぶんあんたたち全員じゃなく、あんたたちのグループのブレインの人間にだけ。なかなか考えてるやつだわ」


「・・・いったい何が目的で・・・?」


「そんなのわからないわよ。パンダ本人に聞きなさい。ただ私たちを敵に回した以上しかるべき対応をさせてもらうわ。その協力をしてほしいのよ」


協力などというが、実際は脅しているのと一緒だ。だがその言葉に、魔術師は迷うことなく即答した。


「わかった・・・俺が知ってることは全部話す」


いったいどういう考えがあったのかはわからない。だが少なくとも自分たちが何かに利用されたということと、今までおかしいと思うべきところを疑問すら浮かばなかったことに気付いたらしい。


これはいい流れだと文は喜びながら彼の話を聞いていた。


日曜日なので二回分投稿


今年も残りわずか、仕事も残りわずか


頑張ります


これからもお楽しみいただければ幸いです

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