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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十四話「世代交代と新参者」

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天野神加

康太たちはリビングから移動し、みかの両親の部屋の方へとやってきていた。


二人の所在に加え、二人の職業などもわかれば調査がしやすいと思ったのである。


さらに言えば両親の部屋にやってくれば家庭環境などの書類も見つかるのではないかと考えたのだ。


実際本人の特定に加えみかの名前の漢字などもわかることになる。書類関係は探しておいて損はないだろう。


万が一のことを考えてこの家に入る前に指紋を残さないように手袋はしてあるが、これからはさらに厳重な注意が必要となるだろう。


「どうだ?それっぽいの見つかったか?」


「微妙ね・・・手紙とかはちょくちょく見つかったわ。みかちゃんのお父さんがお母さんに送ったラブレターとか見つかったけど読む?」


「やめて差し上げろ。男の恋心を何だと思ってるんだ・・・っと・・・それっぽいファイル発見・・・たぶんこれだな」


なるべく余計なものは見ないようにしながら康太たちがみかの両親の部屋を物色していると、康太はお目当てのものと思わしきファイルを見つけることができる。


そしてその中身を見てみると康太の考えは当たっていたようで、その中には家や保険の書類やら家族の戸籍情報やらが記載された書類が山ほど入っていた。


おそらく重要な書類はすべてこの中にまとめられていたのだろう。


「ナイス康太・・・じゃあまずは両親の事とみかちゃんのことを調べましょうか」


「了解・・・えっとみかの両親は・・・天野和也と天野里奈・・・娘に天野神加・・・これでみかって読むのか・・・」


「神酒とかいうし、その読みを取ったんじゃない?にしてもすごい読み方したわね・・・別に美しいとかでもよかったんじゃないのかしら・・・?」


確かに漢字の読みとして間違ったものではないかもしれない。最近流行りのキラキラネームとまではいわないまでも、特殊な読みであるのは間違いないだろう。読み方によっては『かみか』と読めなくもないかもしれない。


だがこれで『みか』と読むのだ。康太たちはこの漢字を覚えておく必要がありそうだった。


「年齢は・・・五月が誕生日で今六歳か・・・来年小学一年生になるわけだな」


「一応外見相応の年齢ってことね。小学校に入学する前だったのは良かったと思うべきかそれとも悪いと思うべきか・・・」


小学校に通っている間に別の場所に住処を移して小学校を転校させるよりはいっそのこと新しく小学校に通うという体で住処を変えたほうが新しい環境に慣れやすいだろう。


少なくとも今友達がいたかもしれない状況を一気に変えるのは得策ではない。


だが同時にそれだけ幼い時期にこんな事件に巻き込まれてしまったというのは不運としか言いようがない。

仮に神加が特殊な体質を持っていたとしても、はっきり言ってまったくうらやましいとは思えない境遇だった。


少なくとも自分がこんな境遇になったら確実に人格崩壊するだろう。もっとも今の神加の精神状態が正常ではないのは間違いないのだが。


「神加ちゃんの名前もわかったところで、次はご両親の仕事についてね・・・さっき保険の書類があったわよね?それに職業書いてあるでしょ?」


「あぁ、ちゃんと会社名も書いてあるぞ。これならすぐに調べられそうだな」


すでに就業時間はとうに終えている時間であるために電話して確認することは難しいが、少なくともその会社をネットなどで調べてどのような仕事かを調べることは可能だ。


康太は先ほど保険に関する資料で記載されていた父親である天野和也の勤め先を携帯で調べていた。


働いていたのは康太も聞いたことがある車会社だ。そのどの部署に所属しているのかはさすがにわからなかったが、とりあえず会社は調べることができた。


名刺などを見つけることができればどの部署に所属しているのかもすぐに把握できることだろう。


母親の方は残念ながら働いていなかった。勤め先などは記載されておらず扶養家族として記載されておりこの時点でだいぶ不穏なにおいが漂ってきているのを康太と文は感じ取っていた。


両親ともに働いていて夜遅くまで仕事をしているというのであればまだこの家に誰もいないということは納得がいくし何の不思議もない。


だが実際働いているのが父親だけとなるとこの状況はやや疑問と警戒を強めるだけの理由となりえる。


「・・・この保険の資料が古いってことはあり得るかな?」


「あり得るけど・・・仮に働いていたとしてこんなに遅くまで働くかしら?正社員ならまだしもこの時期に記載されてないってことはパートでしょ?ただでさえ最近女性が働くとき気を遣う会社が多いのに遅くまで残らせるかしら・・・?」


職業によっては夜に仕事をするような場合もあるため一概には言えないが、文の言うように昨今女性の立場改善のために女性を雇う割合を増やしているところが多いと聞くが、同時に女性団体などからの横やりが多いことがあり、女性は夜遅くまで残らないことが多いのだ。


特に先ほどの書類関係に記載されていたのだが、比較的神加の母親は若い。まだ二十代の後半といったところだろう。


管理職やそれなりの立場の人間になれば比較的残業なども増えてくるかもしれないがまだ二十代なのであればそこまでの立場になっているとも考えにくい。


仮に正社員として働いていたとしてもまだそこまで高い役職にはなっていないだろう。


そんな状況で家庭のある女性が遅くまで残って仕事をするというのはどうしてもイメージしにくかった。


「・・・こりゃ本格的にまずいことになってる可能性が・・・親ごと攫って殺したってこともあり得るんじゃ・・・」


「さすがにそこまでは・・・ないと思いたいけど今日は確認できないわね・・・せめて父親の名刺を探しましょ。そうすれば仕事場に来てるかどうか位は確認できるわ」


「そうだな・・・まだ希望を捨てるには早いか」


まだ神加の両親が死んでいるとは限らない。少なくともその可能性が高い以上生存を前提条件にして物事を調べたほうがいいだろうことは間違いない。まずは神加の父親の会社への問い合わせ、そしてそれでもダメであればこの家を定期的に観察して、それでも帰ってこないようであれば希望的観測はやめるべきかもしれない。


その間に神加を連れ去っていた魔術師グループの人間が意識を回復する可能性だってある。


そうしたら彼女の両親をどのようにしたのかを確認することができるだろう。


はっきり言ってこのままでは神加があまりに不憫だ。康太としては早々にこの状態を解決してやりたいと考えていた。


「あった・・・父親の所属もわかるぞ。これで電話確認も楽になるな」


「よし、それじゃ一度離脱するか・・・とりあえず一度店に戻ろう。もう神加は寝てると思うけど・・・」


「むしろ寝てた方が好都合なんじゃないの?両親のことをある程度話しやすいし。何よりあの子が起きている間にあの子の話をするのは避けたほうがいいわ」


「やっぱそうかな・・・?神加はまだこういうことわからないかもしれないしな・・・」


「わかるわからないの問題じゃないわ。不安になるような言葉が含まれる可能性がある以上、不安定な状態にあるあの子に話を聞かせるのはまずいわ。これ以上精神的に不安定にさせるわけにはいかないもの・・・」


文の言うように神加はまだまだ精神的に不安定な状態が続いている。少なくとも今日写真で見たような表情ができるようになるまではこういった話は聞かせないほうがいいのかもしれない。


いやそれどころか神加にまつわる話すべてを聞かせないほうがいいのかもしれない。


もし自分の話を何かしていると知って、中途半端にその内容を聞かせるというのは本人に不安しか与えない可能性もある。


文の言うように神加がいる間、あるいは起きている間に彼女にまつわる話をしないようにしたほうがいいだろう。


「・・・この状態で両親が生きてたとしてさ・・・いったいどういう状態だと思う?」


「なんかもう死んでるのがデフォみたいな感じのいい方ね・・・まぁ無理もないかもしれないけどさ・・・」


文もこの状況を客観的に判断して、神加の両親がまだ生きている可能性が高いとは思えないようだった。


だがそれでも可能性がないというわけではない。その可能性が一体どのようなものなのか文は考えを巡らせていた。


「両親を生かしておくメリットは簡単に言えば魔術の隠匿を考えた場合よ。社会人として活動してる以上ある程度は人とのつながりがある。いきなりいなくなれば当たり前だけど人に印象を持たれてしまう。生かしたうえで何のかかわりもないようにするために暗示とかを使う」


「それはまぁ俺でも理解できるよ。事件に発展すると警察も動くだろうしそういうところから魔術の発見を恐れて両親に暗示をかけるのが最適なんだろ?」


「そうよ。ベストな暗示としては子供がどこか遠くに旅行、あるいは留学していることにしてまずは子供が生活の中にいない環境を刷り込んでから記憶を削除、あるいは改竄して『子供がいなかったこと』にするのがゴールね」


人を攫う上での魔術師としてのゴールは誘拐されたものの記憶がその人物を知っているものたちから消えることである。


そうすることで『いなくなった』という記憶自体を消せば誰かから事件が発覚するということもない。


人間を攫うことで最低限これくらいはこなさなければ後々面倒な処理が発生してしまうという典型的な例といえるだろう。


そういう意味では今回の人さらいは比較的その例に漏れない定石に近いやり方なのかもしれなかった。


「この状態で生きているとすれば、両親そのものに強い暗示をかけて仕方なく子供と離れ離れになったっていう形かしらね・・・あらかじめ両親に自分から会社とかに連絡させて長期休暇、そこから長期の旅行、そして記憶操作。割と悪くないやり方よ?」


「・・・なんか人さらいの・・・しかも子供の場合のプロセスをどんどん学習できていやだなぁ・・・ていうかお前妙にこういうこと詳しいけど実際に誰かを誘拐したりしてないだろうな?」


「さぁ?私だって魔術師よ?そういうことの一つや二つしてもおかしくないじゃない?」


「見栄張らなくていいんだぞ?お父さんベルがいい子だって知ってるからな」


「あんたのたまに出てくるその家族設定キャラ何なのよ・・・正解なのがまた腹立つんだけど・・・」


そんなやり取りを挟みながら康太と文はとりあえず必要な情報を集めに集めてすぐに調べものを継続できるようにしてから神加の家から出ていくことにした。


家から出て少し離れた道までたどり着いた段階で少なくとも誰にも見られてはいない。問題はないだろうがここで康太はふと思いつく。


「そういえばさ、今までスルーしてきたけど、神加の両親が魔術師だったって可能性はあり得るか?」


「・・・ありえなくはないと思うわ・・・でも可能性としては低いわよ?じゃなきゃ子供がさらわれてるのを放置してたってことに・・・」


自分で言った言葉の意味を理解し、康太が何を言わんとしているのかを把握した文は言葉を止めて眉間にしわを寄せる。その可能性がどれほど残酷で救いのないものであるか、理解してしまったのだ。


そしてその可能性が十分あり得るという事実に、文はわずかに歯噛みしていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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