水の中にある答え
「で、俺を呼び出したわけか?」
「あぁ、尋問に協力してくれ」
康太がやってきたのはとある建物の屋上だった。何かの会社が入っている建物なのだろうが時間も時間ということもあってすでにほとんどの人間が帰っている。まだ何人かいるようだがこの程度ならば問題ないだろう。
そして康太が呼び出したのは水属性の精霊術師であるトゥトゥこと倉敷だった。
遅い時間に呼び出しても何の問題もなく、何より今回の尋問に関していえば最適と思える人選である。
倉敷は目の前に転がされている三人の魔術師を見てものすごくいやそうな顔をしていた。
「とりあえず仮面つけとけ、袋かぶせるけど万が一がないとは限らないからな」
「・・・あのさ・・・一応聞いときたいんだけど・・・これから何するんだ?」
「何って尋問だよ。こいつらが何を目的にして俺らに喧嘩売ったのか聞き出す」
拷問の間違いではないのかと倉敷は目の前に転がっている三人に目を移す。
かなり乱暴にではあるが応急処置がされており、その腕と足はワイヤーでしっかりと拘束されている。
応急処置の数からかなり攻撃したことがうかがえるが、一体どのような戦闘をしたのか全く見当もつかなかった。
そして倉敷には見えない場所にはウィルによる拘束もされている。これだけ拘束されている状態では魔術を使えたとしても脱出はほぼ不可能だろう。
「こいつら一体何したんだ?お前に喧嘩売るとか正気の沙汰じゃないだろ」
「俺っていうか俺らっていったほうが正しい。こいつらうちの店に来ようとしてたんだよ」
「・・・あれ?それってこいつら客だったってことじゃね?」
「いや?俺がカタログ持ってくるから待ってろって言ったら攻撃してきた。別の目的があってうちの店に攻め込みに来たんだろうよ」
「・・・攻撃されて、お前に怪我はなかったのか?」
「こんな奴らの不意打ち喰らうかっての。逆にボコボコにしてやったぜ」
伊達に小百合の修業を受けているわけではない。相手がこちらを攻撃してきて不意打ちが決まり、気絶しているふりをしたところで逆に不意打ちを仕掛ける。今回はその動作が恐ろしくうまく決まった。
相手が倒れた後で気絶しているかどうかを確認もしないで別の場所に行こうとした時点で彼らが戦闘慣れしていないのはわかりきっていた。
戦闘慣れしていない三人に対し負けるほど康太は軟弱ではない。
「でもこいつらボロボロだぞ?これ以上痛めつけたらさすがにまずいんじゃないのか?」
「何言ってんだよ、そのためにお前がいるんだろ。何のためにお前を呼んだと思ってるんだよ」
「・・・ひょっとしなくても水責め?」
「ご名答。痛みはないけどかなりきつい尋問だぞ?実体験したからよくわかる」
訓練の一環というか、戦闘訓練の中で何度か真理の使う水属性の魔術によっておぼれさせられたことがある。
康太と水の魔術は相性が悪い。康太が有する攻撃手段はほとんどが物理系のものばかりだ。水はその物理系の攻撃に対して十分以上の防御能力を持つ。
壁として展開するだけではなく、自身の周りに水を展開されたときに康太は逃げ回る以外の選択肢を持たないのだ。
康太の手の内を知っている真理がその程度のことをしないはずがない。むしろ弱点を克服させようと積極的に水の魔術を使ってくるのだ。
康太はさっさと三人の顔に布袋をかぶせながら尋問が開始できるように準備していた。
実際現在の状況において水責めというのは最も適切な尋問、もとい拷問方法だといえるだろう。
相手に傷をつけることはこれ以上しないほうがいい。なおかつ相手に騒がれると面倒なことになる。
そういう時に水責めをすれば相手に精神的な強いダメージを与えることもできる上に相手が大きな声を出すのも阻害することができる。
呼吸さえ自由にできず、なおかつ息を吸い込むことに必死にならざるを得ない状況になると、人間声を出すのも難しくなってくるのだ。
酸欠によって意識は朦朧とし、徐々に思考能力も奪われていく。苦しさだけが続く中でこの苦しさから逃れるすべだけを考える。
そんな時に話せば楽にしてやるなどと言われれば口が軽くなる。どんなに口が堅いものでも延々とそれを続けられると心に隙間ができていくのだ。
「でもさ、俺人は殺したくないぞ?そのあたりわかってるか?」
「俺だって人殺しなんてしたくないっての。大丈夫、たぶんこいつらにそこまでの根性はない。こっちのでかいのはちょっと根性ありそうだけどな」
でかいのといって康太はクダの方に視線を向ける。先ほどの戦闘でも最後まで味方をかばおうと前に出たのがこのクダだ。
おそらくこの三人の中で一番の胆力の持ち主だろう。意志の強さとでもいうべきか、彼の尋問には多少手を焼くだろうなと康太は少しだけではあるが面倒くさそうにしていた。
「お前にやってほしいのは水を出して呼吸できないようにするだけ。俺が合図するからそのタイミングで水出したり消したりしてくれ。いや、こいつらに水を纏わせたり外したりのほうがお前的には楽か?」
「そうだな、そっちのが楽だな。俺はしゃべらなくていいんだろ?」
「おうよ。そういうのは全部俺がやる。お前は術の発動とかにだけ気をつけてくれればいいよ」
笑いながら康太はそういうが、そんな様子を見てこいつ妙に慣れてるなと倉敷が少し引いていたのは言うまでもない。
ヤヤ・ラヘイが目を覚ました時、目の前は真っ暗だった。夜なのだから無理もないなと考えていたのだが、首を動かしても全く光景が変わらないのと、自分の首や顔、そして頭に妙な違和感があることに気付き、自らの異常に気付くことができた。
何かを被らされていると理解して、現状の整理をし、なおかつ今まで何があったのかを思いだすのに少し時間がかかったが自分の頭が掴まれ、いきなり地面にたたきつけられたことで頭は急激に目覚めていた。
「おはよう、よく眠れたか?」
その声は自分が先ほどまで戦っていたブライトビーのものだった。自分は、自分たち三人はブライトビーに敗北し、こうしてとらえられているのだ。
この場所がどこなのか把握しようと魔術を発動しようとするも、何かの手が首筋に触れられた瞬間、体の中に強烈な違和感が生じる。
吐き気に眩暈、ありとあらゆる部位に強烈な痛みと違和感を覚えたことで魔術を発動できるような状況ではなくなってしまった。
「勝手なことはするな、お前は俺の質問に素直に答えていればいい」
「・・・っざ・・・けるな・・・」
必死の抵抗、無意味な抵抗、そう思われても仕方がない言葉をぶつけると、数秒してから彼の顔の周りに大量の水があふれ出す。
ただでさえ体調を強制的に不調にさせられた状態で、さらに呼吸まで満足にできなくなったことで、ヤヤは現状の混乱に加え息をしたいという考えに取りつかれた。
息がもたない。死ぬのではないかと思った瞬間、自分の顔の周りにあった水がなくなりようやく息ができる。
だが布袋が水を吸い、満足に息ができない。思い切り息を吸おうとしているのにうまく呼吸ができていないのではないかと思えるほどだ。
そして何度か息をした次の瞬間には再び水がヤヤの顔を覆っていく。息を吸おうとした瞬間に水がやってきたことで、完全に呼吸困難に陥り、意識が徐々に朦朧としていく。
いったい何度そんなことを繰り返しただろうか、頭が回らない、体調は最悪、呼吸したいのになかなかそのチャンスが少ない。
そんなことを何度も繰り返したせいで、満足に思考さえできなくなってきた時に誰かの手がヤヤの頭をつかんで強引に持ち上げた。
「お前に聞きたいことは一つだ。デブリス・クラリスの店に何の用だった?答えろ」
応える余裕などなかった。今はとにかく息をしたかった。だがいつまでたってもヤヤが答えないことに、答えるつもりがないと判断したのか再び水がヤヤの顔めがけて襲い掛かる。
相手が自分を殺すつもりはないことは、少し考えれば理解できたはずだ。直接的な暴力ではなく、水責めをしていることから相手に殺意がないことはわかりそうなものだった。
だが思考能力が削られ、苦しみを延々と与えられているヤヤにそんなことを考えられるだけの余裕はなかった。
死にたくない。殺されたくない。助かりたい。
何度も何度も水責めを繰り返すうちにヤヤの頭の中はその思考に満たされていった。
ある程度精神力のある人間ならば、この状態においてもしっかりと思考を維持し、うまく思考を展開して康太の考えを読み取れたかもしれない。
だがヤヤという人間はそこまで強い精神力を持ち合わせていなかった。そのあたりは康太の予想通りというわけである。
再び水がなくなり呼吸ができるようになったとき、必死に呼吸をしようと息を吸い込む中再び声が聞こえてくる。
「苦しいだろ?俺だって本当はこんなことしたくない・・・お前が教えてくれたらすぐにでもこんなことやめられるんだよ」
肩を揺らしながら呼吸しているヤヤの頭の中に康太の言葉がしみ込んでいく。思考能力がそぎ落とされている頭に、康太のその言葉が恐ろしいほどによくなじんだ。
「答えろ、なんでデブリス・クラリスの店に向かおうとした?なぜブライトビーを攻撃した?」
息を整えて、ヤヤは答えようとしていた。何とか声を出そうと、声を出してこの質問に答え助かろうとしていた。
康太はすでに、ヤヤの心が折れていることに気付いていた。だからこそ手は抜かなかった。
答えようと口を開いたその瞬間に再び水をその顔に纏わせる。
ただでさえ息ができないような状態のところに、助かろうと答えようとしていたところに再び呼吸できない状態にさせられたことでヤヤは軽く絶望しかけていた。
呼吸を整えている暇などないのだ。声に質問されたらすぐに答えなければ自分のこの苦しみは延々と続くのだと錯覚していた。
再び水がなくなり呼吸ができるようになった瞬間、また声が聞こえてくる。
「さぁ答えろ。なぜデブリス・クラリスの店に向かおうとした?なぜブライトビーを攻撃した?」
「・・・あ・・・ま・・・まって・・・たの・・・こ・・・えるから・・・」
呼吸が整わないままに、いや呼吸をしながらもなんとか自分に答える意志があることを伝えようとヤヤは必死に声を出そうとした。
だが酸欠の状態で、少しでも酸素がほしい状態で声を出そうとしても口が、喉がうまく動いてくれなかった。
この言葉が伝わっているかどうかも定かではない中、ヤヤは必死に懇願していた。頼むから答えさせてくれと。頼むからこれ以上苦しめないでくれと。
這いずり回りながらそう懇願する姿を見て康太はこれで十分だなと確信し、彼が答えるのを待つことにした。
結局ヤヤはすべてを話した。隠すことなくそのすべてを話した。目的が神加であることも、そしてそれが依頼されたことだということもすべて自供した。
土曜日なので二回分投稿




