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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十五話「夢にまで見るその背中」

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武力介入

「・・・お・・・なんか動いたな」


「え?どこどこ?」


「あの屋根のところだ・・・距離・・・どれくらいだ?」


それを確認したのは索敵ではなく康太の目だった。


索敵範囲の狭い康太の索敵ではなく、康太の目に映ったほんのわずかな発光。カメラのフラッシュのようにも見えたがそれにしては妙に強い光が一つの家屋の屋根の上から発せられたのだ。


普通に考えてカメラで写真を撮ったとして屋根の近くで光が出るのはおかしい。おそらく魔術的な行動が起きたのではないかと康太は考えたのである。


「ベル、少し移動するぞ。戦闘が起きてるかもしれない」


「了解よ・・・私はこっちに集中するからフォローは任せたわよ」


「了解だ。見つからないようにするよ」


文は先ほどからずっと索敵妨害のほうに集中している。この魔術を平常通りに扱えるようになれば通常の索敵と同時に扱えたのだろうが練度の低さが災いしほかの魔術との併用使用は難しいようだった。


無理もないだろう、今は徹底して索敵妨害に集中してもらうほうがよさそうだった。


「トゥトゥ、いざとなったら俺らが前に出るぞ。いつでも戦えるようにしておけよ?」


「それはいいけど・・・戦いになったら妨害解除してもいいんじゃねえのか?」


「ダメだ、あの場所だけに魔術師がいるんじゃないんだ。いきなり魔術師の反応が増えたらほかの魔術師にも警戒される。可能な限り姿は隠していくぞ」


この場にいる魔術師が視線の先にいる魔術師だけならばよかったのだが、周囲には大量に魔術師がいるような状態なのだ。


おそらくほかの魔術師たちも康太たちが視界に収めたあの状態を察知していることだろう。


ただでさえ意識が集中しているような状態なのだ。可能ならば接近して介入するのは避けたいところである。


まずどのような接触があったのかを確認するべきだ。これだけ緊迫した状況で事を起こそうとなるとそれなりの理由があると考えていいだろう。


康太はとりあえず先頭に立って移動を開始する。視界に収まっているということもあって距離的には百メートルから二百メートルといったところか。康太の索敵範囲は三十メートルであるためしっかりと状況を把握するためにはかなり近づかなければいけないことになる。


だが康太と倉敷の目には先ほどから断続的に発光する何かが映されている。あの場所で何かが起きているのは間違いないだろう。


康太たちはなるべく目立たないように物陰に隠れながら視界にしっかり収められる場所まで移動してくるとそれをようやく理解することができた。


行われていたのは予想通り魔術師同士の戦闘だ。屋根の上に乗っている二人の魔術師が道を挟んで魔術を撃ち合っている。


ほかの魔術師たちの縄張りに踏み込まないように、その場を動かないままの撃ち合いのような形で戦いを行っているようだった。


ここまで動かない、だが魔術のみによって行われる魔術師戦も珍しい。体術も地形的な有利不利も存在せず、純粋に魔術による優劣のみを競っているかのようである。


以前から聞かせられていた純粋な、一種の決闘に近い魔術師戦。これが普通の魔術師戦かと言われれば正直微妙なところではあるかもしれないが、一般的な魔術師戦に近いものなのだなと康太はその戦いを見て少しだけ感動していた。


二人の実力自体はほぼ拮抗しているようで、互いの攻撃に対しての防御、予測、そして自分の得意分野の攻撃をいかに相手に当てるかを徹底して行っている。


そこに体術など入る余地はなく、徹底して魔術のみで攻防を行っていた。


自分のような特殊な魔術師にはできない芸当だなと思いながらも、もし自分だったらどのように攻略するかと考えて彼らが行っている戦闘の不合理性も感じ取っていた。


戦いを神聖化する。以前誰かがそんなことを言っていたなと思いながら周囲の魔術師がこの戦いに対して静観に徹しているその意味も理解していた。


邪魔をしてはいけないと考えているのだ。ほかの魔術師たちが『戦っているのを邪魔するのは無粋である。ならば静観するに努めよう』と考えているのだろう。


これだけ縄張り争いをしていながら、この争いに乗じて縄張りの範囲を広げようとしないあたり非効率な連中だなと康太はあきれてしまっていた。


いや、むしろこうした対応こそ普通の魔術師なのかもしれない。そう考えると自分はずいぶんとひねくれた魔術師になったものだなとこの状況を前にして自分がどれだけ魔術師として普通ではない存在になったのかよく自覚することができた。


「で?どうすんだ?あんだけ戦ってると突っかかるのも苦労するぞ?」


「ていうかこれだけ人が見てる中で干渉するのは避けたいな・・・ていうかなんでこの二人は争ってんだ?」


これだけ魔術師がいる中で争いを始めるだけの理由があるということなのだろうが、それだけの理由がいったい何なのか。というか何を目的にした戦いなのかわからないのが一番の問題だった。


「戦いが終わった後で、どっちが勝者かはわからないけど、その片方に接触を図ろう・・・もうちょっとベルの妨害の精度が高ければ強引に割り込んでもいいかもしれないけど・・・」


「いっそのことこの辺り全部霧で覆うか?そうすれば周りからの視線は気にならなくなるぞ?」


「それもありだな・・・ちょっと長引くようならそうしよう。そしたらあの戦いに俺が割り込んで終わらせる。ちょっと悪い気もするけどな」


目の前で起きている戦いが後どれほど続くかは正直わからない。二人の残存する魔力量、そして互いに補給できている量から考えて、このままの消費量なら魔力切れを起こすということはなさそうだった。


長期戦も行える魔術師ならばどちらかの集中力が切れない限り拮抗が崩れることはないだろう。


文の妨害のこともある。あまり長くこの状態を眺めているのは好ましい状態とは言えなかった。


ただでさえ周りに魔術師の目があるような状態で未熟な妨害を続けるのははっきり言えば危険でしかない。


戦闘が続く中康太と倉敷は互いに合図してそろそろ動かなければまずいと判断していた。


簡単に魔術師の視界を変えることができるとすれば天候の変化だ。そしてその天候の変化を局地的にではあるがおこすことができる人間がここにいる。


徐々に徐々に、時間をかけて倉敷は周囲の湿度を上げていき、康太と協力して上空に雲を作り出していく。


ただ水分を操るだけではなく、康太の扱える微風の魔術を使って上昇気流を作り出し雲を作りやすい環境を作ることでより早く雲を作ることに成功していた。


そして雲を作り始めてから五分、雲はその許容限界を超えて雨となって地面に降り注いでいった。


半径で言えば康太たちを中心にして二百メートル程度だろうか。通り雨とも取れるような自然に流れる雲の動きに加えその降る雨の範囲のおかげでこの周辺にいる魔術師の半分以上の意識をほかのところにそらせることに成功していた。


その隙を見て倉敷は周辺に霧を生み出し、康太は周囲の霧の範囲に合わせてDの慟哭を発動させると戦っている魔術師の周辺のみに黒い瘴気を発生させさらに視界を悪くしてみせた。


急遽雨が降っても、霧が出ても互いへの攻撃と対処を怠らなかった二人のこの集中力は称賛に値する。もしこの二人が康太と敵対する存在だったらと少々考えてしまうが、今はそんなことは後回しだ。


片方にウィルを、片方に康太自身が接近していく。


互いの相手しか見えていなかったであろう二人の魔術師は康太とウィルという全く予想もしていなかった第三者の介入に驚いていた。そして完全に予想外だったからだろうか、まったく反応することもできずに二人に組み伏せられてしまっていた。


周りの魔術師たちが邪魔をしないと確信していたからか、両者ともに目の前の相手にだけ集中していたせいもあって康太たちに全く反応できなかったようだ。康太からすれば僥倖としか言いようがない。


ウィルはその体を覆う形で拘束具を作り出し魔術師を捕まえ、康太はその腕をひねりあげて屋根の上に押さえつける。


あれだけ見事な魔術師としての戦いを行っていた二人も、完全な不意打ちと肉体的な急襲を前にはもろいものだ。


やはり本気で戦うならこの方法のほうがずっと楽だなと思いながら康太は捕獲した魔術師をつかむと文たちのいる場所へと移動するべく魔術師を立たせる。


「これ以上危害を加えるつもりはない。少し話が聞きたい。こっちに来てもらおう」


「なんだお前は!邪魔をするな!私は今あいつと戦っているところなんだぞ!それともあいつの仲間か!?」


「それなら安心しろ。俺はあいつの仲間じゃないし今あいつも拘束したところだ。とにかく来てくれ。あまり目立ちたくはないんだ」


戦っていた二人からすれば唐突に魔術師が襲い掛かってきたように思えただろう。実際は片方は人間ではないのだが、シャドウビー状態だったウィルは一見すれば人間のようにしか見えない。


互いが互いの仲間を連れて襲い掛かってきたように思っただろうが、実際は全く関係のない第三勢力がやってきたのだ。反応できないのも無理のない話だ。


魔術師を抱えあげた康太は屋根から飛び降り、魔術師にまとわりつく形で拘束したウィルはその体を操って屋根から引きずり下ろした。


そうしている間に文たちも移動して何とか索敵妨害の範囲に康太たちを収めてくれたのだろう。


倉敷の操作によって徐々に霧の範囲を広げていき、あとは放置して風の動きに任せて自然に消滅するのを待つだけとなった。


「相変わらず早いな・・・つーかそいつが例の・・・やばいなそれ」


康太が捕まえた魔術師だけではなく、ウィルが捕まえた魔術師も一緒にやってきたということで戦っていた二人はいったいどういうことなのだろうかと状況の把握に努めようとしていた。


いったい何が起こったのか、何が起きているのか、この三人とこの赤黒い液体は一体何なのか。


思考をめぐらしながらなんとか脱出する手はずを整えたいところだったが思考がぐちゃぐちゃにかき乱されてしまってまともな思考ができていなかった。


いきなり集中を乱されてしまったのが大きかったといえるだろう。


「あぁ、実力的には結構えぐいタイプのやつだ・・・まぁそれはいいとして・・・移動するぞ。この場所はまだ目立ちすぎる。ベル、いけるな?」


「大丈夫よ、移動してオッケー」


「よし、せめて町の外れまでは移動しよう・・・二人とも、悪いけどついてきてくれ。少しだけ話をしたらさっきの続きをしてくれても構わない」


「・・・お前たちはいったいなんだ・・・?何が目的だ?」


「俺たちにいったい何の用だ?」


「さっきそっちの魔術師には話したけどな・・・ちょっとあんたたちに話が聞きたいんだ。ただそれだけ。戦ってるのを終わるのを待ってもよかったけど・・・それだとちょっと時間がかかりそうだったから介入させてもらった。悪かったな邪魔して」


康太の言葉に、少なくとも敵意はないようだと二人の魔術師は警戒を緩めた。話を聞きたいという康太の目的も嘘を言っているわけではないと理解したのだろう。もし本気で二人をつぶすつもりだったらあの不意打ちの時点で戦いができないように殲滅している。それができるだけの実力が康太にあると理解したのだ。


だが理解はできても納得はできない。魔術師としての戦いを、目の前の魔術師だけを見ていられたあの戦いを邪魔されたのだ。


一種の神聖ささえあった戦いを邪魔されたその理由が話を聞きたいからだけでは納得いかないのも無理のない話である。


内心詫びながら康太たちは移動を開始した。

土曜日なので二回分投稿

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