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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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文の持つカリスマ

「さて・・・この辺りなら大丈夫か・・・」


康太たちは二人の魔術師を連れて町の外れまで移動してきていた。


強制的に連れてこられた魔術師たちからすればいったいこれから何をされるのか気になるところだったが、康太をはじめ他二名からも全く敵意や殺意が感じられないことから攻撃されることはないだろうと考えているようだった。


ある程度実戦も潜り抜け、最低限以上の実力を持った一般的な魔術師だといえるだろう。これは康太の私見だが、実力的には平均以上のものを持ち合わせているはずだ。


あの状況だからこそ足を止めての魔術師戦を挑んだが、それぞれ状況さえ違えば各自思い思いの行動をとったことだろう。それがどのような攻撃や対処だったのかが少々気になるところではあるが、康太たちが知りたいことは全く別のことである。


今はこの二人の魔術師の実力の把握よりも知らなければいけないことが山ほどある。まずはこの二人がなぜこの場所を拠点にしようとしたのかを知る必要がある。


「ベル、今回はお前が主役だ。任せたぞ」


「アイアイサー。まぁあんたが話をしようとしたら妙な方向に行きかねないからね・・・」


「よくわかってらっしゃる。俺とトゥトゥは周囲の警戒してるから、その間に存分にお話ししてくれ」


今回康太たちはあくまで文を補助する立場で活動している。文が話をしたいと思っているからこそこの二人を連れてきたし、二人に対して質問をするのも文であるべきなのだ。


今回の依頼は文が受けたもの。あまり自分たちが出しゃばってもよくないということを十分理解しているのである。


文は二人が警戒してくれているのを確認すると未だウィルによって縛られたままの二人と視線を合わせるような形でその場に膝を落として見せる。


「突然の非礼をまずはお詫びします。今回お二人に来ていただいたのは聞きたいことがあったからです。こちらに敵意はありません。そのことだけはどうかご理解いただければと思います」


こちらはすでに二人に対してかなりの非礼を働いている。魔術師としての戦いを邪魔しただけではなく、向こうの都合を完全に無視してこのような形で話を進めようとしているのだから。


敵意はない、それは間違いではないのだろう。実際文や康太、倉敷の三人からは一切の敵意を放っていない。


だがそれはあくまでこの二人がおとなしくしていた場合の話だ。もしこちらに牙をむけば相応の立場をとれるだけの準備を康太は整えていた。


相手を気絶させるまで、戦闘不能にさせるまで一切油断をするな。それは康太が師匠である小百合から何度も教えられてきたことだ。


自分たちが相手に非礼を働いたからといって相手に同情することは一切なかった。


だが文は違う。まだ一般的な魔術師としての思考ができる文はこの二人がどれだけ先ほどの魔術師戦を楽しんでいたか、没頭していたかが理解できてしまうのだ。


だからこそ同情しているし申し訳なく思っている。


彼女がそんなことを思っているからこそ、彼女が真摯に対応しているからこそ、今拘束されている二人もこの少女は信用してもいいのかもしれないと思い始めていた。


「私たちの戦いを邪魔しながら、さらに話を聞きたいという・・・非礼を働いたといいながらこの状態のままというのは、謝罪の意があるようには思えないな」


この状態というのが拘束されたままということを意味していることくらい文は容易に理解できた。


確かに謝罪しておきながら、話を聞きたいといっておきながら拘束したままというのはあまりにも無礼が過ぎる。


彼の言うことが正論であるからこそ、文は小さく息をついて康太のほうを向いた。


「ビー、彼らの拘束を解きなさい」


「・・・暴れられるかもしれないぞ?」


「その時はその時よ。私はこの人たちと話がしたいの。少なくとも対等にね」


「・・・アイマム」


文がここまで言うのであれば康太としても逆らうだけの理由を持たない。もしこの二人が抵抗するのであればそれなりの対応をすればいいだけだ。


康太は目配せして倉敷にさらに警戒するように促した後ウィルの拘束状態を解除し、二人を自由の身にした。


二人は自分の体が自由になったことを確認した後、小さく息をついてから文のほうを向き直る。


互いの仮面をしっかりと見た後で捕まっていた二人は一瞬顔を見合わせてから再び文のほうに視線を向けた。


「それで、君は私たちに何を聞きたい?えぇと・・・」


「失礼、名乗るのが遅れました。私はライリーベルと申します。修業の一環でこの辺りに足を踏み入れました」


「・・・ライリーベル・・・それにビー・・・?も、もしかしてそこにいるのって・・・ブライトビーなのか・・・!?あのデブリス・クラリスの弟子の!?」


文と康太が一緒に行動していることは協会内では割と有名なことであるらしい。ライリーベルがビーと呼ぶ魔術師がブライトビーのことを示唆していることくらい簡単に想像がつくだろう。


しかも康太の師匠の小百合を引き合いに出しながら驚いている。この反応から康太がどんな印象を持たれていたか何となく察することができていた。


「いかにも俺がブライトビーだ。名前を知ってもらえていて光栄な限りだが、俺はそこにいるベルほど甘くはないからそのあたりは覚えておけ?」


変な動きをしたらどうなるかわかっているなと暗に示唆したことで二人の中での康太に対する警戒度が上がっていく。


これでいい、康太を警戒させることで相手に妙な行動をとらせないようにする。自分の敵が増えたような気がしなくもないが、今はこれが最善手だと康太自身納得していた。


「ビー、私は話をするといったのよ?これ以上あんたからこの人たちに手を出すことは許さないわ」


「・・・そっちから手を出してくる可能性だってあるだろう?そうなったらこっちからも」


「ビー、二度は言わないわよ?」


「・・・アイマム」


文は徹底してこの二人に対する攻撃をやめさせるつもりのようだった。こうなってしまっては康太はほとんど何もできないに等しい。


文はおそらく先ほどの魔術師戦を見て、この二人の魔術師の邪魔をするのが本当に心苦しかったのだろう。


自分自身が憧れすらした魔術師戦を、特殊な条件が加味されたとはいえあのような形で体現するこの二人に対してこのような対応をしなければならなかったことを強く恥じ、同時に悔しく思っているのだ。


康太はその気になればお前の言うことを聞くつもりはないと突っぱねることだってできた。康太と文はあくまで対等、どちらかがどちらかの言うことを聞かなければならないということはない。


互いに筋の通った話や考えであれば納得して追従するし、協力もするが互いに納得できない内容であれば反発もする。


だが先ほどの文の提案、康太は内心納得していなかったのに従わざるを得なかった。


覇気とでもいえばいいのだろうか、奏や小百合が持つ独特の威圧感。それと似たものを文からも感じたのだ。


エアリス・ロゥの一番弟子、それなり以上の素質を持った彼女はもともとそういった素質を持っていたのかもしれない。そして奏や小百合と長く接したことでその才能に開花しつつある。


誰かを従える、屈服させる、一種のカリスマという名の才能を。


そして今のやり取りを見ていた二人は、目の前のライリーベルという少女こそ最も警戒するべき魔術師であると認識していた。


ブライトビー、その名前は魔術協会の中でもかなり広がっている。もとよりデブリス・クラリスの弟子というだけでそれなりに知名度はあったのだが、最近は面倒極まる問題に首を突っ込み、なおかつ生存、問題の解決などその成果は目覚ましい。


デブリス・クラリスのもう一人の弟子、ジョア・T・アモンこと真理も相当優秀な魔術師だが、その弟弟子であるブライトビーもまた優秀な魔術師なのだという認識が強まっているのだ。


問題解決能力もそうだが、その高い戦闘能力も広まっている。


さすがはデブリス・クラリスの弟子と称賛するものまでいるほどだ。


真理よりも攻撃的な性格、さらに今までの交戦内容を知っているもの自体が少ないとはいえ未だ敗北の回数も数えられる程度。


実戦においてブライトビーと接触することは絶望的といってもいいほどなのだ。


デブリス・クラリスと接触した時よりもましだろうが、戦闘に特化したそのスタイルは幼く弱いデブリス・クラリスそのもの。


真理とは違う、デブリス・クラリスの正統後継者。そう思えるほどの気性と戦闘能力。今の魔術協会でのブライトビーの評判はそのような形になっている。


そんなブライトビーが、ライリーベルにすごまれただけで前言を撤回し素直に従っている。いや目の前の彼女が従えているように見えたのだ。


猛獣を意のままに飼いならすかのような光景に、二人の魔術師はほんのわずかではあるが身震いすら感じていた。


「さて、ではいくつか質問をさせていただきたく思います。素直に答えていただけるとありがたいです」


「・・・わかった・・・こちらが答えられることなら答えよう」


「・・・同じく」


文の質問に、二人の魔術師は答えるしかない状態になってしまっていた。


近くにいるのはブライトビー、そしてそれすらも従える魔術師ライリーベル。


先ほど集中していた状態を崩されたとはいえ、この二人は全く反応できずに康太に拘束されてしまった。


戦闘能力でどちらが勝っているのか、この二人の魔術師はすでに康太と文に勝てるビジョンを浮かべられていないのである。


戦わずして勝つ。相手に戦う意欲さえ湧かせない。戦う前にすでに勝利を確定させる。以前奏が理想だといっていた戦い方だ。


奏の言っていたそれとは本質が違うが、康太と文がやったそれは奏の求めたそれに最も遠く、最も近いものだった。


「いいのか?あいつに好きにさせて?お前ならほかにいくらでもやりようがあっただろうよ」


文が二人と話している間に倉敷が康太に話しかけてくる。


確かにやりようがなかったわけではない。二人がまだ警戒している以上、まだ行動できる状態である以上康太としてはやりたいことはいくつかあった。


戦いを前提とした奇抜な考えではあるが、それは康太にとって呼吸をするに等しい考え方になってしまっている。


小百合の教育は恐ろしいなと思いながらも康太は首を横に振った。


「考えもあったしやるつもりもあったけどな・・・あぁなったベルはダメだ。たぶんあのまま言ったらベルと喧嘩になってた」


「喧嘩って・・・そんな大げさな」


「大げさだといいけどな・・・たまにあいつあんな感じになるんだよ。絶対にひかないぞっていう感じ」


康太の表現は抽象的すぎて倉敷は理解できずにいたが、康太は文の本質をほんのわずかにではあるが理解しつつある。


そしてそんな文の本質が康太は嫌いではなかった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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