連携と単身
康太は自分の武器である槍を構築の魔術によって組み立てると三人の魔術師の前に躍り出ていた。
そちらが先に仕掛けてきたのだから反撃されても仕方がないだろう、そういっているかのようにもうすでに康太は会話を行うつもりはなかった。
槍を構えた状態で一気に接近すると三人の中で唯一無事だったヤヤが康太めがけて炎の魔術を繰り出す。
どうやら先ほどの炎弾はヤヤが放ったものだったらしい。勢いよく発射された炎は燃え盛りながら一直線に襲い掛かる。だが康太がそんな見え見えの攻撃に当たるはずがなかった。
体をひねりながらわずかに進行方向を変えながら炎を躱すと、速度を落とすことなく距離を詰め三人の中でもリーダー格と思わしきヤヤに斬りかかる。
だがその瞬間、槍とヤヤの間に体を滑り込ませたのはクダだった。
その巨体からは想像できないほどの俊敏性を見せ、その手に持っていた盾を使って康太の槍を弾くとお返しとばかりに土塊のついたハンマーのようなものを康太めがけて振り下ろしてくる。
先ほどの土塊をぶつけてきた魔術はこのクダが放ってきたのだなと分析しながら康太はそのハンマーの一撃を躱しながら再度攻撃しようとすると今度は地面から氷の刃が突き出してくる。
それを放ったのはすでに全身を負傷しているヤカセだった。それぞれが炎土氷の属性を得意とする魔術師のようだ。連携もうまくできている。康太が不意打ちを使っていなければそれなりに厄介な相手になったかもしれない。
だがすでに三人のうち二人は負傷、索敵役を担っていた人物が負傷しすでに動くことも難しいだろう。
再現の魔術を発動し空中に疑似的に足場を作ると同時に跳躍、駆け上がりながら氷の刃を回避すると、康太はとりあえずあの三人の中で誰を倒すべきか頭の中で組み立てていく。
盾役を担っていると思われるクダを先に倒し、そのあとでヤヤを倒せば問題はない。頭の中ですでに戦いの大まかな流れは出来上がっていた。
だがこのあたりは住宅地だ。あまり大きな音を立てても騒ぎになる可能性が高い。ここは静かに攻撃をする必要があるなと康太は自分の体の中から黒い瘴気を吹き出させていた。
その瘴気を見た瞬間、三人が目に見えて動揺する。康太が出したそれの意味を理解しているのだろう。
周囲が黒い瘴気で埋め尽くされていく中、彼らは視覚による康太の姿の確認ができなくなっていた。
三人は索敵によって康太の動きを把握するしかない状況に追いやられた。可能であれば移動して康太のこの黒い瘴気の効果範囲外に逃れたいところだが、ヤカセが現段階ですでに動けなくなってしまっている。彼をおいて逃げるという選択肢は二人にはないようだった。
仲良しなのはいいことだなと思いながら、康太は索敵の魔術を発動したまま再現の魔術を発動する。
ナイフに槍の投擲を三人に同時に放つことで一気に攻撃を仕掛けていた。
体格のいいクダの体を盾にしても、二人同時にかばうことは難しい。しかも索敵の魔術でも感知しにくい再現の魔術に反応しきれずに、防御が間に合わなかったのか、クダは脚部に直撃を受け、かばいきれなかったのかヤヤの右肩にもナイフの投擲が直撃していた。
すでに三人とも負傷、相手もこれで少しは本気になるかなと康太は槍を構えた状態で接近していた。
三人もそれに気づいたのだろう、康太に対して警戒しようとするが康太はここで一つ試してみることにした。
それは何度か試してみたいことでもあったのだ。特にこの状況になったらやってみたかったことがある。
康太の体を覆っていたウィルがその体から離れ、徐々に康太の体を形作っているのだ。
康太の体、そして康太が着ている魔術師装束、つけている仮面、その手に持つ槍などをおおざっぱながらに作り出し、魔術師ブライトビーの姿を作り出して見せたのだ。
もっともそれは形だけだ、中身は全く入っていないためにきちんとした索敵をすれば見破れるし、何よりしっかりと肉眼で確認すれば見分けるのは容易である。
だがDの慟哭によって視覚はほとんど役に立たず、索敵の魔術を使っているとはいえそれなりの速度で動いている対象二つの細部までを観察するだけの余裕はなかった。
唐突に現れたもう一人のブライトビー、どちらが本物かなど考え反応が遅れたところに、康太とウィルの両者が襲い掛かった。
どちらが本物でどちらが偽物かなどと考えること自体がそもそも間違いなのだ。ウィルは康太の訓練の時にその体の動きを学習しているため、完璧とは言えないまでも康太の動きをある程度までは再現することができる。
特に戦闘時の槍の動きは念入りに教え込んだ、この場にいるのは槍の扱いに関してはほぼ康太と変わりのないブライトビーの分身といっても過言ではないのだ。
二人のブライトビーによる槍の攻撃に、たった一人の盾役で防ぎきれるはずもない。この周りに潤沢に土があったのであれば盾役としてしっかりと防御することができたのだろうがそれも屋根の上では難しいようだった。
業を煮やしたヤヤが魔術を発動し、味方を巻き込まないように炎を展開するが康太は全く引くつもりはなかった。
味方を巻き込まないように展開するということはつまりそれだけ穴があるということでもある。その隙間を見つけながら炎を回避しつつ三人めがけて槍の連撃を加えていった。
三人一塊になっているこの状況は康太にとっては好都合だった。バラバラになられるよりもこうやって一塊になってくれていた方が攻撃する側としては楽なのだ。
ヤカセがせめてもの抵抗で康太の姿をしたウィルめがけて氷の刃をぶつける。康太ほどの回避能力のないウィルはその攻撃を受け止めるがダメージはゼロだった。
そもそも半液体状のウィルにダメージを与えることができるのかどうかも怪しい。
康太は肉体強化を自らの肉体に施し、三人の近くで足を踏みしめると握りこぶしを作って思い切り振りぬいた。
瞬間、三人に巨大な衝撃が降りかかることになる。




