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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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結果報告

「結果から言えば、協会で保管してる死体の中にあの子の両親はいなかったわ。幸か不幸かわからないけどね」


「いやいや、死んだっていう確証が得られなかったのは良かったことだろ。あとはマウ・フォウに任せて俺らは自宅の経過観察を続けて、神加が普通に生活できるようにすればいいだけだ」


康太はとりあえず支部のほうには神加の両親の死体がなかったことを喜んでいるようだった。


実際に亡くなっている人がいる以上手放しには喜べないのだが、少なくとも神加の両親があの場で亡くなったわけではないということはそれなりに吉報であることは間違いない。


「・・・普通の定義に困るけど・・・まぁ一般的な生活に近い状態にできれば最高ね。ここにいる時点でだいぶ難しいけど」


「それに関しては心底同意するよ。仕方がないとはいえ師匠と一緒に暮らすんだもんなぁ・・・それが一番の問題だろ」


「教育上・・・それに精神的にもよろしくないわよね・・・少なくとも性格がだいぶねじれるのは間違いないわね」


「お前たち、そういう話は本人がいないところでやれ」


康太たちが今話しているのは小百合の店の居間のような場所だ。いつものちゃぶ台がおかれた場所といえばわかりやすいだろうか、修業で疲れた神加は別室ですでに寝ており、真理とアリスは神加が少しでも安らかに寝られるようにサポートしているところだった。


そのためこの場には康太と文、そして神加の修業を終えた小百合しかいない。


本人を前にして堂々とこういうことが言えるようになったあたり、文もこの場所の空気に慣れてきたというべきだろうか。


「でも実際師匠って子供相手にはすごく教育によろしくないですよ。世のお母さま方から見ちゃいけませんって言われるレベルで」


「私の存在は不審者と同義か。今度訓練するとき覚えていろよ・・・とはいえお前たちの言うことももっともではある。少なくとも普通の一般家庭で生活しているよりも性格が歪むのは仕方がないだろうな」


自覚はあったのかと康太と文は少しだけ驚いていたが、小百合は神加が眠っている部屋の方に少しだけ視線を向けると目を細める。


「子供にとって親というのは何も養ってくれるだけの存在ではない。頼り、甘え、時には導かれる。厳しくもあるが、それはなくてはならないものだ。それが近くにいないというだけで子供にとっては大きなゆがみを作る」


「・・・師匠、なんか変なものでも食べましたか?妙にまじめなこと言ってますけど」


「私は基本いつもまじめだ」


それはかえって良くないのではないかと、普段の無茶苦茶っぷりを知っている康太からすれば普段の小百合が真面目であるとは考えたくない康太だったが、それよりも気になったのは小百合の言葉だ。


子供にとって親の存在が一体どのようなものであるか。小百合にとってはよくわかるものであるらしい。


「その分を俺たちが埋めてやることとかっていうのは・・・」


「無理だろうな。子供にとって親というのは特別なものだ。今はまだ比較対象が少ないからいいかもしれんが、これから学校に通うようになってその違いは明確なものになっていく。人間というのは良くも悪くも枠から外れるのを嫌がる生き物だ」


その違いというのが康太には何となくわかりつつあった。魔術師になって少し経った頃、高校に通い始めた時にほんのわずかに感じた疎外感のようなものだ。


自分は周りの人間とは違う。それが良い意味だったのならまだ誇れたのかもしれないが、魔術師になったことで何が優れているというわけでもなかったために、独特の疎外感や孤独感を感じたことはある。


康太には文という同級生かつ貴重な仲間がいたからこそそこまで気にすることはなかったが、神加の場合のそれは康太のそれとは質が違う。


小学校の段階で『親がいない』というのは強烈なコンプレックスとなるだろう。


他の周りの子供たちが両親の話題や家族での旅行などの話をしている中、彼女だけはその話題に入ることができない。


彼女には親がいないから。


その疎外感や孤独感は、間違いなく彼女の心に亀裂を作る。そしてその亀裂は彼女の性格を歪に変形させていくだろう。


親がいないというのは子供にとって多くの影響を及ぼすことなのだ。


「・・・そんな状態になるってわかってるのに神加を預かるなんて・・・師匠一体どうするつもりなんです?」


「どうするも何もない。私はあいつの師匠だ。師匠として指導はするが私生活にまで干渉するつもりはない。それはあいつ自身が決めることだ」


「・・・子供相手に自立心を求めるのってどうなんです?少しは優しくしてあげてもいいじゃないですか」


「優しくしたところであいつの心は変わらないだろう。自分自身で折り合いをつけるしかないんだ。優しくしてやるのはお前たちに任せる。私はそういうのは苦手だ」


そういわれると小百合が誰かにやさしくしているところは確かに想像できない。


猫なで声を発しながら笑顔を振りまき、誰かのために行動している小百合を想像して康太は吐き気さえ催してしまっていた。


「・・・うん、師匠は今のままが一番似合ってますよ。神加をいやすのは俺たちで頑張りますから」


「そうしてくれ。私は子供は苦手だ」


子供は苦手だといいながらしっかりと指導はする。師匠という立場になったからにはやることはやると決めているようだが、小百合の表情にはどこか憂いがあるように思えた。


その表情の変化に康太は気づくことができなかった。











その知らせは、康太たちが思っていたよりもずっと早くやってきた。


康太と文が神加の両親を捜索する依頼を出してから一週間、マウ・フォウが小百合の店にやってきたのである。


そしてその表情から康太はすべてを察してしまっていた。


地下ではまだ神加たちが修業をしているため、康太とマウ・フォウは一度小百合の店を出て近くにある喫茶店に足を運んでいた。


「結果は・・・言うまでもないことかもしれないけど一応報告するね。天野夫妻の遺体を発見したよ」


「・・・そうですか・・・場所は?」


「件の魔術師グループの活動圏内にある雑木林の一角・・・比較的遺体も隠しやすい場所だから調べていたら見つけてね・・・遺体の状況から見て生きたまま埋められたとみるのが妥当だね」


「・・・そうですか・・・」


魔術師が個人で遺体の処理をするにあたってある程度処理しやすい場所や、廃棄しやすい場所というのは存在する。


マウ・フォウはまず魔術師グループの活動圏内にあるそういった場所をしらみつぶしに回っていたらしい。


索敵の魔術と併用してとにかく周囲の土地を調べていたところ、いくつかの死体を発見したそうだ。


人を攫った時、その関係者たちを一か所に集めてまとめて土属性の魔術で生き埋めにしたのだろう。


深くまで埋めてしまえば地割れでも起こさない限りは見つかりようがない。魔術師だからこそできる死体の処理方法だ。


魔術協会にも連絡し、遺体の処理はすべて終えたそうだが、その中には康太が提示した天野夫妻の遺体もあったという。


顔も確認し、所持品から本人であるとの確認もとれた。まず間違いないとのことだった。


「ありがとうございます。これでこれからの対応が決まりました」


「あんまりよい結果とは言えなかったみたいだけれど・・・すまないね」


「あなたが謝ることではありませんよ。それで報酬の件ですが、いくらほどですか?」


「良くも悪くも期間が短かったからね。そこまでじゃないよ。これが今回の領収書のまとめね」


康太は丁寧にまとめられた領収書を一つ一つ確認していく。


それらはみな今回の調査に必要になった経費だった。特に不自然な点も見当たらず、マウ・フォウなりに効率よく探していった結果だということがこの領収書から見て取れた。


「遺体の確認や協会への対処もしていただきましたから、少し色を付けさせてもらいます。支払いは今でいいですか?それなら金を下ろしてきますけど」


「あとでも構わないけれど・・・まぁせっかくあったんだし今もらおうか。でも大丈夫かい?学生が払うにはけっこうな金額だけど」


「大丈夫ですよ、良くも悪くも協会からいろいろもらってますから。そこから捻出します。本当にありがとうございました」


マウ・フォウが神加の両親を見つけてくれなければ、きっといつまでも前に進めないままだっただろう。


康太としても神加としても、良い結果とはいいがたい。だが早いうちからこのことを知れたことでこれから対応はできる。


問題なのはこのことをどの段階で神加に告げるかということだ。あの精神状態では今告げるわけにはいかない。だからといってこのまま放置しておくわけにもいかない。


どうしたものかと悩んでいると、康太の前に数枚の書類が差し出される。


「・・・これは?」


「ちょっとしたおまけみたいなものだよ。彼女の・・・父方の天野家、そして母方の相生家、それぞれの系図と今生きている人の住所だよ。一応彼女の身内という形になるね」


そこには彼の言うように、神加の叔父や叔母、祖父母それぞれの現住所と名前、顔写真などが記載されていた。


両親のことにばかり気がいっていてそれぞれの祖父母の方に関しては完全に失念してしまっていた。


「こんなにしっかり・・・これはさっきの料金には入ってるんですか?」


「いや、さっきも言ったけどおまけだよ。初回サービスみたいなものさ」


「さすがにこれだけのものを用意していただいたんですからお支払いしますよ!これだけ調べるのは大変だったでしょうに」


「そうでもないさ、これに関しては本当に気にすることはないよ。こっちとしても、あんなに小さな子が天涯孤独というのはかわいそうだったからね・・・」


だからといって身内がいたとしても、だからどうしたという感じだけれどとマウ・フォウは少しだけ複雑そうな表情をしていた。


仮に叔父や叔母、祖父母がいたとしても両親の代わりにはなれはしない。むしろ自分に近い位置の家族以外の『他人』がいることで溝は大きく感じられるかもしれない。


天涯孤独ではない。だが親がいないというのは誰よりも強く孤独を感じるかもしれない。


神加はあの歳でそんな状況になってしまっているのだ。


精神を病み、周りには支えてくれる家族はいない。


自分たちが支えてやらなければ、あの小さな体の少女はあっという間に折れてしまうだろう。


ある程度育った状態でそのような環境になったのであればまだよかったが、残念ながら神加にはそのような状況を正確に判断できるだけの知力はない。


感情で物事を考える子供に、自分の置かれた環境を正確に理解させようというのがまず無理な話なのだ。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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