写真に写る彼女は
康太と文は日曜日の二十二時頃までみかの家を確認できる場所で待機していた。
すでに二人は魔術師装束に身を包み、周囲の人間に気づかれないよう誰かの家の屋根の上で様子を観察していたのだが、一向に誰かが帰ってくる気配はなかった。
仮に出かけているのだとしても、仕事だとしてもこれほど二人とも帰宅が遅いというのは少々異常なように思える。
「・・・二人とも残業で遅くなってると思うか?」
「さすがにこれだけじゃ判断つかないわね。まだ観察一日目・・・しかも夕方からの六時間程度しか把握できてないのよ?」
「だよな・・・二人とも出張とかそういうこともあり得るかもしれないし・・・」
「かなりのレアケースだと思うけどね・・・どうする?今日は帰る?出直すっていうのもありだと私は思うけど」
文の言うように一度帰ってしまうのも一つの手だ。場所はすでに把握しているために次は一時間程度もあればこの場所にやってくることができるだろう。
一日だけでは把握しきれないというのは確かに間違いではないし、また後日この場にやってきて総合的に判断するのも間違いではないように思える。
「・・・いや、その前にいくつか確認しておきたいことがある。ベル、悪いけど鍵開け頼めるか?」
「今更侵入するの?何か見たいものでも?」
「この家が本当にみかの家かどうかを確認するのと、みかの両親の写真やら職業やらの確認だな」
「・・・なるほどね、アルバムやら写真があれば確定的、あと両親の仕事に関しては契約書とか名刺があれば一発ね」
「あぁ、まずはその二つを調べる。それで明日以降いろいろ調べて、その結果で判断しよう。場合によってはまたこっちに来ることになるかもしれないけど」
文は何度かうなずいて康太の意見に納得したのかわかったわと周囲に結界を展開する。
万が一にもこのあたりに誰かがやってきたりしないように、そして仮に来たとしても自分たちが通報されることのないように。
魔術師が空き巣などをやったらそれこそ楽だろうななどと康太は思いながら文が手際よく家の中に侵入するための準備を進めるのを待っていた。
手際から言えば文のそれはかなり良いものだ。何せ隠密に必要な隠匿系魔術のほとんどを会得しており、比較的高い頻度でそれらを使用しているのだから。
日々の屋上での会話も割と良い練習になっていたということだろう。
「いいわ、行きましょう」
「オッケー。不法侵入開始しますか」
「間違ってないけどいいかた最悪ね」
「事実だからな。通報されないかドキドキもんだぜ」
堂々と犯罪を行うというのがここまで心臓に悪いものだとは康太も思っていなかったが、初めて魔術師として自発的に法を犯そうとしているという事実に妙な高揚感にも似た感覚を覚えていた。
この感覚が良いものではないことは確かなのだが、不思議と興奮を抑えることができなかった。
康太と文が家の中に入っていくと、やはりというか当然というか家の中は真っ暗だった。明かりも何もついていないためにほとんど何も見えないがそこは文が魔術で明かりを作り出していた。
家に備え付けられている電気をつけてもいいと思ったのだが、電気をつけているところに家の人間が帰ってきたら面倒なことになる。
最低限の情報だけを確認して帰るのが今回の目的だ。何も家のものを盗むのが目的ではないのだから堂々と侵入すればいいのである。
「アルバムだと・・・大体棚とかにあるかな?」
「そうね・・・あるいは両親の寝室とか・・・とりあえずはリビングに行きましょう。そこに写真とかが飾ってあるかもしれないし」
写真というのはたいてい撮影した後に飾るか保存するものだ。最近はデジカメが普及しておりあまり印刷するということがないかもしれないが、みかほどに小さい子供がいる家庭なら撮影した写真をリビングなどに飾っていても不思議はない。
すでに索敵で大まかな家の構造は把握済みだ。康太たちは迷うことなくリビングにたどり着くとその内装を改めて確認していた。
カーペットにテーブル、ソファにデスクトップパソコンやテレビ。そしてリビングとつながる形で存在しているキッチン。
比較的裕福なのだろうか、一軒家にしてもなかなかの広さに加えきれいに整頓されていた。
そして康太と文はそれを見つけることができていた。
窓際の少し低い棚の上にある写真立て。その中には母親らしき女性に後ろから抱きつかれているみかの姿があった。
その表情は今小百合の店にいるみかであると一瞬わからなかったほど子供らしいものだ。今のみかがアリスの言うようにどこかおかしい状況になってしまっているというのがよくわかる一枚である。
母親らしき女性は文が描いた絵の欠落を埋めるかのような外見をしている。みかの中にあった記憶の母親とおそらく一致していることだろう。
母親のことを思い出せなくなるほどにみかの精神に強い負荷がかかっているというのはあまり良い知らせではないものの、一つ前進したのは確かだ。
おそらく撮影したのは父親なのだろう。近くにあるほかの写真には父親らしき男性に肩車されているみかの姿がある。これもまた子供らしくあどけない表情だ。
どうやらここがみかの家であることは間違いないらしい。ではなぜこの家には誰もいないのか。次はそのあたりを調べなければならないようだった。




